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プロローグ前編:『第零のアモルファス』

※新連載スタート!ご覧いただきありがとうございます!

【前世の科学知識×理を食らう第零の力】で挑む、異世界再定義ファンタジーです。


まずはプロローグ前編、ハーベルの絶体絶命の儀式からどうぞ!

(★前作のハーベル、レオン、リーフィアとは、全くの別人です。)

【プロローグから第3話まで一挙同時公開です!】

挿絵(By みてみん)


ドックン…ドックン…ドックン…。

静寂を支配するのは、心臓の鼓動と同期する重苦しい音だけだった。


「……これでいける。この結合角なら、完全な平衡が保たれる」

未来型ラボの冷たい白色光の中。 天才研究者・東雲八雲(しののめ やくも)は、目の前に浮かぶホログラムの分子モデルに冷徹な視線を注いでいた。


彼にとって、世界とは美しき「化学式」の集合体。

あらゆる現象は制御可能な「周期表」の中に収まるはずだった。


だが――その過剰なまでの「秩序」は、唐突に崩壊する。


『警告。触媒のエネルギー効率が臨界を突破。抑止フィールド、消失――』

「博士! 装置が出力に耐えられません! 退避してください!」

助手の悲鳴が鋭く響く。


八雲の計算は完璧だった。

ただ、物質という「器」が、彼の領域に追いつかなかっただけだ。


ズドドドドド……!


直後、目も眩むような爆炎が視界を埋め尽くした。

強化ガラスが粉砕し、超合金のフレームが飴細工のようにぐにゃりと歪む。 死が目前に迫る。


だが、八雲の唇に浮かんだのは自嘲の笑みだった。

「……計算外だな。完璧な安定の果てが、これか……」

爆風が全身を呑み込む瞬間。 八雲の瞳に焼き付いたのは、あらゆる物理法則を冷笑するような、純粋なる「混沌」の光だった。


(なんて……不確実な世界だ)

それが、天才研究者・東雲八雲の最後の言葉となった。


⭐☆☆☆☆☆☆☆☆⭐


熱い。痛い。 いや――この振動は、「音」か?

深い意識の底から引き上げられる感覚。 鼓膜を揺らすのは、空間そのものを共鳴させる重厚なパイプオルガンと聖歌隊の合唱だった。


(交響曲……? 異空間の振動……いや、僕が死の間際に見た『混沌』が、この世界の法則なのか?)


重い瞼を開く。 そこは、天を衝くほど高い天井を持つ、壮麗な大聖堂だった。


「王立調律学院」入学式典――。

八雲の意識は今、没落貴族の少年ハーベルとしての体に宿っていた。

壇上には、この世界の万象を司る巨大な石碑に「法則の書」が鎮座している。


「……僕には、才能がないって兄さんは言ってた。でも……。」

ハーベルは自身の震える手を見つめる。


前世の知識と、この世界の違和感…。


不安と期待が混濁する中、ついにその名が、冷厳な声で読み上げられた。

「次の者、ハーベル・イースタン!」

ハーベルが震える足で歩み出すと、待機列の先頭から冷徹な視線が突き刺さった。


レオン・シュヴァルツ。


学院創設以来の天才と目される男子の指先には、希ガス元素『He(ヘリウム)』の絶対孤高を象徴する、不可侵のオーラが漂っている。


「……フン。泥炭がいくら磨いたところで、ダイヤモンドにはなれん。無駄なことを…。」

レオンの吐き捨てるような声を背に、ハーベルは吸い寄せられるように「法則の書」へと手を伸ばした。


一瞬、すべての音が消失し、ハーベルの心音だけが鼓動する


ドックン…ドックン…ドックン…ドックン…。


通常、この儀式では「法則の書」が適性に応じた輝きを放つ。

炎の赤、雷の金、氷の銀…。

だが、ハーベルの指先が書に触れた瞬間、世界から「色」が剥落した。


「……え?」 


ハーベルの右手から溢れ出したのは、光ではない…。

視覚を、知覚を、そしてこの世界の理そのものを歪ませ、飲み込む…唯々…漆黒の「無」の波動…。


グオーン、グオーン、グオーン…。


黒でも白でもない、形を持たない「第零(ゼロ)の無定形(アモルファス)」が、神聖なる法則の書を、侵食するように黒く塗り潰していく…。


「キャーーーー!」


会場を支配したのは、死のような沈黙。そしてそれに続く絶叫だった。


「な、なんだあれは!? 石碑が……『法則の書』が汚されていく!」

「エレメンタじゃない……あんな不吉なもの、歴史のどこにも記されていないぞ!」

生徒たちのパニックを切り裂き、壇上の司祭が顔を真っ青にして立ち上がった。


その指は恐怖で激しく震えている…。


「……い、忌まわしき『無秩序』の化身! 世界の調律を乱す、不浄なるアモルファスめ!」

司祭の叫びが聖堂に響き渡る。


「衛兵! 衛兵は何をしている! その不浄な子供を捕らえよ! 直ちに地下牢へぶち込み、浄化の炎で焼き尽くすのだ! あれは災厄を呼ぶ『虚無』の化身だぞ!」


ガシャン、ガシャン、ガシャン…。


重々しい鎧の音が響き、四方から槍を構えた衛兵たちがハーベルを包囲する。


ハーベルは自身の右手に宿った「理解不能な力」を凝視したまま、動くことができないでいた。


「……違う、僕は……。」

「黙れ、化け物め!」

衛兵の槍がハーベルの細い肩を突き刺そうとした。


(……終わりだ。)

ハーベルは死を覚悟し、目を閉じた。

【お知らせ】

いつもご覧いただきありがとうございます。

本作品は、一日おき(隔日)の投稿となります。

毎回、18:00 時に投稿します。

連載中の『転生医術師の魔法好きがこうじて神にまで上り詰めた件』も、一日おき(隔日)の投稿へ変更となりますので、ご了承下さい。

同じく毎回、18:00 時に投稿します。

今後ともよろしくお願いいたします。

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