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悪魔堕ちの聖女様 〜転生お嬢様が推しの未来を切り拓いて魅せます〜  作者: 鰐之川 犬太郎
Ep.2 お嬢様、"聖女再来"の天啓が降りました。

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<第71話> 企業令嬢、前世を語ります。

(わたくし)の名は、小鳥遊 雅。

世間的に大企業と呼ばれる、それなりの規模を持つ一族経営の会社の社長令嬢として生を受けました。

見目麗しい両親と、私という一人娘だけの三人家族です。


…出自の説明をこれだけ聞けば、きっと羨ましがられる方も多いのでしょう。

実際、(大企業の一人娘)の友人という恩恵欲しさに、周囲にはそれなりの数の学友が居ましたもの。


ですが私は、自分自身の出自を幸福に思った事は少ないのです。

確かに金銭で困った事はありませんでしたが、その他の点が気に掛かり。

あまり恵まれているとは思えなくて、私を羨む学友の事が、私の方こそ羨ましい程でした。




何から語るべきか。

そうですね、隠し立て無しに最初からお話ししましょう。




先ず端的に申し上げますと、私は見目が醜かったのです。

野暮ったい一重に、潰れた鼻、輪郭も面長で。

体型も太りやすかったものですから、少量の食事と運動で、なんとか誤魔化していました。


お金があるならば、整形すれば良い。

そういう解決法もあったでしょう。

ですが私にとって、最も重要なのはそこではないのです。



先にも申し上げた通り、私の両親は見目麗しい人物なのです。

俳優を思わせるハンサムな父に、モデルを思わせる可愛らしい母。


…どうしてその様な美男美女から、醜女が生まれたのでしょう。

きっと、当然の疑問です。

私だって何度もそう思い、頭を悩ませましたもの。

しかしこの疑問によって、私の家庭は平穏を失ったのです。



父は私の容姿を見て、母の整形を疑いました。

だって両親の顔と私の顔とを見比べても、似た様な点なんて見当たらない程なんですもの。

きっとパーツを切り分けても福笑いすら出来ない、そのくらいには違くって。


であれば母は、父と出会った頃から既に整形をしていて、生まれ持った顔とは違うのでは、と。

そう思い、問い詰めました。

しかし母はそれを否定したのです。


父と母は、そう短い間の仲ではありませんでした。

出会って10年は経過していて、結婚してからも短くなく。

時間が経てば再度の施術が必要になる部位は少なくないでしょうが、母にはそういった支出はありませんでした。

お化粧で大きく印象が変わるタイプという事もなく、ただ生まれつきの顔だと言いました。

学生時代のアルバムをも持ち出したそうで、私も目にした事がありますが、母は幼い頃から整った顔立ちなのでした。


母はそう思い至る父こそどうなのかと反論したそうですが、父も同様です。

ましてや父は、整った顔立ち故に多くの女性に言い寄られ、女性不信の気配すらありました。

にも関わらず整形する必要は無い。

両親共に、正真正銘生まれ持った容姿なのです。



父は私の容姿を見て、母の不貞を疑いました。

母が初恋の人であったという父は、母にベタ惚れといった様子で、大変動揺しながら問い詰めました。

しかし母はこれもまた、否定したのです。


己の不貞を疑われるくらいならと、母は自ら私と父のDNA検査を申し出ました。

父もそれを受け入れ、検査を行いました。


結果は、父性肯定確率:99.99%以上。

つまるところ、私と父は血の繋がった親子であるとの内容でした。

よって私が母の不貞の子である可能性は、完全に否定されたのです。



そうして両親は一時、大変不仲になりました。

人生のパートナーに容姿やら不貞やら、あれもこれも疑われたわけですから、そうもなるでしょう。

物心ついたばかりの私は、そんな両親に何も出来ない無力な幼児でした。


…思い返せば、両親に明るい言葉を掛けられ、暖かく包容された覚えなどありません。

父と母は二人の関係に夢中で、火種となった私に、その様に接する余裕も無かったのでしょうか。

今は、どうでもいい話でしたね。失礼致しました。



それからどうなったのか、ですが。

父は愛する母の気持ちを取り戻そうと必死で。

母は私を自分が産んだと思いたくもないとそっぽを向き。

私はただ、それを眺めている事しか出来ませんでした。


父を読んでも、母を呼んでも、返事は返って来ず。

幼い私の面倒は、厄介事だと言わんばかりに、雇われたベビーシッターに丸投げされておりました。

家庭の中に、その瞳の中に私を映してくれる人物は居ませんでした。



私が学校へ通うくらいに成長した頃も、家庭は複雑な環境のままでした。

それなりに時が経った事もあり、母は父を許していました。

自分への愛故に動揺したのだという父を、ようやっと許したのです。


しかしその頃の私は、今度は父に恨まれておりました。

私の見目の醜さが、要らぬ不和を生んだのだと。

言われる事もありましたし、言わずにただ睨まれる事もありました。

私は父に、ただ謝る事しか出来ませんでした。

それでも一度たりとも、父が私を許した事はありませんでした。



やがて私が、身の回りの事を一通り出来る様になった頃。

その頃の私は、ただひたすらに孤独でした。

企業令嬢として求められる教養の為に、多くを学び、多くを習い、遅くに帰宅し。

それでも誰も、私の帰りを待つ人は居ないのです。

父も母も、私を見る事すら嫌になり、別に家を構えたと聞いています。


それがどれだけ寂しかったことか。

たかが見た目だけで、これだけ孤独を味わわないといけないだなんて。

しかし両親をそうさせたのは、間違いなく私自身で。

そんな思いで、私は自分自身の醜い姿がとても嫌いになったんです。

私自身も、父も母も、皆を不快にさせる醜い見目が、心底嫌いになったんです。


どれだけ頑張っても報われない、そんな気すら覚えました。

しかし頑張ればいつかは認めてくれるかもしれない、そんな気持ちと、これ以上溝粉割れたく無いという気持ちとで、なんとか日々の学びに勤しんでいました。



そんな私も、両親への期待が尽きかけた頃。

あれは高校生になる少し前だったでしょうか。

父から一つ、私宛に言葉が届いたのです。


それは、『いずれ近いうちに私に婚約者を見繕う』という事。

一族経営の会社の父からの言葉です、政略結婚をさせるという旨でしょう。

私に会社を継がせる気はなく、優秀な男性と結婚させて婿養子とし、その人を社長とする。

或いは会社の規模拡大の為の政略か、そのどちらかだと思います。


冷たい言葉かもしれません。

それでも私には、父にとって自分がそれだけの価値があるのだと、嬉しさを覚えたのです。

例え政略結婚の為という駒であっても、利用価値が、価値があるのだと。

そう思えて仕方がなかったのです。

この思いは、私が更に勉学やお稽古に励むには十分すぎるものでした。


きっと報われる。

そう信じてやまないくらいには。



それから私は高校生になりました。

私の両親の事を聞いて、多くの生徒がお友達になりたいと言い寄ってきました。

彼女彼らを、私は友人として受け入れました。


中には「付き合ってほしい」と、交際を申し出てくる方も何人か居ました。

しかし私は、それを全てお断りしました。

正直嬉しい、と言う気持ちはありました。

ですが、直に婚約者が居る身になるんですもの。

私が唯一父の為になれる、許してもらえるかもしれない機会です。

私に恋人が居るからと破談になっては大変ですから、お断りせざるを得なかったのです。


でも知っているんです。

友人も交際を申し出た方も、陰では私の悪口を言っている事。

偶然聞いてしまった事があったのですけれど、やはり皆言うんです。


「あの子は醜い」と。


それを誰よりも知っているのは私自身ですから、それをとやかく言う事はしませんでした。

言ったところで、誰も良い思いもしませんしね。


ただ、たった一人だけ「性格が好きだ」と告白して下さった方だけは、陰口を諌めて下さっていました。

私にとってはそれだけで、十分に胸が救われた思いだったのです。

この方と友人になれたらとも思ったのですが、交際を断っておいて後出しで友人にと言い出すというのも気が引けて、お礼すら高校生活最後まで言えなかった様に記憶しています。

後悔するくらいでしたら、その程度の勇気、出すべきだったのではないかと思うばかりです。

後にも先にも、信用出来そうな人はその方くらいだった人生なんですもの。



高校生になってから暫くして、18になる頃に、私に婚約者ができました。

お相手は父程ではないものの、整った顔立ちの爽やかな性格の方。

まだ二十代とお若い方ですが、学歴も申し分無く、父が大変気に入った方なのだそうでした。

とても知識豊かで、判断力は確かで、人当たりも良いという非の打ち所がない好青年なのです。

醜い私にも「交際は卒業してから」と気を遣ってくださる優しい方でした。

こんな方に恵まれて、きっと私は報われる。


そう思って、いたのです。



月に数度、お茶に誘われてお食事をする。

そんな婚約関係を、暫くの間送っていました。

そうして20歳になる頃、私は婚約者様と同棲生活を送り始める事となりました。

こんな素敵な方との生活、今まで望みもしなかった幸福だと思いました。


しかしそれは、暫くして崩れ去ったのです。



始まりは、些細な違和感でした。

時折、物の配置が不自然に変わっていたり、覚えのない物が増えていたり。

まだ慣れない同棲生活、そういう事もあるのかと思いました。


婚約者様の急なご用事が増えたり、休日が減ったり、出張が増えたり。

会社の次期社長ですから、お忙しくなるのも当然かと思いました。


ですがそれらは、日に日に増えていきました。

気にしないでいた私も、徐々に違和感を覚える様になっていました。



そんなある日でした。

あれは確か、成人式から帰った日だったと記憶しています。


家路に着き、玄関を開けると、()()()()()()()()()()()()が。


まさか。

いえ、婚約者様に限ってまさかとは思いました。

それでも悪い予感が頭を過ぎります。


私は早足で、部屋の扉を次に次にと開けていきました。

そして寝室の扉を開けようとした時、中から物音が聞こえてきました。


早なる鼓動を抑えて扉を開くと、そこには


 私と婚約者様で使っているベッドの上で

 一糸纏わぬ姿の婚約者様と見知らぬ黒髪の女性が居たのです。


驚きのあまり、私は床に膝を付く形で倒れました。

しかしそれに反して、婚約者様はこちらを一見はしたものの、顔色を変える様子がありません。


そして放心状態の私に言いました。


「あれ、帰ってくるの早かったね?もうちょっと遅くて良かったんだけど」


「まぁ驚きもするか。君とはこういう事をした事がない…というか、君自身経験無さそうだし?」


「君みたいなブス、抱く気も起きないからさぁ。なら仕方ないよね」


そう。婚約者様と私は、夜の営みといった行為をした事がありません。

…名前を呼ばれた事すら、無くて。


「ほら邪魔だから、出ていって」


婚約者様は何も悪びれる様子などありませんでした。

むしろ私を邪魔だと、部屋の外へと促したのです。


不貞はいけない事だと、思っておりました。

しかし私は、誰よりも自分が醜い事を知っています。

それを理由にされてしまえば。 ああ。 従う他、なかったんです。



それからというもの、婚約者様は最早隠し立てする素振りも見せずに、その女性を連れ帰る様になりました。

その代わりに残業や出張が減り、ようやく私は、そういう事であった(浮気していた)と理解したのです。


それを父に伝えるかは、あまり悩みませんでした。

何故かというと、あれだけ私を拒んでいた父が「彼が優秀で我が社も安泰だ」と私に話す様になっていたからです。

それは幼少の記憶にある、どんな父よりも嬉しそうで。

私自身の話題でなくとも、私と話す様になった父との関係が嬉しくて。


婚約者様が浮気をしていたと伝えたら、父は悲しい思いをするだろう。

それか、私の言葉なんて信じてくれないか。


そんな父の思いを、父との関係を壊したくなかったのです。

悲しい思いをさせたくない上、お前は嘘吐きだと会話の機会を失うのも嫌でした。



ですから、選びました。

私は、婚約者様の不貞に全て目を瞑る事にしたのです。


幸い婚約者様は、私が不自由なく生活出来るだけのお金は渡して下さいます。

元より望みすらしなかった幸せです、生活出来るだけマシだと思う事にしました。

父の為にと、婚姻までも執り行いました。

不貞の事実は、私以外に知る者は居ないようで、結婚式には笑顔が溢れていました。

冷たい顔しか記憶にない母ですら、父の隣で笑っていました。



だから、良かったと思ったんです。

その選択をした私は、間違っていないのだと思ったのです。


それでも私の心は、晴れないままでした。

沈んだまま、真っ暗な闇に包まれているような。


婚約者様は家に居る。

…浮気相手の女性と。


もう一人じゃないはずの家で、こんなにも孤独を感じるものかと思いました。




そんな晴れない憂鬱の中でした。

私の心を掴んで離さない、美しい輝きを放つ"推し様"に出会ったのは。



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