56.最後の鬼札(ジョーカー)
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です。どうぞご覧になってください。
〇二本松妙子〇
「小兵衛や郊外まで呼び出して、すまんかったね。」代官の参議様が大名の小兵衛様に軽く挨拶する。ああ、そういう力関係なのですね。
「いえ、我らの為に最新兵器を輸送してくださいました。本家様、お手数をおかけします。」すっと頭を低く下げる小兵衛様。
「いやいや、中々に道中の輸送に難儀してな、われでないと無理であったわ。さて城下でこれ試射するわけにはいかんから、ここで見せてやろうぞ、このファランクスの威力を。」陣幕を張ってその中に私も入れられた。
「そこなる娘は? 」私を見る小兵衛様の眼差しが鋭い、当たり前ですよね。
「ああ、二本松妙子殿。二本松の姫よ。伊達の反最上同盟を断り、家が苦境に立たされているそうな。この書状を見てくれ。」そう言って私が持ってきた書状を小兵衛様に見せる。
「なるほど、同盟加入家を探ります。」
「よろしくな。お、準備が整ったようだ。小兵衛と姫よ付いて来てくれ。」頷いて、二人に続いた。
筒形と四角の鉄箱を組み合わせた。大きな鉄の塊の前に参議様が立っている。それを後ろから小兵衛様と私が見ている。
「これはリモコンと言ってな、あの砲を制御する。」そう言って小さな鉄の箱を両手で握られる参議様。その小さな箱と砲は紐のような物で繋がっている。
「あの2キロ先にある。あの厚さ20ミリの鉄板を撃つ。小兵衛見えるか?」目を細める小兵衛様。
「はい見えます。」2キロ? 20ミリ? 私は全然見えませんが、忍びの目って凄いのですね。
「姫は見えるかね? 」滋野様が机に鉄の管みたいな物を固定して、それを上から覗く。
「全然見えません。」
「はっはっは、正直でよろしい。われも肉眼では見えん。これ、二人に双眼鏡を。」
「はっ! 」双眼鏡と言う遠眼鏡を貰って覗く。あれですか・・一里はあります。あのような遠い所に、届くのでしょうか?
「曳光弾[※1]が先ず3発装填してある。それで着弾確認と修正を行う。小兵衛こっち来い。この操作は未だわれと海軍士官しか出来ない。お主が操作して山形を守れ。この照準器スコープを先ず覗け。」小兵衛様が机の管を覗く。
「はい。赤い十字と枠で囲まれております。」
「これは砲の標準器と合わせてある。赤い十字は着弾点、枠は着弾被害範囲だ。このパネルのここをな・・そうそう。親指で上下に・・・上手いなお前。発射ボタンはこれ。今は押すなよ。暫くパネルを上下左右に動かしてみろ。」砲の先端が「ウィィン。ウィン。」と小刻みに動く。
「よし、単発撃ってみようか。このパネルの単と連のスイッチを上に上げて、単は単発。連は連射だ。われが着弾観測をしてやる。発射ボタンを押せ。」砲の横の筒を覗き込む滋野様。
「ブッ!!! 」と砲から凄い音がして赤い光の筋が真っすぐに飛んで行く。
「左1メートルに着弾。気持ち右に着弾十字を移せ。合わせたら再度撃て。」
「ブッ!!! 」
「鉄板に着弾。スイッチを連に下げろ。1秒発射ボタンを押し続けろ。」
「ブウウウゥゥゥ!!!!」
「鉄板損壊。バラバラだ。人の体もこれが当たるとこうなる。」参議様が口角を上げて、とても嫌な笑みをする。パネルを持つ小兵衛様が震えている。しかし顔が笑っている。私も震えが止まらない。鉄の板が粉砕されるのが、双眼鏡越しに見えた。なんなのですか、この武器とこの人たち・・怖すぎる。
◇◇◇
山形城に到着して、私には天守閣の大きな個室が、宛がわれた。侍女が3人お付きになってくれている。真四角で巨大な天守閣。と壁で城周りを全て囲んでいる。城塞。私の常識は、ここでは通用しなさそうです。
「姫様。采と翠と彩でございます。身の周りと歓待のお世話をさせていただきます。」侍女3名が傅く。とても洗練されて、綺麗な所作と素敵な着こなし。二本松の侍女を思い出して心の中で溜息をする。
「よろしくお願いします。」
「姫のご希望を叶えよ。との殿(小兵衛)からのお達しです。何なりとお申し付けくださいませ。二刻(4時間)後。ラウンジにて、殿と参議卿の宴に参加されるまで、どうぞご自由に。」
「では、湯浴みをしたいです。」流石に3日体を洗っていない。これは宴に恥ずかしくて出れない。
「はい。」3名して笑顔で応えてくれた。
湯浴みの用意をして、部屋をでた。3名に案内されて、エレベーターホールなる扉の前に来た。彩が扉の横を押す。扉の横の丸い突起が光った。そして扉の上が光っている。その光が横に移動している。やがて「ポーン」と言う軽快な音と共に扉が開いた。中は明るいが、厠のような密閉された空間である。私がたじろいていると。
「姫様さあどうぞ。」と翠が乗るように勧める。中に入ると、扉が閉まった。そして、何かに上に持ち上げられるような、違和感を感じる。また「ポーン」と言う音がして扉が開く。そこから降りて絶句した。先ほどの階とは中の風景が、違う。
「こ・・これは。」何の妖術でしょうか?
「ですよね、姫様。私も初めてあれに乗った時は、ちょうど姫様のように絶句しました。あれはエレベーターと申しまして、上下に階を移動する。唐栗の箱です。」と采が話してくれました。信じられません。
「滋野卿様と総奉行の茂助様が、滋野家の技術の粋を集めて、作られた最新装置です。姫様は参議様が輸送されてきた。最新武器を見られたとか、羨ましいです。」彩が憧れの眼差しで私を見る。確かにあの砲を見たら、何があっても納得してしまう。
「そう言えば、参議様が小兵衛様にあれの操作方法を教えておられましたよ。あの威力には、正直肝を潰してしまいました。」正直な感想を述べてみました。
「キャー、参議様が殿様を手取り足取りですって、采、翠聞きまして? 」彩が気色ばんだ顔を2人に向ける。
「やはり殿様が御本家様を見る時の眼差しが、他の方を見る時とは違います。不遜ですが、私はあのお二人は衆道[※2]のお仲ではないかと思いまして。」手を組んでうっとりと虚空を見つめる翠。
「なんという不遜な、そして尊いことですわ。」涙を流して、祈る仕草をする采。この子たちは・・・。
「そう思いませんか? 姫様。」3人して私に問いかけてくる。
「さあ、私はまだ知ってから間がありませんし。」滋野卿が女性なこと、口が裂けても言えないです。絶対何処かで、滋野卿の手の者が聞き耳を立てています。
そうこうしている間に赤い大きな暖簾が下がった入り口が見えてきた。暖簾には大きく「女」と書かれてある。
「到着しました。姫様ここが山形城自慢の展望風呂です。」彩に先導されて、暖簾をくぐる。中には無数の鉄の箱が並び、かごもたくさん置かれてあった。
「ここで湯浴み着に着替えます。浴室の入り口の上をご覧くださいませ。」そこには木の板に「風呂では身分の上下無用」と書かれてあった。
「と言う事で、私たちも一緒にお湯を使わせてもらいます。」さっと湯浴み着に着替える3名。早いです。采に着替えを手伝ってもらいました。残りの2人は「風呂番」と言う中年の女性から色々な入浴道具を受け取っています。
「おばちゃん今夜皆に御馳走とお酒が、振舞われるってさ、楽しみだね。」気さくに風呂番と話をする采。地が出てますよ采。
浴室に入ってからは圧巻でした。まとめて50人は入れるのではないかと思う、巨大風呂。そして眼下に見える城下の景色と遥か彼方に見える山々の景色。「シャワー」と言う押すだけでお湯が勢いよく、夕立の如くに出てくる器具。そしてリンスインシャンプーなる髪を洗う油。彩が私の髪を解いて、丁寧にシャンプーで洗ってくれます。とても良い香りがして、気持ちいいです。
「姫様。今日は天気がよいので、月山が良く見えますね。もうひとつの頂が葉山です。」翠が手で示しながら教えてくれる。世の中にはこのような贅沢があるのですね。この最上の軍事力と政治力と経済力が我が家に味方くだされば、二本松は救われます。
◇◇◇
「楽しんでおるかね? 姫。」小兵衛様に宴の席にて、お声をかけていただいた。
「はい。滋野家の力と技術の粋を見せて頂きました。」そう返事したところ少し驚いた顔をされた。
「ふむ。今、裏を探らせておる。概ね二本松殿は信用に足る方のようですな。本家様の気分次第で、貴家の運命は決まる。本家様に気に入られる秘訣は。」ゴクリと私の喉が鳴ります。
「何事も正直に話されよ。あの方は一瞬で嘘を見抜かれる。かく言うおれも、本家様に気に入られて、この地位におる。最上の影の支配者と思われよ。では武運を祈る。」フッと良い笑顔をされて他の席へ向かう小兵衛様。
「御助言感謝します。」小兵衛様に頭を下げる。そうでした。これは家の存続を賭けた戦です。お父上、お母上、妙子は頑張ります。
「ほうほう。姫よ、場馴れされているのか。気負いしない、その姿勢評価する。何、失禁されたのは、われと弥太郎と姫の秘密よ。」あっ滋野卿が突然横に、その卿の耳打ちに顔が熱くなる。
「オホホホホ。滋野卿よ麿にもその姫を紹介してたもれ。」凄い貴族然とした方が、滋野卿に話しかける。
「この娘御殿は隣国の隣国。二本松家の姫にて。」
「ほう、左様ですか、麿は滋野井と申す。良しなにな。」滋野井大納言卿!
「大納言卿におかれましては、ご機嫌麗しゅう、恐悦至極に存じます。」緊張して何を言ってるのかよく分からない。
「ほうほう、感心感心、お若い姫殿ですが、賢いですな。昔の誰かを思い出します。」笑いながら大納言卿が、他の席へ行かれた。凄い面々です。心の臓が、激しく動悸して息が止まりそうです。
「姫よ、大事な話がある。一刻(2時間)後ここの3階のわれの部屋においでなされ。」
「はい、滋野卿様。」
バッフェスタイルという形式にて。好きな飲食物を選んで自分で装っています。あまりにも珍しい食べ物ばかりで、目移りしてしまいます。ああ、全部美味しいです。
◇◇◇
「さて、妙子殿。この書状をな、御父君に届けられよ。」卿から書状を受け取る。宴の後に滋野様のお部屋へお邪魔した。
「内容は、滋野家に仕える気があるならば、家臣と一族ごと面倒を見る。伊達家への侵攻は、5年後以降になる。と言う内容でな。二本松の領地はここから離れ過ぎておる。領地を捨ててわれに仕えるならば、一軍を任せるつもりよ。」そう言われて、伊達の米沢を含む岩代国の地図を見せてくださいました。確かに山形から二本松は離れております。
「ありがとうございます。届けて説得してみます。」
「ふむふむ。余計なことを聞かないお主の賢さに感銘を受けた。ひとつ良いことを教える。なぜ酒田と酒田周辺に1万石しか所領が無いわれが、力を持っているか。知りたいかえ? 」それは知りたい。代官に頭を下げる大名など聞いた事がありません。
「お願いします。」
「うむ。実はな、われは羽前国(山形)、羽後国(秋田)の商売の利権をほとんど握っている。それに越後国(新潟)と陸奥国(福島、宮城、岩手、青森)の経済を密かに鐙屋と信濃屋と桔梗屋と組んで、浸食しているのだよ。その年間の収入は、石高に換算すると150万石を軽く超えている。そういう事だ。領地など面倒くさい物は、実はいらぬのだよ。知らぬは大名ばかりけりでな、はっはっは。」衝撃であった。所領を面倒くさい物と切り捨てる実力者。そして他国まで経済で侵略している。その事実に。
「とても大切なことを聞かせていただきました。新しい戦争ですね。恐ろしいです。無論今のお話は、父にも母にもしません。」とても驚かれた顔をされる滋野様。ふふふ、この方でもこんな顔をされるのですね。
「くっくっく、そうかそうかえ、こんなところに、われの求める。最後の鬼札があったか。妙子殿よ。われの養女になれ。そうだな5万石相当の給金と、二本松家に相当額の支度金を払う。経済侵略の指揮官になってもらおう。楽しいぞ、米の価格を自在に操り、敵対した大名に荷止めをして、悲鳴を上げさせるのは。」ああああ、とても楽しそう。
「僅か8歳の私でよろしいのですか? 」
「ははは。われの歳は7歳だ。お主より年下だな。」これには私が面食らって絶句した。どう若くみても15歳にしか見えない。身の丈が5尺(約150センチ)はある。
「歳は気にするな、要は頭だよ。経済の全てを仕込んでやる。」コツンコツンと自らの頭を指先で突つかれる。嬉しい、私をここまで買ってくださるお方が、今ここにいる。
「やれることからやります。どうぞ厳しくお願いします。お義父様。」
「分かった。短い人の生を楽しませてやる。後悔はさせない。」この日から私の人生は、別物になりました。
※1 曳光弾 発光体を内蔵した特殊な弾丸。 射撃後、飛んでいく間に発光することで軌跡がわかるようになっている。
※2 衆道 日本における男性の男色の中で、武士同士のものをいう。若衆道の略である。
小説宣伝の動画を作成しました。義守、定道、善盛が見れます。URLは。
https://youtu.be/WHfVYpVJ40k
若しくは「みたらし丹後」でyoutubeで検索していただくとヒットします。
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次回投稿は05/07の予定です。




