結論
久々の更新ですみません。
待っていて下さる方がいると嬉しいです。
「ティルト、寝るか?部屋に案内するぞ?」
エイシャが姿を消したあと、全てを片付け終わったアクシオがティルトに声をかけた。
眠そうに目を擦っていたティルトは、こくりと頷いた。
薄暗い家の中、闇に浮かぶものや輝く動物達の目に怯えながら歩くティルトにアクシオが笑う。
「ティルト、大丈夫だ。ここに危険なもんは入ってこれないし、危険なものはいないからな」
そう言って、ティルトの片手を握った。
堅いアクシオの手の温もりにティルトの顔が緩んだ。
「着いたぞ、ティルト。今晩はここで寝な」
アクシオが連れて来たのは、あまり大きくなく質素だが居心地の良い清潔な部屋。豪華な部屋ではティルトが休めないだろうとエイシャが選んだ部屋だった。
怖くないように柔らかな光が部屋を照らし出していた。
「ほれ、ティルト、ベッドに入りな」
躊躇うティルトの背を押し、ベッドに入るよう促す。そろそろとベッドに潜り込んだティルトの頭を軽く撫でる。
「おやすみ、ティルト。いい夢が見られるといいなぁ」
返事をしないティルトの様子に軽く肩を竦めるとアクシオは部屋から出ようとする。
「待って」
「どうした?」
急に声を張り上げたティルトに、ゆっくりとアクシオが近づく。
その表情に怒りや侮蔑は見られない。その事にほっとしながら、近づいてきたアクシオを見上げる。
「どうした、ティルト」
「………アクシオはエイシャの事を信じてる?」
顔を半分だけ布団から覗かせ、迷いってることを表しているような細い声がアクシオの耳に届く。
「ティルトは、エイシャが信じられないか?」
責める響きのない穏やかな声にティルトはビクッと体を震わせた。
「……分からない」
ポツリと呟くとそれ以上ティルトは口を開こうとしなかった。
ベッドの近くに寄ると、すぐ側に用意してあった椅子に腰掛けた。
(相変わらず、用意のいいことだ。予想、してたんだろうな、エイシャの奴は)
内心そう思いながら、アクシオはゆっくりとティルトの頭を撫でだした。
「なぁ、ティルト。ティルトが不安なのは、エイシャが若いからだろう?あと、金持ちか貴族だって思ってるからじゃないか?」
穏やかな声でティルトの不安の元を当てると、アクシオは話始めた。
「その不安はお前だけじゃないさ。エイシャに初めてあった奴は皆そう思うからな」
微かに笑いを含んだ声にほっと安心すると共に皆が迷うと聞いてティルトの心は少し軽くなった。
今までは、親切にしてくれるエイシャに不安を感じることにティルトは申し訳なく思っていた。
アクシオは話しながらもティルトの頭を撫で続ける。
その手のぬくもりと話し声がティルトには心地良かった。
「俺はエイシャの事を信用してるし、信頼もしてる。エイシャは確かに若い。けどな、あいつは自分の事は良く理解してる。
あいつは出来ると言ったことは絶対に成し遂げる。それにエイシャは引き受けた事には常に全力を尽くすし、身分や地位や金なんかで差別はしない。あいつに助けられた者も多いし、頼る奴も多いぞ。例えば、この近所の奴らは、困り事があるとエイシャに相談に来るし、用がなくても遊びに来たりするしな」
じっと話を聞くティルトに笑い掛けるとアクシオは更に続けた。
「だがな、ティルト。これは俺の意見だ。お前は難しく考えなくていい。あいつが信頼にたるかどうかお前の目で見たエイシャで考えな。お前が選ぶ事だ。後悔のないようにな」
コクりとティルトが頷くのを確認すると満足げにアクシオは笑う。
「疲れただろう。考えるのは、明日でも構わんさ。今は、ゆっくりと休みな。疲れた頭じゃ、いい考えは浮かばんからな」
そう言って、ポンポンとティルトを布団の上から軽く叩く。
「お休み、ティルト」
そう言うとアクシオは部屋を出て行った。
ティルトが今度はそれを止める事はなかった。
(どうしよう。エイシャの事は、信じられる、と思う。肉屋のおじさんもエイシャが助けてくれるって信じてたし。それに、エイシャはあんなに薄汚れてた僕に笑い掛けて、優しくしてくれた)
ゆるゆると横たわるティルトに睡魔が忍び寄る。
疲れきった成長期の体では、それにあがらう手段はなく、眠りにつく。
最後に浮かんだのは、キサナとエイシャの笑顔だった。
己を正しく見るのは年老いた者にも難しい。
何故、若き少女に可能なのか?