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最終回 人造美人

 人造美人は星新一先生の作品です。最初はボッコちゃんでしたが、だっこちゃんブームのため、パクリだと思われないように、人造美人に変えたそうです。

 のちにブームが去った後、ボッコちゃんにしたそうです。

「……とまあ、恰好がつかないんですけどね」


 烏丸《からすま》りかのマンションにあるリビングで、小鳥遊《たかなし》りなはりかと話をしていた。

 彼女は白髪頭で80代の老婆と思えるほど、顔に深いしわが刻まれていた。もっとも肌は20代のようにみずみずしく、若者と老人の要素を組み合わせたちぐはぐな容姿になっている。地味なワンピースを着ていた。お腹がこぼれるように膨らんでいる。彼女も妊婦なのだ。

 りかはゆったりした黒と白の縞々のルームウェアを着ている。二人はソファーに向き合って座っていた。

 りながりかを誘拐した事件から半年の月日が経った。りかは19歳となり元気な男の子の赤ちゃんを産んだ。名前は紫康でヴィシャスと読む。しやすと読もうとしたが、物足りないのでヴィシャスにしたのだ。「危険な」「悪意ある」「不道徳」という意味がある英語である。

 マネージャーの齋藤紫陽《さいとう しょう》と、本当の父親である西山康《にしやま やすし》の名前をもらった。

 紫康はベビーベッドですやすや眠っている。紫陽とセイレーンのマネージャーである高橋充《たかはし みつる》が赤ちゃんの寝顔を優しい笑顔で見つめていた。


「確かにりなさんの遺書を読んだときは驚きました。でも生きててよかったと思ってます」


 りかは両手で手紙を持っていた。りなの遺書である。本来は彼女の死後に送られるはずだったが、予定変更してりな自身が届けに来たのであった。

 手紙の内容を読むと、りかはりなに同情した。自分は不幸な人間と思っていたが、りなはそれ以下の人生を送っていたのだ。りかは母親が毒親であったが、姉と父親が味方だった。自分はなんて幸せな人生を過ごしていたのだろうと、天に感謝し、りなの所業を水に流したのである。


「正直言えば、あの時は賭けでした。あなたとお腹の子の代わりに私たちが死ぬと確信していました。でも結局は生き延びたのですね」

「りなさんの計算が初めて失敗したわけですね」

「いいえ、康さんのおかげですね。あの方の采配が私たちを死の運命から救ったのです」


 りなはテーブルに置かれていた紅茶を口にする。ほどよく温かく、苦みが口の中に広がる。専門店で購入した高級茶葉だ。紫陽が適当に選んで買ったものである。


「あの日、セイレーンの三名が来てくれたのは偶然ではありません。康さんがあなたの危機を察して、あの方々をよこしたのです」

「いや、超能力者じゃないのに、そんなことできないでしょ? セイレーンにいた頃、康さんがそんなことしたの見たことないし」

「それは愛する秋本美咲《あきもと みさき》さんに夢中だったからです。彼女と結婚したおかげで気持ちが安定し、冷静に計算することができるようになったのです」


 りかはコーヒーを飲む。ミルクと砂糖をたっぷり入れたものだ。こちらも専門店で購入したものである。


 りなの説明によれば康がりかの危機を推測したのは、雀野《じゃくの》数式のおかげである。

 当時りながりかを誘拐するもっとも適した日だった。そして彼女には多くの信者がおり、協力者に事欠かない。

 そこにセイレーンのマネージャーである足立留美子《あだち るみこ》とタレントのレベッカ・チェン。そして石原玲花《いしはら れいか》の三人が目撃されるようにした。留美子に注意を促すだけで彼女たちはりかたちの誘拐を目撃できたのだ。

 そして三人は荒事に強かった。留美子はフィジカルが高いため、急所を狙えば男でも一撃で気絶させることができる。レベッカも生まれ故郷の香港では喧嘩が強く、玲花も同じだった。

 りなの協力者たちは彼女たちに一撃で倒された。顎を砕かれ、腕をへし折られたが、正当防衛が認められた。もちろん障害は残るが留美子たちに責任はない。彼らは裁判で刑務所に送られた。


「雀野数式では不幸な未来を変えることはできません。康さんも最初は誰かに不幸を擦り付けるしか、答えを導き出すことができませんでした。それが私の協力者たちが暴行を受けたことで不幸を分散されたのです。彼らの怪我は三人合わせると二度は死ぬ計算になってましたから」


 不幸をなかったことにはできない。逆に肩代わりする人間を増やせばその分、分散される。一人の死が、十人がケガすることで回避できるのだ。

 これは康のおかげだという。死の運命が変わらないなら、それらを複数に分ければ回避できるのではと、考えたらしい。結果として康は呪われた雀野数式を別な形で打ち破ったと言える。


「おじい様、雀野親土《じゃくの ちかど》が望んだ結果となりましたわ。あなたと紫康ちゃんがこの不幸を乗り越えた奇跡の子として世に広がっています。私の役目はこれで終わりですわ」

「私はそんな大層なものじゃないし、柴康が特別な存在にならなくてもいいわ。この子が幸せになってくれればそれでいいのよ」

「ですが世間はそう思いません。すでにマスコミはあなたのことを調べ上げました。ネットでもあなたの項目ができてます。普通の生活はまず送れないでしょう」


 りなは紅茶を飲み干した。別に嫌味を言っているわけではない。事実しか言っていないのだ。

 でもりかの顔は明るい。暗い未来など関係ないと言わんばかりに笑顔を浮かべていた。


「私にはおにい、いえ紫陽さんがいるわ。それに私には信頼できる仲間たちがいる。あなたもそうでしょう?」

「そうだぜ。りかは俺が守る!! お前に心配される筋合いはねぇよ!!」

「紫陽は相変わらず過保護ねぇ……。相手がだれであれ、言葉遣いに気をつけなさい」


 紫陽と充が同意し、りかの覚悟を決めた表情を見て、りなは優しい笑顔を浮かべる。もうおせっかいは必要ないと感じたようだ。


「そうですね。私は戸籍上では死亡していますが、協力してくれる信者の方々がいます。お腹の子と柴康ちゃんが一緒に遊ぶ日を楽しみに待ってますよ」


 現在りなは鶫寅子《つぐみ とらこ》という名前になっていた。小鳥遊りなはすでに死亡届が出ているが、協力者のおかげで戸籍は変えられていた。現在は夜鳥《よるとり》生命の会長、鶫頼光《つぐみ よりみつ》の再婚相手として暮らしている。

 紫陽は最初りなを敵と思っていたが、事情を知ると彼女を許した。もちろんりかの敵になるならいつでも相手にするつもりだ。

 もっともりかはりなを尊敬していた。自分の人生を犠牲にしてでも、血の繋がらない祖父のために行動するその意気は見習うものがある。

 彼女は姉のりあに似ているのだ。自分の身を犠牲にしてでも他人の未来を守ろうとする。目的は褒められたものではないが、覚悟を決める姿は偉大だと思った。

 紫陽は複雑な気持ちだが、りかが何も言わないので、口に出さない。


「私はこれでお暇します。ではまた」


 そう言ってりなは帰った。入れ替わりに留美子とレベッカ、玲花が入ってきた。


「今の婆さんは誰だい? どこかで見たことがあるねぇ」

「鶫寅子さんよ。小鳥遊りなのようが馴染み深いと思うわ」

「へえ、そうなんだ。外見は妖怪だが、仙人みたいな雰囲気があるね」


 留美子は一人で納得していた。彼女たちはりなが生きていることを知っている。芸能界では暗黙の了解になっていた。


「なんだよあいつ!! りかちゃんを殺そうとしたくせに、面の皮が厚すぎだよ!!」

「くふふ……。でなきゃ教祖にはなれないわね。あなたとは大違いよ」


 レベッカは友人に危害を加えようとしたりなに嫌悪し、玲花は逆に高く評価していた。

 法律では犯罪者だが、りなは善悪を超越した存在だ。

 

「それよりも二人とも、今度新作のドラマに出演するんだってな。充から聞いたぜ」

「うん!! ポンズが主役なんだけど、女だけの格闘技団体をモデルにしたドラマなんだ。私はサブレギュラーなんだぜ!!」

「……私はライバルのボス役。なんで選ばれたのかわからないわ……」


 紫陽の言葉にレベッカと玲花の反応は分かれていた。りかの誘拐事件ではレベッカと玲花が犯人逮捕に協力している。しかも彼女たちはナイフや狂気を持つ相手に物おじせず、一撃で相手を無力化させたのだ。そのためSNSでは強い女として話題に上がっていた。


「まあ二人だけでなく、中野たちもまとめて出演するよ。ナンシーさんは玲花の部下役として共演するしな」


 留美子が言った。ポンズはヴィベックス出身のタレントで、何かと話題に事欠かないタレントだ。DROPOUTでも四国四天王編で活躍している。


「そうだ。私新しい作詞ができたの。聞いてくれる?」


 りかが育児休暇中に思いついた曲をみんなに披露した。


 私の親は毒親で、つらい日々が続いてた。

 出口の見えない、トンネルのような、人生ね。

 生まれてきた意味が、理解できずに過ごしてた。

 できることなら自己完結を、したいと願う日々だった。

 だけどそんなのどうでもいい、私の命は私のもの。

 変えられるのは自分だけ、生まれなんか関係ない。

 私は自由だ、どこでも走れる。

 みんな自由だ、空だって飛べる。

 わたしのために 笑ってくれる。

 その人がいれば、十分だもの。

 自由、自由、自由はとっても素晴らしい。


「題名は自由、なんだけどどうかな?」

「いいじゃん!! 毒っ気はないけどいい歌だよ!!」

「くふふ、今までと違う作風だから、売れないと思うけど、私はダウンロードするわね」


 レベッカと玲花は高評価だった。りかはそれを見てにっこりと笑う。子供を産んでから彼女は笑顔が多くなった。


「りかちゃんは明るくなったわね。これから男に声をかけられることが多くなるかもしれないわよ?」


 充が紫陽の左肩を叩いた。


「作詞も以前と違ってとげとげしさはなくなったから、あんまり売れなくなるかもしれないな」


 これは留美子だ。りかは柴康を出産して以来、だっせぇよのような毒満載の歌詞を作れなくなっていた。代わりに前向きな内容が増えている。ダウンロードもメガヒットはないが、安定した数字は取れていた。

 もっとも所属のシャイニングプロは何も言わない。社長の国府田史郎《こうだ しろう》は「りかは思うがままに生きていればいいんだ!! 面倒事はこちらに任せろ!!」と太鼓判を押した。シャイニングプロは被害者なのだが、りかをクビにしろとSNSでは騒がれている。彼女が雀野親土の関係者だからという理由でだ。彼女と雀野は血縁はないのに、りかを嫌う芸能人が毎日テレビに出演してはりかを追放すべきだとバカ面を下げてしゃべっていた。

 シャイニングプロの佐野マリ子はそれに反発し、自分のレギュラー番組でりかを擁護している。ジパングテレビでは大物芸能人のシュガーとしおも現在のマスコミの態度に苦言を呈していた。


「関係ないさ。俺はりかと柴康を守ると決めたんだ。自分の子が生まれたのに顔も見せに来ないどこかの誰かさんと違ってな」


 紫陽は康を許していなかった。一方でりかとりなを救ったのは康と理解しているので複雑な気持ちでいる。現在康は妻の美咲が赤ん坊を出産したため、手が離せない。康は行こうとしたがりかが止めたのだ。

 りかはどこか作られた美人、人造美人だと思った。人の手で生み出されたが、自分の存在意義に悩んでいた感じがした。

 康がりかにいのちの精をそそぎ、りなが外部から衝撃を与えたことで、りかは生まれ変わったと思った。

 これからりかと紫康の運命は過酷なものになるだろう。だが紫陽は命に代えても二人を守ろうと心に誓ったのだった。


「それよりも紫康ちゃんが起きたわよ」


 充が穏やかな声色で言った。紫康は目を覚ましたようだ。りかも含めて全員がベビーベッドに向かう。

 紫康は笑顔を浮かべた。まるで太陽のような輝きだ。

 この笑顔を見たら、自分の悩みなど消し飛ぶとりかは思った。


 終わり。

 今回で最終回です。

 歌って! りかちゃん!! は私にとって毛色の違う作風が目立ったと思います。

 そもそも彼女の過去はやすむのときめきVチューバーから明かされましたが、当時は深く設定したわけではないです。

 後付けとして話に絡ませただけでした。それでもきちんと完結できたのでよしとします。


 セイレーンに惚れた男と、やすむのときめきVチューバー、歌って! りかちゃん!! がセイレーンシリーズ三部作に位置付けてます。

 アビゲイルのごくらく天国スペシャルもセイレーンシリーズに入ると思いますね。

 

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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