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RUIN【破滅】  作者: シギ
二章 魔界の統治者トルデエルト
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94話 変なヤツとの出会い(ブロウ視点)



 こいつはとてつもなく変なヤツだ。

 それがまず、俺様が第一に思ったことだった…。




---



 親父とお袋を殺され、鼻息荒く村を飛び出したのはまだガキの時分だった。

 ろくすっぽ旅の仕方も知らねぇくせに、ちゃんとした準備もせず、着の身着のまま勢いだけで出てきちまった。

 今考えても、もう少し考えてりゃ違っていたと思う。ま、今もあんま考えねぇほうだけどな…。


 ガタイは同い年の子供の中でも一番デカかった。喧嘩は誰にも負けねぇと思ってたし、相手が大人にだって倒す自信があった。だから、村に出ても余裕だろって思っちまったんだな。

 腕っ節だけで食っていける。親父とお袋の仇をすぐにとってやれる。俺様にはできる…。そんな風に考えるしかできねぇ、頭の悪いガキだったわけだ。


 すぐに帰ってくるつもりだったんで、大事な妹のフェーナのこと、これっぽっちも考えてなかったな。

 口もきけねぇ、飯も食わねぇ…そんな妹を、教会のジジイ先生に預けて、俺様は敵討ちすることしか頭になかったぜ。

 いや、ホンネ言えば…怖かったんだな。あの明るくて元気だった妹がこんなんになっちまった。俺様にはなにもできねぇ。側でそんな妹見てられねぇ。

 だから、妹から逃げて、姿も解らねぇ敵を、ただがむしゃらに宛もなくひたすら捜すなんて馬鹿な真似しかできなかったんだな…。

 

 外出て、二日後に自分の頭が本当に悪いってことに初めて気づいた…。

 家にあった非常食用の缶詰をいくつか持ってきてはいたんだが、なんも考えずに全部食っちまったわけだ。

 そんなもんだから、街道のど真ん中で、俺様は途方に暮れる。帝都に急いで向かわなきゃならねぇ。だが、腹の虫がなんかよこせってグーグー騒いでやがる。

 んで、脇にそれた森の中だったらなんかあるだろう…そんな軽い気持ちで入っちまったんだ。


 動物か魔物の巣か…それを見極めるには、慣れた狩人でも難しいってのは知ってた。

 だが、この辺には強い魔物なんてそうそういねぇ。間違っても何とかなんだろ…で、なんとかならなかったわけだな。


 俺様が入った魔物の巣は、よりによってファントムウルフの住処だった。

 レノバやガーネットに普段いるヤツじゃねぇ。たまたまハグレてた一匹なんだろ。今の俺様の敵じゃねぇが、レベルDっていったら軍が出てもおかしくない強敵だっていうじゃねぇか。


 俺様も腹が減ってたが、ヤツもそれは同じだったようだ。

 腹減ってて冬眠してた…まあ、フワフワした幽体しかねぇのに、なんで飯食って眠んなきゃいけねぇのかは知らねぇんだが、偉い科学者が言うには「補食者の肉体を食うのではなく、霊体を食べている」とかなんとか。で、まあ、そんな話はどうでもいいな……。

 とにかく、ヨダレ垂らしていることから、俺様はとっておきのご馳走に見えたらしい。そんな飯が自分から飛び込んできたんだ。尻尾こそ振ってなかったが、きっと喜んでたんじゃねぇかな。


 頭から丸かじりにされないように、必死で抵抗したんだが、人間相手には効果的だった俺様の鉄拳もまるできかねぇわけさ。

 さすがの俺様も観念して眼を瞑ったぜ。こんなところで親父やお袋の仇もとれずに死んじまうなんて、俺様の人生ってなんだったんだ……とか、んなこと考えてたんじゃねぇかな。


 オウ。だけどよ、俺様の人生はそこでは終わらなかった。終わったら、こうやって回想しているわけぇしな。


 次に眼をあけたときには、ファントムウルフは横にブッ飛んで岩の中にめり込んでいる瞬間だった。

 驚いて顔をあげると、なんかちっこい妙なフードをかぶったヤツがいて、俺様の顔を見て笑ってやがった…。


「こいつ、吾輩の晩飯にもらってもいいかにゃ?」


 これが、俺様と師父の出会いだった………。




---




 その後、命の恩人である師父に、土下座でもなんでもして、ようやく認められて弟子にしてもらった。

 んで、修行を受けられるようになった俺様は日増しに強くなっていった…。


 元々、運動神経は良い方なので、師父の編み出したっていう武術はすぐにできるようになった。

 ただ闘気や闘技ってのがイマイチ理解できなくてよ、師父に怒られながらも会得したのは数年かかったけどな…。

 効果的な打撃法やダメージをもっとも少なくなる防御法…そんな話もチンプンカンプンだ。

 交叉法だって、未だどういうのか説明できねぇしな。身体で覚えれば、細かい理屈なんていらないと思うんだけどよ。

 「師父は理屈から始めるから、俺様に解らねぇんだ!」って、そう抗議したら、「馬鹿者が強くなろうと思うても、いつか罠にはめられてしまうにゃ。そんで吾輩の超高等技が泥かぶりになるのは勘弁だにゃ」とかなんとか言ってやがったな…。

 んなわけで、基本技をとりあえずマスターした俺様は、帝都にある訓練校に入れられることになった。「少しは頭を使って闘えるようになってこいにゃ」との師父からのお達しだ。

 その時に帝都に連れてかれ、初めて師父が帝国軍の将軍だって知ったんだけどな…。ああ、それまでは変わり者のバアサンだとしか思ってなかったわけだ。

 ま、それは帝国でもあんま知られてないらしくて、生意気な若い兵士が舐めた口を利いて、師父に小指一本でブッ飛ばされてったんだが…。その時には改めて、この人に闘い方を教わって正解だったんだと思ったぜ。



 13歳になって、帝国軍初等訓練校に入った。

 入学式にゃ、普段は来ねぇっていうブラッセル将軍も顔を出してるから物々しい雰囲気だ。

 そんなお偉いさんが来てるとあって、校長が張り切っちまって、長々しい演説を話してやがったんで……皆、同じような顔で聞いてたぜ。

 俺様も居眠りこいて、保護者役の師父に殴られたしな。殴られる度、隣のヤツがギョッとしてたんで、「いや、いつものことだから気にすんな」と言ったら顔ひきつらせてたなぁ。悪ぃことしたぜ。


 で、新入生の代表挨拶ってのがあったんだが…そこで出てきたヤツが奇妙なヤツだった。

 晴れ舞台ってことで、皆ちゃんと綺麗な学制服を着てるわけなんだが…。

 ああ、もちろん俺様も仕立ててもらっているんだけどよ。こいつが喉は締め付けられるわ、ジャラジャラ訳の解らねぇ鎖や紐はぶら下がってるわ、おまけに腰は三つもバンドがついているしで窮屈なことこの上ねぇんだ。

 だから、新入生の誰もが着なれてない雰囲気だったのに、一人だけ涼しい顔して着こなしてやがる。まるで"生まれたときから着てました"ってな感じなわけだ。

 見るからに良いとこのお坊っちゃんで、貴族のボンボンのリーダーじゃねぇかってのが、俺様がまず思ったことだった。

 壇上に上がって、キザったらしく眼鏡を上げた後、そいつは口を開いた。


「ここは軍人兵士を育成するための専門校です。皆、志を持って入学してきている。この学生生活を無為に過ごすべきではなく、一分一秒でも自己研鑽に努めることは新入生としての責務でしょう。ロダム・スカルネ元将軍の考えは正しい。そういった真の実力者こそが、これからの帝国軍を率いるべきなのです…」


 「おー」とか「ああ」だとかの声があちらこちらから上がる。俺様の隣にいたデップリとしたオッサンも「立派なもんだ。どこのご子息様かね」と周囲に尋ねていた。

 だが、周囲の反応をジッと見てたヤツの眼が鋭くなる。


「だからこそ、僕はこう思う…。この軍学校でこそ、無能者はふるいにかけられるのが当然だろう、と。ここに宣言しよう。僕は今年中に、どの在校生よりも高い成績を修めることを! そして、ここが腐った帝国軍の温床…育成所となっている事実を証明して見せる!!」


 言っていることの半分も解らなかったんで、正直、俺様は「おお」と思っただけだった。だけどよ、コイツはここの生徒全員に喧嘩を売ったってことぐらいは解ったぜ…。

 教師たちはアングリと口を馬鹿みたいに開けてるし、その端の特等席に座ってたブラッセル将軍はニヤニヤしてやがる。

 生徒側で面白そうに笑ってたのは、俺様と師父ぐらいなもんだろう。

 在校生も新入生も、その親たちも、さっきのべた褒めから一転して、「なんだ、あの生意気なヤツは!」って真っ赤な顔して怒り狂ってたしな。

 生意気な代表生徒は、思いっきりフンと鼻を鳴らすと壇上から降りてきた。冷ややかな視線をも物ともしないって態度だ。

 まったく、初っぱなからかましてくれるぜ。肝っ玉座ったこんな面白いヤツがいるなら退屈しねぇだろ…と、その時はそう思ってた。まあ、それは間違いじゃなかったんだけどよ。

 オウ。まあ、それが、ヘジル・トレディって変わった男との出会いだったわけだな………。



 ヘジルは入学式のデケェ宣言の通り、その年の終わりには全学年の主席になっていた。

 オウ。学年のじゃねぇぞ。"全"学年ってことは、新入生の中だけでなく、学校にいるヤツの中で一番ってことだ。

 筆記も実技も、一年が受ける分だけじゃなく、各学年が受ける分までやってやがった。飛び級ってのもあるわけだから、できねぇわけじゃねぇんだが…それがどんだけ大変かは俺様にもよく解る。

 俺様のクラスにも頭のいいヤツはいて、ヘジルに一泡吹かせてやろうと猛勉強してたんだが、寝る間も惜しんで眼の下にクマまで作ってやがったのによ…。涼しげな顔したヘジルの点数にはぜんぜん届かなかった。もちろんそいつが徹夜して覚えたのは一年生の分だけだ。そのたった一年分に全力で集中しても、もっと範囲を広げてたヘジルに勝てやしなかったんだ。それがどれだけスゴイか解るだろ?

 あ? 俺様? 俺様は…オウ。ま、勉強っていうのは性に合わなくてよ。そもそも教科書すらろくに開いた覚えが………ま、そんなのはどうでもいいじゃねぇか。ヘジルが頭が良いって話なんだからよ。

 ただ実技に関してだけ言えば、戦闘訓練の成績だけは俺様の方が良かったぜ。筆記と実技を合わせた総合評価で成績は決まるんで、それでもヘジルがトップってことにゃ変わりねぇんだが…。本人はそれでも納得がいかねぇみてぇで、組み手をする度に、「なぜ勝てない…」とかブツブツつぶやいて睨んできやがったな。

 そんなわけで、唯一勝てない科目がある俺様は、ヤツの記憶に残ってたんだろうが…ま、あまり良い記憶じゃねぇってのは話さなくても解ってたことだ。



 入学してからしばらくしてからのことだ。どこにもくだらないこと考えるヤツはいるもんだと気づかされる。

 試験で勝てねぇもんだから、なら腕っ節で生意気なヤツをブッ飛ばしてやろう…ってなことを、上級生どもが考えたみてぇで。図体のデカイヤツが何人かで、ヘジルを囲んで裏に連れていくのが目に入った。本人らに言わせりゃ、いわゆる"洗礼"ってのをやるつもりなわけだろ。

 こっそり後をつけてってみると、二、三言葉を交わした後に殴り合いだ。まあ、そういうのは解りやすくて、俺様は嫌いじゃねぇが……なぜか、俺様にそういうことをするヤツはいねぇんだよなぁ。


 いや、いま殴り合いって言ったけどよ…。ヘジルはまるで抵抗なんてしやがらねぇんだよな。一方的に殴られてたってのが正しいな。

 ただ相手を見据え、眼鏡が飛ぼうがお構いなしに、歯を食いしばって耐えてやがんだ。ただ目つきだけは変わらねぇ。いくら殴られようと変わらねぇんだ。

 んな態度とるから、殴ってる方は余計に頭きてさらに殴るんだけどな。それが解ってんのか解ってねぇのか、ボコボコと殴らせるままだったわけだ。


 こいつが喧嘩だったら手を出す気はなかったぜ。だけどよ、こう一方的になるとただのイジメだろ。俺様はこういうのを黙って見ているのは嫌いでね。かばうってわけじゃねぇけど…つい、手を出しちまった。

 よく聞かれるのは、上級生を複数相手に怖くなかったかってことなんだが…。師父に怒られ、殴られるのに比べれば屁みたいなもんだぜ。ああ、あの人、ホントに死ぬって直前まで殴るからな。


 まあ、そんなで、やるんなら徹底的にと思って勢いよくブン殴ってみたんだが…。上級生は見かけ倒しだったみたいで、俺様が一発殴ったらさっさと逃げて行っちまいやがった。こういうのはシラケちまうよな。そんな気が小せぇなら、最初から暴力なんて使うんじゃねぇよと思うぜ。



 残ったのは俺様とヘジルだけだ。

 なんか気まずくて鼻の下擦ってると、顔を腫らして、鼻から血を流したヘジルが俺様を睨み付けてた。


「…誰が助けてくれ、などと、言った?」


 強がりもここまでくるとスゲェぜ。普通はそんな風に言われりゃ腹も立つだろうが、俺様はむしろ、やっぱり面白いヤツだなと思った。


「オウ。ま、誰も言っちゃいねぇな。だがよ、助けるなとも言ってねぇしな。別にどっちでもいいだろ」


「…フン」


 ヘジルはそっぽを向くと、落ちた眼鏡を拾う。

 それが歪んでいるのに気づくと不快そうな顔をして、フレームを元の状態に戻そうとしてた。ま、結局は元に戻らなかったんだけどな。

 で、曲がったままの、ヒビの入った眼鏡をかけて眼を細めたりしてた。


「オウ。なんで、オメェは抵抗しなかったんだ?」


 そのまま立ち去ってしまうんじゃねぇかと思ってたんだが、なぜかヘジルはその場に立ったまま、自分のハンケチで血を拭き取ってた。

 ハンケチって……俺様は持ってねぇな。師父からもらったことはあるが、なんか花柄だったんで……ああ、即ゴミ箱行きだぜ。


「…アイツらの顔は覚えた。後で報告して、然るべき処置を受けさせることができた」


 なんだ、いちいち難しい言葉つかうなよ。


「いや、そうじゃねぇよ。ただ黙って殴られてる必要あったのかよ」


「フン。反撃したら、相手に口実を与えることになる。殴られたから殴り返した…じゃ、アイツらと同じレベルだ。それが嫌だっただけだ」


 初めてまともに話したんだが、ホント、素直じゃねぇっていうか変わってるっていうか…。


「オウ。俺様には、その…学校一の天才ってのが、どう考えるかなんて知らねぇけどよ…」


 なんか頭が良いヤツに、どう言ったもんか考えちまう。こうやって喋るのは苦手だぜ…。


「…僕は天才じゃない」


 俺様の言おうとしていた台詞を途中でさえぎって、ヘジルがそう言いやがる。


「お? オウ? …だがよ、皆が言っているぜ。ヘジルは天才だってな」


 それは嘘じゃねぇ。最近じゃ、教師の方が天才だってベタ褒めしてるぐらいだ。最初は煙たがってたのによ…。

 そういや、「優秀な生徒のヘジルにゴマすっておけば、後で上手い汁吸えるかもって考えなんだろうにゃ」って師父が言ってたな。まあ、やっぱ俺様にはその意味はよく解らなかったが…。大人どもが考える都合なんて関係なかったしな。

 それに、こいつの親父が帝国きっての天才科学者であるDr.サガラの子供ってのも大きいかもしんねぇ。だから、「親が天才なら子も天才」だなんて言葉がでてくるんだろうしな…。


 ヘジルは溜息を吐くと、首を横に振った。


「僕は秀才ではあっても、天才なんかじゃない…」


「オウ? なんだ。どっちも同じじゃねぇか?」


「全然違う。僕がもし天才なら、こうやって絡まれる前に対処してただろう…」


 ヘジルはそう言うと、しゃがんで何かを拾いはじめた。

 鞄の中身だ。ノートやら参考書やら、さっきのヤツらにそこらへんにブチ撒けられたんだろ。


 拾っている最中、ノートの一冊のページが開いていたのに気づく。そこに、小さな文字でギッシリと書かれていた。

 内容までは読めなかったが、俺様のノートみたいにイタズラ書きしてんじゃないことぐらいは解る。ってか、授業でそんなに書き込むことあんのかよってことに驚くぜ。


 俺の視線に気づいたヘジルが鼻を鳴らす。


「…教える教師の傾向や癖まで分析するとこうなる。何気ない話題が試験に入ることもあるからな。そうじゃなきゃ常に満点は狙えない。だが、天才と呼ばれる人はこういうことはしない。対策を練っている時点で、僕は天才なんかじゃないんだ」


 言っていることはよく解らねぇが…。

 オウ。どうにも"天才"って言葉が嫌いなのはなんとなく俺様にも解った。


「ま、頭の悪い俺様にはどっちでも同じだと思うけどな」


「…なに?」


「オウ。要は努力してりゃ秀才、してなきゃ天才だってことだろ? でもよ、大抵のヤツはオメェがそこまで努力しているっての知らねぇんだぜ。だから、オメェのことを皆が天才って呼ぶんんじゃねぇか?」


 俺様がそう言うと、ヘジルは少し驚いた顔をしてた。

 あんだ? なんか間違ったこと言ったか…。俺様、あんま言葉とか知らねぇかんな。ああ、だからこういうヤツと喋るの苦手なんだよな…。


「お前、ただの"筋肉馬鹿"だと思ってたが…妙に鋭いところもあるんだな」


「お、オウ? なんだそりゃ。褒めてんのか? それとも馬鹿にしてんのかよ?」


「…フン。その両方ってとこだな」


 ヘジルのヤツがフッと笑う。

 お、笑うところは初めて見たかもしれねぇ…。笑うことあんのかよ。


「…変わったヤツだな」


「オウ。それ、俺様が先に思ったことぜ! オメェに言われかねぇよ!」


 こうして、俺様とヘジルは知り合ったわけだ………。


 ダチって言うほどじゃなかったけどな。眼を合わせば会話するし、グループ活動で爪弾きになりゃ一緒になったりもした。

 ああ、ついでに言っておくとだな…。俺様が殴った上級生は校内での番長みたいなヤツだったらしい。それにしては一発で逃げるなんて弱すぎだった気がしたけどな…。地元じゃ有名なワルだったらしいぜ。

 ともかく、そんな番長を倒したってせいで、俺様も次の日からヘジルと同じように遠巻きにされて扱われた。まあ、ビビッて誰も側に寄ってこねぇんだな。ワルを倒したもっとワルいヤツ…って、そんな風に思われんのはムカツクけどな。

 なぜか男どもはそうやって逃げていくんだが、俺様もヘジルも、女からはやけに話しかけられたんだが…今になっても、それはなんでだったのかはよく解らねぇぜ。


 そんなこんなで、俺様とヘジル…お互いに煙たがられる、変わった者同士で気が合ってたんじゃねぇかと今になっては思うな。




---




 セリクとフェーナが寝ちまっていて、俺様とヘジルが見張りをしている。

 二人が寝ると、ヘジルはすぐに手帳を取り出して書き込む。俺様が見ている限り、毎日やっている作業だ。


「…なんだ? 僕の顔に何かついてるのか?」


 俺様の視線に気づいたヘジルが眉を寄せて言った。


「オウ。いや、相変わらずマメだなって思ってな…」


「フン。植神では少し手間取ったからな…。他の神々と出会うのもいくつかパターンを予想して、対応策を今のうちに考えておく必要があるだろう。戦闘になる可能性も充分に考えられるしな」


 そうだったな。なんでもそつなくこなしてるから忘れちまうことが多いんだが…。こうやって、こいつが隠れて努力してるおかげで進めてる部分も大きいんだなと思わせられるぜ。

 ヘジル抜きで、俺様たち三人だけだったらどうか…。きっと次の目的地も解らず、大きく遠回りした道のりになったはずだ。いや、普通に迷子になってたか。オウ。間違いなくそうだな。その自信がある!


「…ちったあよ、オメェが頑張ってるって、その二人にも見せてやったらどうだ?」


「…なに? フン。別に感謝されたくてやっているわけじゃないからな」


 ヘジルはチラッと寝ている二人を見て言う。


「そういうわけじゃなくてよ。あー、なんていうかな。もっと、褒められてもいいと思うわけだぜ。俺様的には。ヘジルはよ」

 

 ああ。こういうとき、喋るのが下手だってのがもどかしいぜ。ヘジルみたいにスラスラ言えねぇ…。


「…いきなりなんだ。気持ち悪いぞ」


 あー、確かに。いきなりそんなこと言われりゃそう思うわな。

 俺様は、学生時代をちょっと思い出してたからな。そんなのヘジルが知っているわけねぇ。


「…ヘッ。もういいぜ。もう言わねえよ。オメェは素直じゃねぇ。ただの変なヤツだ」


 俺様はそう言って、ゴロンと横になる。

 もちろん、眠るつもりはねぇけどな…。


「なんだそれは? ……フン。お前に言われたくないな。お前の方が変な奴だ」


 そう言いつつも、手帳を見るヘジルの口元が少し緩んでいるのに俺様は気づいてた。


 俺様は口下手だからよ、うまく説明できねぇが…。

 ヘジルは天才だ。そんな俺様の気持ちなんてすぐ気づいてんだろ。付き合いはそれなりに長いかんな…。

 ま、オメェの努力は俺様が知ってる。それだけでも充分ってことだろ…。


 誰を敵に回そうと構わねぇ。その損な性格が、味方を敵に回したとしてもな…。

 ヘジル、俺様がオメェの仲間だ。それは絶対に変わらねぇぜ。

 とは、本人に言ってもなかなか「そうだな」って言ってくれねぇんだがよ。


 ま、そいつを口に出すのを我慢して、俺様は満天の星空を見上げながら一人で心に決めたんだった……………。

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