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鮭様大好き♡秀吉絶対ぶっ潰す!  作者: みたらし丹後
最上家細うで繫盛記
39/66

38.歴史のバタフライ効果

〇大崎重雄〇

 今、氏家茂助と山形の殿より、借り受けた。田島泰時(たじまやすとき)に簡単な化学、物理学の本と小学校の教科書を楓の完全記憶でコピーした冊子を読ませている。水鳥の羽に墨汁を染み込ませて、和紙に書き込んでみた。いわゆる羽ペンである。

 「あの? 殿様。こな(これ)なんだす? 」茂助が訊ねてくる。

 「ああ。国か、くにと読む。」旧字体は國だものな。しかしこの二人、異常に飲み込みが早い。アラビア数字とアルファベットを半日で理解して、どんどん読解している。楷書体(かいしょたい)[※1]も直ぐに慣れた。ある意味天才である。算数と理科と図画工作には二人共に興味を示して、喜々として吸収している。そろそろ中学の教科書作るか。楓。やってみてくれ、プリントアウト。


 『はいよ・・・出力します。』羽ペンを持って文字を書くではなく、ドットマトリクス[※2]出力である。点と線で上から書いていく。白黒ながら図形や写真まで再現している。正に人間プリンターコピー機である。しかも恐ろしく早い。

 お前凄いな。


 『話しかけちゃダメ。エラーでる。』


 はいはい。

 プリンター機械(PC)そのものでした。


◇◇◇


 『終わったよ』中一の理科が二時間で出来た。


 手首と指の動きがやばいな。腱鞘炎(けんしょうえん)になるぞ。

 『ならないよ。よも姉ちゃんの加護あるし。』親指を握り込み左右へ手首を捻ってみた(フィンケルシュタインテスト)。


 陰性だ。痛くない。


 「茂助様万有引力をなんで、我らは気が付かなったのでしょうかね。」凄い話題を話してる。


 「ニュートン先生が天才とそう(言う)こどだず。この世界が丸こいのも、お月様やお天道様見れば分かるだず。」先行して分かりやすい物理学。化学。天文学を見せたせいか。


 「さて、二人よ。炭は炭素であるな。」


 「はい元素記号はCです。」


 「そうだ。西より大量の竹を買い入れた。茂助はそれを蒸し焼きにして活性炭(かっせいたん)を作れ。作り方はこの書を参考にしてな、炭焼き職人を用意した。創意工夫せよ。」


 「承知。」


 「泰時(やすとき)は竹と革を使って。このガスマスクを作ってもらいたい。木工職人と革職人を用意した。密封が肝要(かんよう)である。ここの断面図(だんめんず)の通りに試してみよ。」


 「はっ! 」


◇◇◇


 喜々として取り組んでおる。灰吹は意外と早く始められるかもな。精製職人は鉛中毒で直ぐ死ぬ。それが灰吹法の広がるネックとなっていたとワシは見ている。


 さて鐙屋に行くか。楓。歩きながら話そう。


 『なんだい爺さん。』


 バタフライ効果って知ってるか?


『たしか蝶のはばたきが、隣の大陸で、暴風雨になるって話だったかな。』


 まあそんな感じだ。あれは力学のカオス理論で扱うカオス運動の予測困難性(よそくこんなんせい)のうんたらなんじゃが。ワシは歴史に於いてもバタフライ効果が起こると考えておる。


 『つまり歴史が変わるって事? 』


 お前、頭いいな。つまり大宝寺が本来滅びるのは、1591年なのだ。今は1536年。実に55年早く滅びた。それはワシらが歴史を変えたのだ。それが、これからどの様に歴史に干渉するか全く予想できん。正にカオス理論の予測困難性(よそくこんなんせい)じゃな。


 『それってこれから、歴史通りにいかないかもってこと? 』


 そうじゃ。タイムパラドックス[※3]も絡んでくるが、ワシはパラレルワールド[※4]が形成されたと(にら)んでいる。つまりIFの分岐世界じゃ。


 『つまり過去の親殺しも可能だと。』


 もし歴史の修正力があるなら、ワシらは消滅するか、元々この時代に転生すらしなかったと思う。つまり今後の歴史は大いに変わるはず。ワシらの歴史の記憶はあてにならんのよ。次の神域行きが楽しみじゃ。歴史書の内容が変化してるかもな。


 『なるほどやっぱ爺さん教授みたいだね。』


 ワシらの行動指針はなんら変わらん。技術革新と、人材育成、産業革命、経済と流通と軍事を握って、一気に日本を飲み込む。


 『わかったよ。』


 とりあえず。伊達の変化には、要注意だな。

 脳内会議は終わった。ちょうど鐙屋に着いた。


〇鐙屋孫四郎〇

 「信濃屋ですか。」滋野様より新しく店を作らないか、とのお話がありました。


 「そうだ。鐙屋殿の店はやることが、全て目立つ。これからやる事は猶更(なおさら)目立つ。将来店の売り上げの核心になる事業を専門分野に分けて分割して、始めるのだよ。それを鐙屋が統括して、総合商社となるのだ。子供のおもちゃから最新の武器まで、鐙屋がなければ、どうしようもないように、市場を独占するのだ。」総合商社。市場を独占。ああなんて甘美な言葉でしょう。


 「なるほど。事業ごとにいろいろ試行錯誤して、上手くいかなければ、即撤収。上手くいったら本格的に展開するという。小回りが利く店ですね。」


 「そうだ。流石だな、よく分かっておる。先ずは、五百貫づつ計一千貫(約1億5千万)で新事業を始めるとしよう。」

 「最初の事業は、澄酒(すみさけ)醤油(しょうゆ)と便所の周りと馬小屋の土集めだな。」酒と(ひしお)は分かりますが、土集めはよくわかりませんね。まあこの方のやることには、金の匂いがぷんぷんします。


 「(うけたまわり)りました。使える番頭さんと手代二名を担当にあてましょう」


 「宜しく頼む。造り酒屋の杜氏(とうじ)を一人用意してくれ。」


 「直ちに。」


 「いやいや、傾いている。造り酒屋を買い取るか。それが一番早く、儲かる。」滋野様が、凄い悪い顔をされている。


 

 「孫四郎めにお任せを。」


◇◇◇


 「大番頭さん。貸付台帳(かしつけだいちょう)を持ってきておくれ。」滋野様が、お帰りになったので、早速思い当たる酒屋の貸付台帳を見るとしましょう。


 「はい。旦那様。」宗衛門(そうえもん)が持ってきた台帳を開く。えーと・・・。これです。桔梗屋利兵衛(ききょうやりへえ)に三百貫文と・・。利息と合わせて四百五十貫文(約6750万円)になってますね。

 「宗衛門。桔梗屋さんの近況を教えておくれ。」


 「はい、桔梗屋さんは、今まで堅実に造り酒屋を営んでおりましたが、四年前に主の利兵衛さんが、労咳(ろうがい)[※5]を(わず)らいまして、娘の弥生(やよい)さんが、なんとか立て直そうとしてますが、身代が傾いて、うちからも借銭をしましたね。」


「流石ですね。大番頭さん。」私が上機嫌で誉めると、宗衛門は嬉しそうに頷く。


 「他からも借銭してるのかね? 」


 「はい。恐らく他に二百貫文ほど。内情は火の車ですよ。」なるほど。滋野様の御希望通りですね。


 「宗衛門一緒に出掛けますよ。台帳と借用書を忘れずにね。」


 「はい、旦那様。」


◇◇◇


 宗衛門と桔梗屋さんに来ている。家人に活気がない。娘の弥生(やよい)さんが応対してくれた。


 「鐙屋様。ようこそいらっしゃいました。へ・・返済のお話でしたら、今少しお待ちしていただきたく。」弥生さんが平伏する。なるほど。


 「良いですよ。では利息分の百五十貫文(約2250万円)を返しておくれ。私も出向いたからには、手ぶらでは帰れないのだよ。」青ざめる弥生さん


 「間もなくもろみ造りが終わります。今少し、今少しの御猶予(ごゆうよ)を。」平伏しながら、懇願(こんがん)する弥生さん。この娘さん中々の器量(きりょう)持ちですよね。いっそのこと私の・・・。いやいやいや、仕事しましょう。


 「困りましたね、大番頭さん。ああそうです。近日中にある高貴な方をお連れします。その方に酒蔵(さかぐら)を見せてあげてくれないかえ。それでしたら、返済は待ちますよ。」


 「はい、喜んでお見せします。」上出来ですね。


◇◇◇


 二日経ちました。滋野様とかなりの大柄な御侍様。どちらも頭巾をされております。それと小柄ながら大変良い服装をされている御侍様。それに小兵衛様に武藤様。そうそうたる面々です。

 「桔梗屋。ワシは氏家家納戸役の武藤じゃ。良しなにな。」


 「ははーっ!!ありがたき、ご来店。主利兵衛(あるじりへえ)に代わり御礼申し上げます。」弥生さんと家人が、酒蔵で土下座である。まあそうなるな。滋野様と大柄の頭巾組と小兵衛様は奥で黙っている。


 「うむうむ。ではな早速もろみを見せてくれ。」


 「はっ! 」杜氏(とじ)柄杓(ひしゃく)で樽からもろみを(すく)う。その柄杓(ひしゃく)を武藤様へ渡す。

 武藤様は先ず匂いを嗅ぎ、柄杓に指を入れ、舐める。


 「良き(かおり)と味にて。」武藤様が頭巾二人組を向いて話す。


 「そうか。」大柄の頭巾様が、頭巾を外す。!!!。氏家の殿様であったか!


 「定道じゃ。本日はおしのびよ。がはははは。」


 「ははーっ!! 」私も土下座である。


 「やっ! おしのびと申しておる。面を上げ立て、服が汚れるぞ。」気さくな殿様だ。皆恐る恐る立ち上がる。弥生さんが顔面蒼白(がんめんそうはく)だ。小兵衛様が床几(しょうぎ)を二つ広げる。

 

 「どうぞ。」


 「うむ。」定道様と滋野様が座る。一万石の小名様が、床几(しょうぎ)を広げて、五千石の滋野様が座る。そういう力関係なのですね。


 「さて、桔梗屋とここにおる者たちよ。領主の定道よりの願いぞ。これから起こる事、他言無用よ。あくまでも願いよ。破っても一向に構わん。ただな・・ワシは願いなのだが、ここにおる。家老の小兵衛が、融通の利かぬ者でな、ワシは無残な者を見とうない・・・・。察してくれ、皆よ。」小兵衛様が凄い形相(ぎょうそう)で殺気を振りまく。


 「ははーっ!!」これは漏らせません。私も命が惜しい。


 「よいぞよいぞ、さて桔梗屋よ。」


 「は・・・はい! 」弥生さん気丈に返答する。


 「その樽一つ分の酒は、いくらになるな? 」


 「百斗樽(約1500kg)ですと卸し値は四十貫文(約600万円)です。」


 「あい分かった。これ。」小姓達ががつづらを三つ持ってくる。


 「銭百貫文でワシが買う。文句あるまいよ。家人に賃金を払ってやれ。」


 「は? ・・ははーっ! 」泣いてます。弥生さんよかったですね。


 「さてさて息子殿。」あっ! 氏家茂助様でしたか、初見(しょけん)でした。


 「はい父上。杜氏(とじ)の皆さん。すけろ(手伝って)。」


 「ははっ! 」


 その後、空の樽の上に丸太を載せて、木綿(もめん)の袋をその丸太にぶら下げる[※6]。全ての袋にもろみを入れた。

 

 「んだ、これで、明日さ完成だず。」


 「息子ご苦労。桔梗屋よ。酒蔵を一日貸してくれ。」


 「ははっ。」弥生さん美人ですね、ほんとうに。


◇◇◇


 「こ! これは! なんとまあ。ううむ、ううむ。」杜氏たちと武藤様が唸っている。


 「がははははは!!! 旨い! ゴクゴクゴク!」殿様が凄い勢いで飲まれている。


 「なんという。なんという旨味。鼻を抜ける香りがたまりません。水のように澄んでいます。」大番頭がしみじみ味わっている。


 「皆の衆。これが澄酒(すみさけ)よ! 恐れいったか! ほれ助左衛門殿一献一献! うぐうぐんぐ・・かあぁぁ!! 旨い! 」滋野様頭巾外して、童子が飲んじゃだめ!


 「やっ! 一献叶いましたな。この助左、助左は感涙ですぞお! うおおおおお!!! 」殿様が泣き出した。


「や・・弥生さん。おらのお嫁さなってけろ。ぐびぐびぐび。」茂助様どさくさに紛れちゃだめですよ。


 「あら、あたしは年増[※7]ですよ。こんなあたくしで良いのですか? 若様。ごくりごくり。」な・・なんですとー!!


 ・・・・もう面倒くさいです。私も飲み潰れますか・・・くっくっくっ・・これは売れますよ。


※1 楷書体 印刷書体として使われ、清朝初期の木版印刷に使われた軟体(なんたい)楷書体・清朝体などと呼ばれる書体をもとにしている。

※2 ドットマトリクス ドットの2次元配列によるパターンであり、文字・記号・画像を表現するのに使われる。携帯電話、テレビ、プリンターなど、現代の情報表示技術のほとんどがドットマトリクスを使っている。

※3 タイムパラドックス タイムトラベルに伴う矛盾や変化のことである。

※4 パラレルワールド ある世界(時空)から分岐し、それに並行して存在する別の世界(時空)を指す。並行世界、並行宇宙、並行時空とも言われている。

※5 労咳 肺結核のこと。

※6 もろみ吊るし搾りという清酒の精製方法の一つ。

※7 年増 室町時代の女性の婚期は14~21歳。それ以上は年増と呼ばれた。


桔梗屋利兵衛さんと弥生さんはアニメ「一休さん」のオマージュです。


小兵衛さんが下戸かって? プロなあの方は、殿と本家様の警護に徹していましたとさ。



次回投稿は03/30の予定です。

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