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母と子

20

 4日後の朝、ダイニングに集まった。


「みんな十分休めたことだと思う。前に話した通り北部へ馬を捕まえに行くぞ!そこで下調べしたんだが、北部には大きな町1つ、小さな宿場町が5つあるらしいので、そこで宿を取り馬の情報を集め探す予定だ。ここまでで質問あるか?」

 無いようなので続ける。


「盗賊や山賊、魔物の襲撃があるかもしれないから道中油断しないように。と言っても最北端の村までは馬車タクシーを2台チャーターしているので問題ないはずだ。街の北部門で馬車が待っているはずなので行こうか」


 ざわついている。


 どうやら誰がどちらの馬車に乗るのか議論が行われていた。このままだと延々と終わりそうもない。


「じゃーくじ引きで2班に分けるぞ。ウッド、くじ引きの準備を頼む」

 日が暮れるかもしれないので強引に提案する。


「了解っす」


くじ引きの結果

1班

俺、ウッド、月花、シズク

2班

サーラ、ルル、リティス、リーズ

に決まった。


「帰りもくじで決めるからな!」

 そう言うと、早くもくじ対策を話し始めている。くじ引きに対策ってあるか?


 まったくこいつらは・・・・可愛いな。


 小学校の時、バスの席順で好きな女子の近くの席を取るため色々と策を労したこともあったよな。歳をとっていくと、そういうことも忘れて毎日生きていくことに必死だった。良い学校を出て、将来有望な会社へ入る。就職が決まっても安心はできない、内部での競争がある。昇格試験やノルマ、新規プロジェクトの発案。周りが流行のスーツを着れば、それに合わせて同じブランドを買ったり、美味しいスイーツがあれば行列に並んで食べにいったり、上司や顧客との接待ゴルフなど。毎日何かに追われて生きていた。

 そんな俺が我に返ったのは子供が生まれた時だった。自分の事などどうでも良くなった。会社?人付き合い?くだらない。ただただ子供との時間を大事に、そして一緒に過ごしたいと思った。

 だから、ファミリーとなったみんなと大事な時間を過ごすために一生懸命出来ることをやっていこうと思う。


 馬車に揺られ小さな宿場町を2つ経由して3日目の夕方過ぎにエクレウスの町に着いた。宿屋を探したが、どこも満室で空いていない状況だった。どうやら北部の町から人が流れ込んでいるようで俺たち以外にも宿屋に入れない人が沢山いた。


「お兄ちゃんたち宿屋を探しているの?」

 突然、小学校低学年くらいの女の子が背後から声を掛けてきた。


「あぁ、そうだよ」

 俺は屈んで目線を合わせて返事をした。


「だったら町のはずれに大きなお屋敷があるからそこで泊めてもらえるはずだよ」

 少女が町はずれを指さし教えてくれた。


「そうなのか。教えてくれてありがとう」

 俺は少女の頭を撫でて飴を渡そうとする。


「お礼はいいの。だっていつもお母さんに、困っている人がいたらお手伝いしてあげなさいって言われていたの」


「そっか、良いお母さんだな」


「うん。これで良いんだと思う。きっと」


「きっと?」


「何でもない。またね」


「おぉ、サンキュー」

 手を振って別れた。


「宿屋見つかったから行くぞ」

 馬車ドライバーに行き先を伝え向かった。


 すると宮殿とまではいかないが豪邸があった。大体500坪くらいであろうか。玄関前に着きノックすると中から、初老の女性が出てきた。


「すみません。こちらで一晩泊めて頂けると聞いてやってきたのですが」


「あらあら、遠いところから来てお疲れでしょう。部屋にご案内いたします。夕食は如何なさいますか?」

 何か違和感が・・・?まぁ気のせいだろう。


「用意していただければ、こちらも助かるのでお願いしても宜しいですか?」


「かしこまりました。食事は個別にお部屋へお持ち致しますね。」


「はい、お願いします。」

 ドライバー2名、1班、2班の3部屋用意してくれた。


「みんな明日も朝早いから、すぐ寝るんだぞ」

 と言って各部屋に分かれた。


「・・・き・・・、レ・・・・・て」

 何だ?頭が痛い。


「レッくん・・・て、レッくん起きて」

 目の焦点が合う。シズクだった。


「あぁ、おはようシズク。寝過ごしちゃったかな」

 自身が眠ったことを変だと思いながらシズクを見る。


「違うの、食事に睡眠薬が入っていたようなの」

 辺りを確認する。ウッドが気持ちよさそうに寝ていた。


「で、俺はどのくらい眠っていたんだ?」

 シズクの言葉を聞いて瞬時に脳をフルに回転させる。さっきの違和感はこれだったのか・・・。


「1分も寝ていないわ」

 となりで月花がウッドにキュアポイズンをかけて起している。


「兄貴、おはよっス」

 お前は変わらないな。


「何でシズクたちは大丈夫だったんだ?」


「レッくん、私たちは不浄なるものを何となく感覚で分かるの」


「シズクさんと相談し警戒していたので食事にも手を付けませんでした」

 うちの子たち優秀!


「そうなると、俺たちを嵌めた奴の規模と正体を確認しないとな」


 みんな頷く


「とりあえず俺達だけで屋敷を調べる。ウッドが先頭で俺たちを先導してくれ」


「わかったっす」


 みんな一瞬で装備を装着した。名前なんだっけ。あぁBFAだったわ。便利便利。


 ウッドが音を立てずに扉を開け周囲を確認しつつ、シズクたちが範囲感知で探っている俺達の部屋は2Fだったが、1Fの方で何かが居るらしい。油断のない今なら俺にも分かる。


 1Fに向かう途中、サーラ達とドライバーの部屋を確認したが無事だったようだ。起こすと騒ぎになって敵に感づかれる場合もあるので、月花に扉へ防御壁を展開してもらい寝ていてもらうことにした。

 防御壁があれば何かあっても対処する時間は稼げるはず。敵が大勢なら、後で起こしてみんなで殲滅すればいい。


 1Fに着いたがそれらしき反応は更に下に感じられるとシズクたちは言う。俺も同意見だ。そこで俺達は周辺を調べることにした。するとウッドが何かを見つけたようだ。


「あそこに何かあるっす」

 俺達には分からないがウッドが壁を調べると地下への階段が現れた。


「レッくん一つしか感じられない」

「私も同じです」

 どうやら1体だけのようだ。


「強いか?」


「多分ですが私の浄化魔法で一瞬でと思われます。」

 月花さん優秀!と感心していると


「レッくん、私なら刹那で終わるよ」

 対抗心剥き出しだな。


「シズクさんが出るまでもありません。私に任せて下さい。」

 月花はシズクを師匠と思ってるからな。


「うん」


「よし、ウッド警戒して下へ降りるぞ。罠には十分注意してくれ。俺が最後尾で後ろからの攻撃に備える。行けるな?」


「大丈夫っす」


「では、敵に気づかれる前に月花の浄化魔法で倒す。いくぞ」


 地下は一本道だった10mほどで扉があった。中からは何かを研いでいる音が聞こえる。月花に合図すると浄化魔法の詠唱を始めた。敵が見えていなくても感知で位置は分かるので、その場所で発動すればいいみたい。まだ敵は気が付いていない。


「不浄なるものよ、在るべき世界へ帰れ!バニッシュ!」

 まっぶしーーー、扉のすき間からスゴイ光が漏れてきた。


カランーーー。

何かが落ちる音。

 

 隊列を変更し、俺が先頭で突入しウッドが続く。中は意外と広く20畳くらいの大部屋で敵の姿はない。あるのは、壁一面本棚と子供用ベッド、テーブルと灰と肉切り包丁だけだった。


 俺はシズクたちに合図して中に入るように促した。灰は、多分初老の女性のものだろう。本棚には錬金術、蘇生術、悪魔儀式等色々と置かれていた。ふとベッドを見ると、白骨が横たわっていた。小さな子供のものだろうか、大事に寝かされていた。


「兄貴、テーブルにメモ帳があるっすよ」


「見せてくれ」

 ウッドから渡されたメモ帳を確認すると日記帳だった。俺達は悪いとは思いながらも読んでいった。どうやら、小さな白骨は初老の女性の娘のようだ。


〇月〇日

冒険者だったあなたが帰らぬ人となり、娘と二人で暮らしていたが、娘が原因不明の病になった。医者が無理ならと、僧侶に頼んでも原因は分からなかった。私はどうしたら良いの・・・。あなたが居なくなり、娘まで居なくなったら私は・・・・。いえ、諦めないわ。何だってやってやる。この手を血に染めても・・・


ここあたりから狂っていったのだろう。悪魔や悪霊との契約、生贄など何でもやるようになっていったようだ。そのうち母親の自我もなくなりワイトに支配されたようだ。

 分からなくもない。俺も自分の娘がそうなったら発狂するかもしれない。自分の命を与えてもいい、ありとあらゆる手を試すだろう。何なら手を汚すことだって・・・痛いほどわかってしまう。


 この世界にカンストクラスの治癒師が居れば、こうはならなかったはずだ。それに、この子に魔力があれば、蘇生魔法で延命措置がとれたはず。だが蘇生魔法は魔力の無いものには効果がないのだ。だからランドでは魔力の無いものを冒険者にしないのだ。魔力があれば例え死んでも魂が魔力で包まれ一定期間保護されるのだ。補足だが、この世界の住人はすべて魔力持ちだ。魔力の有る無しの線引きは魔法が使えるか使えないになる。

 保護される期間は分からないが、逆に死にそうな人が居たら前もって魔力で囲めば魔力のない人も蘇生できるかもしれないな。今は試そうにも試せないけどね。


 みんな一緒に日記帳を読んでいたので雰囲気が葬式状態になってしまった。


「ありがとう」

 突然背後から声がしたので身構え振り返る。


 俺たちの後ろで小さな女の子が笑顔でお礼を言って消えていった。見覚えがあった。この宿屋を紹介してくれた女の子だ。


「きっと、今度は親子三人で幸せになるよな?」

 誰に言うわけでもなかったが、みんなが頷いてくれた。


 今回頑張った月花の頭を撫でてやると、シズクが頬を膨らましたのでシズクも撫でてやった。2人の機転で助かったようなものだ。みんな寝ていたらと思うと背筋がぞっとした。


 地下から1階に上がると窓から外の景色が見えるくらい明るくなってきていた。


「部屋に戻って軽く仮眠しよう。一応俺が見張りに起きているからお前たちは休めよ」

 みんな頷いた。


 俺は同じ状況になったら、あの母親のようになるのだろうか・・・あっちの世界だったらそうなるかもしれないな。自分の子供が死ぬのなら世界も滅べとも考えてしまうかもしれない。

 だが、こちらの世界なら何とか出来る気がする。俺は仲間の為にとにかく強くならなければと思った。何にも屈しないほどに・・・


 その為にはやることは山積みだな!


のんびりと書いていきます。

読んでいただいている方に感謝。

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