表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
1/377

第一話 ~ 頭の中の魔法使い ~

三年ほど前に大怪我したときに暇つぶしに書いたものです。

消去してしまったのですがUSBメモリに残ってたのを再掲載します。


いつの間にやら憑依され……


    第一話 ~ 頭の中の魔法使い ~



  ~ 序章 ~


 私は4~5歳の頃に神隠しに遭ったことがある。

 活発な女の子(野生児ともいう)だったこともあり家の裏山でよく遊んでいたそうだ。

 村人が総出で探し回ったが見つからず10日近くが過ぎ諦めていた頃に何事も無かったようにひょっこりと帰ってきたそうである。

 怪我もなく衣服も奇麗でいなくなった時そのままの姿で周りを驚かせたのだが当の私本人にその10日間の間の記憶は無かったそうだ。


 15歳になった今もその時の記憶はない……。

 ただ、その頃から夢を見るようになった大陸中を旅する夢でとても現実的で物語のような夢だった。

 幼い私はその夢を見るのが楽しみで夜になるのが待ち遠しかった……しかし、いつの間にか夢を見る回数が減っていき、やがて夢を見る事は無くなっていたのだが……

 そして時は流れ15歳になったある日、私の頭の中で声がするようになってきた……その声は日を重ねるごとに大きくなっていき今では会話が成立するほどにまでなっている。

 自分は何か危ない病気なのか?……それとも霊能力者なのか?……とも思いもしたがそうではないようだ……


 何故なら……自称"魔法使い"を名乗るこの爺(声が明らかに爺っぽいので)は……本当に魔法を使う……

 しかも、時より人の体を勝手に乗っ取るのだった……今日も女学校の武術教練で一発しでかしてくれたのだった。


 そんなこんなで、やや日も傾いた秋の夕暮れ時に一人でマルティーヌ女学校のある町"サン・リベ-ル"から私の住む村"マノワール"までの帰り石畳の道をタメ息交じりにトボトボと歩いている。


 マノワール村はガリア王国の東側の緩やかな広陵地帯に位置しその斜面に沿ってブドウ畑などの果樹園が広がり点在する村々の一つである、平地にはヘベレスト山脈を水源とするアロア川が流れ小麦などの穀倉地帯となっていて古来より農耕に恵まれた地域である


 私の住む村の周りには一面のブドウ畑などの果樹園が広がる、マルティーヌ女学校のある町"サン・リベ-ル"から自宅まで徒歩で約40分ぐらいの道のりである

(イメージとしてはフランスやイタリアの田舎のような感じで時代設定は地球の12~13世紀ぐらい)。

 因みに、実家はブドウ農家兼ワイン農家でもある、村で消費されるワインの3割程は私の家で作られている。

 畑のブドウの木にぶら下がった果実を見ると今年はブドウの出来も上々のようだ。

 あと数週間後にはブドウの収穫とワインの仕込みで地獄のような忙しい日が一週間以上続くのかと思うと毎年のことながら気が重くなる。

 その後は収穫祭が続く、秋は短いが祀り行事が多いからワインの消費量も多いので我が家は大変忙しくなるのだ。


 私の名前は"マノン・ルロワ"15歳の幼気な女の子である……と言いたいがこの世界だと15歳は立派な大人として扱われるし子供も作れるのだが……。

 と言うか……私は……細身のズン胴(電信柱)で貧乳なうえにやや男勝りの性格と人相に声優並みのイケメン・ボイス、背丈が180cm近くもあり、手入れが面倒なので髪(亜麻色)そんなに伸ばしていないのでよく男と間違われるのだ。



   第一話 ~ 頭の中の魔法使い ~

 

 のんびりと歩いているとマノワール村が見えてくる、そんな時に……

 「よっ!!お前さんそんなに怒らんでもええじゃろうが」

聞き慣れた声が頭の中に響てくる


 「当たり前でしょうっ!」

 「弓術の的にいきなり火球を発射するっ?」

 「なんで、矢が火の玉になるのよっ!」

 「そもそも、この世界にはねっ! 魔法なんて誰も使えないのよっ!」

私は心の中で爺に怒りをぶちまける


 「すまぬ……不意に矢に魔力を込めてってしまった……」

 「たかが火球ぐらいであんなに驚くとはな……」

 「まっ! 心配せずとも上手く誤魔化して後始末はしてある」

爺は自慢げに言う


 「周りの人たち凍り付いていたのに、どうして誰も何も私に言わないの?」

ずっと思っていた疑問を爺に問う


 「それはのあの場にいた者、全員の記憶をすり替えたのじゃよ」

 「人と言うのはの目の前で信じられない事が起きると無意識にそれを否定しようとする心理が働くのじゃ」

 「その一瞬に受け入れやすい別の出来事にすり替える術じゃよ」

 「要するに思い違いや勘違いをさせたのじゃ、人体には全く影響は無いし時が経てば自然と忘却してしまう安全な術じゃよ」


 (手品で言うイリュ-ジョンのような術である、そして爺の言う通り本当に休み明けには皆が忘れ去っていた……)

 機嫌よく爺が得意なウンチク話をしていると……後ろから声がしてくる。


 「マノンっ! マノンっ!!」

後ろを振り向くと同じ村の幼馴染の"レナ・リシャール"だった

身の丈は164cmぐらいで少し肉付きはいいが、明るい金髪の長い髪に大きな胸、奇麗な声に白い肌、目鼻立ちの整った美人さん……いつ見ても羨ましい限り……

 お願いっ……"その胸のお肉少しだけでいいから分けてっ!!!"


 などと考えながらレナに見とれている私に

「もうっ! マノンたらっ私が声かけても何かブツブツ独り言を言ってるんだから」

「マノン……何か最近変だよ……」

「今もそうだったけど最近、独り言よく言ってるし……」

「それに……今日の弓術の時だって……」

レナは私を心配そうな目て見ている


 「えっ……弓術の時って……」

私は焦りを隠せない


 「いきなり、弓術の的に飛び蹴りしたり……」

 「何かあるのなら私に相談してよ……」

レナは本当に心配そうな目で私を見ている


 「はへっ?」

 「飛び蹴りって……弓術の的に私が……」

私はレナの意外な言葉に瞬時に凍り付いてしまう


 「私っ! 本当にマノンのこと心配してるんだよっ! 」 

 「今日は家の手伝いがあるから急いで帰らないといけないけど」

 「私に出来ることなら何でも相談にのるからねっ!!」

そう言うとレナは少し速足で去っていった……


 走り去るレナの後姿を見送りながら……そうか、今日は月末週の金曜日だからレナは店の手伝いの日だったな……

 レナの実家は村に唯一、一軒のパン屋さん兼製粉所だ

月末週の土日は安息日で休日だから金曜の夕方に村の人は2日分のパンを買いに来る、少しでもいい状態でパンを長持ちさせるために夕刻に2日分のパンが焼きあげる……

 学校は秋の安息日の特別祝日となり月曜と火曜日が休みになるので四連休になる

 私の家も妹の"イネス"が買いに行っている頃かな……などと考えていらたハッとレナの言葉が脳裏に蘇る


 「 そうだっ! 爺っ!!! 飛び蹴りってどういうことなのっ!!!」

私はレナの言った事が全く理解できずに爺に問いただすと


 「どういう事も何もレナちゃんの言った通りじゃよ」

 「お前さんが弓術の的に飛び蹴りした記憶にすりかえたのじゃ」

 「うんうんっ 術は上手く発動したようじゃな」

爺は満足そうに言う


 「何よそれっ! 気でも違ったのかって思われるじゃないのっ!」

 「それでなくても、最近アンタのせいで独り言ばかり言ってるって思われてるんだよ」

私は次第に泣きそうにな気持ちになってくる


 「まあそう言うな……」

 「人の噂も何とやらとか……言うじゃろ」

 「こんな些細な事なんぞすぐに忘れてしまう、そう言う術じゃよ」

爺の他人事のようなもの言いに少しムカついたが仕方がないのでそれ以上この話はしなかった。


そうして歩いていると自宅が見えてくる、大きな藤で編んだパン籠に長いバケット(パン)を何本も入れて苦しそうにヨチヨチ歩きしている妹のイネスが見えた。


 「イネスっ~」

私が大きな声で呼ぶとこっちを見ている、私は小走りでイネスの方に走っていくと

 「籠持つね」

と言ってバケットの詰まったパン籠を軽々と持つとイネスは少し感激したかのような素振りをする


 「お姉ちゃん、ありがとう」

 「凄く男前だよっ!」

と冗談交じりに言う

 妹のイネスは3歳年下で私とは全くの反対のような子……村の初等学校(教会が学校の役目を果たしている)に通う背は低く155㎝程、長く艶やかな黒髪に小鳥のさえずるような声で気立てもよく手先が器用で家事も得意な女子力の高い妹……だが……残念なことに胸は無い……。


一緒に石造りで壁に蔦のかかっているかなり年季の入った家に入ると居間兼台所で母親のセリアが夕飯の支度をしている、羊肉の焼ける匂いと香草のス-プの匂いがしてくる。

 母のセリアは今年で35歳になる、恰幅の良い体格でイネスと同じぐらいの背丈に白髪交じりでやや短めの黒髪を仕事の邪魔にならないように束ねている(因みに胸は結構ある……)。

 何処にでもいるお母さんと言った感じの人。


 「イネスお帰り、あら……マノンも一緒なのかい」

そう言うと木のテーブルにワインの入った小さなツボを置き私の持っている籠からバケットを2本取るとテーブルの上に置いた……私はパン籠を台所に持って行くと戸棚の中に入れる

 

 「お父さんは?」

とイネスが母のセリアに尋ねる


 「父さんはワイン蔵よ、明日は安息日だから村中の人が朝からワインを取りに来るからね」

 「マノン、いつものように明日はワインの詰め替えお願いね」

そう言いながらセリアはお皿に焼けた羊の肉を載せている


 ワイン蔵の大樽に貯蔵されているワインを村の人が持ってくるワイン壺に詰め替える仕事だ、ワインが5リットル以上は入った大きな陶器の壺は10㎏以上あり結構な力仕事なので母やイネスには厳しい……頼りにされているのは嬉しいが、何だか虚しさを感じる私だった。


 3人で食事の支度をし終える頃に父のアルフレッドが帰ってきた。

「遅くなって済まない……」

「大樽の一つが痛んでいたので応急処置していた……」

そう言ってテーブルに座ると

「エリクの兵役も今年で終わりだな……」

「先週、手紙が来ていたが元気でやっているようだ」

「ゲルマニアとの最前線のへベレスト要塞だからな……何事も無くてよかった」

そう言うと羊の肉に食らい付く

 

 父のアルフレッドは黒髪にがっしりとした体格で背丈は170㎝程で真面目な性格で職人気質な所がある無口な人。


 この国には成人した健康な男性は2年間の兵役義務がある。

 殆どの者は国民学校卒業と同時の15~16歳で兵役につく、ガリア王国は王国の北側にあり大陸を東西に縦断するへベレスト山脈を境に強大な軍事国家ゲルマニア帝国と国境を接しており幾度となくゲルマニア帝国の侵略を受けてきた過去がある。


 ゲルマニア帝国は皇帝マキシミリアン・フォン・ゲルマの治める帝政国家でヘベレスト山脈の北側に位置し、この大陸最大の軍事力を持つ軍事国家もである。

 更にその北側の極寒の地に"シラクニア王国"という都市国家が存在したが数年前にゲルマニア帝国により併合されている。


 ヘベレスト山脈の北側に広がるゲルマニア平原は寒冷な気候ゆえに農耕にはあまり向いていないが鉄、銅、金・銀などの地下鉱物資源に恵まれ古くから金属鉱工業が盛んである、特に銀の産出量は大陸全土の7割を占めそれを背景に強力な経済力を誇る。


 17年前のゲルマニア帝国の最後のガリア侵攻から新たな侵攻は無いが、へベレスト要塞はその防衛の最前線基地でゲルマニア帝国が侵攻してきた場合には一番初めに戦場となり激しい戦い場となる


 私には二つ年上の兄がいる、イネスと同じ黒髪で瘦せ型で背丈は父と同じぐらい温厚でとても優しい兄で幼い頃はよく遊んでもらっていた……いつの間にか私の方が大きくなっていたのだが……


 そう……私だけが髪の毛の色が違うし背丈も大きいのだ……少し前まで自分はこの家の子ではないのかとさえ思っていた時期があるが私が生まれる前に亡くなった祖父が私と同じようだったと聞き安心したのだった。


 食事を終えると母とイネスは後片付けを始める、私は炊事を免除されている……免除の理由は聞かないでほしい。


 竈に掛かった大鍋のお湯を桶に入れるとタオルと着替えを持って2階の自分の部屋に行く一般家庭に浴室と言う物が無い時代なのでこれで体を洗う……桶一杯のお湯で体を洗うなど信じられないようだが地球でも昔の船乗りが手桶一杯の水で頭と顔を洗い歯磨きまでしていたのだから慣れれば余裕なのである。


 腰紐を止めているピンを外すと綿布で出来た質素な貫頭衣を脱ぎ、ベッドの上に下履き脱ぎ捨て体を洗っていると……


 「いつ見ても見事なまでに真っ平じゃのう……」

爺が感心したかのように呟く声が聞こえる


 「うるさいわねっ! 」

 「誰も好きで真っ平なんじゃないわよっ!!」

私は隠すほどもない胸を手で隠す

 「こればかりはどうにもならないのよっ!」

 「アンタのヘッポコ魔法でもねっ!!!」

私が馬鹿にしたように言うと


 「ヘッポコ魔法とはなんじゃ!」

 「乳を大きくする秘薬ならあるぞっ!」

少しムキになった爺が口走る、私はその言葉を聞き逃さなかった


 「ほんとっ! 本当にそんな薬があるのっ!!」

 「お願いっ! 私に作ってっ!! お願いっ!!!」

無意識で私は丸裸で床に土下座していた……その時、ドアの開く音がする


 「どうしたのお姉ちゃん!」

 妹のイネスが2階から轟いてくる私の大声に何事かと心配して様子を見に来てくれたのだ

 「……何してるの素っ裸で床に這いつくばって……」

呆れたような目で私を見ている……


 「ちっ……ちっ、ちょっと腰紐のピン、落っことしちゃってね……」

私は丸裸で誰もいない壁に向かって土下座したままで苦しい言い訳をする


 「体……洗ってからにしなよ……風邪ひくよ……」

そう言い残すとドアを閉めた……どうやら、感極まった心の声は口からもダダ洩れだったようだ……今はそんな事はどうでもいい


 「本当なんでしょうねっ!! その秘薬ってのはっっっ!!」

 ただならぬ私の気迫と気配に流石の爺もタジろんでいる……


 「本当じゃ、嘘などつかぬ」

 「大なり小なり個人差はあるが実際に使って効果も確認済みじゃ」

爺は自信満々で言う


 「お願いっ! 作ってっ!! 何でも言う事聞くから!!!」

私の鬼気迫る必死に願いに爺も困惑し焦っている


 「わかった……わかった、作ってやる」

 「作ってやるから……すこし落ち着け」

爺は興奮し我を忘れそうになっている私を落ち着かせようとする


 「本当にっ本当だよね!!!」

  くどい程に念を押す私に爺は少しウザそうにしている


 「これでもれっきとした騎士じゃ、嘘など言わぬっ!」

 「お前こそ先程の言葉、忘れる出ないぞっ!!」

そう言い残すと気配が消え去った


 後でイネスが言うには、その夜は私の部屋から薄気味悪い笑い声が聞こえてきたそうだ……どうやら……私は寝ながら笑っていたようである……


 第一話 ~ 頭の中の魔法使い ~ 終わり

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ