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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Punisher
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Please Baby Burn/Please Reighny Turn 4

 物資回収部隊と共に旧コロニーS.O.D.へ辿り着いたメリッサは、襲撃目標とされていた施設を駆け抜けていく。

 要塞然としていた筈の岩山を利用して作られていた壁には、機動兵器が通るには丁度良さそうな大きさの大穴が空いており、それが経緯で生まれたのかは考えるまでもなかった。


「なんて無茶な事を!」


 腰に付けられたハンドガンを抜いて、メリッサはその穴の行き先に声を張り上げる。

 たとえナイトメアズ・シャドウと呼ばれた機動兵器が強力であったとしても、機動兵器、それもワンオフ機を擁する組織に単機で突撃するなどただの自殺行為にしか思えない。


 だがイーノスとサミュエルは略奪で得た物の勘定以外には興味もないらしく、エイブラハムの生死など確認すらしていなかった。

 物資回収部隊が出動するまでの数時間、ただ憔悴しながらその時を待っていたメリッサはもう気が気でないのだ。


 2人が居なくなってしまえば、自らはもう立ち直れはしない。

 それを理解してしまっているメリッサはそこらに転がる企業残党である野盗(バンディット)の死体に目もくれず、灰色の短髪をなびかせて走り抜けた。


 少し開けた空間に出たその時、メリッサの眼前に広がる光景が彼女の心中を更なる不安で染めていく。

 エイブラハムとは違うデザインだが、同じ意味を持つであろう企業の白い服を纏った首を切り落とされた老人の死体、奇妙な生き物の死体達、銃撃戦では出来るはずのないクレーター。

 エイブラハムに渡されたアタッシュケースと最低限の医療器具では間に合わない事態に焦燥するメリッサは先を急ごうとするも、恐怖に震える体は気持ちについていかない。


 喉はやけつき、弱りきった心肺は喘ぐように空気を求め、足が震えだすも、不安に駆られた心は足を止める事を許さない。

 無様でも走り続けた通路が不自然な大穴により終わり、メリッサは戦闘の気配のないことを確認してから大穴からそこへ侵入する。


 メリッサがハンドガンを構えながら入ったそこは凄惨な様を晒しており、想像することすら出来ないレベルの激戦があった事を理解させる。

 無数の大型銃火器と柱の残骸、引き千切られた落下した金属製のキャットウォーク、そして3体の機動兵器の残骸。


 その中に影のような黒を見つけ、メリッサの心が凍りつく。


「……嘘だ」


 漏れ出た声色とは裏腹に力強い足並みでメリッサは走り出す。


 絶対に帰って来て欲しいと言ったのだ。

 美味い紅茶をご馳走すると決めていたのだ。

 3人でしかった事はまだたくさん残っているのだ。


 こんなにも一緒に居たいと願っているのだ。


 影のように黒い機動兵器を捉えるメリッサの視界に、半壊している悪夢の影と名付けられたその機動兵器が横たわる傍らで横たわる長身の白髪の男とそれの傍らで座り込む白髪の少女の姿が飛び込んでくる。


「アンジェちゃん!」


 焼け付くような痛みを訴える喉で少女の名前を叫ぶと、横たわる男を見つめていた少女の青い双眸が駆け寄るメリッサにを捉える。

 しかし、その青い瞳は助けが来た事による喜色を浮かべる事はなかった。

 ようやくそこまで辿り着いたレティはエイブラハムの様子を見るが、大小問わず無数の破片が突き刺さる腹部は致命傷を絵に書いたようだった。

 それでも諦められないレティがショルダーバッグから医療器具を取り出したその時、アンジェリカが口を開く。


「おとうさん、しんだ」


 無感情。それでいて感情の表し方の分からない苛立ちを含ませた声で、アンジェリカは確かにそう言ったのだ。


「おとうさんころしたやつ、ころした。おとうさん、おきない」


 舌足らずな声が告げる現実にレティの体が震えだす。

 父の死と共に言葉を取り戻した少女に、真実を告げなければいけないという事に、もう自らの願いが叶わないということに。


「……お父さんはね、もう起きないの。何よりも愛しかったアンジェちゃんを守ってくれたの」


 真実だが、同時に都合の良い言葉で装飾された自分の言葉にメリッサの灰色の目に涙が溢れ出す。

 メリッサは神というものを信じては居なかったが、もし居るのならば問い掛けたい思いに駆られた。

 何故自らから大事なものを奪っていくのか、泣く事すら出来ない少女から全てを奪っていくのか、と。


「おとうさんおきない、いや」

「……そうよね。アタシも嫌だよ」


 肩が震えだした少女の小さな体をメリッサは抱きしめる。

 自らが与えたインナーとは違う赤の意味を理解したその瞬間、メリッサはもう嗚咽をこらえる事がもう出来なかった。

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