前編
ツキ様のお部屋にお呼ばれしました。
いつもは使用人や護衛の人がいるんですが、ツキ様のお部屋の中なら二人きりになって良いそうです。
ツキ様と二人きりなんて初めてだからドキドキします。
あ、そういえばお土産を袋に詰めるのを忘れていました。
昨日は手作りクッキーをお渡ししたので、今日はシフォンケーキです。
ツキ様が喜んでくださると良いのですが。
楽しみすぎて気を付けないとスキップしてしまいそうです。
ツキ様に落ち着きのない女だと思われてしまいます。
気を付けないといけませんね。
ワクワクしながら、お城の一室で待っていると
何故か、ツキ様の弟君で第三王子のヒカル様と私のお兄様がいらっしゃいました。
ヒカル様はともかく、お兄様がどうしてここに?
ツキ様はどうされたんでしょう?
「お兄様、どうしてここに?」
「ヒカル様のいるところに僕ありです」
二人は仲良しってことで良いんでしょうか?
「兄上がお腹壊して寝てるから代わりに俺たちが来たよ」
戸惑う私に淡々とヒカル様がおっしゃいました。
この方はいつも無表情なので何を考えていらっしゃるのかよく分かりません。
食い意地が張っていることと自由すぎることは分かります。
「お腹を?ツキ様は大丈夫なんですか?」
慌てる私にヒカル様は「たぶん、大丈夫じゃない?」と言いました。
た、たぶんって……。
お医者様は何とおっしゃってるんでしょう?
なにか悪いものでも食べたのでしょうか?
「なんか、昨日フユに貰ったお菓子?食べてた」
「それが原因だそうです」
「え……?」
ヒカル様とお兄様の言葉に私は固まりました。
わ、私の作ったお菓子が原因……?
「『それ食べ物じゃないからやめた方がいいよ』って俺は言ったんだけど、兄上は『せっかくフユが作ってくれたから』って言って食べてた」
「あの人のフユに対する愛情だけは認めてあげます」
そう言うヒカル様にお兄様が頷きます。
……どういう意味でしょうか?
「フユ……言いにくいんですが、料理を作るのはやめてください」
意味がわからず首をかしげていると、お兄様がそう言いました。
「えっ……何でですか?」
私はさらに首をかしげます。
最近は包丁で切れる物が作れるようになってきたと言うのに。
「フユが作ってるのは料理じゃないよ」
困惑する私にヒカル様がそうおっしゃいました。
えっ……料理ですけど……?
「ヒカル様、もう少しオブラートに包んでくださると嬉しいです」
「でも、ベラーノもあれ食べて体調崩したって言ってたし」
「そ、それはそうですが……」
「兄上もお腹壊した。フユには料理の才能がないよ」
「ヒカル様オブラートに!もう少し柔らかい言い方でお願いします!」
はっきりきっぱりと言い放つヒカル様。
その横でお兄様が慌てていました。
才能ない……ですか。
うぅ……言葉の刃が鋭すぎます。
自分でも薄々そうじゃないかと思っていましたが、ここまではっきり言われると傷付きます。
「でも……ツキ様は美味しいって言ってくださいました」
そう言った私にギョッとした顔をするお兄様。
何でそんな顔するんですか?!
泣きますよ!
「美味しいって言ったんですか?!」
「あれを?」
「どういう意味ですか……」
「一回食べてみ?あれを食べるくらいなら毒を食べた方がまだマシだよ」
さっきから言葉の暴力が酷いヒカル様に「毎回ちゃんと味見してますし自分で試食もしてます……」と答えます。
ヒカル様は「マジかぁ」と呟きながら私をしげしげと眺めると
「フユは魔物か何かだったんだな」
と言いました。
「失礼な!フユは天使ですよ!」
「そう思ってるのベラーノと兄上とフラベル公爵だけだよ」
言い募るお兄様に無表情で答えるヒカル様。
私はお兄様の言動が恥ずかしくなったので話題を戻すことにしました。
「今日はツキ様にお会いできないんでしょうか?」
「うん、無理」
きっぱりと否定されます。
無理ですか……。
そうですよね。
残念ですが仕方有りません。
「元気出してくださいフユ!今日はヒカル様がお相手してくださるそうですよ」
「本物のお菓子あるよ」
「最高の皮肉ですね!妹が傷付くのでやめていただけると嬉しいです」
しょんぼりする私を気遣って、お兄様とヒカル様がそう言います。
私は二人と一緒に移動しながら、ため息を吐きました。
ツキ様にお会いしたかったです。




