29章 失踪―――60:30:00
他の面子を残し俺とクラン、那美は悲鳴の上がった六号車の三号室に向かう。二号車から車内へ上がる際、入口で何か違和感を覚えたが、考えるのは後だ!
ドタドタ、バタン!「大丈夫ですか、フェンさん!?」
ノック無しでドアを全開にした那美は大声で問い、鋭い眼光でスイートルームを見回す。ツインと違い、こちらはソファと寝台が別のようだ。だが当然、ベッドの下には大の男が隠れられるような隙間など無い。
一通り視線を巡らせた後、捜査員はソファ手前に置かれた空の車椅子を指差した。
「御主人はこちらに座っていたんですか?」
「ええ。グラシアは最近脚が悪くて、痛む日はこれに乗って移動していたんです。クラン達は乗車の時に会ったから知っているわよね?」
「うん。―――いないのに気付いたのは、食堂から戻った後だよね?」
「ええ。最初はトイレにでも行ったのかと思ったのだけど、一向に戻って来なくて。それで他の部屋の人にも尋ねて回って、でも何処にも」
「ふぅん……」
女王陛下は外の夜空をぼんやりと眺め、一応もう一回捜してもらう?尋ねた。
「ええ、出来れば」
「だってさ、那美。列車は停止中だし、そろそろサボりのおじさんにも働いてもらえば?」
「言われなくてもそうします。御主人はグラシア・フェンさん、ですよね?良ければお写真を」
「はい、どうぞ」
瞬時に目的の物を差し出され、やや面食らって目を白黒させた。
「ど、どうも……準備がいいんですね。流石はクランの旧友」
謎の納得後、受け取った写真を俺達にも見せる。写っているのは何処にでもいそうな極普通の夫婦だ。後ろで横顔を向けているのは息子だろうか?母親似の優しい面差しをした、俺とそう年の変わらない緑色の瞳の若者だ。
「ありがとうございます。では、少しの間お借りしますね。ええと、因みに一人で車外へ出たと言う事は」
「多分無理だと思います。ほら、今は出入口にスロープを置いてくれていないでしょう?段差があり過ぎますから、脚の不自由なあの人一人では降りられない筈です」
勿論、外にそれらしい人物は転がっていない。つまり、彼はまだ車内の何処かにいる。
そこでこっそりクランの様子を窺うと、彼女は実に面白くなさそうな顔でボビーの毛並みを撫でていた。いつもの眠たげな表情でなく、欠伸もしていない。そうか。大切な友人に災難が降り掛かり、強い憤りを感じているんだな。
「分かりました。では」「待った」
女王陛下は腰に手を当て、何故か重い溜息を吐いた。
「あのさ、ベアトリーチェ。友達として私、この場合どうすればいいの?」
「さあ?お好きにどうぞ。でも仮令どうなっても、私達の友情は翳ったりしないわ」
「随分優しいのね。それとも―――どうでもいいだけ?」
静謐な視線の応酬は、喧しい程の足音に因って強制的中断された。
バタンッ!「た、大変だ宝さん!新たな手紙が!!」「何ですって!!?」




