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黄昏時、俺は生きた  作者: 田中ソラ
最終章 討伐
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第五十七話 隙を狙う俺達

「河野さん!」


「状況は!?」


「交信していないアルファに手こずっています! 女王までは……」


「分かった。俺と小香は奥、つまり女王を直接狙う。足止めを頼む」


「了解!」


 先に到着していた第三部隊隊長と短く言葉を交わし、俺は小香と共にアルファの足元を駆け抜けた。


 目の前には立派な門が。俺達を拒否しているような、威圧感のある門だった。


「どうするつもりだ?」


「正直言うと、小香の力に頼るしかないな。武器と言っても使い慣れていないライフルだけ。どうしようもない」


「そうか。だがこの隙を狙う他ない。女王はどこにいる?」


「ちょっと待てよ」


 俺は立ち止まり、意識を集中した。


 本部からははっきり見えた女王の瞳は近づくたびに薄れ、今では全く見えない状態。


 意識を集中すれば、薄く赤い瞳が見える。


「こっちだ」


 本部の時よりも鋭い瞳で俺のことを睨んでいるように見える女王。


 余裕がないのか、目障りなだけなのか。あるいは……。


「っくそ」


 巣がある方向へ向かうと、いつも思考操作能力を使われ違う方向へ向かってしまう。


 これをどうにかしなければ一生女王にはたどり着けない。


「時雨に、俺と同じ混合者の時雨にできたんだ。俺にもきっとできる」


 どうやるかは分からない。


 ただ、俺の思考を強く保ち、見える範囲のアルファに伝えるのか。


 それか一点に絞り、女王から来る思考操作能力を遮ろうとするだけなのか。


 混合者の俺に使える能力はあるはずなのに、肝心の扱い方が分からなければ無能と同じ。


 薄っすらある、夢で時雨に会った時に聞いておけばよかった。


 いや、この考えがなかった時点ですでに俺は時雨に思考を操作されていたのかもしれない。


「河野殿?」


「小香。今何分経った?」


「五分ほどだ」


「分かった。一分で片付けるから少し待ってくれ」


 一か八か、ぶっつけ本番でやるしかない。


 やり方も分からなければ成功するかも分からない。


 だけどやるしかない。やるしか女王からの思考操作を遮ることはできないんだ。


「ふぅ」


 大きく息を吸い込む。そして、俺はガッと目を開いた。


 俺と小香の思考を操作するな。仲間を、操作するな。


 俺の思考はただそれだけ。


「河野、殿……」


 バチっと何かが弾けたと同時に目の前には今までなかった道のりが出てきた。この先に女王がいる。


「……これで、もう大丈夫だろ。行こう」


 先ほどまで薄かった赤い瞳は今では色濃く見え、俺のことをじっと睨んでいた。


 俺だけじゃない。外で戦っている仲間のことも睨んでいるのだろう。それかアルファの思考を操作しているのか。


 どちらかなんてどうでもいい。今は。


「こっちだ」


 小香の手を引き、女王のいる方向へひたすら走る。


 巣の中に敵はいないようだ。どうしてかは分からない。


 俺達を自分一人で倒せると思っているのか、それとも女王のすぐ傍で側近が守るように待っているのか。


 予想だけ膨らみ、現実が霧に覆いかぶされているように見えなくなっていく。


 だけど霧はすぐになくなった。


『こちら不時だ。河野君、すでに中に入ったか?』


「こちら河野。小香と一緒に中に入った。中は女王による思考操作能力が強いから不時さんも操作されるかもしれない。中に入る時は気をつけてくれ」


『了解した。中は君達に任せる。足止めはこちらに任せてくれ』


「頼む」



「不時殿が到着したようだな。これで外の足止めは安心できそうだ」


「いや、油断するのはまだだ。疑いたくないが裏切り者がまだ潜んでる可能性がある。中にいる俺達も注意しておかないと志春の時代のようなことになる」


「そうだな。気を抜くのはまだ早い」


 腕時計を見るとすでに十八時から十分経過していた。


 上級アルファによる交信がいつまで続くか分からない。


 できれば交信している間に女王と対面しておきたい。



プルルルル


「は」


 鳴るはずのない携帯から着信音がした。


 着信相手を見ると、俺は小香に話しかけた。


「どうした?」


「衣月に俺のこと話したんだな、小香」


「……あぁ。我はこの戦いで死ぬ。もしかしたら不時殿も。河野殿はきっと生きていても伝えないだろうと思い、先に伝えたんだ。お節介だっていうのは承知で話した」


「そうか」


「出ないのか?」


「出れるわけねぇだろ」


「なら我が出よう」


「あ、ちょ!」


 簡単に携帯を奪われてしまい、小香は俺の気持ちと裏腹に着信に応答した。


「水谷っ!」


 スピーカーになっており、衣月の声がダイレクトに耳に響いた。


「衣月……」


 走りながら電話に出るなんて、どこかおかしい。


 だけど、そんなことを考えている余裕はすぐになくなった。


「冷夏ちゃんが知らない間にそっちに行ってたんだよ! 俺達は気を失ってて今、目が覚めたんだ」


「冷夏が」


「一緒に、いないのか?」


「……あぁ」


「俺、お前に言いたいこと沢山あるから絶対に冷夏ちゃんと生還しろよ。今は『またな』って言ってくれ!」


「それは、できない。悪い衣月」


「なんで、なんでだよっ!」


 怒りと焦りを含んでいるその声は掠れて俺の耳まで伝わってきた。


「ごめん。本当にごめんな」


「水谷!!!」


 ピッっと無機質な音が鳴り、辺りは静かになった。


「……良かったのか?」


「いいんだよ、これで。最初からこうするつもりだった、いや、いつかこうなってた。衣月には悪いけど、俺はここで死ぬんだ」


「河野殿……」


 走っているのか、自分の死をまだ受け入れられていないのか。自分の声もどこか、掠れていた。

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