49章 真夜中の探索者達―――30:30:00
深夜二時半。酔い潰れた義妹を起こさないようひらり、ベッドを離れる。
「くーん?」
「ちょっと野暮用。留守番宜しくね」
返答に、一瞬長毛の奥の眼を開きかけたラフ・コリーは再び就寝。忠誠心より眠気優先か。結構結構。
財布をポケット、左手で半分残る飴袋を携え、自室を脱出する。
キィ。「……よし、オールクリア」
とっくに消灯時間の過ぎた廊下には、昨夜と同じく薄暗い非常灯のみ点灯していた。窓の外には相変わらず、名前の分からない無数の星に囲まれ燦然と輝く―――北極星が。
事前の約束通り、六号室のドアを小さく二度ノック。相手は足音を殺し、同室人に細心の注意を払いながら扉を開けた。
「まさか、本気でこんな遅くに来るとは……レイさん、相当深く眠っていますよ。一体どれだけ飲ませたんです?」
「たった四杯だよ。ま、あれでも頑張った方じゃない?」
「女王様の前だと俄然意地になりますからね、あの人。で、他に探索に必要な物はありますか?」
「へえ、よく捜査だって気付いたね」
「調べ物でもなければ、四六時中眠そうな女王様が起きてくる筈ありません。しかも選りに選って僕なんかを誘って」
「デートかもしれないよ」
「こんな丑三つ時にですか?謹んでもう一眠りさせて頂きます」
チッ、冗談の通じない衛兵め。
「まずはどちらへ?」
左右に伸びる廊下を交互に指差す。
「最初は七号車へ。持ち物はライトと貴重品があれば充分」
「了解しました」
一分後。カーディガン姿のアスを加え、列車の進行方向と逆に行軍開始。勿論、こんな遅い時間だ。通路には人っ子一人、
「―――ああ、意外といるものだね」「だ、誰だ!?」
ビクウッ!共同トイレ前にいたMr.Rことカーシー・ロイドは、天井に頭が着きかねない程吃驚仰天した。幾ら深夜と言え、可愛い女の子にこの怯えようは無いだろう。無礼者め。
「君達は……ああ、そうだ。確か四人組の」
「こんばんは、マジシャンさん。そろそろ出番なの?」
「またその話か」
不機嫌そうに顔を顰める。
「……ああ。車掌からどうしてもと頼まれて明日、いや今夜のディナーで二つ三つやる事になってる」
「それは楽しみです。僕、手品を見た事が無くて」
手を叩く衛兵。
「因みにロイドさんは、どんな手品がお得意なんですか?カード?コイン?それとも、もっと大掛かりなステージマジックを?」
好奇心たっぷりの質問に、手品師は怯えながらも答えた。
「せ、世間ではカードと言われているが、特には無いな……興行の場所に合わせて、万遍無くやってる」
「オールマイティなタイプなんですね、凄いです!」
私の命令が無くてもここが勘所と気付いたらしく、普段控えめな彼にしては強気の攻めを行う。効果覿面で、焦った手品師は額を拭った。
「あ、ああ……もう行ってもいいか?さっきまでバーで飲んでいて、いい加減眠いんだ」
言葉とは裏腹に、充血した目は冴え切っていた。瞼下には黒い隈。誰が見ても眠気とは真逆の状態だ。
「済みません、お引き止めてして。今夜はゆっくりお休み下さい」
引き際も自然だ。うむ、右腕として申し分無い働きじゃったぞ。
「でも、戸締りはしっかりね。この列車には怖ーい殺人鬼がうろついているもの―――だけど、お兄さんならへっちゃらだよね?」
「っ!!!?」
「お休み。運が良かったらまた会えるかも―――あれ、ダッシュで逃げる事無いのに」
軽く肩を竦め、後ろに控えた部下を見やる。
「一体どうしたんだろうね、あの人」
「マジシャンなのにマジックについての質問が嫌なようでしたし、挙動もかなりおかしかったですね。単に寝不足で機嫌が悪い、と言うのとも違うようです。大体、この旅行を全く楽しんでいないと言うのは……!?若しや、あの人が!!?」
彼の脳内に訪れた常識的判断に、私は両掌を頭上へ掲げた。
「あんなに肝が小さいのに?無理無理。でも―――当たらずとも遠からず、かな」
「??」
「ま、直接会って事情は理解したよ。行こ」
不思議がる衛兵にそう声を掛け、改めて目的地へ向け歩き出した。




