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流星疾走  作者: 夕霧沙織
49/82

48章 星降る酒場―――35:00:00



「―――はい、お待たせしました」


 温泉卵を留守番組に配り終え、食堂車での夕食後。俺とクラン、取材目的のセミアとKKの四人は、開店直後のバーへと赴いた。

 衛兵は昼間の温泉で久々に水恐怖症が再発したのか、ボビーを付き添いに先に部屋で休んでいる。まだ邪魔なおまけが二人いるが、クランを酔わせて良い雰囲気になる絶好のチャンス!が、


「わー、バイオレット・フィズだ!ありがとパレットさん。―――あれ、どうしたのレイ?まだそれ四杯目でしょ?」淡々とグラスを傾ける義姉を指差し、「くーちゃんはもう十杯目終わるよ。あれだけ強いって豪語してたのに情けないなあ」


 ラントから強いとは聞いていたが、最早そのレベルではない。完全にザルだ。俺の倍以上を飲んで(しかもしばしば咽喉が焼け付く程強い酒を)、未だ顔色一つ変えていない。こいつも不老の影響か?喋り方もまだ全然素面だし、見事に作戦失敗だ。

「こんなに酔わない人、僕初めて見ました。でも、セミアさんも結構強いんですね」

「私は度数の低いのばかり選んでるもの。KKも記念に一杯ぐらい飲めば?」

「えっ!?い、いえ、でも」

 烏龍茶片手に慌てる未成年。

「宜しいと思いますよ。部誌のお写真用に、当列車限定の一杯をお作りしますから」

「そんなのあるの?へー、私達も欲しいな。あ、けどレイはギブアップ?」

「あ、ああ……俺は水にしとくぜ」

 座っている傍から景色がぐるぐるしやがる。部屋に帰るまでに、少しでも酔いを冷ましておかないと本気でヤバい。

「じゃあ三つお願い」

「畏まりました」

 バーテンダーは背後の棚からウォッカを始め数種類の瓶を取り、氷と共にシェーカーで混ぜ合わせる。そうして完成した黒い液体を足の長いグラスに注ぎ、仕上げに細かな金粉をぱらぱら。まるで満天の星空が凝縮されたような一杯に、全員思わず目を奪われた。

「どうぞ」

 誇らしげに幻想的な三杯、ついでにお冷を差し出す。

「わあ、綺麗ですね!」

 パシャッ!パシャッ!出来たてをカメラマン達が素早く撮影。終わった所でクランが手を伸ばす。

「このカクテル、名前は?」

「勿論、トワイライト・スターレインです」

「だと思った。頂きます」こくっ。「へえ、ウォッカ入りなのに意外と甘いんだ」

「不思議な味だね。辛いような甘いような、少し苦味もありつつ後味はスッキリして……」舌で転がし、「何とも表現し辛いお酒だね。上級者向け?」

 人生初のアルコールを恐る恐る口にしたKKも、流星の魔力が効いたのか憑かれたように飲み進める。その様子を得意げに見つめるバーテンダー。

「にしても、折角開いたのに誰も来ないぞ。あの手品師も楽しみにしてたのに、オープンしたの知らないのか?」

「手品師って?―――え、超有名人じゃない!?四号室にそんな人いたんだ!通り掛かってもずーっと閉まっているから、てっきり空き部屋かと思ってた」

「さっき食堂にもいたよ、セミア。ほら、一番奥に一人でいた男の人」

「ホント?うーん……あの辺りではベルイグ小父さんがずーっと肉肉言ってたから、周りのお客さんなんて覚えてないよ」

 尤もだ。あんな不摂生を続けていたら、その内血栓が詰まってポックリ逝くんじゃないか?

「大丈夫。この旅が終わるまでにはきっと会えます」

「じゃあ今度いたら教えてね、二人共。取材ついでに一枚撮らせてもらうから」

 やれやれ、すっかりジャーナリストだな。と、持っていた手帳を開き、ペンを構える。

「ところでパレットさん。このカクテルを開発した経緯を聞いてもいいかな?と言うか、カフェもバーも一人でやれるなんて凄いね」

「高校時代に本格派カフェでバイトをしていて、カクテルは大学のサークルで学びました。何でも勉強しておくものですね」

 朗らかな微笑みを浮かべた後、やや声を小さくして言葉を続ける。

「―――実はこのスターレイン、三人で作ったんです。グランダもキムも、仕事終わりなのに毎日試飲に付き合ってくれて……あの頃は二人共、朝でもお酒の臭いをさせていたわ」

 まるで憑き物が落ちたように、楽しげに思い出を話し始めるシーさん。とても今朝、上司に向かって激昂していた人物とは思えない。

「機嫌良さそうだね。何かグッドニュースでもあった?」

 聡いクランの問い掛けに、内緒です、でもあなたなら見抜いているでしょう?逆に訊き返した。まぁね、肩を竦める女王陛下。??

「ふぅん。じゃ、三人の親交の経緯も聞かせてくれる?」

「入社式で初めて会って、その……私、グランダに一目惚れしてしまったの。後で聞いたら、彼も同じタイミングで私を見初めていたらしいわ。それで二人共、キムにずっとお互いの事を相談していたの。今考えると凄く滑稽よねそれって、ふふ」

 噴き出した彼女の目に映る、幸せで温かな愛の光。

「へえ、どんな所が気に入ったの?」

「料理に対してとても真摯な所とか、少し口調はぶっきらぼうだけど誠実な性格とか……私、小学校からずっとお嬢様系の学校にいたから、彼みたいな人は新鮮だったの」

 成程な。あの豪放磊落なコックと慎ましい彼女ならお似合いのカップルだ。


「―――でも、キムは死の前日、私達二人を呼び出したの。そして、あっさりお互いの恋心を打ち明けてしまった―――そんな事をしたのは間違い無く、彼が自分の殺害を予期していたからよ。だけど……」


 回想するのも嫌な筈の辛い告白。が、バーテンダーの口端は何故か―――にぃっ、悪戯っぽく上がった。



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