表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継承の勇者  作者: 黒井へいほ
第四章 魔王
14/28

第十四話

 戦いは均衡していた。


 ラォーグに比肩する魔王ゼイルの剣技、ルイナの魔法にたじろぎもしないその圧倒的な強さ。

 だが、四人もそれに食い下がる強さをここまでの戦いで掴みとっていた。


 ウィーゼルが斬りかかり、ゼイルが斬りかえす。

 オーラスが防ぎ、ルイナが魔法で隙を狙う。

 ゼイルのその重い一撃にやられたとしても、レイシスの回復魔法がすぐに傷を癒した。


 その戦いは、一進一退の攻防を繰り返していた。


「なるほど、さすがラォーグを倒しただけの事はあるな」


 距離が開いた瞬間、ゼイルが話し始めた。


「確かにお前はつえぇ! でも俺達だってここまでやれるだけのことをやってきた! 必ず勝つ!」


 オーラスの言葉に、魔王が嗤った。

 そして、その魔力が急激に高まっていく。


「認めよう。 過去戦った相手で最強の相手だと。 そして敬意を表そう。 誇るが良い、私に魔法を使わせた相手は、過去に一人だけである」


 その左手に黒き(・・)炎が集っていく。

 圧倒的な魔力が、城全てを呑みこもうというほどの勢いで全てを包み込もうとしていた。


「全員俺の後ろに退がれええええええええええ!」


 オーラスの言葉に、三人が慌ててオーラスの後ろへと入る。

 その瞬間、ゼイルの左腕から全てを呑みこもうとする黒き炎が放たれた。


「耐えれるのなら耐えてみせろ」


 ゼイルの黒き炎をオーラスが正面から受け止める。

 オーラスを壁として、後ろにいる三人は衝撃に耐えていた。

 四人の周囲は、その圧倒的な威力に床が削れ、柱は崩れ、壁が吹き飛ぶ。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 雄叫びとともに、それに耐えるオーラス。

 だがその時、パキッと軽い音が聞こえた。

 オーラスの紫蠍の盾にヒビ(・・)が入ったのだ。

 それに気付いた三人の行動は早かった。


「ルイナ! オーラスの負担を減らすために魔法を放つ! レイシス! 万が一に備えて全体回復を!」


 二人は指示が来る前から既に行動していた。

 ここまでに培った経験がそれを可能にしていたのだ。

 返事をする暇すら惜しいと、二人は魔力を紡ぎ出していた。

 それに倣い、ウィーゼルも魔力を紡ぐ。


 そして、オーラスの盾が完全に決壊する前に魔法を放った。


『雷よ、落ちろ!』

『炎よ、舞え!』

『風よ、歌え!』


 三人の魔法はほぼ同時に近かった。

 二人の魔法は僅かに漆黒の炎の威力を削いだ。

 だがそこまでだった。

 オーラスの盾はガラスを割るかのように砕かれ、四人は闇に包まれた。



 闇が晴れる。

 その中を蠢く四つの影。

 四人は生きていた。


「ま、まさか紫蠍の盾が一度で砕かれるとはな…」


 オーラスは残った剣を握り直し、立ち上がる。


「一度で砕かれたんじゃないわ。 一度耐えたのよ」


 ルイナも杖を支えに立ち上がる。


「わたし達の旅は、無駄じゃなかった。 今の一撃を耐えれたことでそう思いました」


 レイシスも同じく立ち上がる。


「僕達はまだ…戦える!」


 ウィーゼルは、グランディアスをしっかりと握り、立ち上がった。

 そして四人は満身創痍になりながらも、魔王ゼイルをしっかりとその目で見据える。

 自分達はお前に勝つのだと。


「あの魔法を耐え、生き延びていることすら賞賛に値しよう。 だが、なぜそこまで戦える? なぜ立ち上がれる」


 ゼイルの言葉は、純粋な疑問だった。

 彼らの支えとなっているものが、彼には理解できなかったからだ。


「愚問だ! 僕達は今日この日、お前に勝ち未来を掴むためにここまできたんだ! こんなことで決して破れはしない! そしてあの場所に帰ると誓ったんだ!」


 ウィーゼルの言葉は、三人に力を与える。

 だが、その言葉で全てを察したのか、ゼイルは剣を下した。

 その意図が分からず、四人は警戒を強める。


「そうか…。 なるほど、そういうことだったのか…」


 ゼイルは玉座に戻り、あろうことかその玉座に座った。

 戦闘中にも関わらず、玉座に座るというその蛮行は、四人に動揺をもたらした。

 だが、チャンスだとも思った。

 ゼイルがもう一度あの魔法を使えば、四人は耐えられず死んでいただろう。

 だがそうはならなかった。

 彼らには、魔王ゼイルを討つ手段がまだ残っていた。

 三人はウィーゼルを見た。


「…俺達がなんとしてもあいつの動きを止める。 ウィーゼル、任せたぞ」

「…分かってる」


 三人はウィーゼルの前に立つ、ゼイルの攻撃をその体で受け止めてでも防ぎきるためだった。

 ウィーゼルは全員の期待を背負い、魔力を高める。


『雷よ』


 天より飛来せし雷が、魔剣グランディアスに落ちる。


『宿れ!』


 そしてその雷が、魔剣グランディアスに宿り、極光の輝きをもたらす。

 部屋の全てを眩い光が照らしだす。

 だがゼイルは、玉座に座ったまま身じろぎ一つしなかった。

 そしてそれを見届けると、ただ左手を軽く前に差し出した。


 その左手に微かな魔力が集う。

 四人は警戒しつつ、慎重にタイミングを計っていた。

 そしてゼイルの左手には、人の頭ほどの光の玉が浮かび上がっていた。


「あんな魔法…、私は知らないわ」


 ルイナはその魔法を解析しようと、必死にゼイルの左手に注視する。


「これは攻撃魔法ではない。 よく見るがいい」


 攻撃魔法ではない? 四人は警戒を解かぬまま、いつでも対処できるようにとその魔法を注視していた。

 もしここで、注視せずに斬りかかっていれば、未来は変わっていたのかもしれない。


 その光の玉からは、光の線が中空に映し出され、何かしらの映像が浮かび上がっていた。


「これは…孤児院!?」


 それに真っ先に気付いたのはウィーゼルだった。

 その魔法によって映し出されていたのは、間違いなくアインツ王国にある彼らの孤児院だった。


「てめぇ()孤児院を人質にとりやがったのか! きたねぇぞ!!」


 オーラスの怒声が響く。

 だがその気持ちは他の三人も同じようで、その表情には怒りが満ちていた。


「…そこの女達、魔法を解析しろ。 これは幻術やその類ではない。 間違いなく真実だと」


 ゼイルは慌てもせずにルイナとレイシスに問いかけた。

 二人は幻術であることを願いつつ、その魔法を解析し…、それが本物であることを理解した。


「…間違いなく本物よ。 幻術やその類とは魔力の質が違う。 もしその映像に何かしらの幻術を施し、偽の映像を見せようとしたら、何かしらのノイズが入る。 だからその映像は間違いなく本物よ」


 ルイナは苦々しく答えた。


「これは、王都に潜ませている我が部下が目撃した映像だ。 最後(・・)までよく見ろ」


 ゼイルの言葉は先程までと違い、どこか憂いを帯びていた。

 四人はゼイルの言葉に従うしかなく、その映像を見るしかなかった。

 そして、見てしまったのだ。


 映像に映し出されたのは孤児院。

 そしてその孤児院に集いし人影。


「これは…王国騎士団か? ははっ! そうだ! 俺達の孤児院は王国に監視されている! たまには使えるじゃねーかあの国王もよ!」


 だがオーラスの言葉に、ゼイルは悲し気に首を振った。

 つまり、まだ何か四人に見せたいものがあるのだろう。


 孤児院を取り囲む王国騎士団。

 彼らがとった行動は…虐殺だった。


 孤児院に炎の魔法を放ち、逃げようとする子供たちを、院長を…一人残らず虐殺した。


「は? …なんだよこれ」


 オーラスの言葉は震えていた。


「嘘だ! こんなことはありえない! ルイナ! レイシス! これは幻術なんだろ!?」


 振り向いたウィーゼルが見たのは、膝を着き俯きながら涙を流すルイナと、座り込んだまま零れる涙を拭い去ろうともしないレイシスの姿だった。

 それだけで十分彼らは理解させられた。

 これは現実(・・)なのだと。


 剣を落とす音がした。

 そして、オーラスは崩れ落ちた。

 

 だがウィーゼルはまだ立ち尽くしていた。

 こんなわけがない、これは幻術だと、魔王を倒せば自分達には未来があるのだと。


哀れ(・・)な勇者よ。 なぜあの国王を信じた…」


 ゼイルのその言葉には、僅かに悲しみが混じっていた。


「あやつはお前達に一切の真実を述べなかった。 にも関わらず、なぜそれだけは真実だと信じてしまったのだ」


 誰も、答えることはできなかった。

 何一つ真実はなかった。

 だが孤児院では皆が、何も困らない生活を送れていると。

 そんなことをするはずがないと、目を背けて(・・・・・)しまっていたのだ。


 グランディアスから極光の光が消える。

 そして、ウィーゼルはグランディアスを握ったまま膝を着いた。

 四人から聞こえるのは嗚咽や慟哭のみであり。

 目には光が無く、立ち上がれる者は誰もいなかった。


 彼らの決定的な何かが、今完全に折れてしまった。

 

「…哀れな勇者よ。 これが私にできる唯一の慈悲だ」


 魔王ゼイルの左手に、黒き炎が集う。

 だが四人は、その魔法を見すらしなかった。


 ウィーゼルは思う。

 どこで間違ったのだろうと。

 魔王を討とうとしたこと? 強くなろうとしたこと? 旅に出たこと? 国王に騙されたこと?

 いいや、そうではない。

 彼は間違ったのではない。

 彼に非はなかった。

 ならば誰が悪かったか?

 問うまでもなかった。


 ウィーゼルは、殺された孤児院の皆を思い出す。

 そして、崩れ落ち涙を流す三人を見る。

 自分が巻き込んでしまった三人をだ。


「すまない…」


 その言葉を最後に、ウィーゼル達は黒き炎に包まれる。

 部屋をも埋め尽くす黒い炎の中から、青き光が魔王城を飛び出し天高く舞い上がる。

 そして青き流星となり、アインツ王国へと降り注いだ。


 こうして、彼の旅は終わりを告げる。

 何も救いはなく、何一つ守れずに。



 そして物語は次の勇者へと継承される…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ