白一面の世界で
見上げれば、どこまでも澄み渡る蒼い空。
足元には、朝日に照らされてきらきらと輝く白銀の世界が広がっている。
雪を踏みしめる音さえ心地いい。凛と冷えた空気を胸いっぱいに吸い込むと、思わず笑みがこぼれた。
「よしっ!」
山頂から勢いよく飛び出す。
板が雪面をとらえた瞬間、世界が一気に加速した。
切り裂く風が頬を撫で、舞い上がる粉雪が陽光を浴びて宝石のようにきらめく。
誰も踏み入れていない新雪を滑る感覚は、まるで空を飛んでいるようだった。
体は風となり、重力さえ味方につけて麓まで一気に駆け抜ける。
最後のターンを決めて止まると、思わず大きく息を吐いた。
「さいこーっ! やっぱり今日の天気は当たりだと思ったんだ!」
両腕をぐっと空へ伸ばして背伸びをする。
一気に滑り降りた疲れも、心地よい達成感とともにどこかへ吹き飛んでしまう。
今年一番と言ってもいい極上の雪質。
朝一番の誰も滑っていないゲレンデを独り占めできる、この瞬間がたまらなく好きだった。
――けれど、楽しい時間はいつまでも続かない。
「あんたねぇー! 少しは手伝いなさいー! これからお客さんも来るんだよ!」
家のほうから聞こえてきた母さんの大きな声に、思わず肩をすくめる。
昨日から降り続いた雪は朝には止み、玄関先には二十センチほどの新雪が積もっていた。
雪国では、この雪かきも毎朝の日課だ。
「あっ、ごめんごめん! どうしても山が『滑ってくれ』って言って聞かなくて!」
笑いながらそう返すと、
「何言ってんの、あんたは。そんなこと言って毎日滑ってるじゃない」
母さんは呆れたように笑う。
「えへへ……ごめんなさーい」
両手を合わせてぺこりと頭を下げる。
それからスコップを握り直し、まだ半分ほど残っていた玄関前の雪をせっせと脇へ寄せ始めた。
サクッ、サクッと雪を掬う音が静かな朝に響く。
空は今日も青く澄み渡り、山はまるで「また滑りに来い」と微笑んでいるようだった。
――そうして、雪とともに生きるこの町の、新しい一日が静かに始まるのだった。




