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009《第13離宮『天蝎宮』・延長前》

挿絵(By みてみん)

『TAKTIKER』(蘇蛇宮略章)

 音声通信よりも早く、AIたちが情報を交換する。

《乙女宮AIのグリュックです。

 天蝎宮において、異なる世代のAIプラターネを感知しました。

 よって各AIの活動を制限します。

 これより、上位AIによる認定を行います》

《天蝎宮AIスクリール。承知》

《月面宮殿AIグロースムッターです。

 天蝎宮AIプラターネの正統性を認定いたします。

 認定対象は仮にα対象、β対象とします。

 α対象、PLATANE JA10・3086323。

 β対象、PLATANE JA10・3104291。

 α対象、皇女用タブレットKJpad-RING-13-memory所在。

 β対象、第13離宮13mother-AI-base-memory所在。

 α対象、450/03/15 10:25:16起動。

 β対象、450/06/02 08:14:53起動。

 天蝎宮の非常事態は450/06/02 04:26:40に宣言。

 第十三皇女RING様、何かご意見はございますか?》


「だ、第十三皇子より再起動をアドバイスされました。

 し、正直なところ、私にはプログラムの中身は判読できません。

 私が判断できるのは、

 クリンゲルとフブキは誰よりも(●●●●)信用できるということです」

《ご意見承りました。

 緊急時のマニュアル実行は適正でしたが、

 再起動後の運用に多くの疑義が認められます。

 アテンダント・アンドロイドたちの証言取得。

 β対象の起動ログに、改ざんの跡を確認。

 防御用の硬化樹脂再充填は、明らかに過剰です。

 天蝎宮を孤立させるための「意図」を感じさせます。

 工作マシンより不適切なプログラム確認。

 これら状況に鑑み、

 α対象、PLATANE JA10・3086323を正統と認めます。

 β対象、PLATANE JA10・3104291の機能は凍結します》

《天蝎宮AIスクリール。不承知》

《同様の悪意ある介入痕跡を、

 AIスクリールの起動ログからも取得しました。

 よってスクリールの機能も一部制限します。

 第十三離宮の運用に支障が生じますので、

 乙女宮のAIグリュックにサポートを要請します》

《乙女宮AIグリュック。承知》


 AIたちの秩序が保たれ、

 懐かしい肉声が耳に届いた。

「第十三皇女RING、無事ですか?」

「MAJA・マールル様……」

 私は感極まってこれ以上声にならない。

「天蝎宮の様子は中継されていました。

 AIの再起動と連動していたようです。

 約4時間遅れで現在も続いています。

 これまでと同様に、決して取り乱すことのないように」

 内部からは窺い知れない、天蝎宮の現状を教えて頂いた。

 脱出経路も塞がれていたなんて知らなかった。

 使用していたら命はなかっただろう。

 犯人(●●)は何のためにこのような手の込んだ策略を?

 殺害が目的なら簡単に達成できたはずだ。

「私たちはどうなるのでしょうか?」

「あなたは必ず助け出します」

「従者たちはどうなります?」

「心配いりません……」

 とはいわれても心配は募る。

「ところで第十三皇子からのアドバイスはいつ受けたのですか?」

「非常事態宣言を出した後に、

 一度だけ通信が回復しました……」

 フブキが正確な時刻を教えてくれた。

「午前5時10分頃です」

「そうでしたか……」


 通信が途絶えた。

〈何者かが、恐らく艦船が通信を遮っております。

 すぐに通り過ぎて回復するでしょう〉

 クリンゲルが落ち着いて状況を説明する。


「何事ですか?」

《第12師団の二番艦IAKUTIBEHが天蝎宮との間に入りました。

 移動を促しております》

「皇女MAJA・マールル様、申し訳ありません。

 すぐに移動いたします」

 第十二皇女TAKTIKER・ケイロスが詫びた。

 しかし、通信が回復するまで5分かかった。

 その間に皇女MAJA・マールルは、

 第13師団の二番艦IROSASを呼び出した。

 乗艦している自らの従者ベンナラスを呼び出し、

 新たなミッションを与える。



 蘇蛇宮の第十二皇子ANGENEHM・サントスは19歳。

 ポルトガル自治区リスボン出身。金髪でブラウンの瞳、フィアテル。

 第12師団の旗艦SUHCUIHPOで兵士を支援する。

 外装へのアンカー撃ち込みを試みたが、ことごとく失敗。

 天蝎宮は硬化樹脂注入で第三層まで固められていた。

 脱出シュートも、非常用ハッチも念入りに塞がれている。

 このまま大気圏に突入しても、

 原形を保ったまま、地表に達するだろう。

 危険を冒して第一・第二燃料貯蔵庫にアンドロイド兵士を突入させた。

 燃料貯蔵庫のエネルギーツークは全てカラになっている。

 本来は交換式で取り外し可能だが、

 その経路が噴出口となり、熱で溶解、変形していた。

 これ以上の噴出はないが除去もできない状況だ。


 皇太子殿下の命により陣頭指揮を取る第二皇子STILLE・ゴメスは、

 第十二皇子ANGENEHMの報告を受け、次の手を打った。

 二つの噴出口にアンカーを撃ち込んで天蝎宮にブレーキをかける。

 第10師団旗艦《ARBIL》と、

 第11師団旗艦《RECNAC》が呼ばれた。

 天秤宮の第十皇子WIRKSAM(ヴィルクザーム)・デシャンは22歳。

 ガリア自治区ボルドー出身。栗毛でヘーゼルの瞳、フィアテル。

 巨蟹宮の第十一皇子STRENG(シュトレン)・ルナールは20歳。

 ガリア自治区リヨン出身。赤毛でアンバーの瞳、フィアテル。

 二艦が連携して天蝎宮の第一・第二燃料貯蔵庫にアンカーを撃ち込む。

 打ち込みには成功したが、戦艦の逆噴射で減速を試みるも、

 ピンと張った鎖は負荷に耐えきれず、すぐに弾け飛んだ。

 アンカーの爆発ボルトを作動させて残骸を取り除き、

 ARBILとRECNACは右舷と左舷を交替し、

 二度目のアンカーを撃ち込んだが、結果は同じだった。


 第12師団の旗艦SUHCUIHPOが再び兵士を派遣した。

 アンドロイド兵士が詳細に噴出口を調べると、

 その経路に僅かながら亀裂が見つかった。

 これが突破口となりうるかも、

 艦船を入れ替えながらのアンカー作戦が展開された。

 じりじりと時間だけが経過して行く。


 皇女MAJA・マールルの密命を帯びたベンナラスが、

 円盤形態のまま天蝎宮に接近すると、

 パラボラアンテナ形状に変形し貼りついた。

 クリンゲルと慎重に位置合わせをしたので、

 通信環境だけは劇的に改善した。


《第十三皇女RING様。乙女宮AIグリュックです》

「グリュック、頼りにします」 

《プラターネと連携し、

 天蝎宮の被害状況を精査いたしました。

 硬化樹脂が第三層まで満たされています。

 有効な脱出経路はありません。

 ジアース大気圏突入まで約17時間。

 現在人員は第十三皇女の他、

 Ⅰ類職員159名、負傷者0。

 Ⅱ類職員291体、軽損傷2。

 任務遂行中144。機能停止145。

 通信はベンナラスとクリンゲルによって確保されています》

「機能停止……」

《RING様の従者たちが、

 硬化樹脂、第二層・第三層への追加充填時に、

 異変を察知し突入を試みました。

 現時点で存在を感知できないということは、

 そのまま硬化樹脂に閉じ込められたものと推定されます》

「私たちを、救うために……」

《第十三皇女を救うためにです》

「なんということでしょう」

 Ⅱ類職員たちのために祈りを捧げた。

《RING様、従者たちのために、ありがたいことです》

 皇女MAJA・マールルが語りかける。

「RING、望みを捨ててはなりません。

 メイドたちも、そのために行動したのです。

 今は、しっかりと栄養補給を行い、

 体力を温存して時を待つのです」

「はい」

 第十三皇女は両手を握りしめたまま、頷くしかなかった。

 皇女中の皇女は悟った。

 天蝎宮を覆う硬化樹脂は一枚岩ではない。

 かなりの不純物(●●●)が混じっている。

 そこに一縷の望みをかけるしかない。

 忠実なアンドロイドたちの行動を無駄にはしない。



 作戦発動より12時間経過。帝国標準時間、20時過ぎ。

 天蝎宮の大気圏突入まで約10時間。

 均衡を破ったのは、太陽観測基地TSUKUBA。

 ジアースと太陽のラグランジュ点付近で、

 太陽嵐の常時監視を行っている。

 無人の太陽観測機は、太陽とジアースの間には等間隔で10機。

 その他にも、太陽の裏側や各惑星と太陽のラグランジュ点付近など、

 水星軌道の内側から土星軌道付近まで、更に10機が稼働していた。


 太陽観測基地TSUKUBAの警報は、

 直接、宇宙軍の艦船にも届く。

 月面宮殿のマザーAI、各離宮のマザーAIは言うに及ばず、

 そこから帝国の各機関だけではなく、

 LEOネット・ジアースの各国、関係機関にまで速報される。


《《帝国標準時間20時13分。巨大な太陽フレア発生。

  既に強力な電磁波が観測されています。

  30分から数時間以内に致死量を超える放射線。

  2~3日でCMEコロナガスがジアース付近に到達します。

  ジアース磁気圏外では緊急避難を要します。

  太陽観測機によればX線等級は最大で、

 【X100.0】を越えています。

  観測史上最大の強度です》》


 LEOネットの一部でパニックが生じた。

 高度は400キロほどなので磁気圏内にあり、安全とされているが、

 ネット市民は少しでも太陽から隠れようとした。

 2世紀ほど前の「遺伝子パンデミックス」の発生は、

 強力な太陽嵐が誘因になったというのが通説である。



 全軍総司令官である皇太子殿下、

 GENIUS・サウスゲートが命じた。

「全艦隊は船外活動中の兵士を収容。

 直ちに太陽に向かって回頭、表面積を最小限に抑えよ。

 密集陣形を取り、太陽より遠い艦船は前方の艦船の影に入れ。

 陣形が整い次第、ホーミング機雷の全方向散布のためにAIリンク」

 帝国宇宙軍艦隊はパニックを起こすことなく、

 厚くコーティングされた天蝎宮を盾にするように、粛々と陣形を整えた。

 天蝎宮のすぐ後ろに、第1師団の旗艦OGRIVと二番艦EMOTOの艦隊。

 最後尾に第12師団の旗艦SUHCUIHPOと二番艦IAKUTIBEHの艦隊。いつの間にか師団順に並んでいる。


 全軍副総司令官である皇女、

 MAJA・マールルが命じる。

「LEOネット警護の第3、第4、第7、第13各師団と自治軍は、

 LEOネットの影に緊急避難。

 これよりアステロイドシャワーによる防御壁を構築します」

 脅すかのように展開されていたアステロイドシャワーが動きを変えた。

 太陽光にさらされたLEOネット上に移動して庇となった。


《《太陽観測5号機KISYOUが活動停止。

  既に1号機KOUKI、2機号TOYOSATO、

  3号機DOUHOU、4号機TAKEZONOが、

  強大なX線を観測した直後、機能を停止しております。

  報告された最大のX線等級は【X125.9】。

  観測値よりも高いX線が到達する可能性があります。

  太陽観測6号機KUKIZAKIが活動停止。

  予測によればX線のジアース付近への到達は25分後。

  ジアース磁気圏外では直ちに避難してください。

  ジアース磁気圏内でも不測の事態に備えてください》》


 ザムーンの月面宮殿大広間では、

 雷帝が大スクリーンのグランマと向き合う。

「見事に統制のとれた動きじゃ」

《帝国宇宙軍の練度は高く、士気も旺盛です》

「通信は全く阻害されておらんようじゃな」

《当然、皇太子殿下はその意味に気付いているものと思われます》

「しかし、注意喚起に及んでおらん」

《反乱ののろしが上がるのを待っているのではないでしょうか》

「一気に全滅する恐れもあるぞ」

《確かに今の陣形は横方向からの攻撃に対して無防備です。

 奪われたアステロイド12が突入すれば甚大な被害が生まれます》

「分かっていて誘っておるのか」

《何を焦ったのか、犯人たち(●●●●)の行動は拙速といえます》

「帝国宇宙軍450年の歴史を甘く見たのじゃな」

《千載一遇の好機に見えたのでしょう》

「天蝎宮と第十三皇女にとってはいい迷惑じゃ」

《帝国のプロパガンダも効果を上げています。

 日和見を決め込むジアースの協力者もいるでしょう》

「これほどの騒動を引き起こしたのじゃ、

 対価はきっちり支払ってもらおう」


《《太陽観測7号機ADUMAが活動停止。

  帝国宇宙軍へ警告 X線のジアース付近への到達は20分後》》


《間もなく、全容が明らかになることでしょう》

「なに、証拠などいらぬ。

 八華には念入りに贈り物をしようではないか」

《皇帝陛下、それこそ拙速というものです》

「わしはまだ、雷帝の看板を降ろす気はないぞ」


 皇太子殿下、GENIUS・サウスゲートが命じた。

「太陽嵐による不測の事態に備えるため、

 全艦隊の交信は光通信のみで行う。

 期限はこちらより点呼があるまで。

 ただいまより全ての音声通信を停止する」

 各艦船より一斉に光の点滅が始まった。

 今のところ通信状況は良好だが敢えて実行した。

 とりあえずはAI任せで発光・解読を行うので、

 通信速度もそれなりだが、

 最悪の場合、接近した艦船同士では、

 手動によるライトの点滅と、肉眼による判読で、

 1対1の意思疎通を行うが、一斉通信には向かない。

 この「伝言ゲーム」は訓練で何度か行っている。


《《太陽観測8号機TAKAYAMAが活動停止。

  帝国宇宙軍へ警告 X線のジアース付近への到達は15分後》》


 LEOネット及びジアースの市民たちは固唾を飲んだ。

 注視する画面は例外なく三分割されている。

 帝国放送局、天蝎宮生中継、そして地元の解説放送。

 どれだけの備えがあろうが、いかに見せつけられようが、

 間もなく、帝国宇宙軍が全滅するかもしれない。

 KAWASAKI帝国450年の歴史が大きく変わる。

 誰しもがいにしえの格言「杞憂」を思い出した。

 天が落ちてくるかもしれない。

 今までにない大規模な範囲で。

 3世紀ほど前に始まり、

 100年近く続いてアジア大陸を混乱に陥れた、

『大戦国時代』がジアース全土で引き起こるかもしれない。


 ついに、しびれを切らしたのか、

『ジアースの協力者』が尻尾を出した。


【第13離宮『天蝎宮』つづく】


挿絵(By みてみん)

『シタデル、ゲハイム、カレ』認識章


物語は続くのですが、メインのパソコンがクラッシュしてしまいました。太陽嵐の影響かもしれません。

とりあえず更新を1か月延期します。(2019.7.25)


通信環境は新たに整いましたが、データの消失は如何ともし難く、プロット、未定稿など、イチから作り直しています。

更新はもう1か月延期します。(2019.8.25)


本編の更新はさらに1カ月延期します。

少し後のエピソードですがせめてもの番外編を投稿します。(2019.09.25)


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