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290話 全て戻る

1000字も書いてないけど、次話と合わせて書くより分けた方がエモそうなのでそうしました。

 ゆっくりと、ホトギによって紡がれる。俺が元の世界へ戻るための詠唱。


「戻る――。日が戻る、人が戻る、暦が戻る。そして遡り、やがて無に帰す。故に消える――。人が消える。記憶が消える、過去が消える。その足跡は全て消え、元に戻る」


 今まで魔法を使っている人々は少なからず日本語ではなかった。そもそも詠唱じゃなくて一言だけ言う形ばかりだったけれど。


「のう、サクヤよ、そのまま聞け」

 すると突然、彼の傍でその様子を眺めていたテティスが口を開いた。

「ちょ、て、テティス様! 詠唱中なのであまり集中を欠くような事は……!!」

 横でシキオリが慌てた風にしてテティスに言っている。その様子は前のあたふたしていた感じと似ている。


「ま、最後に一言くらい、述べておいた方がよかろうと思ってな。兎も角、貴様としてもさして長くはない月日であろうが、世話になったな」

 依然としてシキオリはあたふたして焦ってるし、対してテティスは当然というべきか話を止める様子は一切ない。


「国に関しては……貴様が消える影響でどうなるのかは私にも分からぬから若干の不安はあるが……まぁ何とかなるであろう」

「テティス様ァぁ……!」

 ちょっとシキオリが涙目になっていた。


「貴様の残した足跡は全て消える。貴様の記憶からも消える。それに関して貴様がどう思っているかは知らんが、達者でな」

 それからテティスは一拍置いて口を開く。

「貴様がいた証が消えるとしても、齟齬が生まれるというのであれば、それこそが大きな足跡だろう。少なくとも私はそう考えておる」

「……!」


 段々と、自分の視線の下が淡く光っていた。ホトギの詠唱する魔法によるものだろう。


「夢の様に、刹那の様に、泡となり水の様に――」


 もう本当に時間がないだろう。自身の体すらも徐々に淡い光に包まれ始めているから。


「お世話になりました……テティス様!」


 最後に一言。その言葉を言った後に、自身の記憶に靄が掛かりだす。

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