12.薬祖神の娘その3
少し長めです。
〇大崎重雄〇
<少し前>
さてと、激高してみたものの、あのこまっしゃくれをなんとかするには、コマが足りない。
たださっき「必死に加護し、育ませてきたわれの恩を忘れ」と言うとった・・。
それならこの体と、童女との間には、縁が、あるはず。たしかに、ここの空間と我らの間には、妙にしっくりくるものがある。
自宅にいるような安心感と、外とは違う内部からの力がみなぎり、溢れそうな感覚。
小娘のワシへの一撃も、威力がありすぎた。
思わず精神ごと、逝くかと思ったぞ。右手を持ち上げて、じっと手のひらを眺める。小さい紅葉の葉のような、手のひら。
上段では、童女と嫁さんが、きゃいきゃいと、かしましく話をしている。
まあ一方的に童女が、まくし立てているだけだが。
うらやましいのう、ワシもあの中に入りたいわ。入ってキャッキャッウフフに、参加したい。
状況から察して、童女はどこぞの名のある神。楓さんは実の娘じゃなくて、創造するか、童女の神気が宿って顕現した付喪神といったところだな。母子にしては神格が違いすぎる。
ジィーっと眺めながら分析する。
ふむ、ここでなら・・。
眼をつぶり精神を集中させる。
若い時分弟と共に、精神鍛錬や神事や神楽舞を、叩きこまれた時の感覚を思い出し、引き出す。
おっ?
小娘から精神がズルり、と分離した。精神というより、御霊だ。魂だ。
更に集中しイメージを高める。
分かれた御霊が光りながら、形を形成しつつある。
そうだな、ワシが医師会の副会長に、就任した頃がよいな。気力と胆力が、みなぎっていた頃だ。
二十年前のワシ・・。二十年前のワシ・・・。
光りながら、グニグニと次第に、人の形を形成していく。
人体と共に、見覚えのあるスーツが、出現する。愛用していたアルマーニのスーツ。
この受肉する感覚は、なんともまあ心地よい。
童女から繋がる神力を使用して、顕現している感覚がする。
ネクタイは、お気に入りの特殊加工で、テカテカ輝き、見る角度で色が変化する玉虫加工ネクタイだ。
スーツも、ワイシャツも、ベルトも、ネクタイも、しっかり着衣した状態で現れる。便利だ。
靴は持ってなかったが、ジョンロブがいい。美容整形で、しこたま稼いでいた、後輩が自慢していたあれだ。
時計はピアジェ。オーダーメイドで、ジェムセッティングは、アレキサンドライトにするか。イメージ。イメージっと。
見た目は、シンプルながら、文字盤の周りとアワーマーク(時字)が、アレキサンドライトのバブリーな、腕時計が出現。
おほ!これ1つで、小さい家が買えるわい。
ビシっと決まった。
初見のこまっしゃくれは、この出で立ちに、さぞ動揺するだろな。
後は使いたくはないが、念の為。
シグ・ザウエルP226。
猟友会と医師会のミニタリー同好会の射撃ツアーや、海外の射撃場で、よく使った拳銃だ。
顕現した自動拳銃のグリップを握り、マガジンを外して、残弾を見る。スライドさせて中を覗く。
・・・・・本物に見えるが、試射はまずい、音でばれる。
マガジンを戻して、スライドを戻す。「チャキ」と音がして弾が装填される。そしてセーフティロックレバーを入れた。
凄い、ここの神域半端ない。この重量感と、創りの緻密性・・これここの外で使えたら、無敵だろ。
ズボンに、ぐいっと拳銃を押し込み、ベルトをきつく締める。
さて、仕込みは完了。気付かれる前に、仕掛けるとしよう。
ふと童女の会話に、集中すると、小娘を拉致し、それを贄として、永遠に引き籠ると、宣言しよった。
ならば遠慮は、いらんな。
楓さんちと母さん折檻するが、勘弁してくれ。
おいたが、過ぎたんだよ。こういう手合いは、一度心をぽっきり折らないとな。
知り合いの反社の親分を、真似してみようか。連中心を折るプロだしな・・。
寝ている小娘を南東の角に移して、上から創造した大きな金タライを被せる。これで多少の事では、小娘に被害及ぶまい。
タライの上を「トントン」と、軽く指先でつつく。
これ終わったら、楓さんと結婚するんだ。ワシ。
さて、縁を通して、神力を一気に引き抜こうか。
〇?〇
頬を伝わる涙を手で拭い。
翁に問うてみる。
「ど、どちらの禍津神殿かの?」
翁は首を傾けたまま、一言「あ゛?」と発して、更に睨んでくる。その顔には、悪意しかない。
怖いのじゃ~。助けてくれなのじゃ~。失禁しそうなのじゃ~。
「おめえさんよ。人に名を訊ねるときゃあなぁ。まず自分からってこと、知らねえのかい?あぁ!?」
ガラ悪いのじゃ~。名を知られたくなかったが、仕方ないの。
「我は偉大なる薬祖神である。大己貴神が娘である。四方那草姫なのじゃ。」
翁は傾けた顔を、真っすぐに戻し、「ふむ。」と顎を撫でながら、思考しているようだ。
どうじゃ恐れいったか。
「ワシは大崎重雄。ただの一般市民だ。」
ただのいっぱんしみんとは、なんじゃ?冥府の悪鬼の階級か何かかの?
楓を逃がす隙を伺い、南西の扉の辺りを、チラチラ見ながら会話していると、翁は「フッ」と不敵に笑い、丁度扉が現れる場所に、移動して一言「逃がさぬよ。」と。
「!!!。」
驚愕とするわれの顔を、ニヤケ顔で睨む大崎翁。
「い・・一体何がしたいのじゃあ!?」
われがたまらず叫ぶと、翁は。
「大国主様の娘御様よ。あんた贄探しているんだろ?出羽の娘御だな?猿のように小賢しいこと、しやがって。」
「しし知らん!な・・なんのことやら、言い掛かりじゃ!」
「神さんが嘘をついたら、いけねえよ、終わるよ?・・針千本飲みたいかい?」
「あんたのやろうとした事は、ありかなしかってえとなしだ。梨の実だよ。さっき言挙げを聞いたよ。慢心しかなかったね。鬼でも蛇でも、なってもらおうか、四方那草姫さんよ。」
!!!しまった!言霊じゃ!不吉な言霊をまくし立てて、われを縛ろうと。
くっ!もうこの身は縛られて、動くこと能わず。
われが縛りから逃れようと、じたばた足掻いておると。
何者かが、われと翁の間に、立ちふさがる。
いかん!楓だ!
「楓逃れよ!母はもう動けぬ。汝はこれからじゃ。この母の願い、聞き届けよ!」
楓は「フルフル」と、首を横に振り、両の手を広げて、翁に向かう。
後ろからでも、楓が激しく震えるのが、分かる。
「ええい!この親不孝ものめ、縁切りじゃ!もはや親でも子でもない!何処とでも参れ!」
ビクっと動揺する楓・・が・・立ち退かない。
対面する翁、大崎は、なぜか悲し気な顔をした。
「大崎殿。さぞや名のある陰陽師であろう。後生ぞ、この小物(楓)は、とるに足らぬ物じゃ。見逃してくれまいか?われを調伏せよ。使役でも、滅するでも、好きにするがよい。」
大崎翁は、首をゆっくり左右に振り。
「縁切られたな・・。」と一言。
!!!!!。
しまった!
楓が足元より、消えかかっておる。
われは、何という戯けなのじゃ。
「大崎殿!!助けて給れ!助けて給れ!助けて給れ!助けて給れ!助けて給れ!助けて給れ!助けて給れぇぇぇぇ!!」
「・・・・すまんな・・ワシでは、能わず。」
楓はわれに、ニコリとほほ笑み、一礼してすっと消えた。
「かぁぁぁえぇぇぇでぇぇぇぇぇ!!!!!!」
四方那草姫の神域に於いて、悲壮な絶叫が、鳴り響いた。
お爺ちゃん死亡フラグ立てちゃだめでしょ。
のじゃ姫不幸属性カワイソス。




