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眠れぬ夜と灰色の朝。  作者: 阿月
33/35

襲撃。

 僕は買い込んだ品物をかついで地下駐車場に降りた。

 一応、こっそりと忍び込む。

 もっとも先輩は周りから見えてないのをいいことに、真ん中を堂々と。

 ある意味、羨ましい。

 ベンツなんかの外車と、国産セダンが数台。

 こういう時はベンツがいいのだけど、ちょっと頑丈すぎる。

「見つけた」

 安っぽい白いバン。

 おそらくはホテルの車。

 そうそう。こういうヤツ。

 何をしたいかって?

 給油口にドライバーをさしてひっぺがす。

 結構簡単に開く。

 細く丸めたハンカチを差し込んでガソリンを吸う。

 百円ライターを取り出して遠慮なく火をつける。

 そう。燃やすんだ。盛大に。ヤツらの出口を塞ぐ。

 絶対に逃がさない。

 車の下にカセットコンロのボンベが詰まった鞄を放り込んでおく。

 少しずつ火が大きくなっていく。ボンベに引火すればもっと大きく燃え上がる。

 僕は振り返ってダッシュする。

 エレベーターに飛び付き、呼び出しボタンを押す。

 火は大きくなっていく。そして車を包む。

 扉が開いた。

 目指すは十三階。

 だけど、ロビーのある一階で一度、扉が開く。

 その瞬間、地の底から爆発の音。

 ホテル全体が震える。

 ロビーのホテルマンたちが焦ったように飛び出す。

 僕は素知らぬ顔でエレベーターから出た。

 これでエレベーターは使えない。だから階段を捜す。

 非常ベルが鳴っている。

 隣には先輩。

 笑っていた。

「全部、燃やしちゃうの?」

「いや。逃げ道さえなくなれば充分」

 本当は非常階段もつぶしておきたいが贅沢は言えない。

 階段を一歩一歩上がる。

 何事かと駆け降りてくる連中をかきわけながら上へと向かう。

 十階を越えたあたりで人がいなくなった。

 十三階……か。

 僕はマカロフを抜いた。

 ゆっくりと上がる。

 先輩がすっと先へ進んだ。そして顔を扉の中へと突っ込んだ。

 そして。

「ここにいるよ」

 扉から半分体を出して、指さしている。

 僕はゆっくりと近づいた。そして扉の向こうに向けてマカロフを構えて引き金を引く。

「ぐあっ!」

 叫び声。

 当たり。

 うーん。ずいぶん卑怯な銃撃戦だよな、これ。

「次は?」

「えっとね。このへん」

 引き金を二回。

 叫び声。

 次は右を向いて。

「ここ、ここ」

 引き金を二回。

 これで五発。

 あと、三発。

 奥のドアと共に拳銃弾とは違う野太い轟音。

 盾にしていた壁の柱が削られる。

 ショットガンか。

「オラァ! 出てこんかい!」

「一人だけ?」

 先輩に聞く。

「うん。一人だけ」

 じゃあ。

 鞄からスプレー缶を取り出して投げた。

 案の定。

 それはショットガンで撃ち抜かれた。

 その瞬間、ゴキブリ退治用の殺虫剤は破裂して燃え上がった。

 燃え上がった瞬間、僕は壁から飛び出し、慌てている男の顔にポイントする。

 引き金を二回。

 そのまま、マガジンを落として交換。

 壁に背をあてて進む。

 こうしていると、アクション映画のようだ。

 だけど、酔っているヒマはない。

 確実に。

 作業をこなしていく。

 残り九発。

 すっと先輩が扉から顔を出す。

「あと、三人。一人はアイツ。アイツ」

「どこに?」

「ここ」

 先輩は壁を指差した。

「ありがと」

 二発。薄っぺらな壁はあっさりと抜ける。

「がっ!」

 ついでにもう一発、ドアの鍵に向けて放つ。

 ドアを蹴飛ばすと、中には二人。

 春山の前に中年の男が一人。

 どう転んでもヤクザには見えない。

 と、すると。

 父親か。

「な、何者だ? 君は」

「どけよ。あんたには用はない」

 僕はまっすぐにマカロフをポイントする。

「うちの息子が何をしたと言うんだ? いったい」

「人殺し」

「バ、バカなこと」

 会話するのも阿呆らしい。

 やめていいかな。

 やめよう。

 僕はため息をついて、そして引き金を引いた。

「ひいいいいい」

 春山が叫びを上げる。

「お、おおおおおおお俺が何をしたって言うんだ? 大体、何でお前はそんな簡単に人を殺せるんだよ? 俺たちが殺したのはたった、たった一人だぜ? お、お前は何人殺したんだよ! お前の方がよっぽど人殺しじゃねぇかよ!」

「そうだな」

「な、何だよ?」

「僕はあんたが人を殺したから、あんたを殺そうとしてるんじゃない」

 僕は呟いた。

「あんたの罪なんかどうでもいい。僕の罪もね。僕があんたを殺すのは、あんたが先輩を殺したからだ。罪の重さなんか知るか! 罪なんて知るか! 僕はただあんた達を殺したいだけだ」

 僕は引き金を引いた。

 春山の足に穴が開いた。

「うっぎゃあああああああ」

 じたばたと暴れまわる。

 ポケットからカッターナイフを取り出す。

 きちきちと刃を繰り出す。

「先輩を切り裂いたのはあんたか? いや、まあ誰でもいいや。他の連中は切り刻めなかったし」

 僕は一歩踏み出した。

 その時、体がいきなり吹き飛んだ。

 前のめりに倒れる。

 口の中に鉄の味。

 背中、というか脇腹がひどく痛い。

 手を当てる。

 ぬめりとした感触。

 血だ。

 振り返ると、拳銃を構えた男が一人。

「終わりだよ、小僧」

 そう言いつつ、銃口が細かく震えている。

 見ると無傷というわけじゃない。

「よ……よくやったな!」

 春山が叫んだ。

 そして僕におおいかぶさる。

 マカロフを僕の顔に向ける。

「さて、いろいろ言ってたけどよ、結局こんなもんよ。さ、殺してやるよ」

「安全装置」

「え? 何?」

 春山は馬鹿正直に手の中のマカロフを見る。

 僕はポケットのペッパースプレーを浴びせる。

「がっ!」

 両手で顔を覆う。

 そこへ、カッターナイフを突っ込んだ。

 そのまま思い切り振り抜く。

 カッターの刃が折れて春山の顔に残った。

「う……ああああ」

 僕は春山が手放したマカロフを掴むと胸に押しつけるや、引き金を引いた。

「ああああっ」

 春山の叫び声が部屋に満ちる。

「小僧ーっ!」

 男が銃を構えた。

 僕は春山を盾にしたまま引き金を引いた。



 そして、静寂がやってきた。

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