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『好きに生きるから楽しいのさぁ』☆アウトローズ☆問題児たちに常識を  作者: 夏カボチャ 悠元


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12/23

12、ひとりぼっちアシミー

明日からは一日一話で投稿していきます。

よろしければ読んでくださいね。

 アシミーはバケットの屋敷を目の前にして、逆方向に向かって全力で駆けていた。


 本来ならば、ネルと共にバケット邸を襲撃するはずだったアシミーはネルとの「合流する」という言葉を信じて、1人、グラードの街を目指していく。


 アシミー:ネルが魔物を引きつけて、私に距離をとれと言ったのよね……ネルの範囲スキルを考えたら、邪魔になっちゃうもんね。少し悔しいのよ。本当に……

 私からしたら、素早く魔物を処理して屋敷に殴り込めると思ってたから、ネルからの提案は意外だったのよ……


 バケットの私有地から抜け出したアシミーは、1度、ネルを残してきた地点に視線を向ける。

 アシミーの手は強く握られていたが、目を閉じ、深呼吸をすると再度前を向き直し、街の方角へと走り出す。


 アシミー:ネルの口振りだと、街で合流してから再度、深夜にバケット邸に向かう感じよね……ネルなら大丈夫よね……


 アシミー「本当に悔しいのよ……なんで、逃げないといけないのよ! 私があんな奴から逃げる事実は本当に不快なのよ……」


 アシミー:強がっても、変わらないのよね……私は今、間違いなく逃げてるんだから、なんで……なんで、こんなに悔しいのよ。今までだって言われたことあるじゃない。


 アシミーの記憶「お前マジに使えねぇな!」

 アシミーの記憶「だから、こんなチビ誘うの嫌だったんだよ。チッ!」


 アシミー:私は悔しくて強くなったはずなのに……


 バケット邸の森から、グラードの飲み屋街に入り、景色が変化するとアシミーは走る足を止めた。


 アシミー「悔しがっても、何も変わらないじゃない……あぁ!」


 アシミー:私……ネルから合流地点を聞いてないじゃない!


 アシミー「ネルったら、合流場所を言ってないじゃないのよ!」


 アシミー:本当に……確認しなかった私も悪いけど……私がちゃんとしてあげないと将来が心配なのよ。いつか騙されて痛い目に合うんじゃないのかしら……仕方ない子なのよ。まったく……


 アシミーはその場から歩き出す。


 アシミー:ネルが行きそうな場所なんて、正直、分からないのよ……う〜ん? ネルと初めて会った食堂しか思い浮かばないわね。


 アシミー「はぁ……仕方ないから、あの食堂に向かうしかないわね……」


 夜を迎えてから、時間が然程経っていない為、食堂の中には酒と料理を楽しむ人々の声が外にまで響いた。

 誰もが楽しそうに酒を煽る姿が窓越しに見つめるアシミーは不快そうな表情を隠さずに浮かべる。


 アシミー:私が数ヶ月間、あのクソバケットから好き勝手にこき使われてた間も、街の連中はこんなに楽しそうにしてたと思うと、少しだけムカつくのよ……理不尽なのよ。


 アシミー「って、私はいつから、こんなに捻くれちゃったのかしら……本当に嫌になるわね」


 ゆっくりと流れる時間、その中でアシミーは、静かに空を見上げていた。


 アシミー:ネルを初めて見た瞬間、私はあの子が怖くて仕方なかったのよね……本当に殺されるって思ったのも、久しぶりだったのよ。

 私がバケットの馬鹿から、屋敷で命令された日、気分は最悪だったのよね。


 アシミー:──あの日から、全部が変わったのよね。


 バケット「おい! タコ女。今からこのバケット家に喧嘩を売った愚かな女を連れて来い! 殺さずに生け捕りにして、一生の不幸を、いや……生まれたことを死にたいと願うまで身体に刻んでやる!」


 アシミー:楽しそうに笑うバケットは本当に不気味で嫌になるのよ……【水性亜人操作】なんて魔玉を手に入れたせいで、私が操られることになるなんて思ってもいなかったもの……


 バケット「聞いてるのか! タコ女。今、その女は街の飯屋にいるようだからな! 絶対に逃がすんじゃないぞ」


 アシミー:不服だわ……なんでこんな奴に……私は絶対に逃げられないし、最後には頷くことしかないのが現状なのよね……


 アシミー「わかったのよ。バケット様。すぐに向かうのよ」


 バケット「待て、お前だけじゃ女を逃がすかもしれないからな。部下を10人つけてやる。馬鹿な真似はするなよ!」


 アシミー:自分勝手な言い分で、誰も信じないような性格には本当にうんざりのよ。


 バケットに指示されて、アシミー達は小さな食堂へと向かう。

 店内に入ったアシミーは全身紫ローブ姿をした女に視線を向ける。

 店内の雰囲気を一瞬で吹き飛ばすような真っ赤な血で染めた女が豪快にステーキ肉を食べている。

 異様な雰囲気を無視するようにアシミーは声を上げる。


 アシミー「見つけたのよ! 煙の魔女=ネル・ニルガル! バケット様のワイバーンを今すぐに返しなさいよ!」


 アシミー:聞こえないわけ? この状況でなんで、ステーキを食べ続けてるのよ!

 私は名指しで呼んでるのよ。なのにまったく聞く耳を持たないじゃないのよ。


 ネルはアシミーを確認するように視線を向けると、最後のステーキ肉を口に運ぶ。

 食事を終えたと同時にネルは立ち上がり、アシミーへと向かっていく。


 ネル「うんうん、ボクちゃんは決めたよ〜! 君ってば、タコの亜人さんなんだねぇ。名前から教えておくれよ〜」


 アシミー:何を決めたってのよ! 本当にイライラしかしないのよ。


 私の前にやってきた、このネルって女のことは私だって知ってるわ。

 むしろ、このグラードの街で関わると厄介な奴をリストアップしたなら、絶対に上位に上がってくるんだから、知らない方がおかしい有名人なのよ。


 アシミー「アナタに名乗る名などないのです! それより、バケット様のワイバーンを返しなさいよ!」


 アシミー:私に預けられた部下達が吹き飛ばされた瞬間に、初めてやばいと感じたわ。


 例えるなら、龍の巣穴に軽装備で踏み込んでしまったような、そんな感覚だったのよ。


 髪の毛で片目は隠れているが、剥き出しになったもう片方の瞳は、どう見ても楽しそうで、恐怖を感じる他なかったわ。

 口角を吊り上げながら、見えたギザ歯に私の精神が噛み砕かれるような感覚は絶対に忘れられないと思うもの……


 私はネルという存在に恐怖を感じた。それでいて、見つめてくる薄紫とも、ピンクとも言える瞳が私を呑み込むように向けられて内側から震えたのよ。


 正直、海王種よりもサーペント種よりもヤバい瞳だったわ。

 何かを私に向かって喋っているけど、気を抜いたら、多分意識が持ってかれることを直感した。


 魔物との戦闘で経験を蓄積してきたはずの私は本当の化け物を目の前にして、死を覚悟した。


 なのに、なのに……私を膝に座らせて、頭を撫でてくるし、抱きしめるしで、私は思考が停止していた。


 私が呆けていると、バケットの馬鹿が店に飛び込んできて、私を罵り出した。


 悔しかったけど、言われるままになっていたのよ。逆らえないから仕方ないまであったわ。


 次の瞬間、私は目を疑ったわよ。


 バケットがいきなり吹き飛ばされたのよ。


 何が起きたのよ! なんで、どうして、いきなりバケットの奴が吹き飛んだのよ……


 それから、私を支配していた【水性亜人操作】の魔玉を丸呑みにして見せてきて……


 本当に……意味がわからなかったわよ……


 そこからはネルの奴に連れ出されて、抵抗もしたけど、無駄だったわね。

 門番が気づいてくれるんじゃないかとも思ったけど、これもダメだったわ。


 すべての期待に裏切られた気分になって、ベスパの森まで連れていかれて……


 私はそこで、ネルの狂気を目の当たりにしたわ。キラービーナの群れを容易く焼き払う姿は、英雄のようにすら見えてしまったのよね。


 英雄というにはあまりに悍ましく、綺麗なのに、ドス黒い煙がすべてを呑み込んでいく姿は衝撃的だったわ。


 あの瞬間、私はネルに恐怖を感じたと同時に、心臓を鷲掴みにされている自分に気づいたのよね……


 ネルに鋭い視線を向けた私は少し悩んでから、覚悟を決めたのよ。


 アシミー「決めたわ! アナタ……じゃなくて、煙の魔女=ネル・ニルガル! 私の仲間になるのよ!」


 アシミー:正直、ネルになら殺されてもいいと素直に思えた。それでも他の奴らみたいに当たり前に殺されるのが嫌よ。

 私はアシミー・ノークとして、死ぬなら構わない。ネル・二ルガルには、媚びないし、対等な立場で殺されてやるわ。


 恐れも、怯えも、対等じゃない。むしろ、私が本当に対等に喋っていいのかも分からない。


 ただの死なら最後くらい、対等に殺されたい……私はそう感じている自分が既にいることに気づいたから。


 それでも、ネルは笑って受け入れてくれた。


 話をしていくと、友達って言われて複雑な気持ちになってしまう。

 私はネルの特別になりたい……馬鹿みたいな言葉が頭にぎった……高望みし過ぎない言葉に慌てて、パーティーメンバーだとはっきり口にしたの。


 ネルは私にスキルの説明をしてくれた。

 【水性亜人操作】の魔玉を取り出して粉々にして笑いかけてくれた。


 この瞬間、私はネルに自由をもらったのだと全身が震えた……


 アシミー:──だから、私はネルといたいのよ。本当に……私は素直じゃないわね。


 考えるように目を瞑っていたアシミーは、食堂の前からゆっくりと来た方角に向けて、歩き出していく。


 アシミー:私はネルを絶対に裏切りたくない……そう思ったのに、1人でネルに言われるまま、街まで戻って来たんだ……最低だよ。


 アシミー「ダメなのよね。今から戻るのよ……ネルが1人で寂しがって、私を嫌いになったら、困っちゃうもの……」


 アシミー:こんな言い訳を口にしないと戻れないなんて、本当にダメダメね。


 アシミーはネルと別れたバケット邸の森へと駆け出していた。

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