第0話シャッターを切る
「はぁ……はぁ」
長く、長く続く坂道を、息を切らしてひたすら歩いて行く。この先にある高台までの道のりはまだまだ遠い。
ずっと視界の端にちらついている家々はとても色鮮やかで、興味をそそられ足を止めてカメラを構える。
レンズを向け、ピントを合わせ、右の人さし指を押した。
カシャッ……。
耳に良く馴染む音だ。あまりにも心地が良くて、ついつい口元が緩む。この街は撮りたいものが多すぎて、シャッターを切るのが止まらない。
既にたくさんの写真を撮った。
(後で確認するのが楽しみやなぁ)
どんなに息が切れても、不思議と疲れは感じられない。今は高揚感が勝っていた。
ウキウキとした気持ちのまま上り続け、そして高台にようやく辿り着いた。
そこには水平線が広がっていた。
「っ…………」
思わず息を呑む。
雲一つない青く澄んだ空と、穏やかに揺れる水面には陽の光がきらきらと反射している。そこに浮かぶ船が相まって、良い味を出している。
(きれいな画や)
大海原にカメラを構えてシャッターを切る。
何度も、何度も、何度も。
満足するまで、飽きる事もなく何度もシャッターを切る。
ここはずっと来たかった場所。他の誰かが撮った写真でしか見たことのなかった異国の地。
これまで海外だからと尻込みしていたが、ようやく訪れることが出来て満足だ。
「最後に見れて良かったわ」
そう言いながら、またシャッターを切った。




