第462話 ~ 王立アカデミー図書館書士 ジネット・ドレイユ ① ~
第462話 ~ 王立アカデミー図書館書士 ジネット・ドレイユ ① ~
ひょんなことからジネットの部屋でお茶を飲むことになったマノン……
とは言え、この時代ほ今のようにお湯を沸かすのも簡単ではない。
まず火を起こしから始めなければならないのである。
「少し時間がかかりますけど……」
「お時間はよろしいでしょうか?」
ジネットがマノンに尋ねる。
「大丈夫だよ……」
「今日は講義に出なくていいから」
マノンが答えるとジネットは小さく頷く。
「あれ、ストーブがあるの?」
マノンはジネットの部屋にストーブがあることに気がつく。
「あ、はい……」
「つい最近、買ったんですよ」
この頃には王都でも急速にストーブが普及し始め種類も増えて価格も手頃になってきている。
ジネットの部屋の暖炉の中に小型の簡易ストーブが据え付けられいる。
「正直、お財布にはかなりのダメージですけど……」
ジネットは苦い表情になる。
「でもこれ、本当に便利だと思います」
「冬は暖房になるし、簡単な料理にも使えるし……」
「しかも、使う薪の量も半分以下ですし……」
「3年ほど使えば……」
「薪代だけで元から取れるんじゃないかな……」
ジネットはそう言うと火打石で木の皮に火種を起こしてストーブの中の薪に火を付ける。
暫くするとストーブに火が廻る。
ジネットは実に手慣れたものである。
「水汲んできますね」
「直ぐに戻りますので……」
ジネットはそう言うと棚の上にあった陶器の水差しを持って部屋を出て行く。
ジネットの部屋で1人になったマノンはボンヤリと窓から外を眺めている。
"建物は古いけど、とてもいい眺めだな……"
大広場を歩いている人々をボォ〜っと見ているとジネットが差し出しを抱えて戻ってくる。
「随分と早かったね……」
ジネットが予想よりもかなり早く戻ってきたのでマノンは少し驚いている。
この時代では水汲みもひと仕事なのである。
「近くに水道が通ったんです」
「おかげで随分と水汲みが楽になりましたよ」
ジネットはそう言って水差しをテーブルの上に置いて手鍋に汲んで来た水を入れストーブの上に載せる。
「ゲルマニアとの戦争が終わってから……」
「王都は人も増えて活気も出て……」
「生活も凄く便利で本当によくなりましたよ……」
「これも大賢者様のおかげですね……」
ジネットはそう言うとマノンの方を見て意味ありげに微笑んだ。
ジネットはさっきのリンゴを2つ手にすると皮を剥いて四つ切りにして木の皿に盛り付け陶器のコップをテーブルに並べる。
そうしていると、手鍋の水が沸騰する。
手鍋にカモミールを適量入れ暫くするとカモミールの香りが漂ってくる。
カモミールの粒が入らないように慎重にコップに注いでいく。
「お待たせしました……どうぞ……」
「熱いから気を付けてください」
ジネットに勧められるままに淹れたてのカモミールティーを啜るように口にする。
「はぁ〜」
疲れたマノンの心身に染み渡る。
「凄くいいね……」
マノンは思わず口に出してしまう。
カモミールにはリラックス効果がある。
「気に入ってもらえて嬉しいです」
「私、こうしてゆっくりとハーブティーを飲むのが好きなんです」
ジネットはそう言うと自分もカモミールティーを口にする。
「いつも休日はこんな感じなの?」
マノンがリンゴを手にジネットに尋ねる。
「そうですね……ここ半年ぐらいは……」
「休日はこんな感じですかね……」
ジネットはカモミールティーを飲みながら事情を話し始める。
「私の故郷はここから駅馬車で1日ぐらいの所なんです」
「……もう……長く帰ってないわね……」
ジネットは遠くを見ているような目をしながら答える。
「長期休日ならまだしも土日の2日だとね……」
「半年ぐらいは前までは実家が遠い子もいて土日の休は……」
「よく買い物やお茶してたんですけど……」
「その内に皆んな、交わりのお相手ができたりとか……」
「子供ができたりとかしまして……」
ジネットは少し口籠もる。
「……気が付けば……その……」
「……私だけ……売れ残ってしまいました……」
ジネットは気まずそうにマノンから視線を逸らしてボソッと呟くように言うのであった。
「そんな、ジネットさんってまだ若いじゃないですか」
マノンが言うとジネットは少し困ったような表情になる。
「私……何歳に見えます?」
ジネットがマノンに尋ねる。
「……17歳……ぐらい……かな……」
マノンは恐る恐る答える。
「……19です……後10日で20歳……」
ジネットは視線を逸らしながら小さな声で答える。
「……えっ……」
「そう……なんですか……」
ジネットは童顔なのでマノンは本当に17歳ぐらいだと思っていたのである。
「……」
非常に気まずい空気と時間が流れる。
「……ジネットさんなら……」
「必ず、いいお相手が見つかりますよっ!」
マノンは何とかこの気まずい空気を吹き飛ばそうとする。
「そうだといいんですがね……」
「実家からはそろそろ帰って来いとは言われてますし……」
「この辺が年貢の納め時かなと……」
「実は私……今までは……」
「訳ありで王都にいたんです……」
そう言うとジネットは王都に居る訳を話してくれる。
「私、15歳で王立女学校に入学して17歳で卒業しました」
「卒業と同時に一度は地元に帰ったんですけどね……」
そう言うとジネットは小さなため息を吐く。
「王立女学校ってお嬢様学校じゃない」
ガリア王立女学校と言えば貴族やお金持ちのいい家の子女の通う名門女子校なのである。
「まぁ……それほどでもないんだけど……」
ジネットは少し照れ臭そうである。
「卒業して半年ほどしてから……」
「地元の名主から交わりのお相手の話があったんだけど……」
「その相手が34のオッサンで……」
「しかも、地元でも女癖が悪くて有名な奴でして……」
「私、それが嫌で嫌で親に反抗しちゃいまして……」
「それで親から勘当されちゃってね……」
「実家を飛び出して……」
「王都で独り暮らしする羽目になったって訳なんです……」
「幸い王立アカデミー図書館書士に採用されたので……」
「何とか今までこうして生きてこれました……」
ジネットはそう言うとニッコリと笑う。
王立アカデミーの職員は無償で住宅が割り当てられる。
他にもたくさん特典があり王都でも人気の高い就職先なのである。
いわゆる、国家公務員である。
この事から求人合格率は低くジネットはかなり優秀な人材なのだとわかる。
「凄いね……」
マノンは感心してしまう。
「まぁ、3つ上の兄が親に内緒で……」
「随分と支援してくれたので何とかなったと言うのが本当の所なんですけどね」
ジネットはカモミールティーを飲みながら話しを続ける。
「それももう終わりです……」
「つい先日、その34歳のオッサンが永久追放されまして……」
「長年の税金の水増しとピンハネがバレたそうです」
「なので、交わりのお話も無くなって……」
「親の勘当も解けていつでも帰って来い……とういう訳です……」
ジネットはそう言うとカップに残ったカモミールティーを飲み干す。
「……」
マノンは何も言えずに黙っているしかないのであった。
「ありがとうございますマノン導師」
「私の愚痴話を聞いてくれて……」
ジネットはそう言うと頭を下げる。
「そんな事ないよ……」
「私も美味しいカモミールティーをご馳走してくれてありがとう」
マノンはお礼を言うとゆっくりと立ち上がる。
「このカモミールティーの御礼はいずれ……」
マノンはそう言うとジネットの部屋を出て行くこうとすると……
「あのっ!マノン導師っ!その……あ……」
ジネットは何かを言おうとして少し躊躇う。
「……その……マノン導師がお休み中……」
「リーゼロッテさんが……しょっちゅう来てました……」
「その……特別書籍を閲覧させて欲しいって……」
ジネットの様子から何となく状況が理解できる。
「……そう……ですか……」
マノンはジネットの心境が何となくわかる。
"きっと、随分と迷惑かけたんだろうな……"
マノンは心の中でジネットにすまなさそうに呟く。
「ありがとう、今度リーゼロッテをさん連れて行くからその時はよろしくお願いするよ」
「今日は本当にありがとう」
マノンはそう言うとゆっくり歩き出す。
「……」
ジネットはそんなマノンの後ろ姿を哀しそうな目をして姿が見えなくなるまで見送るのであった。
第462話 ~ 王立アカデミー図書館書士 ジネット・ドレイユ ① ~
終わり




