終わりに向かう戦いと騒動
上手くいけば明日には完結させることが出来るかと。
「どうやって、この状況を作り出したの?」
今度はカシェルが、賢狼に向けて問いかける。
しかしジルとは違い、槍も構えず、ただ真っ直ぐに相手を見据えて。
「そうやって酷い環境にいたんなら、こんな真夜中に逃げ出して、学校内に侵入することなんて出来ないはずでしょ?」
敵意なんて見当たらない。
それはきっと、魔族の友人を持つが故、だろう。
「お嬢さん、今ここにあるコレは、何か分かるかな?」
そう言って、地面を指差す。
「……魔法、でしょ?」
「その通り。つまり今、この場においては魔法を使うことが可能だと言うことだ」
それはきっと、森の中にあるとされていた魔傷石が、破壊されているから。
「今この場には転移の魔法。そして街には夢の魔法が使われている。それだけだ」
「夢の魔法……?」
「夢を見せ、その夢の中で人を操る魔法だ」
「ナイトメア……!」
思い至ったその言葉がつい、俺の口から漏れてしまった。
「ほぅ……キミは知っているのか……ん? キミは……少年と言うべきか、少女と言うべきか……」
「どちらでも結構」
おそらくは、夢という人の内側を見ることが出来る魔物だからこそ、この身体と心の違いに気付いている。
でも今はそんなこと、些末な問題だ。
「こちらが知ってるナイトメアという魔族は、馬のようなものだと思っていたが?」
とは言うものの、これもまた物語で得た知識なので、正確なのかどうかは分からない。
「なら、その情報は誤りだ。我々ナイトメア族は、昔から外見に統一性は存在しない。他種族相手に、眠った相手の夢を見ることが出来る存在で、その夢を介して自由に出来さえすれば……そうした力を持つもの全てが、ナイトメア族と呼ばれている」
なるほど……そこは別世界だからこその差異なのだろう。
「ならあなたは、その魔法陣を制御しながら、夢を使って人を操っていると?」
「この魔法陣は、我のものではない」
「なら、あなたを喚んだ魔族の物……それに相違は無いな?」
「……なるほど。察しているのか、お前は」
「俺達全員が、だ。だからこれは、あくまで確認だ」
この“全員”の中にジルは含まれないが、そこまで相手に説明する理由なんて無い。
……分かりきっている。
ララが逃げ出して、しばらくしてこの魔法陣が出現したのだ。
そしてその魔法陣からこの賢狼が喚び出されたとなれば、嫌でも分かる。
分からないというのならそれは、認められないだけだ。
逃げ出したいと、ララは言った。
そのための魔法を準備していると。
ただその準備が、訓練場じゃなかっただけ。
そして帰るのが、彼女一人じゃなかったというだけ。
……魔族側が、どれだけの準備をし、これだけの街にいる魔族を帰らせる手はずを整えたのかは分からない。
しかし、リフィアが殺したとされる魔族に、魔晶石を破壊してもらったのも……帰りたいとカシェルにお願いしていたのも……俺達を訓練場にまとめ留めたのも……全てが、彼女の策略。
もしくは、大きな策略の中の、彼女が行うべきことだった手はずの一つ。
確かに、嘘は言っていない。
ただ、全ての真実を、言わなかっただけだ。
「さて……それでは確認も取れたところで、これからの話しをしよう」
賢狼はさらに一歩、こちらへと進んでくる。
両手を広げ、天を仰ぐようにして。
「君たちは人間だ。だとすれば、我々の逃走を止めたいと考えるか? それとも、その考えを捨てて、我々を見逃してくれるのか?」
「見過ごす訳にはいかない」
真っ先に答えたのはやはり、ジルだった。
「僕は貴族だ。このまま沢山の魔物がいなくなれば、街を運営している貴族が破綻する。それを止めるためにも、知ってしまった以上、ここで止まる訳にはいかない」
「あたしは……何もしない」
その答えに、ジルは驚きの表情をカシェルに向ける。
「ここは……見逃す」
「どうしてだ、カシェル殿! キミも貴族ならここは……!」
「ジグゼイル様が目指す騎士は、人しか助けないの?」
「……っ!」
その問いかけは、あまりにも残酷だ。
「あたしが目指す“人間”は、魔族も人も関係のない存在。だから、嫌な環境から逃げることを止めるなんて、出来っこない」
「だがそれで、人が皆困ってしまうんだぞ! ともすれば、この街が……!」
「その程度で壊れる街なら、壊れてしまったほうが良い」
それはきっと、家柄を嫌うカシェルだからこそ吐ける言葉。
「もし、あの人の言ってることが全て本当だったなら、人を雇う時に使うはずだったお金を使っていないことになる。そうして溜め込んで私腹を肥やす人間が闊歩する街なんて……無くなれば良い」
「…………」
「辛い思いをしている魔族を見てるのだってイヤ。でもそれ以上に、悪いことをしているのに、相手が魔物だからと悪いことをしていないと勘違いしている人ばかりなのが、もっとイヤ。一度壊れないと正せないのなら、壊れてしまえば良い。それがあたしの考え」
きっとそれは、流れのようなものだろう。
二人の視線が、俺へと向けられる。
「……このまま無理に止めても、きっといつか、暴動という形で爆発すると思う。そうならずに、逃げるという形で解決してもらえるのなら、それに越したことはない」
そこで一度、言葉を切る。
「でも……いきなり大量の労働力が無くなれば、街の機能が停止するのは目に見えてる。それは確かに自業自得かもしれないけれど、それでも人としての生活が困るのは、同じ人間として辛いと思う」
そこまで言うと、俺は剣を抜く。
柄頭に鎖が繋がったままの剣を抜き、鞘までも腰から抜き、左手に持つ。
「だから、“俺”は――」




