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【連載版】侯爵令嬢はバカ王子にさっさと婚約破棄されて、有能執事と結婚します〜「お嬢様、お任せください。そのような未来は私が断じて来させません」  作者: 源あおい
第三幕 運命の転換

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第34話 婚約破棄の代償

 ♢♢♢


(国王フィリップ視点)



 壮麗な王宮を、前夜の舞踏会での醜聞が嵐のように駆け巡った。国王フィリップの執務室では、報告を受けたフィリップが苦々しい表情で深いため息をつく。傍らには青ざめた顔の王妃イザベル。


「オーギュスタンめ……なんという愚かなことを……!」


 フィリップの声には、抑えきれない怒りと失望の色が滲む。公衆の面前での一方的な婚約破棄。ヴィオレットは王家が最善の相手として認めた、保守派閥の重鎮、ボーフォール侯爵家の令嬢だ。


「陛下、落ち着いてくださいませ。しかし……これは、王家にとって由々しき事態ですわ。ボーフォール侯爵家の支持を失えば、三派閥の均衡は容易く崩れます。ただでさえ、北のフォルテール王国がきな臭い動きを見せているというのに……」


 イザベルは冷静さを保とうとするが、声は不安に震える。


「……陛下。このままでは、王家の権威が地に堕ちますわ。王太子としての資質にも……」


 イザベルが言葉を選ぶ。フィリップは苦渋に満ちた表情で答える。


「分かっている……王宮の、この甘やかしが過ぎる環境が、あやつを歪めたか……。親として、もっと厳しく導くべきだった。……だが、もはや嘆いている時ではない。無能な王は、国を滅ぼす。オーギュスタンは、王太子としての資質に並外れて欠けている。この度の件で、それは隠しようもない事実となった」


 報告によれば、ヴィオレット嬢は一切取り乱さず、逆に王子の非を堂々と指摘したという。その事実は、オーギュスタンの未熟さをさらに際立たせていた。


「……王家(わたくしども)がこの事態を収め、権威を守るには……」


「……子の不憫を思う親の情は捨てねばならぬ時もあるのだ。……オーギュスタンを、廃太子とし、王統から外す他あるまい」


 フィリップは苦渋を滲ませながらも、国王としての判断を下した。イザベルもまた、母親としての情を胸にしまい込み、王妃として同意する。


「……はい。公的には、それが唯一の道かと存じます。ボーフォール侯爵家は国の軍事の中核を担う存在。王家への信頼を失えば、国の根幹が揺らぎかねません。この決定を、彼らがどう受け止めるか……」


「直ちにオーギュスタンを呼び出し、厳しく叱責せねばなるまい。そして、ボーフォール侯爵には……最大限の誠意をもって……」


 国王と王妃による悩ましい対話は続いた。




 ♢♢♢


(ボーフォール侯爵視点)



 同じ朝、王都ボーフォール侯爵邸の執務室。アルマン侯爵は、ヴィオレットから舞踏会での一部始終を聞き、静かな怒りに身を震わせていた。


「……許せん。我が娘を、ボーフォール家の名を、公衆の面前でかくも貶めるとは……!」


 アルマンの声は低く、地を這うようだった。娘が受けた侮辱は、そのまま侯爵家へ、そして彼自身への侮辱に他ならない。彼は傍らに控える統括執事セバスチャンに、厳しい口調で命じた。


「セバスチャン、すぐに王宮へ向かう準備を。私一人で参る。ヴィオレットは、公には心労のため、侯爵邸にて静養していることとせよ。」


「かしこまりました、侯爵様」


 セバスチャンは深々と一礼し、音もなく書斎を後にした。


 アルマンは、窓の外に広がる王都の景色を睨みつけた。彼の心は決まっていた。ボーフォール侯爵家の名誉を守るため、そして何よりも愛する娘の未来を守るため、持てる全ての力を行使する。王家であろうと、容赦はしない。




♢♢♢


(国王フィリップ視点)



 重く張り詰めた謁見の間。玉座に座す国王フィリップと王妃イザベルの前に、扉が開き、ボーフォール侯爵が入室した。侯爵は国王夫妻の前まで進み出ると、深々と、しかしどこか形式的な礼をとった。謁見の間の空気は、張り詰めている。


「陛下、王妃殿下。昨夜の王立学園での舞踏会における、第一王子殿下のご乱行は、我が娘ヴィオレットの王太子妃としての未来を完全に断ち切るものでございました。これを受け、ボーフォール侯爵家として、今後の娘の人生と、王家との関係に関わる極めて重要な確認と要求があり、参上いたしました」


 アルマン侯爵の声は低く、静かだったが、その言葉には抑えきれない怒りと、王家への明確な抗議の意思が込められていた。


 国王フィリップは、重々しく頷いた。その顔には深い苦悩の色が浮かんでいる。


「侯爵、昨夜のオーギュスタンの無分別な行動、誠に遺憾に思う。王太子として、いや、人としてあるまじき振る舞いであった。父として深く詫びる」


 国王は頭を下げようとしたが、侯爵はそれを手で制した。


「陛下、お言葉ですが、これは単なる謝罪で済む問題ではございません。我が娘ヴィオレットは、公衆の面前で、根拠のない理由で婚約を破棄され、その名誉を著しく傷つけられました。そしてそれは、長年王家に忠誠を誓ってきたボーフォール侯爵家そのものへの侮辱に他なりません」


「陛下、王妃殿下。まず、一つ、明確に申し上げます。我が娘ヴィオレットが、今後王家の方と婚姻を結ぶ事は一切ございません」


 第二王子の婚約者として、新たに打診する事も視野にいれていた国王夫妻の顔色が変わる。


 侯爵は構わず発言を続けた。


「そして、ボーフォール侯爵家の王家に対する要求は五つございます」


「第一に、今回の王太子殿下の軽率な行動の重大性とその責任として、殿下の王位継承権の剥奪、及び王統からの除籍を確約していただきたく存じます。此度の事だけではなく、第一王子殿下に国を治められる資質は伺えません。かといって、王族のままでは将来に禍根を残すでしょう」


 謁見の間が重い静寂に包まれた。国王と王妃は、彼らが下さざるを得ないと心を固めていた決定を、公的な要求として突きつけられたことに対する重圧と、親としての痛みを感じていた。


「第二に、第一王子殿下の公の場での婚約破棄によって傷つけられました、娘個人、そしてボーフォール侯爵家の名誉回復のため、王家からの正式な謝罪を求めます。


第三に、娘が王太子妃となるべく、これまで費やしてまいりました教育に関わる全ての費用、並びに調度品、衣装代などの一切を、王家に全額ご負担いただきたく存じます。


第四に、今回の婚約破棄によって娘が受けました精神的苦痛に対する、相応の慰謝料のお支払いを求めます。


そして第五に、今後、第一王子殿下が、娘ヴィオレット、並びにボーフォール侯爵家に対し、いかなる形であれ接触を試みることを、国王陛下の名において厳しくお禁じいただきたいのです」


 ボーフォール侯爵の要求は、理路整然としており、その内容は王家にとって極めて厳しいものだった。


 国王フィリップは、苦渋に顔を歪めた。王妃イザベルも、扇で口元を隠しながら、不安げに夫を見つめている。


 国王は、謁見の間の重い沈黙の中、意を決して口を開いた。


「……承知した、侯爵。其方の要求、しかと承った。第一王子の愚行については重ねて謝罪する。ヴィオレット嬢の名誉回復のため、王家として正式に謝罪しよう。オーギュスタンを廃太子とし、王統からの除籍も確約する。教育費等に関する費用も、慰謝料も全額負担を約束する。オーギュスタンへの接触禁止も、厳命する」


 それは、王家にとって避けられぬ決定だった。王として、国政の根幹たる保守派閥の支持を失う事態は避けねばならない。既に第一王子の廃太子と王統除籍は、子の不憫を思う親の情を抑え、国王・王妃として下すべき公的な判断であると自らも認めていた。


 侯爵は、国王の言葉を静かに聞き届け、深く一礼した。


「陛下のご英断に感謝いたします。」


 その声には、勝利の響きはなく、むしろ王家への深い失望と、消えることのない不信感が滲んでいた。謁見の間を後にするボーフォール侯爵の背筋は、凛と伸びていた。




♢♢♢


(ヴィオレット視点)



 王都ボーフォール侯爵邸の一室。静養中のヴィオレットが、一人静かに窓の外の景色を眺めていた。彼女の顔に、憔悴の色は一切ない。菫色の瞳の奥には、望み通りに事が進んでいることへの密やかな喜びと安堵が宿っている。


(王家への要求……ふふ。お父様、流石ですわ。わたくしの意図を正確に汲み取り、期待以上の交渉をしてくださいましたわ)


 廃太子、王統除籍の確約、王家との今後の婚姻なし、名誉回復、費用負担、慰謝料、そして接触禁止。これは、まさにオーギュスタン殿下という(くびき)から完全に解放された証。


(これで、悪夢の未来を辿る可能性は限りなく低くなったわ。最大の障壁は取り払われました……。)


(自由だわ……! これで、本当にわたくしの人生を、自分自身の手で選ぶことができる!)


 ヴィオレットの心には、長年の悪夢から解放された清々しい風が吹いていた。この婚約破棄は、終わりではなく、ヴィオレット・ボーフォールが真に望む未来への、静かで力強い、新たな一歩だった。


【応援よろしくお願いします!】


 「面白かった!」


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 「ヴィオレットとレオンはこの後一体どうなるのっ……!?」


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