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流星疾走  作者: 夕霧沙織
48/82

47章 二度目の再出発―――41:30:00




 プシュー……ゴッ、ゴッ、ゴゴゴゴゴ―――!「あーあ、もっと色々見て回りたかったなあ……」


 遠ざかる観光都市をカフェバーで見送りながら、義妹は捜査員が撮ったばかりの写真を手で弄んだ。その内の数枚、毒殺熱傷死体を写した物を選り分け、しげしげと眺める。

「うーん、湯気が邪魔でどれもぼやけてるなあ。何か捜査の役に立つ物が写ってないかと思って借りたのに」

「用心深い犯人みたいだし、難しいんじゃないか」

「おまけに全裸」

 そう雑談していると、ガラガラガラ。下り方面から那美と車掌が戻って来た。

「どうでしたか、お二人共?」

 衛兵の問いに、列車の最高責任者は渋面のまま首を横にする。

「クランとベアトリーチェさんの推理通りです。シャワールームの床はまだ濡れていた上、ビア夫人の毛髪と皮膚片が付着していました。凶器の電気ポットも、つい今朝まで使われていた形跡が」

「脱がされた服は?」

「旅行鞄の一番上に丸めて押し込んでありました。しかし、貴重品は特に手を付けられていません。あ、セミアちゃんありがとう。返しておきます」

 礼を言い、ポラロイドカメラを渡す。また全部使ってるし……小声でぼやく義妹。

「で、肝心の犯人の手掛かりは?」

 レイが尋ねる。

「残念ながら一切。一応ビア夫人が何か書き残していないか、荷物を全て改めたのですが……三泊四日とは思えない量の化粧品と服、アクセサリーが詰まっていただけでした」

「だろうね。被害者候補の様子は?」

「縁起でもない事を。―――帰宅しなかったまでは良かったですが、相変わらず部屋に籠城中ですよ。声を掛けてもすっかり怯え切って、一向に出て来る気配がありません」

 バシッ!拳を掌に叩き付ける。

「大丈夫だと言っても、ずーっとブツブツブツブツ……いっそ引き摺り出して、一切合財尋問して情報を引き出しましょうよ。勿論、扉の修理代は先生名義で経費で落として」

「え?宝さん、流石にそれはちょっと……」 

 学生の戦々恐々とした視線に珍しく気付いたのだろう。わざとらしく咳払いするアルバイター。 

「ま、まぁ空腹になれば、その内嫌でも出て来るでしょう。それにあれだけ警戒心剥き出しなら、犯人もそうそう近付けない筈」

「那美それ、ミステリー小説だと駄目な典型パターン……あ、コックさんだ。ただいまー!」



 掃除道具搭載ワゴンを押し、車掌の後ろから現れた男性乗務員。年不相応な呼び掛けに答え、愉快げに鼻で笑う。

「ああ、お前等か。今度はあのいけ好かないババアが殺られたんだって?ハッ!いい気味だな」

「グランダ君!?」

 上司の注意も、御機嫌な料理人には通用しない。

「あんただって大概腹に据えかねてたじゃないか、ビーツェ車掌。あの親子ときたら運行計画からアメニティ、食事メニューに至っては何回変更させられたか……まさか覚えてないなんて言わないよな?」

「あ、ああ……しかしお客様方の前で言う事では」

「俺達は別に構わないぜ。なあ?」

 レイの呼び掛けに揃って頷く三人プラス一匹。

「既にお聞きかもしれませんが、夫人はかなり酷い状態で発見されました。どうやらあなた同様、彼女を恨んでいる人は多そうですね」

 アスの指摘に、コックは反対側のテーブルに凭れ、本格的に議論へ参加する姿勢を見せた。

「寧ろ北斗社であいつ等を好きな奴の方が稀少さ。あと生憎、パレットからは死んだ事しか伝えられてない。良ければあの雌豚の死に様を教えてくれないか?―――ほう、今度も見事に予告状通りだな!」

 げらげらげら。

「ねえ、良い気分ついでに教えてコックさん。遺体が運ばれたのは、スターレイン号が停車した後。誰か、不審人物を見ていない?」

「そいつは多分無え。ヘルンの政府員達が木乃伊を運び出す間、居残りの乗客は全員部屋を出るなと通達されていたからな」

「もし遺体と鉢合せしたらパニックになると思ったので―――ええ、私達は運転車で事情聴取を受けていました。彼等が引き揚げた後、私は急いで燃料と食材の補給を。グランダ君には御覧の通り、各部屋の掃除をお願いしました」

「じゃあ二号室も?」

 義妹の質問に、彼は首を横へ。

「いや。降りた乗客の中にいないのは確認してたからな。一応ノックだけして、返事が無かったんでそのまま素通りした」

 返答を聞き、衛兵が唸りつつ口を開く。

「そうなると、目撃証言に関してはほぼ絶望的ですね……あ、ところでベルイグさんと栗花落さんは?」

「あのお二人なら、史跡と土産物巡りでずっと街の方へ出掛けていましたよ。戻られたのは皆さんの五分ぐらい前です」

「そ、そうですか……」

 ちゃっかり旅行を楽しんでるなあ、オジサン。私達も負けていられない。

「じゃあさ、コックさん。オバサンってもしかして、今朝話してたキムさんの『悪口』を言ってなかった?」

「!!?あ、ああ……そうか。じゃあ、やっぱり連続殺人犯の目的は、あいつの復讐……!!」

「それはまだ早合点かもしれないけど、納得ついでにもう一つ聞かせて。―――十一号室のターラー元弁護士。可愛い恋人と同じく、あなたも大層お嫌いなんじゃない?」

 分かり易くカッ!目を見開いた彼は、無意識に後ろのテーブルクロスを強く掴む。

「……当たり前だ。あいつが弁護さえしなければ、オットーの奴は今頃とっくに刑務所へ行ってくれてたんだからな。大金積まれりゃどんな手段も平気で使うとは聞いていたが、まさか本当だったとは」

「裁判官を買収したり?」

「ははっ!本当に兄妹じゃないのか?その身も蓋も無え言い方、まるでキムそっくりだ」

 一頻り笑った後、強健な体躯から重い溜息を吐く。

「―――ああ、あくまで噂だがな。一号室のボンボンには悪いが、金に弱い公務員は多いって事だ」

 尤もな返事に、私達一同小さく頷いた。そして、


「なら、もう確定だね―――次の犠牲者は間違い無くあのお爺さんだよ。良かったね、やっぱり悪は潰える運命なんだ」パチパチ。「ちょっと気が早いけど、今夜は祝杯を挙げよう」


 不謹慎な台詞に蒼褪める周囲を差し措いて、コックだけはお腹を抱えて大笑いした。



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