2章 テーブルゲーム・クイーン―――92:20:00
「―――ラントと?」「!!?」
“碧の星”辺境、山岳王国クオル。城内の大広間に入ってきた四天使に、欠伸を噛み殺しつつ開口一番そう確認する。
「な、何故今日の訪問理由が分かったのです!?し、しかも彼と旅行に行く事まで!!?」
わたわたわた!全く。この箱入り天使と来たら……ま、見てる分には面白いからいいか。
「一、つい十分前にお兄ちゃんが同じように駆け込んできた。二、散々イスラの事を訊いた挙句。三、今は倉庫で自棄になって薪割りしている。あ、革命ね」
パサッ、手に持っていたカードをテーブルへ放って宣言する。
「え、嘘?やだ、最後なのにお婆ちゃん負けそう」
「相変わらず絶妙の酷いタイミングで仕掛けてきますね、女王様は」
「くーん」
大富豪の勝利条件は至ってシンプル。要は最終ゲームで、誰より先に全てのカードを手放せばいい。仮令今までのゲームが大貧民道一直線でも、ここで上がってさえしまえばノープロブレムだ。
得意だと言うキュクロスお婆ちゃんは勿論だが、衛兵もオーソドックスながら中々良い筋をしている。手札が推測出来てしまうこの『眼』の力さえなければ、きっともう数百倍は楽しめたのだろうけど。
それでも決着直前まで大富豪&富豪を譲ってきたのは、二人への私なりのハンデだ。誘ってもらった恩もあるし、ね。
「だ、大父神様が、そこまで私の事を……ああ、矢張りきちんとお伝えしなければ……!失礼します!!」
そう叫び、大広間を飛び出す保護者。と、途中でくるっ!捻挫しそうな程首を曲げて振り向いた。
「ですので明日から四日間、私は見守りにも『件の事』にも来られません。人形も今回は別の任務中なので、くれぐれも危険な真似などしないようにして下さいね!」
それでボカしているつもりか、イスラ。これには隣の当事者も苦笑を禁じえない。
「あー、はいはい。分かったから早く行きなよ。お兄ちゃんもやしっ子だから、今頃肉離れで悶絶してるんじゃない?あと、あんまり慌てて走ると」ばたばたばた、ずてっ!「わっ!?」
あーあ、つくづく人のアドバイスを聞かない四天使様だ。ま、いっか。こっちはこっちで忙しい。
「案内しなくて宜しいんですか?」
「交信機能付きだし、いざとなったら水鏡で捜すでしょ」
さて。二人は残り五枚、私は七枚か。示し合わせれば唯一の勝機、革命返しが可能なんだけど、二人の性格だとまずやらないか。これが現在外出中の義妹とレイなら、お互いの手札を見せ合って堂々と作戦会議やるんだけど(但し勝てるとは言っていない)。
「旅行で三泊四日って言うと何処だろうねぇ」
「以前行ったスキーが一泊二日でしたから、今回は随分長いですね。突然休暇を申請されて、大父神さんが慌てふためくのも分かります」
「あれは単に過保護なだけだよ。お婆ちゃんはパス?」
「そうだねぇ」パサッ、パサッ。「持ってるカードが一気に弱くなっちゃったから、当分出せる物が無いよ」
「では、一回飛ばして僕の番ですね」
そう言って衛兵は唯一の、そしてゲーム中最後のカードをテーブルへと置いた。内心笑いつつ、じゃあ一気に行かせてもらうね、淡々と告げる。
「はい」まずは一枚。「一応訊くけど、何か出せる?」
「ううん」「いいえ」「くーん」
「いや、ボビーは元々参加してないでしょ。だったら次」今度はペア。「これならどう?」
「駄目だねぇ」「女王様、絶対わざと言ってるでしょう?」「きゅうん」
三様の冷静な指摘に、まぁね、慣れないウインクで答える。
「じゃ、これでフィニッシュ」パサッ。残った四枚を一気に山へ。「やったー」ぱちぱちぱち。