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流星疾走  作者: 夕霧沙織
33/82

32章 懐古する友人達―――57:40:00




「適当に座って。今準備するわ」「ありがと」


 テーブルの折詰以外、先程とほぼ変わらない三号室。二人分にしては小さくて可愛らしい旅行鞄も、相変わらずソファの端に置いてある。

 ギシッ。暇なので空の車椅子に座ってみる。そこへウイスキーとミネラルウォーター、そして二つのグラスを手に戻ってきた友人は目を丸くした。

「何やってるの?」

「座り心地の確認。でも、ちょっと期待してたでしょ?」ウインク。

 意図を悟った彼女は割れ物をテーブルに置いた後、お腹を抱えて大笑いした。挙句ひきつけを起こし、何度か咳き込む。

「クランは本当に変わらないわね!あぁ可笑しい……!!」

 どうにか落ち着き、未だ震える手でウイスキーの水割りを作り始める老婆。

「あなたは生の方がいい?生憎年には勝てなくてね、しばらく前から薄めないと飲めなくなったの」

「なら私も割って。どうせ酔わないんだし、勿体無いから」

「ああ、そう言えばそうだったわね」

 琥珀色の液体で満ちたグラスを受け取り、私は改めてソファへ座る。


「では―――四十七年振りの再会に乾杯」「乾杯」チン。


 ウイスキーで咽喉を湿らせながら、ベアトリーチェはテーブル上の折詰を開く。

「一応グラシアの分を貰っておいたの。私はもう食べたから、遠慮せずどうぞ」

「ありがと。では早速」 

 グサッ!フォークをメインディッシュのチキンステーキに突き刺し、もぐもぐ。

「へえ、美味しい。流石はスイートのディナーだね。って言っても、結局ツインの料理は一口も食べず仕舞いだけど」

 続いてはサラダ。よく見ると、生野菜はこれ一品だけだ。どうやら発車前に粗方仕込みをし、直前には温めと盛り付けのみを行っているらしい。まぁただでさえ手が二本少ないし、当然か。

「こうやってあなたとお酒を酌み交わしていると、嫌でも昔を思い出すわ」


―――飲めるの、それ?

―――大丈夫よ。封はちゃんとしてあるし、濁りも特に無いわ。


「河から流れてきたお酒を飲むなんて、今考えるとよくお腹を壊さなかったものだわ」

「しかもその後、自転車で夕暮れの河原をかっ飛ばしたりしてね」


―――このまま海まで行っちゃいましょう!

―――無理だってば、酔っ払い。一体何百キロあると思ってるの?

―――大丈夫、朝まで漕ぎ続ければ辿り着けるわ。

―――そんなの体力が保つ訳無いでしょ。


 お互い郷愁に浸り、暫し沈黙が続いた。料理の咀嚼音と、時折グラスにお代わりを注ぐ以外は。

「……ふぅ、ご馳走様」

 完食した折詰に蓋をし、二杯目のウイスキーで脂っぽい口内を洗い流す。そうしてから酔いが回り、とろんとした目の親友を見やる。

「―――『万里眼』だってさ、私達の目。セミアが名前を付けてくれたの」

「あら、そう……それは残念だわ」

 ソファの背に皺の浮き出た首を預け、天井を見上げながら呟く。

「随分前、私も大事な人に命名してもらったの―――『魔人眼』、中々皮肉が効いていいでしょう?凄く気に入っているわ」

「そうだね。ベアトリーチェにはピッタリだと思うよ」

「ありがとう。クランならきっと分かってくれると思ってた」

 幸福な溜息を吐き、旧友はうっとりと瞼を閉じた。



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