姉のミニスカート♡ 夏の特別編 姉のカワイイ水着
特別編 『姉のカワイイ水着』
本当に、本当に反省はしていたんだ。
もう二度と、姉の服には触らない。
ましてやメイクなんて、男のすることじゃない。
そう心に誓って、僕は高校二年の夏休みを迎えていた。
……なのに。
ある暑い日の午後、僕は見てしまったのだ。
姉の部屋のドアが少しだけ開いていて、そこから覗いた光景を。
姉は、買ってきたばかりの新しい水着を試着していた。
それは、淡いピンク色の、フリルがたくさんついた可愛いタンキニ水着だった。
「……可愛い♡」
思わず声が出そうになって、慌てて口をふさいだ。
姉が水着を脱いでクローゼットに仕舞い、外出するのを見送った瞬間、僕の脳内では何かが弾けていた。
◇
気がつけば、僕はまたしても姉のクローゼットの前に立っていた。
「……一回だけ。本当に、ちょっとだけだからな」
誰に対する言い訳かもわからない言葉を呟きながら、僕はそのピンクの水着を取り出した。
シャリッとした、水着特有の伸縮性のある生地。
触れるだけで、夏のプールサイドの匂いがしてきそうだ。
まずは下半身。
フリルのついたスカート付きのショーツに足を通す。
きゅっとお尻が包み込まれるような、独特のタイトなフィット感。
「……うわ、すごい密着感……はふっ♡」
次に上半身。
肩紐を首の後ろで結び、オフショルダーになったフリルの袖に腕を通す。
胸元が大きく開いたデザインだけど、そこには何重ものフリルがあしらわれている。
男だから、ほんとうは無いはずの胸、でも不思議と寂しさを感じさせない。
全身を鏡に映してみる。
「……え?」
鏡の中にいたのは、驚くほど水着が似合ってしまっている自分だった。
最近は少し髪を伸ばし、今日も少しだけナチュラルメイクを施していたせいもある。
だけど、それだけじゃない。
心なしか、肩のラインが華奢になり、ウエストのくびれが以前より強調されている気がする。
フリルの魔法のせいで、胸元にふくらみがあるような錯覚さえ覚えた。
——もし、このまま僕の身体が本当に女の子になっちゃったら。
そんな突拍子もない妄想が頭をよぎる。
この水着を着て、海に行って、誰かに「可愛いね」ってナンパされたりして。
ボク、じゃなくて、それは、もう、ワ・タ・シ——。
「あはっ、ボク、じゃなくて、ワタシ、可愛いかも……♡」
水着のスカートの裾をちょこんとつまみ、鏡の前でくるりと回ってみる。
その瞬間。
——ガチャ。
「ただいまー。あー暑すぎ、ショッピング止めて、帰ってきちゃったわ」
姉の声。
脳細胞が一瞬で沸騰した。
「え!? なんで!? 今日夕方まで帰らないんじゃ!?」
続けて、絶望の追撃。
「雨が降りそうだから、お父さんも駅まで迎えに行って一緒に帰ってきたぞー」
「お母さんもスーパーで合流したわよ」
まただ。またこの、最悪のフルコンボ。
どうして我が家は、僕が何かを着用した瞬間に全員が帰宅するシステムになっているんだ。
「ちょ、ちょっと待って待って待って!!」
脱ぐ時間はない。
居間へ走るか? いや、今は夏だ。
コタツはない。押し入れの布団も、この猛暑で被っていたら一発で熱中症だ。
廊下を進む家族の足音が近づいてくる。
「詰んだ……! 完全に終わった……!」
視界に入ったのは、リビングの隅に置かれた、まだ片付けられていない『ビニールプール(空気注入済み)』。
母が近所の子供を預かるために用意していたものだ。
迷っている暇はない。
僕はリビングに飛び込むと、水の入っていないビニールプールの中にスライディング気味に飛び込んだ。
そして、傍らにあった大きな大きな浮き輪と、ビーチタオルをこれでもかと身体の上に巻き付けた。
バサッ。
「ふぅ、生き返るわねえ」
リビングのドアが開き、母が入ってくる。
「あら? 優斗、そんなところで何してるの?」
浮き輪とタオルの隙間から、汗だくの僕の顔だけが出ている状態だ。
「い、いや! 夏を感じたくて! エアプール的な!?」
父がエアコンのスイッチを入れながら呆れた声を出す。
「熱中症になるぞ、お前。そんなタオルにくるまって」
「だ、大丈夫! これが僕のサマー・スタイルだから!」
意味不明な供述だった。
◇
その時、後ろから入ってきた姉が、ビニールプールの横に「何か」に目を留めた。
それは、水着のピンク色の肩紐の端っこだった。
タオルの隙間から、ほんの少しだけはみ出ていたのだ。
姉の目が、すうっと細くなる。
すべてを察した、あの、いつもの悪魔のような笑顔。
「……ふーん」
姉は僕の真ん前に歩み寄ると、しゃがみ込んで耳元で囁いた。
「優斗。あんた、それ……私の新品なんだけど」
「ひっ……!」
「しかも、なんかちょっと……前より似合ってない?」
「な、何のこと、かな……」
姉は立ち上がると、母に向かって言った。
「お母さん、優斗、今年の夏休みの宿題が終わるまで、毎日お風呂掃除と庭の水撒きやらせていい? なんか、水仕事の才能がありそうだから」
「ええ? まあ、本人がやる気ならいいけど……」
姉がジロリと僕を睨む。
「やるよね? 優斗」
僕は浮き輪の中で、ちぎれるほど激しく首を縦に振った。
「やる! 喜んでやらせていただきます!」
◇
その日の夜。
僕の部屋のドアがノックもなしに開いた。
姉が、昼間のピンクのタンキニ水着を手に持っていた。
「これ、あんたにあげるわ」
「え?」
「私が着るより、なんか……あんたが着た方が、その、グラビアっぽかったし。……変な意味じゃないわよ!? とにかく、サイズが伸びたら嫌だから、それはあんた専用!」
姉は顔を少し赤くして、水着をベッドに投げつけると、足早に出て行った。
残されたピンクのフリル水着。
僕はそれをそっと手に取り、胸に抱きしめてみる。
「ボク専用の水着……ゲット♡」
もう絶対に触らない、なんて誓いは、夏の太陽と一緒にどこかへ溶けて消えてしまった。
鏡の前で、もう一度だけそれを身体に当ててみる。
——やっぱり、女の子になったみたいで、すごく、ワクワクする。
次の留守番の日が、僕は少しだけ待ち遠しくなってしまっていた。




