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「笑顔が嘘くさい」と言ってきた転校生が恋人の親友になった  作者: 小槻みしろ/白崎ぼたん


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十三話 幸人の後悔

 失敗した。

 腕の中で声を殺して泣く和希を見て、幸人は苦い気持ちをかみ殺した。


「和希。我慢しなくていいから」


 背中をあやすと、ひっ、と泣き声が漏れる。和希は顔を隠して、首を横に振った。

 本当に失敗した。大失敗だ。

 理事長の頼みとはいえ、日夏のことなど、面倒を見なければよかった。

 実は日夏は、この明嵐学園の理事長の甥なのだ。いきなり部屋替えで同室になって、どういうことだと思ったら、理事長から直々に面倒をまかされて驚いた。

 日夏の母は、理事長の腹違いの妹なのだ。彼女の存在は公にはされておらず、トップシークレットだ。理事長がその事実を知ったのも最近らしい。日夏の母はすでに瀧見家に後妻として迎えられていたが、腹違いの兄たち相手に、日夏が肩身の狭い思いをしているのを知り、この明嵐に招いたそうだ。


「日夏に、健やかに学生生活を送ってもらいたいんだ。わかるね」


 理事長室で、頼まれた。あまたの生徒たちから、幸人に白羽の矢が立ったのは、ひとえに幸人が生徒会の一員で、幸人もまた、理事長と伯父甥の関係だったからだ。間地家に嫁いだ幸人の母は、理事長の妹で、日夏の母の腹違いの姉なのだ。日夏は自分の家系について興味がないため、幸人と従兄弟であることについては知らないし、理事長もしいて知らせたくはないようだった。日夏に「囲われ」の意識を負わせないために。


 正直、厄介なことになったなと思った。けれど、一族に関わることであったし、乗り掛かった舟だ。学園生活に慣れるまでということで、面倒を引き受けた。

 日夏は、無思慮なところはあったが付き合えないことはなかったし、なにより、境遇が少し、和希と似ていた。慣れない生活で不便を感じているだろうから、それなりに心を砕いてやろうと思った。

 和希との時間をとれないことが辛かったけど、和希が一生懸命、会いに来てくれるのは嬉しかった。

 日夏が聞いてくるのをいいことに、幸人は和希のことを惚気た。日夏は学園では外様なので、派閥を気にせず話すことができたからだ。幸人は比較的円満に、この非日常をこなしていると思っていた。

 けれど、それは甘い考えだった。まさか、日夏が、和希をあんな風に傷つけるなんて。

「仮面」などと、もっとも和希が言われたくないことを、言ったのだ。自分から、どれほど和希がいい子であるか、聞いていながら。ずっと、和希に気遣ってもらっておきながら。

 日夏は、ずっと和希との関係を突っ込んできたが、思えばそれも、和希への悪意からだったのだろうか。てっきり自分をからかっているのだと、流していた。

 バカだった。わかっていれば、昨日のことが起こった時点で、さっさと縁を切ったのに。後手に回ったせいで、もっと和希を傷つけることになってしまった。

 もう、金輪際、縁を切ろう。理事長にも話を通しておけばいい。日夏はほかに友人もできているし、そうごねまい。


「ごめんな、和希」


 和希はまた、首を振る。ずっと顔を隠していて、手の甲に、涙が幾筋も伝った。それを包んでやると、びくりと震える。

 顔を隠すのは、追い詰められた時の、和希の癖だ。痛々しくて、幸人は胸が詰まった。

 昨日の今日で追い打ちをかけられ、どれだけ傷ついただろう。そもそも、以前から、和希は追い詰められていたのかもしれない。最近はずっと、和希の傍にいてやれなかったから。

 守れなくて、ごめん――懺悔するように、手の甲にキスを落とす。


「ごめんなさい」


 ふるえる声で、和希が謝る。幸人はぎゅっと抱きしめてやる。愛してると伝えるために。


「好きだよ、和希」

「僕も、好き……」

「お前を、もう誰にも傷つけさせない。俺が守るから」


 決意を込めて、告げると。和希はうなずいてくれた。「ごめんなさい」と「ありがとう」に混じって泣き声が、和希の唇からこぼれだした。和希のこめかみにキスをする。


「キスしたい。してもいいか?」


 和希は少し黙って、それから、「ひどい顔してるから」と細い声で言った。うなじが真っ赤に染まっている。求められているとわかって胸がいっぱいになる。

 幸人は、和希の手を外してやる。和希は必死に顔を俯かせて逃げた。幸人は、顔をそっと持ち上げ、まっすぐに覗き込んだ。


「きれいだよ」


 涙でぐちゃぐちゃになった、赤い顔いっぱいに、キスを降らせた。怯えた涙を吸ってやると、和希は「ぁっ」と、小さく声を漏らした。


「すごく可愛い。和希」

「ゆきちゃん……」

「好きだ」


 和希の目から、大粒の涙が落ちる。幸人はそれを手に受け――和希の唇に、深く口づけた。



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