第十二話
四人を乗せた馬車は、敵の襲撃もなく数日で魔王城へと辿り着いていた。
いつ襲われるか分からないと四人は罠を警戒していたが、襲撃はなくラォーグの言った通りにここまではなっていた。
部屋に通され、傷を癒し体調を整える時間をもらい、三日が経過していた…。
「さっぱり分からん」
オーラスの第一声だった。
「なんで魔王が俺達と一騎打ちをするんだ? どちらにしろ俺たちが攻め込んでくるのは分かってたはずだ。 なら、それを待って罠にかければよかったはずだ」
「そうなんですよね…」
オーラスもレイシスだけではなく、四人はこの三日間傷を癒すとともに、魔王の目的を考え続けていた。
「僕も罠だと思ってはいたんだけど、ここまでそういう素振りはなかったし。 何より部屋まで用意して、僕達の回復を待つ理由もさっぱり分からない」
こういう時に三人が頼る人物は決まっていた。
そう、ルイナだ。
「…罠なら、とっくに仕掛けてきているはずよ。 この城へ道中で襲い掛かれば、私達に勝ち目はなかった。 私達を城へ案内し、回復まで待つ。 何か話したいことがある? 交渉したいことがある…? 情報が欲しい? 脅しをかけて斥候にするとか…? ううん、でもそれなら私達じゃない方が…」
「私が思うにですがね。 魔王様は正々堂々とした武人で強くなったあなた方と、是非戦いたいと思っていらっしゃるというのはいかがでしょうか?」
悩むルイナにラォーグが話しかける。
「だからなんでお前が会話に混ざるんだよ! 俺達と殺し合ったの忘れたのか!?」
「はっはっはっは」
ラォーグはまるで気にしていないようだ。
本人曰く、傷が癒えるまでの間に他の魔族が襲いかかってきた場合の警護。
それに世話役などの理由もあるらしい。
もちろん見張りとしての役割もある。
ラォーグ自身が普通に答えてくれた。
「いえ、ですがね…。 私としても魔王様の目的は分かっておりません。 勇者一行は脅威である。 殺せ。 もし殺せないと判断したのならば、自分の所へ案内をしろ…と」
「だからその案内させた理由が知りたいんじゃないですか…。 ラォーグさん本当にNo.2なんですか?」
「私、戦うこと以外は得手としておりませんので」
剣鬼の称号は伊達じゃない。
完全な脳筋だった。
「…そう言って何かを隠していることは気づいているわ。 話せないということでしょ?」
「仰る通りです。 その事についてですが、皆さまにご連絡があります。 傷も癒えた様なので、今夜決着をつけようとのことです」
その言葉に四人は思わず立ち上がる。
「ついに魔王と…」
ウィーゼルは拳を強く握った。
この長い旅の終着点に辿り着いたのだ。
「…ラォーグ。 一つ確認してもいいかしら?」
「なんなりと」
ルイナはラォーグの目を見据えて語りかける。
「私達は魔王を殺すつもりよ。 それは分かってるのかしら?」
ラォーグは飄々とした態度を一切崩さずに答えた。
「ええ、勿論です。 もしあなた方に負けたとしたら、我が王はその程度だったということです。 まぁ私は魔王様が勝つと疑っておりませんがね」
にこやかに、だが絶対の自信を持ってラォーグは断言する。
「悪いけどな、俺達だって負ける気はねぇ! 絶対に勝つ!」
「ええ。 楽しみにしております。 特に私を破った少年の強さには期待しております」
その言葉に偽りはなく、本当に四人にラォーグは期待をしているのだろう。
それは魔王を打ち倒すことではなく、魔王にどこまで食い下がれるかと期待しているかのようにもみえる。
「では、私は一度失礼いたします。 何かありましたらお申し付けくだされば」
ラォーグは深々と一礼をし、部屋を立ち去って行った。
「…今なら四人万全の状態ですし、ウィーゼルくんの極光の剣もありますから、ラォーグにさんだって負けないと思います。 わたし達は魔王にだって勝てるはずです!」
レイシスは力強く全員に語りかける。
その言葉に全員が頷いた。
「あぁ、いくら魔王が強いったって今の俺達ならそう簡単に負けるとは思えねぇ! 勿論油断する気はないけどな」
「でも…。 もし、魔王がそれ以上の強さを持っていたら…?」
ルイナの言葉に勢いづいた三人は言葉を失った。
そう、もし魔王が歯が立たないほどの強さを持っていたら?
この三日間、そればかりを全員考えていた。
静寂を打ち破ったのは、ウィーゼルだった。
「それでも、僕は勝てると信じているよ」
ウィーゼルのその言葉は、三人に響く。
いつもそうだった、小さいころから変わらない。
ウィーゼルの言葉は優しく、暖かく…そして何より強く、三人に届く。
自分達はやれる、そう思わせてくれる何かがあった。
だからこそ、ウィーゼルが勇者だと聞いたときに三人は一切疑わなかった。
神託が嘘だったとしても三人にとって勇者というのは、常にウィーゼルのことだったからだ。
「ま、今更ぐだぐだ言ってもしょうがねぇよな。 っし! 俺達は勝つ! そして呪印を壊し、ウィーゼルを救う! 後は堂々と帰って、元の生活に…。 元の生活は嫌だな」
「はははっ、確かに元の生活は厳しですもんね。 そうだ! 国王から金を巻き上げましょうよ! そうしたらわたし達はアインツ王国とはおさらばです! どうですかね!」
「ふふっ。 なら国王を脅す方法を考えておかないとね。 呪印の破壊については、大体の目途がたってるから安心して」
ウィーゼルは三人の言葉を聞き、昔を思い出す。
いつもと同じだ。
この三人が自分に力をくれる。
三人がいるから、自分は頑張れるのだと。
そこで気付く。
「目途がたったって…。 どうやって破壊するんだい?」
ウィーゼルの疑問は当然の疑問だった。
つい先日まで一切の手口は見つかっておらず、レイシスとルイナが頭を抱えていたからだ。
「その首飾りなんだけどね。 ある程度の伸縮性があることが分かったの。 それを私とレイシスで調整して、伸ばすわ」
「はい。 魔力を込めることにより、調整ができるんです。 問題は異常ともいえる耐久性だったんですが、それもクリアしました」
「まじかよ。 ハンマーで殴っても剣で斬っても傷一つつかなかったよな、これ。 どうするんだ?」
レイシスは説明するときのルイナの真似をするように、したり顔で話し始めた。
「まずはわたし達二人が伸ばした首飾りを、オーラスくんの紫蠍の盾に固定します。 そしてそこにウィーゼルくんが極光の剣を叩き込みます! 地面とかに置いてしまうと威力はある程度分散してしまいますが、オーラスくんが受け止めれば威力は100%以上に望める計算になってます!」
「それ、全部昨日私が言ったんだけど…」
その言葉にオーラスが慌てだす。
「待て。 待て待て待て待て! あれを受け止めるのか!? いや、百歩譲って受け止めるのはいい! 紫蠍の盾の耐久性は大丈夫なんだろうな!?」
「それについても調べてあるわ。 紫蠍の耐久性に問題はない、確実に一撃なら耐えるわ。 そしてオーラスの技量があれば、間違いなく大丈夫」
それを聞きオーラスは肩を撫でおろした。
「そうか。 ならいいんだけどよ。 俺死ぬのかと思ったわ」
「余波で全身に軽い裂傷は負うけどね」
ルイナはオーラスに聞こえないように小声で呟く。
それに気付いたウィーゼルとレイシスは、聞こえなかったことにした。
「ん? ルイナ今なんか言ったか?」
「何も言ってないわ。 これで準備は整った。 後は魔王を討つだけよ」
四人は誰ともなく、手を差し出し…重ねた。
ウィーゼルは三人を見渡す。
三人共その目に応えるかのように頷く。
「ついに僕達はここまできた! これが最後の戦いになることを僕は願う! 目的は魔王討伐! 全員で成し遂げ、全員で胸を張って孤児院へ…。 僕達の帰るべき場所へ帰ろう!」
四人の士気が最高潮となる。
目的は魔王討伐。
決戦のときがきたのだ。




