50.
お久しぶりです。読んでくださってありがとうございます。まさかこんなに時間が経っていたとは。。。良ければ、まだしばらくお付きお会いください。
お腹空いた・・・。
本当はもう少し眠っていたい。この体になってからあれだけ精神的にも肉体的にも疲れたのは初めてで、体は休息を望んでいる・・・のはわかっているのだけれど、お腹は正直すぎる。
早く何か食べ物を寄越せと意地汚く要求してくる。
・・・だめだ。お腹が空きすぎて眠り続けることが出来ない。
諦めて起きることにした私は、目を開けて・・・。
「――――――――――――――――――――――――――――っ!!」
叫びださなかった自分を褒めたい!!だって!だって!だってっ!!
目の前にイケメンの寝顔が!眠っているせいか、いつもより幼く見えるけれど、まごうこと無きイケメンのご尊顔が目の前にあるのだよ!どうしろと!?いや、何がどうなってこうなった!?だ・れ・か!!
パニックに陥った私はとりあえず、目の前のイケメンから距離を取ろうと身じろいだ・・・のだが、腰に手が回っていて動けない!というか、こ、ここ、これわっ!!!腕枕というものではないだろうか!首の下に腕、腰の上にも腕。抱え込まれているというのがぴったりな状況に、再び意識を離しかけた。
・・・あのまま気を失えていたら良かったのに・・・。空腹な自分が憎い。くうぅぅぅう・・・と、自分にだけ聞こえる腹の虫が鳴かなければ、気を失うこともできただろうに。まさか、目の前のイケメンもとい、ルーの前で腹の虫の音を聞かれるなんて冗談ではない。「乙女心」なんて自分に使うのは恥ずかしいけれど、やはり好きな人には聞かれたくないものなのだ!
そーっと腰の腕を持ち上げてみる。
・・・くそう、思ったよりしっかり力が入っている。「眠っていますよ」という顔をして、力を込めているという感じでもないのに外れない!ルーの力が強いのか、私が非力なのか・・・。うぬぬ。
寝返りをうつように反対を向いてみる。おお!!ルーの体も一緒に回って来るではないか!腰の手は下に、首の腕は上に。腕枕の腕には力も入っていないだろう。そーっと腕を持ち上げる。私とルーの体の隙間に持ち上げた腕を置いた。
よし!
心の中で「よっこいしょー」と掛け声を上げて、上半身を起こそうとすれば先ほど外した腕が私の手首を掴む。
「!」
その手のひらから伝わる熱の熱さにビクリと反応すると。
「どこに行くの?」
翡翠の瞳が私をヒタリと見つめて、寝起きとは思えないしっかりした声でそう言われた。
「!・・・お、きていたの?」
「うん。起きたリーザがどう反応するか知りたくて、様子を見ていたんだけれど、俺から離れようとするから・・・」
どこに行こうとしていたの?
逃がさないと言わんばかりに手首をしっかり握られて、腰にある手にも力が入ったのがわかる。どうしたものか・・・。お腹が空いて、とか言いたくない。食い意地がはっているようではないか!うまい言い訳を探そうと、ルーの瞳を避けて視線を下に向けた。
ルーにはそれがどうやら気に入らなかったようである。腰の手に力を込めて私の体を自分の方へ引き寄せた。
ルー自身も私の方に体を寄せてきたせいで、うっかりすれば唇が触れてしまいそうなくらい近くにルーの顔がある。翡翠の瞳は私の瞳から逸らされることはなく、ピントが合わなくなったイケメンの瞳だけが私の目に映る。
何とか言い訳を!!と焦れば焦るほど言葉が出ない!ヤバい!頭が真っ白になって来た。本格的に背中に冷や汗が流れそうである。
・・・・くううううぅぅううう・・・
「・・・犬?」
ポカンとしたルーと、恥ずかしくて真っ赤になった私。ベッドの上で沈黙が痛い。
私の腹の虫よ。もう少し我慢できなかったものか?しかし、我慢を強いたのは私だ。お前はよく頑張ったよ。
遠い目で腹の虫と会話する痛い私。うう、今すぐ気絶したい。
「・・・ふっ、くくく・・・」
沈黙を破ったのは目の前のイケメンであった。必死で笑いを堪えようとしているが、どうやら無理だったようである。
じとり、とルーをねめつけると、私の視線に気付いたルーが謝りながら手を離してくれた。
馬鹿力め!手首が赤くなっているではないか!更に怒りが込み上げてくる。殴っても良いかしら?
「・・・く、・・・前にも同じようなことがあったね・・・っ」
笑いを堪えようとしながらも話を始めるルー。前にも・・・と言われたが、全く記憶にない。
ポカンとした私に、「婚約披露パーティーのときに・・・」と続けてくれる。どうやら、ダンスをしながらお腹が空いたと言ったらしい。あったか?そんなこと?
「今、用意させるよ。3日も眠っていたらお腹もすくよね」
「!」
爆弾発言である!3日!?今、ルー3日って言った?ということは、誘拐されてから6日経っているということか!?
・・・そりゃあ、腹の虫も鳴くわ、うん。




