03 バレッタ家
03 バレッタ家
「まあ、今日はもう遅いしうちで夕飯を食べていきなさい。」
村長は好樹をそう誘った。
「いいえ。僕はこれで失礼させてもらいます。」
「いいや、だめだ。まだ今日中に話さなければならないことがあるし、何より料理が余ってしまう。」
(どうやら僕が食事の当てがないことを読まれていたようだなあ。…って当たり前か。)
好樹はそう思う。
「では、お言葉に甘えて…。」
村長は頷く。バレッタがこちらを見て言う。
「あ、どうやらできたみたいよ。」
バレッタが運んできた料理の中には。
どれもこれも、藁の真上の天井から降ってきていた芋虫の様な虫が入っていた。
「…みーくんは自分が作られて初めて、食べることが出来なくて良かったと思った。」
棒読みでみーくんが言った。
出てきた料理はどれも虫の様な生物が入っていた。たんぱく質をとるためだと分かっていても、やはりちょっと抵抗があった。
なぜなら、その虫は好樹達にとって日本に住んでいて滅多(というか全く)に見ない虫だったからだ。
よく見かける虫でも、今どきの若者は食べるのを嫌がるだろうが。
「ところで、好樹君。」
「はい、何でしょうか。」
村長の呼びかけに応じる。
「バレッタを旅のお供に連れて行ってくれないか?」
「へ?…すいません、どうしてですか?」
「バレッタももういい年ごろだ。そろそろ外の世界も見ないとダメな年ごろかと考えてね。」
「…いいですけど、バレッタさんに命の危険を及ばすことがあるかもしれませんよ。」
「ああ、その時は君がどんな手を使ってでも守ってやってくれ。」
「はあ…。」
「あ、もちろん娘に手を出したら殺すからね。キスとか絶対にダメだよ。」
「もちろんです。」
バレッタが言った。
「お父さん、大丈夫だって。ここの言葉を話す上の世界のひとに悪い人はいないんだから。」
「まあ、このような感じだ。お願いできないかな。」
みーくんが言う。
「安心してください、お父さん。ミントが変なことをしないように僕が見ますから。」
「変なことってなんだ!?」
好樹は考えてから口を開いた。
「わかりました。責任はとれませんがお預かりします。」
村長は頷いてからバレッタに向き直る。
「おい、バレッタ。好樹君の話をよく聞いて、自分の身は自分で守るんだよ。」
バレッタは落ち着いて言う。
「うん、わかった。迷惑をかけないようにするわ。」
「よし、それでいい。出発は明後日くらいでいいだろう…では、これは今日宿に泊まるためのお金です。受け取ってください。」
好樹は慌てる。
「いえいえ、そんなのもらえませんよ。」
「ですが、お金の当てもないでしょう。ぜひ持って行ってください。」
その後、数分は同じようなやり取りが続いたが、好樹が折れた。