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俺とトカゲと、あと暗黒めーん。

人は其々が其々に幸せの形を持っている。


ある者は家族と居ることが幸せだと言い、またある者は一人で居る時こそが幸せだと言う。


一人一人が感じる幸福が違うのならば、人の数だけの幸せの形があると言ってもいいだろう。


中には同じ様な出来事に幸せを感じ、悲しみを感じる人達も居るのだろうが…。


「…ハァハァッ、ゴッホ!ゴッホ‼」


ならば自分は、レックスという子供に憑依した自分の幸せとは何なのだろうか?と、そうレックスはふと考えてしまい、思考の渦にはまってしまう。


幸せは何かと問われれば、レックスという青年はこう答えるだろう。


辛くない生活と……。


先進的な技術力に溢れ、欲しい物は大体がお金を出せば買えた世界から、お金を出しても欲しい物が手に入らない、そもそもがそれ自体が存在しないという後進的な異世界へと来てしまったのだから当然と言えるだろう。


しかし、この世界に来て2年と少しが経ったレックスという人間の精神は、今この時に幸せとは何か?と尋ねられたならばこう言うだろう。


家族と…。


「がっは‼っハァハァ…んなこと考えてるっ、…場合じゃねぇよな」


吐く息を荒く、そう言葉を洩らすレックスの目の前に見えるのは、レックス以上に傷だらけの身体の状態でありながらも、自分の前へと立っている弟と父の背中だった。


ティックスはもう立っているのも不思議な程な大傷を負っているにも関わらずに剣を支えに立ち、父は腹に直径3cm程の風穴が空いており、そこからは止めどなく血が垂れ流れ続けている。


「…モルドッ⁉起きなさいよっ‼何でこんな所で寝てるのよ!」


「起きて!ック!お願いだから起きて!モルドくん」


レックスの倒れている更に後方では、出血が多すぎて意識を失ったのか、地に仰向けに倒れたモルドが真っ青になった顔であり、そのモルドへ必死に呼びかけているミリアに、モルドに回復術を掛け続けているフレアの姿があった。


レックスはその光景を見て強く思う。自分はどうしてまだティックスより、親父よりも軽傷なのに此処で倒れているんだ⁉と、その苛立ちを力へと変えて立ち上がろうとするも、レックスの思いとは裏腹に、身体を動かす度に襲い掛かってくる強烈な痛みでのせいで、彼は未だに立ち上がれないでいた。


「…ハァハァ、ティックス」


レックスと同じ様に、レックスとティックスの父であるトムはティックスの方へと向き直ると、ティックスへと呼び掛ける。


視線こそティックスにむいてはいたが、その意識は常に自分の前方に佇み、此方の様子を面白いという様な目で眺めている魔物へと向けていた。


「……ッくぐぅ⁉」


トムの呼び掛けに答えるために、剣にもたれ掛かっていた顔を上げるティックス、その動作だけでも魔物にやられた傷が痛むのか、その本来なら精悍な表情を苦痛に歪める。


「…その様子だと、お前ももう限界だろう。この魔物は俺が引き止める。…だからお前はレックス達を連れて村の皆を追ってワヘッドへ行け」


そんなティックスを見て、もう戦うことは出来ないと判断したトムは、ティックスに自分以外の皆を連れて逃げる様に言う。


「ぐぅッ‼……ぃ、ぃやだ!父さんを、ゴッホ!…追いて行けない」


そんなトムの言葉にティックスは、トムが自分の命を犠牲にして自分達を助けようとしていることに気付き言う。


「…無理だ。あの魔物はリザードマンと言ってギルドではCランクパーティー一組に一頭が倒せる目安だ。確かにお前達は強い、だかそれでもギルドではDランクにも届かないだろう」


そんなティックスにトムは冷静に自分達が戦っている相手がどんなモノなのなを教える。


「…そんなの、やってみなきゃ「ティックス‼」ッツ‼」


「頼むから逃げてくれ‼」


それでもまだ言い募ろうとするティックスにトムは声を荒げ、それを静止すると、今度は静かに諭す様に言う。


「……と、父さんは」


「…俺はもうこの傷じゃ例え魔獣を倒せたとしても助からない」


トムは自分の腹へと視線をやりそう言った。そこには正面から腹を背中まで貫かれた傷がある。リザードマンは他の魔物と違い、剣や槍を己の武器として使用する。


そしてトム達と相対しているリザードマンは槍を使っている。

トムの腹の傷はその槍で穿たれた為についた傷だった。


「……」


「だからせめて自分の子供を守って死にたい。だから頼むから逃げてくれないか、ティックス」


トムの言葉に黙り込んでトムの目を見ていることしか出来ないティックスに、トムは父親として最後の役目を果たすために再度、言葉をつむぐ。


「……ぐぅ、……………わかった


「ありがとうティックス。レックスも後は頼んだぞ?」


トムとティックスのやりとりを地に伏したままで見ていたレックスは、何も出来ずに此処で寝ているしかない自分に腹を立てていた。


「…俺は、何で?いつ迄こんな思いをし続ければいいんだ?」


その苛立ちが無意識に自分のくちから言葉へとなり吐き出される。


そしてその言葉がまた自分の耳から聞こえてくることにより、さらにその苛立ちがまして行く。


どうしてこんなことになったのか?


レックスはこんな状況に陥った原因を思い返す。


河原で韋駄天スキルの超加速に身体を慣らそうと、少しずつ身体に負荷を掛けていた。


筋力の脳内リミットの解除のレベルを少しずつ上げていく。

それだけでもレックスの身体の筋肉は軋み、骨を締め上げる様にチカラを増していく。


2割程度、たったそれだけのリミットを解除しただけだというのに、骨を締め付ける痛みに顔が歪む。


5割開放した瞬間、電流が身体中に一斉に流された様な痛みで、本能で超加速状態を解く。


「…く、くぅーっ、痛いぃ!やっぱりまだキツイか、でも先週は4割が限界だったのが1割だけど上げれたんだから、良しとするか」


『ググッツぅがぁぁああああー‼‼‼』


「な、何だ⁈」


そんな時だった。

村のある方から何かの咆哮が聞こえてくるのと、恐らく村の人達の声であろう悲鳴が聞こえて来たのは…。


異変を感じ取ったレックスは直ぐに村へと向けて超加速を3割程度の脳内リミット解除で発動すると駆け出す!


そして村に着いて見たのは血だらけで横たわるモルドに、トカゲが人間になった様な魔物が父の腹を槍で貫いた所だった。


「オ、オヤジ⁉ッツ‼くそがっ!!!」


さらにトカゲの魔物が父へとトドメを刺そうと、槍を背後に引いて構えたのを見たレックスは直ぐに駆け出すと、ギリギリの所で父へと向けて放たれた魔物の槍の一撃を蹴り上げることに成功する。


「…間に合ったか、えっ?」


そうレックスが安堵したつぎの瞬間、跳ね上げた筈の槍は角度と目標を巧みに変えて、レックスへと振り落とされ背中を深く斬りつけられる。


「ぐぅがぁ⁈」


レックスが今まで経験したことのない痛みに悲鳴を上げる!

そんな悲鳴を魔物は気に入ったのか、完全に獲物をレックスに固定すると、背中を斬りつけられ地面に膝をついて四つん這いで痛みに耐えているレックスの腹へと蹴りを放つ!


「がぁっは⁈」


その魔物の蹴りにとんでもない力があったのか、レックスの身体はゴム毬の様に地を跳ねて飛んで行く。


ガスッ!

「がぁっ、がぁあ、ぐがぁああぁーーー⁈‼」


そして更に魔物は遠くへ飛ばされたレックスの元まで軽く跳ねる様な動作で跳ぶと、レックス背中へと飛び降り、先程斬りつけたばかりの背中の傷を嬲る様に足をグリグリと動かす。


そこへティックスが魔物へと斬りかかるも難なく避けられてしまいカウンターで旨に重いケリを貰い、レックス同様にとばされる。


直後に父も魔物へと襲い掛かってくるも、全ての攻撃が魔物の手に持つ槍で防がれてしまう。


しかし、その攻防により魔物はレックスの背中から離れたのだった。


そして時は今に至る。

河原で超加速を使っていなかったならまだ勝機はあった。

それがレックスの思考の大半を占めていた。


しかし、トムとティックスの戦う姿を見て気付く。


「…河原で修行して超加速を長時間使ってなければ勝てただと?」


更に自分に対して、苛立ちが募る。


「んなこと言い訳にもなりゃしねぇーだろ!?何を諦めてんだよ!弟とが、オヤジがっ!!俺なんかよりよっぽど傷ついてんのに!戦ってんのに!?」


今日は疲れてたから負けた。そういったことが通用する世界ではないことを、レックスはもう随分前に、それこそ2年前にエリトカマという魔獣に襲われた時から解っていたのだ。


なのにまた、自分は言い訳をして、疲れているという理由だけで戦うことを放棄していたことに気付いたのだ。


痛みで身体が動かない?だから戦えない?


「…なら痛みをなくせばいい!」


超加速状態でも魔物の動きについていけなかった。


「なら!もっと早く!早くなればいい!!」


自分の力では攻撃力が足りないかもしれない。


「だったら脳内リミットを100%解放すればいいだろッツ‼」


その手段が全て自分にはある。であれば後は全てそれをやり遂げるだけだった。


「超加速、飛脚、発動!」


脳内分泌物をコントロールしアドレナリンを過剰投入し、痛みを中和、いや痛覚を切り痛みを遮断させる。


脳内リミットを全解除、運動神経を最敏鋭化し骨格筋を興奮させる!


スキルの複数同時使用、無駄な感情は今は捨てる!ただこの場を生きて乗り切る為に、目の前の障害であるリザードマンを倒す!その決意が今まで不可能であったスキルの複数同時使用を可能にしたのだった。


ドン!

「…お前を倒す!!」


レックスが地を蹴って魔物へと駆け出した瞬間、蹴り出した地は爆ぜて土埃を上げる!


そして0.01秒にも満たない一瞬でリザードマンの目の前へと着くと同時にただの蹴りを放つ‼


ズガン‼

『ギャッツゲボ⁈‼』


リザードマンの顔へ蹴りが入った瞬間、大気を震わす様な音と振動が周囲に立ち、先程のレックス同様に今度はリザードマンが遠くへと吹き飛ばされる!


『ぎぃ、ぎぃいいいッツ‼』


痛みでもがくリザードマンにレックスは顔に脂汗を浮かべつつも追撃を加える!


痛みはないが、一撃目の蹴りがリザードマンに当たった瞬間、レックスの身体もそのチカラに耐えきれずに骨にヒビが入り、

身体中の毛細血管が弾け、内出血をしていたのだ。


身体が急に重くなったことで、この状態が長くは持たないと判断力したレックスは、次の攻撃で勝負を決めることにしたのだ。


「ッ倒れろ!!二段蹴り!三段蹴り‼」


リザードマンの腹へ右足が打ち放たれ、後方へと飛んでいこうとしたリザードマンの身体をその前に、頭の上か左足を振り下ろし地面へと激突させる!


そのあまりにも強い脚力に地に当たって跳ねたリザードマンの身体に続け様にスキルを発動し、再度、右足で腹を蹴り、左足で頭を蹴り抜き首をへし折る!


さらにダメ押しとばかりに真上から踵落としをリザードマンの背に叩き込む!


ドガァーン‼


『………』


リザードマンが大地に激突した影響で周囲の土が飛び散り砂埃がレックスとリザードマンの姿を覆う様に舞う。


そんな砂埃が舞う中でも、レックスはリザードマンが力尽きたことが解った。


何故ならばリザードマンが居るだろう場所に見える赤色のゲージが0となっているのが見えたからだ。


「……ッ」


バタン!

ゲージが0になっているを確認して数秒間、そのままゲージをながめていたレックスだったが、数秒間眺めていても何も起こらないことに安心して気が抜けたのか、そのまま意識を失い倒れこんでしまった。


ただ生き残ることを考えたレックスのチカラは凄まじく、リザードマンを圧倒していた。


しかしその力の代償は大きく、骨格筋の断裂、全身の骨という骨が骨折やヒビが入るという大怪我を負ってしまっていた。


そしてスキル発動を止めた瞬間、痛みが一度に押し寄せてきたため、その痛みで意識が飛んでしまったのだった。


砂煙が晴れた後、一瞬で、それこそ数秒間の間に苦戦していたリザードマンを倒してしまったレックスに唯一、まともに意識のあったトムは驚いて声も出なかった。


ミリアとフレアは怪我こそはなかったが、目の前で自分の友達が重傷を負ったことにより、それどころではなかったのだ。


この事件がティックス達の人生を大きく変えていくことに、気を失っているレックスは思いもしなかったことだろう。


称号を[極度のM]を獲得しました。


[極度のM]を名乗りますか?


長時間、操作されなかったため、自動的に[極度のM]を名乗りました。

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