襲撃。
僕は買い込んだ品物をかついで地下駐車場に降りた。
一応、こっそりと忍び込む。
もっとも先輩は周りから見えてないのをいいことに、真ん中を堂々と。
ある意味、羨ましい。
ベンツなんかの外車と、国産セダンが数台。
こういう時はベンツがいいのだけど、ちょっと頑丈すぎる。
「見つけた」
安っぽい白いバン。
おそらくはホテルの車。
そうそう。こういうヤツ。
何をしたいかって?
給油口にドライバーをさしてひっぺがす。
結構簡単に開く。
細く丸めたハンカチを差し込んでガソリンを吸う。
百円ライターを取り出して遠慮なく火をつける。
そう。燃やすんだ。盛大に。ヤツらの出口を塞ぐ。
絶対に逃がさない。
車の下にカセットコンロのボンベが詰まった鞄を放り込んでおく。
少しずつ火が大きくなっていく。ボンベに引火すればもっと大きく燃え上がる。
僕は振り返ってダッシュする。
エレベーターに飛び付き、呼び出しボタンを押す。
火は大きくなっていく。そして車を包む。
扉が開いた。
目指すは十三階。
だけど、ロビーのある一階で一度、扉が開く。
その瞬間、地の底から爆発の音。
ホテル全体が震える。
ロビーのホテルマンたちが焦ったように飛び出す。
僕は素知らぬ顔でエレベーターから出た。
これでエレベーターは使えない。だから階段を捜す。
非常ベルが鳴っている。
隣には先輩。
笑っていた。
「全部、燃やしちゃうの?」
「いや。逃げ道さえなくなれば充分」
本当は非常階段もつぶしておきたいが贅沢は言えない。
階段を一歩一歩上がる。
何事かと駆け降りてくる連中をかきわけながら上へと向かう。
十階を越えたあたりで人がいなくなった。
十三階……か。
僕はマカロフを抜いた。
ゆっくりと上がる。
先輩がすっと先へ進んだ。そして顔を扉の中へと突っ込んだ。
そして。
「ここにいるよ」
扉から半分体を出して、指さしている。
僕はゆっくりと近づいた。そして扉の向こうに向けてマカロフを構えて引き金を引く。
「ぐあっ!」
叫び声。
当たり。
うーん。ずいぶん卑怯な銃撃戦だよな、これ。
「次は?」
「えっとね。このへん」
引き金を二回。
叫び声。
次は右を向いて。
「ここ、ここ」
引き金を二回。
これで五発。
あと、三発。
奥のドアと共に拳銃弾とは違う野太い轟音。
盾にしていた壁の柱が削られる。
ショットガンか。
「オラァ! 出てこんかい!」
「一人だけ?」
先輩に聞く。
「うん。一人だけ」
じゃあ。
鞄からスプレー缶を取り出して投げた。
案の定。
それはショットガンで撃ち抜かれた。
その瞬間、ゴキブリ退治用の殺虫剤は破裂して燃え上がった。
燃え上がった瞬間、僕は壁から飛び出し、慌てている男の顔にポイントする。
引き金を二回。
そのまま、マガジンを落として交換。
壁に背をあてて進む。
こうしていると、アクション映画のようだ。
だけど、酔っているヒマはない。
確実に。
作業をこなしていく。
残り九発。
すっと先輩が扉から顔を出す。
「あと、三人。一人はアイツ。アイツ」
「どこに?」
「ここ」
先輩は壁を指差した。
「ありがと」
二発。薄っぺらな壁はあっさりと抜ける。
「がっ!」
ついでにもう一発、ドアの鍵に向けて放つ。
ドアを蹴飛ばすと、中には二人。
春山の前に中年の男が一人。
どう転んでもヤクザには見えない。
と、すると。
父親か。
「な、何者だ? 君は」
「どけよ。あんたには用はない」
僕はまっすぐにマカロフをポイントする。
「うちの息子が何をしたと言うんだ? いったい」
「人殺し」
「バ、バカなこと」
会話するのも阿呆らしい。
やめていいかな。
やめよう。
僕はため息をついて、そして引き金を引いた。
「ひいいいいい」
春山が叫びを上げる。
「お、おおおおおおお俺が何をしたって言うんだ? 大体、何でお前はそんな簡単に人を殺せるんだよ? 俺たちが殺したのはたった、たった一人だぜ? お、お前は何人殺したんだよ! お前の方がよっぽど人殺しじゃねぇかよ!」
「そうだな」
「な、何だよ?」
「僕はあんたが人を殺したから、あんたを殺そうとしてるんじゃない」
僕は呟いた。
「あんたの罪なんかどうでもいい。僕の罪もね。僕があんたを殺すのは、あんたが先輩を殺したからだ。罪の重さなんか知るか! 罪なんて知るか! 僕はただあんた達を殺したいだけだ」
僕は引き金を引いた。
春山の足に穴が開いた。
「うっぎゃあああああああ」
じたばたと暴れまわる。
ポケットからカッターナイフを取り出す。
きちきちと刃を繰り出す。
「先輩を切り裂いたのはあんたか? いや、まあ誰でもいいや。他の連中は切り刻めなかったし」
僕は一歩踏み出した。
その時、体がいきなり吹き飛んだ。
前のめりに倒れる。
口の中に鉄の味。
背中、というか脇腹がひどく痛い。
手を当てる。
ぬめりとした感触。
血だ。
振り返ると、拳銃を構えた男が一人。
「終わりだよ、小僧」
そう言いつつ、銃口が細かく震えている。
見ると無傷というわけじゃない。
「よ……よくやったな!」
春山が叫んだ。
そして僕におおいかぶさる。
マカロフを僕の顔に向ける。
「さて、いろいろ言ってたけどよ、結局こんなもんよ。さ、殺してやるよ」
「安全装置」
「え? 何?」
春山は馬鹿正直に手の中のマカロフを見る。
僕はポケットのペッパースプレーを浴びせる。
「がっ!」
両手で顔を覆う。
そこへ、カッターナイフを突っ込んだ。
そのまま思い切り振り抜く。
カッターの刃が折れて春山の顔に残った。
「う……ああああ」
僕は春山が手放したマカロフを掴むと胸に押しつけるや、引き金を引いた。
「ああああっ」
春山の叫び声が部屋に満ちる。
「小僧ーっ!」
男が銃を構えた。
僕は春山を盾にしたまま引き金を引いた。
そして、静寂がやってきた。




