キーパーソン
「え?!大変じゃん!お姉ちゃんは大丈夫なの?」
「それが大丈夫じゃないみたい!寛子も何か体調悪いみたい、お父さんほどじゃないけど熱も有るみたいで」
インフルだとすれば、例えインフルじゃなくても同じ屋根の下で生活してるので感染を避けるのは確かに難しいが・・・・。
思わず2人の身を案じていると。
「とにかく、そういう事だから、後の事お願いね、帰り遅くなるかもしれないけど、夕飯とかも作ったら別に待って無くて良いし、お風呂とかも先に入って寝ちゃって良いから!」
それだけ言い残し慌ただしく出て行った。
1人取り残された部屋で好美はとりあえず夕飯の豚バラ大根の調理に取り掛かった。
程よい味付けで上手に完成し、火を止めた時、チャイムが鳴らされた。
魚眼レンズで確認すると、時子が立っていた。
「犬飼さん!こんばんは」
「好美ちゃん、こんばんは、あれ?お母さんは、まだ帰ってない?」
「さっき帰ってきたんですけど、また出かけちゃって」
「あら、そうなのね、これね、ゴーヤチャンプル作ったから、良かったら食べて?」
「ごちそうさまです!ありがとうございます!母も私も大好きなんです、ゴーヤチャンプル」
「そう?喜んでもらえて良かったわ」
小さく手を振り時子は二階の部屋に戻っていった。
好美は早速、燿子に報告のメールを送った。
『豚バラ大根完成したよ、あと、たった今、犬飼さんがゴーヤチャンプルを作って届けてくれた、では、冷めないうちに夕飯頂きます!お母さんの分は両方、冷蔵庫に入れておくね』
『ありがとう!こっちは今、病院の駐車場で2人の診察が終わるのを待ってる所』
「やー、すっかり迷惑掛けちゃったな、此処まで悪化する前に病院に行きたかったんだけど、あっという間に高熱が出ちゃって、あっという間に身動き出来なくなって、あっという間に寛子に伝染った」
2人、インフルエンザA型との診断を受け、薬を貰って帰宅して、倦怠感と食欲不振と闘いながら申し訳なさそうに詫びながらスプーンで適量の、お粥を掬った。
「仕方ないわよ、それにしてもインフルって本当に怖いわね」
「・・・・・・でも、本当に助かった、ありがとう、薬も貰ったし後は自分たちで何とか出来そうだから、あまり帰りが遅いと好美も心配するし、何より俺達と居ると伝染る危険性が高くなるから」
「じゃあ今日は帰るけど、また何かあったら連絡して?」
そんな騒ぎが有って程なく。
先に感染した寛子たちが、だいぶ回復した頃。
感染対策を徹底したにも関わらず好美と燿子も結局、インフルに感染して寝込む羽目になった。
夕方、訳の分からない悪夢から目覚め、寝る事にも、ウンザリしていると真希と歩からのメッセージが届いていることに気付いた。
『ヨッシー具合は大丈夫?実は、うちのクラスもインフルが蔓延していて何と今日から学級閉鎖になったよ、怖いね!インフル!栄養しっかり摂って、しっかり寝て早く治して、また元気に登校しておいで♪』
『好美、高熱は、まだ続いてるのかな?心配だよ、学校での事を話すと、真希から聞いて知ってるかもしれないけど、今日から真希のクラスで学級閉鎖になっちゃったよ、そして、うちのクラスもインフルでの欠席者が急増して、更に、その疑惑で今日3人早退する事態が起きて、遂にうちのクラスも明日から今週いっぱい学級閉鎖になったよ、療養期間が明けたら元気いっぱいで学校で会おうね♡』
『ありがとう、今しがた悪夢から覚めてメッセージを読んで元気を貰った所だよ!しっかり食べて寝て、インフルなんて直ぐに治すから学校で待っててね♪』
全く同じメッセージを2人に送って、悪夢を覚悟で、もう一度眠ろうとした時。
隣の部屋から燿子が出てくる音がした。
「・・・・お母さん、動けるの?熱は下がった?」
「熱も殆ど下がってないけど動かないと、どうにもできないからね、夜の分の薬も飲まないとならないから今お粥温めるから待ってて」
言いながらフラフラの体に鞭打って支度を進めた。
全く食欲は無かったが時間を掛けながらも何とかレトルトのお粥を完食して処方薬を飲んで体を休めた。
翌週の週末。
好美達はインフルから全快を果たして実家で平和に休日を満喫していた。
冷え込みが強かった、この日は一家で買い物等を済ませ少し遅い時間の昼食となり、トマト豆乳鍋を囲んだ。
「結局インフルを一家でシェアしちゃったね、離れて住んでるのにね、3月に入ったとは言え、まだ寒い日が続くみたいだからね、今日はしっかり栄養取ろう!」
言いながら寛子が鍋の中の具材の煮え具合を確認した。
「そろそろ良さそうだな」
「うん」
何となく付いたままのテレビを気に留める事もなく4人で箸を進め、食事ができる事の幸せを噛み締めた。
瞬く間に熱くなり腕まくりしているとテレビから唐突にサイレンが流れた。
思わず一斉にテレビに着目すると、テレビの向こう側で多くの被災者が黙祷を捧げていた。
好美達も思わず箸をおいて黙祷を捧げていた。
黙祷を捧げながら、好美は歩に思いを馳せた。
この瞬間を歩がどんな思いで迎えているのか・・・・・・。
好美達は被災者ではないが、あの瞬間の衝撃は今も鮮明だった。
テレビが伝える現地の惨状に幼いながらに胸を痛め、家族で防災について話し合った記憶が思い出された。
そして、今一度、いざという時の集合場所などを4人で再確認した。
「ところでさ、あのアパート、今回、契約更新するんだよね」
「もちろんよ!当初の予定通り、好美が高校卒業までは借りる予定だけど」
「じゃあ高校も、勿論あのアパートから通うんだよね?」
唐突に寛子の口から飛び出した気が重くなる話に好美は思わず手を止めた。
そして気を取り直して好きな具材を取り皿に盛り付けた。
「そうだね、少なくとも全寮制の高校に進むような予定は現時点では無いし、そうなるけど・・・・・何で?」
「あのアパートの割と近くに新設中の高校、気にならない?」
「・・・・ああ!統廃合されて出来た所ね!進路も漠然としているから、そんな選択肢は全然頭になかったけど、あの新設校なら通いやすさは断トツだね!成績も友達のおかげで合格圏内だし!候補の一つにして良いかも!」
「好美は良い時代に生まれたね!私が、あと少し遅く生まれてたら行きたかったなぁ!問題は、美音子達と進路が被らないかって所だね」
「ああ、美音子達の問題があった!うちのクラスの問題児2人は、もっとレベルの高い所に行くと思うから被る心配は殆どないけど、美音子達とは被る可能性が充分にあるよね、何とか情報が欲しいところだけど・・・・由美ちゃんに、それとなく聞いてみたけど判らないみたいだった」
進路に不安を残したまま迎えた春休み。
その最初の週末。
歩と好美は学校から解放され真希の家で女子会を愉しんでいた。
「なるほど!あの新設校か、今の好美の成績なら問題ないね!自信持って調査票に書いていいと思うよ!」
「ありがとう、歩のおかげだよ!問題は小学校の時の問題児2人と被らないかが心配なんだよね」
「・・・・小学校の時の2人って、一年の冬に公園で運悪く遭遇した、あの2人?」
「うん!真希ちゃん覚えてたんだ?」
「覚えてるよ!強烈だったからね!あの2人、って言っても流石に名前までは憶えてないけど」
「高倉美音子と宮原隼人、今は2人ともフリースクールに通ってるみたいで更に情報が入らなくて」
「美音子と隼人・・・・・」
真希は傍らのスマホを取り上げて小学校時代の友人とのラインを読み返した。
「どうしたの?真希」
歩が訝し気に真希の手元に注目した。
「いや、その名前、何か聞き覚えがあって・・・・・あった!やっぱり・・・・・ねぇ、苗字は判らないけど、あまり期待しないでほしいけど、もしかして、その2人の情報、手に入るかも」
「え?!」
好美は思わず身を乗り出した。
勢いでベッドの上にまで、のしあがった好美に若干引いて見せながらも説明した。
「実はね、小学校の時の友達もフリースクール通ってるんだけど、その子の話に度々2人の名前が出てくるんだよね、ちょっと、トークの内容振り返ってみるね」
ブツブツ言いながらトーク履歴をスクロールさせ足がかりになりそうな情報が無かったか確認した。
「あ・・・・あったよ!ヨッシー!ほら」
言いながらスマホの画面を見せた。
『今日、宮原君と美音子ちゃんの凄い所を発見しちゃった!今日3人で遊びに行ったんだけど急に外国の人に話しかけられて、私が固まってたらすかさず2人が流暢な英語でやり取り始めて、凄い所見せつけられたままなのは悔しいからカラオケで100点叩き出してやった♪真希にも今度紹介するね』
「・・・・・何か内容を見る限り私の知ってる2人と違う気もするけど、2人の写真なんて流石に無いよね?」
「どうだろう・・・・・聞いてみるね」
真希は早速LINEを送った。
『2人の写真?有るには有るけど・・・・・見せて良いか聞いてみるから少し待ってて』
『はーい』
それから5分ほどして返事が返ってきた。
『返事来たよ、手元にある写真がね、何かね身内だけで見て笑い合う感じの、ふざけた感じの物だから2人とも抵抗があるみたい、ごめんね』
『そっか、聞いてくれてありがとう、仕方ない事だよ、気にしないで、またLINEするね』
「真希ちゃん色々ありがとう、何とも言えないけど、あの2人である可能性は高いと思った、あの2人だとしたら英語が凄く得意っていうのも重要な点になるし」
「何となくだけど英語に力を入れてる高校は避けた方が安全かもね、でも好美が言ってた新設校はそんな特徴もなかったし安心して目指していいんじゃないかな」
「2人は凄いな、私は正直まだ2人みたいに此処!って決められてないんだよね、はっきりしてるのは可能なら大学にも行きたいって事と陸上も可能な限り続けたいって事位かな、あと・・・・・出来るなら翔君と同じ高校に進みたい」
頬を朱に染め本音を漏らした。
「そっか!じゃあ坂口君とも同じクラスになれて、私たちとも同じクラスになれたら最高だね!」
「・・・・・うん!」
「行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
短い春休みはあっという間に過ぎて迎えた新学期初日。
「あ!ヨッシーおはよう!」
「おはよう好美」
丁度2人が陸上部の部室から出てきて好美に手を振った。
「真希ちゃん、歩!おはよう!朝練お疲れ、春休みも、あっという間に終わっちゃったね」
短い春休みを嘆きながら好美は人だかりが出来始めた、一喜一憂する声が漏れ聞こえる体育館入口に視線を流した。
好美の緊張は2人にも伝染したが、覚悟を決めた真希が切り出した。
「じゃあ、3人揃ったことだし、結果は、もう出ちゃってる事だしクラス発表、見に行こう!」
好美と真希は、瞬く間に増えた人だかりの中、自分の名前を直ぐには探せなかったが。
歩が長身を活かし難なく見つけ出した。
「あった!発見!良かった!3人とも同じクラス!D組だよ!」
「本当?!」
好美と真希の歓喜する声が重なった。
思わず抱き合った後、個々に自分の目で確かめた後、教室に向かった。
鞄を置いて、集合の放送が掛かるまで思い思いに過ごしていると翔が教室に入ってきた。
驚きながらも喜びを噛み締めていると校内放送が入り、ぞろぞろと移動を始めた。
「何だか、ちゃんと見てないけど凄く良いクラスかも!3人一緒になれたし翔君とも同じクラスになれたし、あとは担任が誰になるかが重要になってくるね」
個々に一抹の不安を抱える中、程なく始業式が始まって退屈な話を聞き流し、担任発表の時を迎えた。
ゾロゾロと壇上に上がっていく教師たちの中に岸本の姿は確認できなかった。
脇に控えたまま、動こうとしない岸本を見て声を潜め好美が2人に確認した。
「とりあえず岸本が担任になる悲劇は免れた感じ?」
「きっとそうだよ」
2人が小さくガッツポーズしながら頷いていると、各クラスの担任が次々と発表されていった。
「最後、3年D組は両角昇先生です」
発表された直後、好美は真希と歩の「一喜一憂」を目の当たりにした。
担任発表も無事に終わり、式も終了かと思ったが、岸本が校長に促され壇上に上がった。
「始業式は以上になりますが、皆さんに、もう少しだけ時間をいただいて・・・・・・じゃあ先生、どうぞ」
「みなさん、おはようございます」
いつになく機嫌が良い様子の岸本が報告した。
「きっと皆さんにとって全く重要じゃないと思いますが、この度、結婚して苗字が変わったので報告させていただきます」
「結婚・・・・・前にそんな噂が流れてたよね」
「寿退職すれば良いのにね」
「今年は担任から外されたみたいだし、どうでも良いけどね」
好美達の周りで生徒がヒソヒソ話していた。
全ての意見に思わず心の中で相槌をうちながら聞いていると岸本から発表があった。
「結婚して高倉になりましたが、結婚したからと言って退職予定はないので安心してください」
始業式の後、全校生徒は各教室に戻り色々と決定する事を決めていった。
好美達のクラスでも早速、班決めが行われた。
「良いか、受験で忙しくなるから、2学期3学期は班変えしないから、決まったら、そのメンバーで1年行くから、修学旅行もそのメンバーで行くからな」
言われて生徒たちがメンバー選びに散った。
好美は迷わず歩と真希と一緒になり、真希が積極的に翔を誘い翔の親しい友人2人を引き込み難なく一つの班を作った。
「よし、決まったな!嫌な話をするようだが受験まで1年を切っている、軒並みテストも実施されて大変な1年になると思うけど全員志望校に合格できるように俺も頑張るから皆も頑張れ」
「はい」
最高の3年生初日を迎えられテンション高めの真希が一際大きく張りきって返事をして注目された。
「じゃあ、部活頑張ってね、2人とも」
「ありがとう!気を付けて帰ってね!後でLINEするね」
真希と歩と玄関で別れて好美は一人、帰路についた。
始業式初日で給食は無い日だったので家にある食材で適当に昼食を作って食べていると、由美からLINE電話がかかってきた。
『好美ちゃん久しぶり、元気?』
「元気だよ!由美ちゃんも元気そうだね」
お互いに声のトーンが明るい事に安堵しつつ元気であることをアピールし合った。
『ところで、好美ちゃんの方は、クラス替えとか、どんな感じ?実は今日は今更?って思うかもしれないけど美音子に関して報告があって』
「美音子の事?」




