適材適所
レラノイル港に着いたレジスタンス。
ラナンたちは、「毒草」の在処へ向かうことにする。
一方、城ではザイールが何やら目論みを企て……?
「ラナ。くれぐれも、気を付けてくれ」
「うぃ、サノも。また何かあったら、フアを飛ばしてくれ」
フアとは、サノが飼っている高貴な大型の鳥。鳥といっていたけれども、魔獣なんじゃないかと思っている。青くて、尾の長いそれは、翼を広げると二メートルはある。
レラノイル港に着くなり、俺はサノとエリオスの皇子たちと別々のルートを行くために、離れた。俺はレナとリオとパーティーを組み、しばらくフロートの出方をうかがうことにしていた。
サノとリーク、ジンフィールには、ミスト大陸以外……つまりは外の世界が今、どうなっているのか。現状把握をしてもらうための、旅にでてもらった。言われて「革命」を成そうとするのも、可笑しいと思っているからだ。自分の目で実状を知り、今のフロートの圧政のままではダメだと、判断して欲しかった。特に、一国を統治していた王族の生き残りなんだ。無関心でいて欲しくはなかった。
誰かが成せばいい。
そんな、無責任はしてほしくない。
ただ、適材適所という言葉もある。
見定めなければならない。
「ラナン」
「何だ? レナ」
「俺たちは、どこへ向かうんだ? ルシエルもカガリも、もう城へ戻っているんだろう?」
「そのはずだけど……何でだ?」
「…………一気に、フロートに攻め込まない理由は、何かあるのか?」
「まだ、戦力が足りない」
「魔術士だって、結構いるんだろう? アースに」
「まぁ、居るけど…………あっちには、レイアスっていう神子魔術士による部隊があるんだ。こっちの神子魔術士は、今のところレナとサノのふたりだけだ」
黒魔術士として、アトラ、クレスが居る。
白魔術士として、ルカナ、メイト、セアラ、ヤイが居る。
戦争をしかけた後の、ケアは出来るかもしれない。
だけど、そもそもの戦争に勝つにはまだ、足りない。
「黒魔術士のアトにいたっては、まだ子ども。出来れば、戦線には立たせたくはない。白魔術士のメイなんか、まだちびっこだ」
「分かっていて、入れたんだろう?」
「そりゃあ、そうなんだけど」
「ラナ、レナ。まずはどちらに向かいますか?」
リオが、地図を広げて俺とレナの間に割って入って来た。リオの言葉を聞いて、レナは影を落とす。何かを考えているようだ。
「俺は…………行くべき場所がある」
「?」
俺は、その言葉に首を傾げる。
「ひとりでか?」
「…………ラナ」
レナは、何かを隠している。それは分かっているけれども、俺は敢えてそれを深く探ろうとはしなかった。レナが困ると思ったからだ。
「名もなき草」
レナは、ポツリとそう呟いた。眉を寄せて厳しい顔をする。
「それが、ルシエルを化け物に変えようとした、毒草の正体だ」
「…………それの生息地を、知っているのか?」
「あぁ」
「…………」
俺は、リオの顔を見る。リオも、俺と同意見らしい。銀色の目を厳しく光らせ、頷く。
「そこへ行きましょう」
「案内、頼めるか? レナ」
「…………うん」
地図上では、分からないらしい。それを知り、リオは広げていたワールドマップをしまった。
レナが魔術士に覚醒してから、まだそう時間が経っていない。あまり、無理はさせたくなかったし、魔術を使わせたくもなかった。だけど、頼るしかない。それが、兄としてはふがいなかった。
※
「どうなっている。ザイール」
「どうなっている、とは?」
「ルシエルに、結局はしてやられたのだぞ! これ以上、奴の好きにはさせられん!」
「ルシエルはまだ、毒草に侵されていますよ」
アイツは、天才だった。生まれながらにして、大きな魔力を持っていた。五人兄弟の末っ子の癖に、生まれた瞬間に、アスグレイの統領となることが決まった。それを、長兄も弟たちも、よしとは思っていなかった。それは、生まれたと同時に母上が亡くなったことも関係していた。母上の命と引き換えに生まれて来たルシエルを、誰も……いや、父、リヴァー以外、受け入れようとはしなかった。
味方となったのは、隣の家に住むアリシアという娘。ルシエルと同い年。度々ルシエルは、隣の家へ身を隠していた。それもまた、俺たちが面白くないと考えることになった理由のひとつであると、アイツは気づいていたのだろうか。だとしたら、制裁を与えられるのは至極当然というもの。
「まだ、操れるというのか?」
「いえ、そこまでの効力はないでしょう。だが、必ずこちらにツキは来る」
「信じてよいのだな? ザイール」
「当然」
「陛下」
面白くなさそうに声をあげたのは、レイアス隊長のジンレート。まだ青い。だが、ザレスによく似た気質の男だった。富と名声にこだわる男を、俺は嫌いではない。むしろ、それらを手にできる力を持ちながら、発揮しないルシエルに嫌気がさしているのだ。
此処に居る俺たちは、同類だった。
「ルシエルを、この際。解雇した方がよいのでは?」
「それは失策だな」
「なんだと?」
俺が茶々を入れてやった。すると、青いジンレートはまんまと苛立った。
「ルシエルが、レジスタンス側に完全に加われば…………この城は、落ちる」
「俺たちレイアスが、ルシエルひとりにやられるとでも!?」
「その通りだ」
俺は、レイアスには属していない。あくまでも、ザレスの「顧問」である。
「アイツの力を、みくびってはいけない。アイツには、人知を超えた力がある」
「それなら、たとえ毒に侵されていたとしても、俺たちに勝ち目はないんじゃねぇのかよ」
「いや」
俺はうっすらと笑みを浮かべた。
「こっちには、カードがある」
そのとき、扉をノックする音が聞こえた。気配で、扉の向こうに居るものが誰なのかは、分かっている。だが、敢えて言葉にはしなかった。
木製の扉。コンコンコンと、軽い音がする。門兵が、声を発する。
「カガリです」
「通せ」
「はっ!」
ギギギ……と音を鳴らして扉が開く。建付けが悪くなってきている。カガリと俺は、顔を合わせたことはない。これが、初めてとなる。
「陛下。何用でしょう?」
呼び出したのは、ザレスだった。俺が裏で糸を引いているのは、言うまでもない。
「カガリ。お前はこれから、この者の下に仕えよ」
「?」
紹介された俺は、陛下の椅子の隣に立ったまま、カガリを見据える。カガリは、俺のことを不思議そうな顔で観察していた。
「この者は…………?」
「私の顧問だ」
「ザイールという」
「ザイール……」
「何だ? カガリ。不満でもあるのか?」
「…………別に」
顔をふいっと背けた。
カガリからは、確かに巨大な「風」の流れを感じる。稀に見る才能の持ち主であるということは、事実だったらしい。
ライロークの民であるということは、当然俺も知っている。カガリは、俺がルシエルの兄であるということも、何も知らされてはいないだろう。ルシエルのことだ。誰にも、漏らしていないはずだ。それを、利用してやろうと目論んだ。
(カガリは、ルシエルの弱点になる)
こちらに招き入れておいて、損はないと考えていた。
「よろしく頼むよ。カガリくん」
「…………」
警戒されている。それを感じ取り、俺は一歩前に進み出ると、うっすらと目を細めた。
「…………分かりました」
「早速だが、ひとつ頼みたいことがある」
「? 何でしょう」
ジンレートの動きに警戒もしているようだ。その警戒心を、解く必要性があった。カガリを、こちらに取り込む作戦だ。
「お茶菓子を買ってきて欲しい」
「?」
その言葉を聞き、カガリは面食らっていた。目を見開き、ぽかんとする。
それを見て、俺はカガリが術中にはまりつつあることを実感し、優男を演じることにした。
「分かりました。街へ行ってきます」
「いってらっしゃい」
そう言ってカガリがこの部屋を出た後に、ジンレートは腹を抱えて笑っていた。




