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鮭様大好き♡秀吉絶対ぶっ潰す!  作者: みたらし丹後
最上家細うで繫盛記
25/66

24.羽黒衆その2

少し長めです。

〇大崎重雄〇

 定道殿が、我が配下となった2日後。

 早速羽黒衆の本拠地である。出羽三山の羽黒山へ向かうことになった。今回は羽黒衆への繋ぎと。可能であれば、手練れを二名。氏家家で迎えることを目的として、ワシと定道殿。そして用人の岡田弥太郎の三名で、向かうことになった。

 当然。楓の父御の定直殿は。反対した。五つの子には、危険であるとの判断によるものである。

 

 羽黒衆も剣呑(けんのん)だか、羽黒山までの道程は、寒河江(さがえ)家そして羽黒山を含む庄内は、大宝寺(だいほうじ)家が支配している。これは剣呑(けんのん)どころではなく。はっきり危険であると。

 

「どうですかな? この杖は? 」

 渡した杖をぶんぶんと振るっている。定道殿に聞いてみた。


「や! これは素晴らしい。見た目はただの竹杖。しかし重い。鉄芯(てつしん)でも仕込んであるのですか? 」

 興味深げに杖を見つめる。定道殿。


「流石ですな。この杖は柳生杖(やぎゅうつえ)という仕込み杖です。割竹(わりたけ)の中に鉄芯(てつしん)を挟み麻糸でぐるぐる巻きに巻いて。(うるし)で固めます。今回は乾かす期間が短いので、ニカワも混ぜて、かまどの上に吊るして乾かしてみました。」

「定道殿。そこに思いっきり打ち込んでみてくだされ。」

 中庭の御影石(みかげいし)灯篭(とうろう)を指さす。


「はっ! 」定道殿は上段に杖を構えて、「えいや! 」と振り下ろす。

「ガキン!!」と高い金属音と共に斜め上から、縦に割れる灯篭(とうろう)

 振り下ろした定道殿本人も含む。定直殿。岡田弥太郎の3名がその威力に驚く。


「いやはや。御見それしました。これならば刀に負けぬ。兜の上から頭を潰せます。」

 関心しながら。杖を構える定道殿。


 茂助に柳生杖の仕組みと作成方法を教えると。喜々として材料と道具を揃えて。二本を直ぐに作ってくれた。


「姫。いや滋野様。柳生とは西の大和の柳生の庄の柳生家ですか? 」

 岡田弥太郎には正体を教えた。定直殿から弥太郎の父の代から。氏家家の(ろく)()んでいる。個人としても信用できる。とのお墨付きをもらったからだ。


「左様。ただし今から約120年の後に。柳生家人が発明するものだがね。」

 右目を指さしながら。そう答える。


 三人とも120年後の言葉に驚いたが、ワシの右目を指さす動作を見て。一応納得する。


「今回は、商人を装って、武器はその柳生杖。山形の商家の隠居とその手代と孫が、羽黒山の五重の塔を(もう)でる。・・・これで行きましょう。定道殿はちりめん問屋のご隠居の光右衛門(みつえもん)で。弥太郎は手代の角兵衛(かくべえ)で。われは光右衛門の孫のお(ぎん)。各自役目を覚えてください。」


「承知しました。」


「後は定直殿が、奉行に働きかけて。通行証を発行してもらえれば。誰も疑いますまい。」

「定直殿。護衛の手配を急ぐのもそうですが。楓殿のもう一つの能力は、戦場や現場で、目にしたものの弱点を見抜く能力。兵家(へいけ)(まなこ)です。いずれ屈服させねばならぬ。寒河江(さがえ)家と大宝寺(だいほうじ)家の弱みをこの眼で見定めて参ります。」

「何。定道殿が、羽黒衆に(えにし)があるとのこと。先行していただき、あなたの娘は危険に(さら)しません。」

「われもまだ死にたくないのでな。」


「・・・あい分かりました。滋野様。叔父上。弥太郎。娘のことよろしくお願いいたす。」

 定直殿が深々と頭を下げた。



◇◇◇



〇羽黒の小兵衛〇

 おれは羽黒の御山に近い。里の一つを任されとる。

 謀略と諜報と暗殺を一心不乱に。必死になって成しているうち。いつの間にか頭目(とうもく)となっておった。

 人はおれを「人切り小兵衛」とか「羅刹(らせつ)の小兵衛」とか(おそ)(さけす)むが、やるべきことをただ成してきただけだ。

 実のところ。我ながら今まで、よく生き残ってこれたものよ。と昨今しみじみと思う。

 跡継ぎの大五郎は、幸いにして、術に()け。人望も厚い。次第の頭目(とうもく)と、皆より(もく)されておる。

 (せん)だって孫も誕生し。おれの家は順風満帆(じゅんぷうまんぱん)だ。

 しかし、里は(いま)だに貧しく。何かと無理難題を押し付けてくる。大宝寺様には、頭を悩ませている。

 おれも今年で50。敦盛(あつもり)(いわ)く、(さと)らねばならぬ歳を迎える。

 配下もおれを(おそ)(うやま)う。

 だが、大した者では、ないのだよ。

 20年前に失った。左腕先を眺めながら、思いふける。


「お頭。」

 小頭(こがしら)喜助(きすけ)が、障子の向こうの土間から、語り掛けてくる。


喜助(きすけ)どうした? 」

 小頭(こがしら)のいつもとは違う気配に気づく。昼過ぎの時刻、外は春の穏やかな陽気だ。


「庄屋の弥平(やへい)様が。」


「うん。清川(きよかわ)齋藤弥平(さいとうやへい)様がどうした? 」


「近隣に通達をなされました。内容は、[炊き出しをやるので、孤児と家を焼きだされた者を集めよ。]との事です。」


「なんとな。齋藤様は決して無碍(むげ)な事はなさらない方だが。(にわ)かには信じられん。この辺りの孤児の数をご存知なのかな? 」

 報告の内容に興味を持ち。前のめりに小頭に訊ねる。


「はい既に蔵を開き。米俵(こめだわら)を何十と用意された模様。炊き出しの村人を(つど)っております。」

 里と清川は二里(約8km)離れていない。正に指呼(しこ)(かん)である。


「ふーむ・・・。!!!」

「いかん! いかんぞ! これはいかん! 一大事になる!!」

 慌てふためく、おれを見て喜助(きすけ)が不思議な顔をして、首を(かし)げた。



◇◇◇



〇氏家定道〇

 羽黒山への旅は、順当(じゅんとう)に進んだ。

 危惧した寒河江(さがえ)と庄内の関(関所)は。最上家の身分証と通行手形(つうこうてがた)が功を()し。疑われる事無く。無事に通過できた。ただ庄内の関の役人が、露骨に(まいな)いを要求してきたのには、辟易(へきえき)としたが。

 滋野様は時々楓と変わりながら。ワシと弥太郎に交代に背負われて。ニコニコとご機嫌で、物見遊山(ものみゆさん)であった。ただ寒河江(さがえ)の関を超えた辺りから。しきりに「田畑が荒れている。」「領民が痩せ細っている。」と見た事を(つぶや)き始められた。

 道程は順調に進み。庄内の関まで、五日の予定であったが、三日目の朝には、到着した。


「いや。順当でしたな。」

 山形の商人の伝手(つて)で。豪庄屋(ごうしょうや)齋藤家(さいとうけ)に世話になることに。一旦落ち着き。滋野様に語り掛ける。


「そうだな。さてこれよりわれは、(ぎん)ですよ。おじい様。」

 ニコニコしながら、ワシを祖父と呼んでくれる。楓の滋野様。


「あ・・ああ・・そうだな。お・・お(ぎん)よ。」

 つい嬉しくて、(ほう)けてしもうた。

 それを見て「クスクスクス」と忍び笑いする。弥太郎。


角兵衛(かくべえ)も頼みますよ。」

 滋野様から、迫力のある笑みを向けられて。弥太郎の顔がこわ張る。


「はい。お嬢様。」


「角兵衛は上手よねえ。重畳(ちょうじょう)ですよ。さて

光右衛門(みつえもん)おじい様。庄屋様宅に入り、ご挨拶しましょうか。しかし大きな家ですこと。」


確かにでかい。流石 庄内(しょうない)一と呼ばれた。豪農宅だ。蔵が六つもある。そして、滋野様は役に入りきっておる。


「そうだな。お銀。慣れぬ長旅。疲れたであろうよ。」

 ワシも役になりきる事にした。


 庄屋宅に入り。紹介状を渡した。家人は丁寧にもてなしてくれ。湯でワシらの脚を洗ってくれた。

 ふむ。家人の教育が行き届いておる。(あるじ)齋藤弥平(さいとうやへい)なる人物は中々のようだ。

 畳みの部屋をあてがわれ。茶を振舞ってもらい部屋で一息ついた。

 先ほどから。悪い笑みが、(まなこ)を更に見開き。怖い笑みへと滋野様が変貌(へんぼう)した。

 弥太郎が、その毒気(どくけ)に当てられ。顔色を土気色に。青ざめておる。


「これ角兵衛(かくべえ)しっかりせんか。目録位(もくろくい)が泣くぞ。」

 先ほどの笑いのお返しをするが。


「はあ。申し訳ございません。大旦那様。」

 いまいち元気がない。しかし役は忘れない。賢い若衆よ。


滋野様の顔より笑みが消えた。手で口前に「静かに。」と合図される。


 奥の襖がすっと開き。40(がら)みの割腹(かっぷく)の良い男が入ってくる。


「これはこれは。越後屋(えちごや)ご隠居殿。お初にお目にかかります。(あるじ)弥平(やへい)でございます。ご紹介拝見しました。戸田(とだ)屋さんとは、長いお付き合いをさせていただいております。羽黒の塔に(もう)でられるとか。どうぞ我が家と思ってごゆっくりなさって下さいませ。」

 丁寧なあいさつである。


「やっ! これは。ご丁寧に恐れ入ります。齋藤様。お世話にあいなりまする。」

 手をついて礼を述べる。


「いやいや。お楽にお楽に。では夕餉まで。ゆっくりされてくだされ。湯も沸いております。」

 こちらの疲れを悟り、手早く挨拶を切り上げるご主人。中々の御仁である。


「さて。おじい様。銀はこれまでの旅のことを。書に残したく思います。矢立(やたて)※1をお願いできますでしょうか。」


「うん。分かったよ。お銀。」

 矢立(やたて)と紙を滋野様に渡す。


 滋野様はワシと弥太郎に手招きする。近づいて顔を寄せると。紙に『芝居を続けよ。』と書き。我らに目配せをする。二人して頷くと。『床下に一名。聞き耳を立てる間者あり。』ワシと弥太郎はハッとするが。『続けよ。』と書き何気なく。


「おじい様。今夜の夕餉が楽しみですね。齋藤様は大変なお大尽(だいじん)様のようですね。」

 とニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 なんたる傾奇者(かぶきもの)よ。


「お銀はいつも食い気じゃな。」とワシは笑う。


「まあ。(ひど)いですわ。」とニタニタする滋野様。くっ笑いを(こら)えるのに精いっぱいじゃ。弥太郎は。ふるふると震えて、口を押さえておる。

『二人は風呂へ。』と書く滋野様。


「ワシと角兵衛は、先にお湯を頂戴してきますよ。お銀も良いころ合いに行きなさい。」

 変な顔をしながら。滋野様に向く。滋野様は下を向き。肩を震わせながら。


「わ・・分かりましたわ。」と詰まらせながら。返答した。



◇◇◇



 弥太郎と10名は入れるであろう。大きな(ひのき)の風呂に入る。弥太郎が、「滋野様一人でよろしいのでしょうか? 」と耳打ちしてくるが。


「あの右の(まなこ)が危険を察知していない。我らも不覚を取ったのだ。お役に立てまいよ。」

 弥太郎は頷き、そこで会話が途切れた。


 部屋に戻ると滋野様がいなかった。紙に『湯を頂く』と書いてある。気配を(つか)めぬ間者を警戒して。弥太郎と当たり障りのない。装いの子芝居を続けた。


 湯上りの滋野様が。齋藤家の女中を伴って、部屋に来た。あと一刻で夕餉になるとの事で。お茶を()れてくれる。


 女中退出後。床や天井や壁などを凝視(ぎょうし)する。滋野様。おもむろに頷き。

「誰もいない。少し小声で話しましょう。」と我らを手招きしてくる。

 ワシと弥太郎が顔を寄せると。


「かなりの手練(てだ)れと思われる。者が先ほどそこにいました。」と縁側(えんがわ)に近い畳を指さす。

「気配が朧気(おぼろげ)でネズミかネコといってもよい。自然な動物的な動きをしてました。」

「ここの家人なら。ここの御主人は相当の食わせ者ですね。注意に越したことはありません。」


 ワシが頷きながら。複雑な顔をしていると。滋野様がそれに気が付いた。


「定道殿 如何(いかが)されました? 」

 不思議そうに訊ねてくる。


「その口調が楓に、似てきておりませぬか? 」

 ワシが率直に疑問を投げかけると。滋野様はニッコリとして。


「元々一つの体に二つの魂は、おかしいのですよ。楓殿とわれの魂は癒着(ゆちゃく)しつつあります。あと十年もしたら完全に一体となりますよ。その時は滋野でも楓殿でも。好きな名で呼んでくだされ。」

 その屈託(くったく)のない安らかな笑みを見ると。ふと寂しさを覚えた。


「さて。定道殿。間もなくの夕餉の席でな・・・・。」

次回投稿は02/06の予定です。

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