CHAPTER41『繋がる点と線』
ギルドの外は、いつもより人通りが多い。
カイラムの街は戒厳令が敷かれてるらしいし、こっちみたいな田舎に逃げてきてる連中も多いんだろうな。
どいつもこいつも、落ち着かねぇ顔してやがる。
そりゃそうだ。軍が動きかねない状況だ。
……で。
そんなトラガロファミリー絡みの騒ぎに、 俺たちも関わる流れになってるんだよな。
―― これ、ヤバくないっすか?
ズールが肩をすくめ、口を開いた。
「いや〜、酷えもんだ。カイラムの裏町は、そこら中で殺し合いだ」
ミロが手を止め、少しだけ顔を上げる。
「街全体に戒厳令が敷かれたんですね。今、こちらの情報屋――チュービンさんから聞きました」
ゲインが短く相槌を打つ。
「……ほう」
ズールはチュービンを一瞥し、ニヤリと笑った。
「アンタが噂のチュービンか。よろしくな」
そう言って手を差し出す。
チュービンはゆっくりと立ち上がり、その手を取った。
「……赤猫組の若頭、ズールだな。アンタらが、リトル・リバーと手を組んだという話は入ってきている。よろしく」
互いに、がっちりと握手を交わす。
チュービンはそのまま視線を移し、ゲインへ向き直る。
「アンタは――デッドリーフ・ワークスのボス、ブリッツ・ゲイン。
元陸軍少将……ブラッドリバー時代は、グリムの下にいたな」
無言のまま手を差し出す。
ゲインはわずかに眉を上げ、それを受けた。
「さすがは凄腕情報屋だな。俺たちのことまで把握してるのか」
チュービンは鼻を鳴らす。
「フン……アンタらは、こっちの世界じゃ有名さ」
ズールとゲインは一瞬だけ顔を見合わせ、苦笑を漏らした。
そして、二人の視線は自然とモフランへと向いた。
ズールはわずかに目を細める。
(……ネコにしては、デケェな……)
チュービンが声を張る。
「モフラン、挨拶だ」
モフランはのそりと立ち上がり、少しだけ間を置いて口を開いた。
「……モフラン……です」
ゲインが一瞬たじろぎつつも、手を差し出す。
「お、おう……ゲインだ」
がっしりと握手を交わす。
続いてズールも手を差し出した。
「ズールだ」
モフランは無言のまま、その手を取る。
ズールは差し出された手を見て、内心で舌を巻く。
(……なんてデケェ手だ)
思わず、小さく呟く。
「……こんな手で張り飛ばされたら、一溜まりもなさそうだな」
モフランは少し考えてから、ぽつりと言った。
「……昔、盗賊が看板の裏に隠れてたから、張り飛ばしたことがある」
ズールが眉を上げる。
「看板?」
モフランは真顔のまま、こくりと頷いた。
「……盗賊は、看板ごと隣町まで飛んでいった」
ズールの笑みが引きつる。
その場に、わずかな苦笑が広がる。
ゲインはギルド内を一瞥した。
相変わらず、ボグのイビキ、ハクの歯ぎしり、ドロガンの荒い鼻息が響いている。
「……ったく。カバとイノシシと白熊は、のんきにまだ寝てやがんのか」
俺は肩をすくめる。
「いや〜、昨日は俺たち、帰りが遅かったんすよ」
ミロはオレンジを搾りながら、ふと思い出したように顔を上げた。
「……そういえば、その話の途中でしたね。山賊に捕まったとか?」
「そうなんすよ〜」
俺は苦笑する。
「俺とハクさん、まとめて捕まって、なかなか酷い目に遭いました」
その話を聞きながら、ゲインとズールは空いている椅子に腰を下ろした。
ゲインが眉をひそめ、低く口を開く。
「……山賊?どこの奴らだ」
「ロカ山の、さらに奥っすね」
俺は頭をかきながら続ける。
「山の奥に、でっかい古代神殿みたいな遺跡があって――あいつら、そこをアジトにしてるんすよ。俺たち、そこに連れてかれて」
「……フム」
グリムが短く相槌を打つ。
ゲインが眉をひそめた。
「古代神殿、だと?」
「ええ。あんな山奥に、あんなデカい遺跡があるとは思いませんでしたよ」
ミロは搾りたてのオレンジジュースをモフランに差し出しつつ、手際よくゲインとズールにコーヒーを淹れる。
その横で、チュービンは顎に手を当て、静かに目を閉じた。
俺は肩をすくめた。
「で、隙見てそこから何とか逃げ出せたんすけど――」
一拍置いて、苦笑する。
「追っ手に囲まれて、また捕まりそうになって。……その時っすね」
少しだけ声が弾む。
「ボグさんとメイベルさん、それにドロガンさんが駆けつけてくれて、あいつらまとめてぶっ飛ばしてくれたから――何とか助かったって感じです」
ミロはコーヒーをカップに注ぎながら、感心したように言う。
「へぇ〜……それは危なかったですね」
ゲインとズールの前に静かにカップを置く。
その横で、チュービンが低く口を開いた。
「……その山賊団、名前は?」
俺が口を開きかけた、その時――ミロが先に答えた。
「……確か、“クリーバーズ”って言ってましたよね?」
一瞬、空気が止まる。
チュービンの目が細くなった。
「……クリーバーズ……だと?」
低く、吐き出すように続けた。
「……あれは、ただの山賊なんかじゃねぇ」
指先が机を一度だけ叩く。
「……かつて、連邦政府を震撼させた連中だ」
チュービンはゆっくりと視線を上げた。
「――反政府組織、“ゼノス戦線”の隠れ蓑だ」
その一言で、空気が変わった。
グリムの眉が、ぴくりと上がる。
ゲインがゆっくりと顔を上げた。
「ゼノス戦線……!?」
チュービンは鼻を鳴らし、わずかに口元を歪める。
「……まぁ、この真実まで辿り着いてるやつは、俺ぐらいのもんだろうがな」
指先が、もう一度だけ机を軽く叩いた。
「表じゃ、とっくに潰されたことになってる」
ミロが思わず声を上げる。
「……ですよね!? 数年前、新聞で読みました。陸軍が反政府組織――ゼノス戦線を壊滅させたって」
チュービンは視線を落とし、低く続ける。
「――だが、あの連中は生きている。形を変えて、な」
場の空気が、さらに沈む。
ミロが息を呑む。
「……新聞には、ゼノス戦線の頭領――ジャック・ザンという人物は監獄送りになり、処刑されたと書かれていましたが……」
チュービンは顎を引き、低く答えた。
「いや……ジャック・ザンは生きている」
視線を上げる。
「奴は今――ジャンクロット・ザガンと名乗っている」
鼻を鳴らし、声をさらに落とす。
「……監獄送りになったのは、身代わりだったという話だ。そこから先は、俺でも追い切れなかったがな」
俺は思わず身を乗り出した。
「……え、ちょっと待ってください。俺たち、そのクリーバーズの追っ手、ボコボコにしちゃってますよ!?」
一瞬の間。
はっとして、頭を抱える。
「……俺もリカオンのおっさんの頭、スコップでぶん殴ったし、鳥さんの膝も叩いて気絶させちゃいました……!」
俺は気まずそうに頬をかき、へらっと笑った。
チュービンは目を細め、低く呟く。
「……そりゃあ……マズい連中に喧嘩売ったかもしれねぇな」
嫌な汗が背中を伝う。
「はっ!? しかも俺、あいつらのアジトの柱、ぶっ壊して逃げてきてました!」
場の空気が、さらに一段重くなる。
チュービンが短く言い切った。
「……完全に戦争だな」
――ガビーン!俺、戦いの火蓋切っちゃってました!
グリムが静かに言う。
「……トラガロファミリーや陸軍暗部だけでなく、我々は反政府組織からも狙われるかもしれん、というわけか」
ミロの表情が曇る。
「それは困りましたね……現状、トラガロファミリーだけでも手に余る相手だというのに……」
ゲインが舌打ちした。
「……面倒な話になってきやがったな」
チュービンはわずかに視線を落とし、思案するように顎に手を当てた。
「……なるほどな。見えてきたぞ」
その一言に、場の視線が集まる。
チュービンはゆっくりと顔を上げた。
「……今のトラガロファミリーとバルバス解放戦線の戦争――きっかけは、ある一人のバルバスの男が、裏町でトラガロファミリーのチンピラ五人を惨殺したことから始まってる」
拳を握りしめる。
「バルバス解放戦線のボス、ネモラ・ドレイン……あの男は、元ゼノス戦線の幹部だ」
わずかに目を細める。
「……だとすれば、この戦争――」
一瞬、言葉を切る。
「裏でゼノス戦線……つまり――ジャンクロット・ザガンが絡んでいる可能性がある」
――あわわわわ……やっちまった。
まさか、あの山賊のおじさん達が、そんなヤバい連中だったなんて。
そんな連中に狙われるとか、俺これからどうすんの……!?
グリムさ〜ん。
元陸軍のコネとか何とか使って、あいつらまとめてコテンパンに叩き潰してくれませんかね〜。
――嫌な予感しかしねぇ……。
《リトルリバー》より感謝を込めて!
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