47話 ヘジルの作戦
説明を聞き終え、ヘジルは眼鏡のツルをさすりながらしばし思案する。
ツルをさするのはヘジルが物事を考えるときの癖だった。
「ガーネット北方にいる青年部隊は、僕たち二十六隊と三十二隊だけは独立部隊として行動している。
あとは、“寄生虫”殲滅作戦時に編制した約三十部隊がそのまま今作戦にも起用されてるから…およそ一五〇〇人規模の大隊クラスとして動かせるはずだ」
「でも、誰がそれを動かすんすか? ブラッセル将軍は前線に来れないんすよね?」
「ああ。その場合は師団長が執るのが筋なんだが…まあ、それはないな。とすれば、次点である僕たち隊長格の誰かが臨時で指揮を執ることになる」
「隊長をまとめる隊長すか?」
「慣例的には第一隊の隊長が総隊長となるが、間違いなく僕が執った方がいい」
「え? た、確かにヘジル隊長なら最高と思いますけど、他の隊長からの反対とかあるんじゃないすか? 大丈夫すかね?」
青年部隊は若いだけあって血気盛んな者たちばかりだ。そんな連中が果たして言うことを聞くのかと、ミシールは不安を覚える。
「フン。誰にも有無など言わせないさ。この非常時に采配を振るえるのは僕しかいない」
少しの迷いもなく、ヘジルはそう
言い切る。
「さすがっす! さすがはヘジル隊長す! カッコイイす! 憧れるす! 愛してるっす!」
ミシールは一人で興奮して騒ぎだす。
「問題は…連絡手段だが」
ヘジルはチラッと崩れたテントを見やる。
先ほど確認した時に、無線機は完全に壊れてしまっていたのだった。
「各隊に連絡は行き渡っているだろうが…。僕のところには君らが来るまで解らなかったわけか」
ヘジルの隊には、イクセスからの緊急無線が届かなかった。ちょうど魔王襲撃が、警戒巡回やファントムウルフとの遭遇に重なったせいである。
「魔物の数はまったく解らないんすよね?」
「はい。多いだろうとしか…」
セリクはいまさらながら、こんな曖昧な情報しか持ってこれなかったことを少し悔いた。
イクセスの話だと、敵は周囲の地域にいた魔物を取り込んで膨大な数になっているらしい。
偵察兵の幾人かが異常に気づいて報告を入れてきてはいたのだが、魔王襲来の影響で軍本部はひどく混乱しており、情報を精査する時間もなかったのである。
「この地域の生態分布、そしてさっきのヤツらの増殖幅を計算して考えるなら……概算に過ぎないが、敵の数は一万から二万匹といったところだろうな」
ヘジルがスラスラと数を口にするのに、セリクたちは驚く。なぜ見てもいないのに、概数とはいえそんなことが言えるのかまったく解らなかったのだ。
「あまり正確じゃない。なにせ、魔王自身が投入した兵力は除いた数だからな」
「それでも、二万ってマジすか!?
自分たちだけじゃ厳しくないっすか!? これは大人たち正規軍にも連絡しといた方がいいんじゃないすか!?」
早口で捲し立てるミシールを不快そうな顔で見やりながら、ヘジルは腕を組み直す。
「連絡して応援をよこすと思うか? ブラッセル将軍が民間組織に依頼するぐらいだぞ?」
「それは…」
「迎撃態勢がとれないなら、防衛線を強化するしかない。ということは、僕たちはその間の足止めとして選ばれたわけだ」
ヘジルが言うのに、セリクとフェーナが顔を見合わす。その顔には疑問符が浮かんでいた。
「どういう意味?」
セリクがそう問うと、ヘジルは眼を細めて息を静かに吐き出す。
「そのままの意味だ。青年部隊だけで敵を殲滅できると本部は考えてないはずだ。最悪、敵の力量を測る試金石にでもなればいいという程度だろう。
僕たちが前線で戦っている間に、帝都は防備を固めるなどの対応策が練られるからな」
「はあ!? イクセスさんは私たちが勝てないって解ってて、行けって言ったっていうの!? 単なる時間稼ぎをしろって!?」
フェーナは顔を真っ赤にして憤慨する。
「なんだそんなことにも気づいてなかったのか?
ブラッセル将軍の策はこうだろう。僕たちや君たちで対処できる程度であれば、前線でそのまま処理させる…無理なら、最終防衛ラインを帝都に移し、そこに最強のメンバーを置いて迎え撃つ。つまり将軍二人と、広範囲攻撃手段を持つ異端者たちだ。そして、ブラックナイツなどを含む上級兵。これら帝国が持ちうる最高最大の戦力を用いて叩き潰す」
「いや、それはどうだろう…」
「何がだ?」
首を傾げるセリクに、ヘジルは冷たい眼を向ける。
「イクセスさんは、俺たちが何とかできるって信じてくれてると思う」
頭を下げてまで頼んだ姿からして、そんな算段があったようにはセリクには感じられなかったのだ。
「フン。甘いな。時には非情にならねば、何かを守ることなんて出来はしない。それを一番に知ってるのは将軍だぞ。
最悪それでもどうにもならなければ、民間人をも盾にして時間を稼ぎつつ、大総統を帝都から脱出させることになるだろう」
「なによ! ヒドイ! それ! それじゃ、私たち皆に、大総統のために死ねっていっているのと同じじゃないの!」
「軍の在り方とはそういうものだ。そうやって感情を剥き出しにして、何とかなるなら苦労はしない」
フェーナは歯をむいて唸る。セリクには二人は水と油で、決して分かり合うことはないように思えた。
「本当にそうだとしても、俺たちが魔物を倒せれば問題ないんだろう?」
フェーナを止め、セリクが真剣な眼差しを向ける。
ヘジルはフンと鼻をならした。真っ直ぐな眼が何故か気に入らなく感じたのだ。
「…できるなら、それに越したことはないな。だが、僕が大隊の指揮をとったとしても圧倒的物量の差はさすがに覆せない」
「でも、何か手はあるんじゃないのか?」
二万匹を相手にするのが無謀なのはセリクにも解っていた。ただヘジルがあまりに冷静なので、何か考えがあると思ったのだ。
ヘジルは少し空を見やって考える素振りをしてから口を開く。
「……弱点があるとすれば、敵の指揮系統だな」
「指揮系統?」
「ああ。さっき僕たちが戦ったファントムウルフ……まったく知恵がないわけじゃないが、攻撃が単調で集団での戦闘を活かせていなかった」
その戦いを見ていたわけではなかったセリクとフェーナは首を傾げたが、なぜか戦ったミシールも不思議そうな顔をする。
「それがどうしたっていうのよ? 戦い方が変だったからなんだっていうの?」
「魔物の強化と増殖は、何かドーピングのような不自然な手段を用いている可能性が高い」
「だから! そんな回りくどい言い方しないでハッキリと…」
「無理矢理に凶暴化させてるってことか?」
セリクがフェーナを遮って言う。ようやく理解したのを見て、ヘジルは少し気をよくして頷いて見せた。
「魔気の急激増大による、即席とも思える強化と増殖に、魔物たち自身がついていけていないんじゃないか……と、僕は考えている」
「暴走しているってことか」
「ああ。そんな暴走している魔物たちを従え、ガーネットへ向かわせているな“何か”がいるはずだ」
「魔王が?」
「いや、もしそうなら襲撃に成功していて退く理由が解らない。魔王自身が陽動で、別に策を講じてたと考えた方が自然だ」
セリクは頷く。皆が魔王に釘付けになっている間に、魔物の大群を編成する…あの人間をからかうことを好むトトならやりかねないと思ったのだ。
「そして、その“何か”は複数いるとは考えにくい。そして、原始的な指揮……いや、誘導方法しか持ち合わせていないように思う」
フェーナもミシールもさっぱり解らないようで眼を白黒とさせていた。
「つまり、知恵のある指揮者……“群れのボス”を倒せばいいってこと?」
セリクが言うと、ヘジルはフッと口元だけを笑わせる。
「“魔物を暴走させている存在”さえ叩いてしまえば、少なくとも万単位の敵をいちどきに相手にしなくてすむ。
弱い統率を崩し、散り散りにさえ出来れば、時間はかかったとしても各個撃破はそう難しくない」
「そ、そんなに上手くいくもんすか?」
「何も僕たちがすべてを倒す必要もない。勝機さえ見通せれば、ブラッセル将軍が本隊を投入するだろう。そうすれば勝利は確実だ」
「なんか、イクセスさんを信じてるのか信じてないのかよく解んないわ」
フェーナはふくれ面になる。
「フン。上がどう動くか把握しないで作戦が立てられるわけがないだろう。
さて、これが僕の意見だ」
「うん。俺もそれでいいと思う。まともに戦って勝てる相手じゃない」
魔王トトの恐ろしさを身をもって体感したセリクは頷く。
「決まったのなら、行動あるのみだな。…少し離れていろ」
ヘジルに追い立てられ、セリクとフェーナは数歩後ずさる。
「ラタレダ・パドラ・ロウス!
テス・トロイ・ストレオ・クハレシ・エ・ユマレス!」
左手をおもむろに挙げると、ヘジルが呪文を唱える!
手の甲に輝く紅玉石を見て、セリクもフェーナも驚く。
「来たれ! 『聖一角馬!』」
神界の小門が開かれ、神聖なる力を帯びた馬が突如として出現する!
「ええッ!? なにコレ!? うわー! お馬だ! どこから出てきたの!? しかもカワイイ!! これが召還なわけ!?」
はしゃいだフェーナは、ユニコーンをキラキラした眼で見つめる。どうやら瞬時に気に入ったようだった。
「僕が契約した聖獣だ。中でもユニコーンは“神獣”に次ぐ上位存在と言われている。コイツの機動力なら…」
「ヘジル隊長のヤツが一番に速くてメッチャ強いっすよ!
過去、数百年の歴史を調べても、上位聖獣と契約を結べた例はないんすッ!
ヘジル隊長は、他の聖獣とかとも契約結んでるっす! 普通は聖獣一体制御するので手一杯なはずなんすけど、これが凡人との違いってヤツっす!!
ヘジル隊長は召還師の中でも天才っす! スゴイっす! 尊敬しているっす! 愛してるっす!」
ヘジルの説明を遮り、ミシールが早口で一挙に言い放つ!
我が身のことのように自慢気なだけでなく、自分の気持ちまでどさくさに付け加えていた。
「さっきからやかましい…。
それに、僕は天才じゃない。秀才なだけだ」
不愉快そうに、眼鏡を上げてヘジルは言う。
謙遜しているのか、それともただ不遜なだけなのか……それはセリクにもフェーナにも解らなかった。
ただ、口だけ達者なのではなく、かなりの実力者だということだけは知れる。
「フン。これより、第二十六青年部隊は魔王侵攻軍の攻略作戦に移行する」
ヘジルは隊員の顔を見回して言う。
「まずは他の青年部隊と合流。そして、その隊が持つ無線で、今の作戦内容を速やかに全隊に報せる」
ミシールだけが大きく頷く。
「作戦だが、僕が指揮系統を掌握次第、敵のボスを索敵、発見でき次第に即排除という流れとなる。
その実行部隊だが、攻撃力に秀でていて、少数精鋭が揃っているという条件を満たせるのは……我々こと召還隊しかないだろう。
それ以外に、他の部隊から奇襲に向いた人員を何名か確保し、召還を行う我々のガードの任に当たらせる。
他の部隊は陽動、ボスを失って統率を失った魔物たちを分散させる作業に当たる。
無論、言うまでもなく“召還発動命令”はこのままだ」
「えっと……私たちは?」
作戦の中に自分たちの名が入ってなかったのに、フェーナは不審な顔をする。
「民間人を軍事行動に参加させるわけにはいかない」
「はあ、なるほど……って、はあッ!? だって、私たちイクセスさんに言われて来たんだけど!!」
「フン。それはさっきも聞いた。
将軍の命令…かもしれないが、それは状況によって、現場で判断を変えなければならない時もある」
「判断を変えた理由はなんだ?」
フェーナが怒りを爆発させる前に、セリクが冷静に問う。納得できないのは同じだったが、声を荒げてもヘジルは眉ひとつ動かさないだろうということは解っていた。
「まず、君たちは訓練を受けた兵士ではないことが一点目にあげられる。戦いに心得があろうと民間人は民間人だ」
「でも、DBは帝国政府公認の組織だよ」
「そうだな。その問題こそが二点目になる。民間組織なりのノウハウというものがあるように、帝国軍には帝国軍のノウハウというものがあるんだ。手法が違う同士が混ざって上手くいくはずもない。足並みが揃わないと作戦に支障がでるだろう。
よって、この重大な作戦に君たちを参加させることを認めるわけにはいかない」
「なにそれ! 私がそっちの隊員を治したのに!」
「それは感謝しているが、それとこれとは話は別だ。治療費ならば後ほど払おう」
淡々と理屈を述べるヘジルに、フェーナが頭から湯気を出して怒る。だが、セリクが間に入って制していた。そうでないと、今にも掴みかかりそうだったのだ。
「ベン。スベアはまだ起きないか?
各隊から精鋭を乗せるのに、彼女の持つ『聖霧白鯨』の積載運搬能力が何とも必要だ」
ベンは睨み付けるかのような眼をしたまま顔を上げると、静かに首を横に振る。
「フン。傷自体は癒えているのだろう? 今は一刻を争う事態だ。無理に起こしてでも…」
「トレディ隊長!!!」
とうとうベンが耐えきれずに怒鳴る。
そして二人の視線が強くぶつかる。ミシールはその様子を不安そうに見やった。
「俺は……俺たちはこの作戦に参加できない!」
「…“俺たち”?」
聞き違いかと、ヘジルは聞き直す。
「はい。俺とスベアは……参加できないって言ってるんです」
ヘジルは天を仰ぎ、それからしばらくして深く息を吐き出した。
「フン。自分が言っている意味が解っているのか?」
「ええ。上官の命令に逆らった……軍法会議もんですね。覚悟はできてます。
もう俺は隊長にはついていけねぇ。スベアを連れていかせるわけにもいかねぇ。
隊長に感謝してないわけじゃない。でも……もう、無理ですわ」
最後はベンは自嘲気味に笑ってみせた。
「ベン…。ヘジル隊長に受けた恩忘れたっすか?
アタシら、レ・アーム大教会から引き渡されて……このまま実験室送りだったハズっす。
だけど、それをヘジル隊長が止めてくれたんじゃないっすか」
「そんなこと解ってる! だけど、だけどよ!」
ベンは、横たわっているスベアの顔を見やる。そして、泣きそうな顔をした。
スベアが死んだとしたら、自分はどう行動しただろうか…少なくとも、ヘジルを強く恨んだに違いない。
いま怒りとも哀しみともはっきりしない感情が、ベンの中で複雑に渦巻いていた。
「フン。勘違いしているようだから言っておく。
Dr.サガラは、科学的見地から召還師の能力を向上させることを考えていた。だが、実際に異端者の研究を行って、その能力を引き出せたことはない。“召還がどういった原理なのか”という事が解ったぐらいだ。
だが、僕は違う。自らが召還師だから解るが、時代の証人の能力は、“環境”や“経験”といった不確定な要素に左右されやすい。研究所に送るよりも、戦場で能力を磨いたほうが効率が良かった……ただそれだけの話だ」
冷徹な事実に、ベンは一瞬だけ唖然とした顔をしたあと、みるみるうちに怒りの形相に変わる。
「は、はは。これでハッキリしたな! もう迷いはねぇぜ!!
俺は……俺たちは! お前らの“玩具”じゃねぇ!! 人間だ!!」
ベンの言葉に、セリクはズキリと胸の奥が傷むのを感じた。
自分が周囲に拒否されたり、ギャンやサラが異端者ということで不当な扱いを受けたことと状況が似ている気がしたからだ。
「……ミシール。お前はどうすんだよ」
項垂れたベンの問いに、ミシールはチラッとヘジルの顔を見やった。
ヘジルは何も言わず腕を組んで眼を閉じたままである。
「…アタシは、ヘジル隊長についていくっす。
“玩具”だったとしてもいいっす。召還師として連れてこられた時からそんなこと知ってたっすよ。
レ・アームだって、保護するだなんて言っておきながら……閉じ込められてたのは一緒だったっす。だからって、実験室でヒドイ目に遭うのもイヤだったっす。
だったら……今、この二十六隊にいて…ヘジル隊長の下で、皆のためになることをしてたほうが遙かにいいっす!!」
半ばその返事を予想してたのか、ベンは静かに頷く。そしてこれ以上の話はする気はないという感じに、スベアの隣に座り込んだ。
「さっきから黙って聞いてたけどさ。なんなの? 仲間なんでしょ? なんで優しい言葉をかけてあげられないの?」
フェーナがヘジルに詰問する。
「フン。優しい言葉だと? ここは学生寮じゃない。馴れ合う場所じゃないんだ。生きるか死ぬかという戦場だ。正確な理性判断だけが求められる」
「……私、あなたのことキライ」
フェーナが静かにそう言う。誰に対しても明るく振る舞う彼女らしくなかった。
「トレディさん、どうするんだ? まさか、一人で乗り込むつもりじゃないんだろう?」
セリクが問うと、ヘジルはユニコーンをチラッと見やる。
「……僕だけはとりあえず先に進むつもりだった。後から、ハルフゥと敵前で合流する。
スピードではユニコーンには勝らないが、ハルフゥだったら最大で五〇名程度はまとめて輸送できたんだ。
だが、ユニコーンでは乗れて三人までだろう。作戦を根本から変えなければならないな」
「……三人なら、俺とトレディさん。そして、フェーナだったら大丈夫だね」
セリクが言うと、ヘジルは眉をピクッと動かす。
「何を言っている? 僕は君たちを……」
「そんなことを言っている時じゃないよ。魔王の強さは、戦った俺なら解る。戦える者は一人だって多い方がいいはずだ。
ただ俺も…“力を発揮する”にはフェーナが必要なんだけど…」
セリクが見やると、フェーナは笑顔になって親指を立てる。
「そう。あなたはキライだけど…それも話は別ね!
私の治療の力は必要でしょ? そして、セリクにも私がぜーったいに必要なの!」
フェーナはウエストポーチから小瓶を取りだし、栓を抜いたかと思うと一気にそれを飲み干した。
「フェーナ? それは?」
「ん? ああ、気にしないで。栄養剤みたいなものだから」
空になった容器を隠すようにしまい、フェーナは笑う。
「剣士と治癒師…か」
セリクとフェーナの顔見やって、ヘジルは少し考え込む。
だが、他に良い考えが思いつかなかったのか、仕方ないという感じに頷いた。
「いいだろう。ただ僕の邪魔はさせないからな。僕の指示には従ってもらう」
フェーナがムッとした顔をするが、セリクはコクリと頷く。
「えーっと、アタシはどうすればいいっすか?」
「お前は、まずは三十二隊のいる北側に向かえ。あの“筋肉馬鹿”のことだ。魔物を見れば何も考えず、真っ正面から戦おうとするはずだ。いまは一隊たりとも欠けさせるわけにはいかない。ケット・シーの幻術ならば役立つはずだ」
「了解っす! …チェッ。アタシもヘジル隊長と一緒が良かったっすけど」
小声で言って、ミシールは残念そうに肩を落とす。
「フン。では始めよう」
ヘジルの指示で、こうして作戦が開始されたのだった……。




