38話 神告(1)
神告前日から、帝都はお祭りの様相を呈していた。
大通りには露天が開き、遠くの村や町から人々が一斉にやって来ていた。各地の郷土料理が振る舞われ、ここぞとばかりに掘り出し物の装飾品などが並ぶ。
先だっての颯風団殲滅のための急な外出禁止令、また続けて起きた龍族の襲撃。これらに帝都民たちは不安こそ覚えていたが、今日だけはそれを忘れようとしてなのか、またむしろ神々の足下にいれば安心だろうという心持ちのせいなのか、往来する人々は妙に浮かれている様子だった。
対して、帝国軍による警備は物々しかった。帝都周辺にいくつかの臨時待機所を設け、帝都内では通りの角地に必ず一人は警備兵が立哨していた。いつもは滅多に見かけることのない巡回戦車が行き交い、厳重武装をした兵士が走り回っている。対空砲は照準を調整するためか、頻繁に台座が左右に動き、いくつもの気球が空からの攻撃にも目を光らせる。
朝早く、セリクが教会の周りを掃除していると、通りの真ん中で年輩の夫婦が城に向かって頭を下げていた。両手を開いては、頭を下げ、また再び両手を開き、頭を下げる。そんな動作をずっと繰り返していたのだ。
何をしているのかと、セリクが見ていると、ジロッと睨まれて何やらブツブツと文句を言われる。
後からマトリックスに、それが敬虔な最高三大神信仰教徒であり、セリクが聖イバン教徒だと思われてやっかまれたのだと教わった。
ちょうど朝食を食べ終えた頃、イクセスの乗る軍用車が教会の前に停まった。
DBの面々はすでに教会の前に整列して立っている。
「準備はできてるな?」
イクセスの問いに、マトリックスはコクリと頷く。そして、幌の張ってある後部座席に皆が乗り込んだ。
六人が座るとなかなか窮屈だ。シャインの隣に座ろうとしたセリクだったが、フェーナが間に割り込んでくる。
全員乗るのを見届けて、助手席に座っていたイクセスが「行け」と指示を出す。駆動音がして、車が走り出した。
セリクたちの向かいに、見慣れない女性がいた。視線が合うと、ペコリとお辞儀をしてくる。釣られてDBたちも頭を下げた。
「…あ? 紹介してなかったか?」
イクセスが振り返って聞いてきた。
「ええ。でも、わたくしはよく存じていますわ」
「はい。非常にご無沙汰しています。サラ氏。こんな形であえるとは思ってなかったですから。非常に嬉しいです」
手を合わせ、本当に喜んでいるような様子で微笑む。
「ハンッ! わたくしもですわ。ぜんぜん嬉しくはありませんけれども」
空を仰ぎながらサラが答える。その様子を見て、イクセスは納得したように頷いた。
「DBの皆様、はじめまして。クロイラー・スカルネと申します。父が非常にお世話になってます」
礼儀正しく、クロイラーは再び頭を下げる。
「クロイラーさん? 三将軍のお一人ですか。…確かロダム閣下の御息女ですね」
マトリックスも会うのは初めてらしく、目の前の戦いとは無縁そうな女性に面食らっていた。
「な、なんやて! この人が将軍やって!? ごっつい美人さんやないか! 将軍だなんていうもんやから、てっきりシャインのオバハンみたいな筋肉ダルマ…っでぇ!」
シャインに頭を殴られ、ギャンは思いっきり舌を噛む。
「見た目に騙されんなよ。蜂の巣にされんぞ。見かけは細い姉ちゃんだが、戦闘能力でいったら俺よりも上かもな。襲撃してきた龍を壊滅に追い込んだのはこの人だぜ」
恐縮した様子で、クロイラーはペコペコと頭を下げる。
「へえ! スゴーイ! イクセスさんよりも強いなんて!」
「いや、総合的な強さで言えばのことだ。そりゃ、肉弾戦とかになると話は…」
イクセスが何やら言い訳がましいことを言うが、フェーナはまったく聞いていなかった。尊敬の眼差しでクロイラーを見つめる。
「女の子でも強くなる秘訣とかってあるんですか?」
フェーナが興味津々で問う。『なぜ私に問わないのか』と、シャインとサラがそんな不満そうな顔をした。
「いえ、私自身が強いんじゃないんです。これがあるお陰なんですよ」
クロイラーは胸元を開き、ショルダーホルスターに差してあるリボルバーを指さした。六発装填式で、女性の手の平にも納まるほど小型のものだ。
「銃器ってヤツだ。ま、飛び道具の一種だな。俺の“オードソード”同様、戦気を圧縮して扱う武器で、こいつはそれを弾状にして飛ばせるっていう便利な機械なわけだ。
戦技が使えなくても使用できるんだが、細かな調整などがあって扱いが難しい。片手で扱える“オードリボルバー”以外に、“オードレールガン”……長距離砲まで使えるのはクロイラー嬢だけさ」
皆が見慣れない銃器に視点を集める中、ギャンだけは違うところを見ていた。
薄く白いブラウス、意外と豊かであった胸元が丸解りになったところで、ギャンが鼻の下をのばしながら身を乗り出そうとした。次の瞬間、サラの肘鉄を喰らって悶絶する。
「ええ。道具に頼って将軍になったようなもので、非常に反則ですけどね」
「いや、オード系装備を使えるのは限られてますからね。そんな卑下しなくともいいんじゃ…ッと!?
ちょ! なにやってんすか! クロイラー嬢!! こんなとこで!」
クロイラーがホルスターからリボルバーを取り出すところを見て、イクセスが慌てる。
ドギューン!!
銃声が響きわたった。耳の中でその音が反響し、しばらく周りの音が聞こえなくなる。運転手がビクッとしたが、幸いにハンドル操作を誤ることはなかった。
幌に空いた風穴。そして、消失したギャンのトサカの一部。ギャンは真っ青な顔で硬直している。
「ハァハァ。撃っちゃっていいですかぁ? 撃っちゃっていいですかぁッ!?」
口の端から涎を垂らし、恍惚の表情でクロイラーがうわごとのように呟く。
さっきの大人しかった印象はすっかり消え、焦点が合わずに血走った目は常軌を逸していた。
「いや、もう撃ってやすから! いいから、しまって下さい! こんあ狭いところで撃たれちゃかなわないですぜ!!」
イクセスがリボルバーを取り上げようとするが、クロイラーは必死で抵抗する。銃口が向けられる度に、狭い車内で互いにぶつかり合って悲鳴が上がった。こんなところで撃ち殺されてはかなわない。
ようやくのことでリボルバーを奪い取ると、嘘みたいにクロイラーは大人しくなる。
「ゼェゼェ…作戦前にこんなに疲れるのは勘弁ですぜ」
冷や汗をぬぐい、イクセスは疲れきった顔をしていた。
「……非常に申し訳ありませんでした。深く、深く非常に反省しています」
「わ、ワイの髪が……」
チリチリに焦げ、先が無くなった髪をいじりまわしながらギャンが泣く。
「やはりスカルネ家の血筋ですわね…。ロダム卿と同じ戦闘狂ばかり。命がいくつあっても足りませんわ」
サラは引きつった顔でそう言う。
「まあ、こういう問題も抱えてはいるが、それを差し引いても、極めて優れた軍人には違いない。
今回の神告警備も当然だが、戦略戦術面に置いても現帝国軍には欠かせない存在だ。新兵教育プログラムを構築し直したのもクロイラー将軍の功績だしな。
銃さえ持たないなら…普通に有能だ。銃さえ持たなきゃな」
銃という部分を強調するイクセスに、クロイラーはますます肩を落とす。
フェーナの視線が、クロイラーとリボルバーを行ったり来たりしていた。
「うーん。なるほど。そっか。私も銃を持てば……」
「絶対に反対だよ!」
フェーナが言い終わる前に、セリクがそう叫んだ。ギャンもサラも強く頷いたのであった……。
車で正門をくぐり、向かって左側にある駐車場に停車する。
そして勝手口を通って、城の一階にある廊下に入った。あのバージル像があった大きな通路だ。
ガーネット旧城。城の中に城があることに、フェーナは初めて来た時のセリクと全く同じような反応をしていた。マトリックスたちは何度も来ているのか、見慣れたという感じである。
「ふぇー。すっごーい。でかーい。ひろーい。それに、こんな大きいのどうやって作るんだろう?」
フェーナがバージル像の足をペシペシと叩く。周りの兵士が慌てて飛んできたので、セリクはフェーナの背を押して先に進ませる。
神告が行われるとあって、さすがに城の中に観光客はおらず、ロビーにも受付嬢の代わりに屈強そうな兵士が立っていた。「いらっしゃいませ」との挨拶のかわりに、厳しい視線を送ってくる。
「神告間は旧城のニ階にある。いつもだったら、建国記念式とか帝王生誕祭などの催し物があると解放されるんだが。“予見”が入ると、神告が行われるまでは完全閉鎖になる」
「なんや? 予見って」
「神々から神告が行われるという事前通告のことです。夢見や幻視で視たり、暦を使った占いなどでおよそ一ヶ月から数ヶ月前にそれが解るのだそうです」
マトリックスが説明する。ギャンは解ったような解らなかったような微妙な顔をした。
「予見が入ると、帝王……または大神官は自浄に入ります。一切の世俗を絶ち、神々の言葉を聞く準備を整える必要があるのです」
クロイラーがそう続けると、ギャンはあからさまに下心まるだしでコクコクと頷く。マトリックスは少し寂しそうな顔をした。
「はぇー。色々とめんどくさいんだね。『はい。来ました! これこれこうするのじゃー。はい。さようならー』……じゃ、ダメなのかしら?」
フェーナが身振り手振りを交えて説明する。あまりにずさんな表現だったが、クロイラーには理解できたようだった。
「非常に厳粛なことですから。そう簡単にはできないことなのでしょう。けれども昔は……」
「もっと昔は神告が頻繁に行われていたそうです! 神告自体は一日で終わりますし、こんな大袈裟に儀式の手続きをするようになったのは最近のことなんですよ!
さぁて、そこで問題です! なんで今では神告の回数が減ったのか解りますか!?」
クロイラーが話しているのを遮り、マトリックスがギャンの目の前で人差し指を立てる。鼻息がかかるほど近寄られて、ギャンは露骨に嫌そうにした。
「なんでやろ?」
「なんででしょー?」
「え?」
問題を振られたギャンが、フェーナに振り、さらに振って、セリクにまで来た。
「えっと…。確か、神様の声は帝王しか聞けないんだよね? あんまりやっちゃうと信用なくなっちゃうからかな?」
セリクが答えると、マトリックスはにんまりと笑う。
「良い答えです。“信用なくなっちゃう”とは優しいセリクくんらしい答え方ですね。
細かく言いますと、過去に神の名を悪用した不敬な帝王がいたので、あえて人間側が自粛したというのが本当のところです。
無闇やたらに神告を行わせないための政教分離、貴族議会を敷き大総統制が取り入れられている背景にはそういったわけもあるのです」
「でも、神様からの声はダフネス大総統しか聞こえないんでしょ? いくらでもウソつき放題じゃないの?」
「せやな。“神様が聞けって言ってる!”とか言われたらどうしようもないわな。そないなこと自粛しても意味ないんやないか?」
「確かに、神々からのアプローチがあったとしてもそれは神々の代理人たるダフネス大総統にしか解りません。
ですから、神告終了後にそれが本物であるかどうかを神官や神学者が徹底的に調べるのです。もちろん、貴族たちにも先に内容が報されて、政治的にどこまで公開するのかを決議します。そんな過程を通り、ようやくして最後に民衆に公布されるんですよ」
「…聖イバン教の神父さんがお詳しいことで」
イクセスが皮肉を言うのに、マトリックスは顔をしかめる。
「別に宗教的に敵対しているわけではありません。帝都で布教する以上、国教についても勉強しますよ」
「おー、でも、神はんの声聞けるんなら、最高三大神信仰と聖イバン教のどっちが正しいのか判断してもらえそうなのに。それせんかったのかいな?」
ギャンが言うと、サラが大きくため息を吐く。セリクには解らなかったが、なにやらまずいことを言ったらしい。
「それについては裁定神パドラ・ロウスが、『天に神在るは自明なり。信教問わず、信法問わず、ただ崇め仕えるべし』と答えた第二十五代帝王の行った神告で決しています」
クロイラーが説明する。マトリックスが悔しそうに唇を噛んだ。
「ええ。これも歴史で習う初歩的な部分ですわ」
「え、“あめ”に…なんやって? 雨がどうしたっちゅうねん?」
「非常に簡潔に言いますと、『神が存在しているのは事実であり、それを信じる教義も方法も自由である』という意味です。
またイバン・カリズムも同じようなことを言っていますね。だから、聖イバン教会もこの神告については否定していないようです」
セリクもフェーナも、ギャンも納得したように頷く。
「でも、神様がそう言ったのに…。宗教同士で仲が悪かったの?」
そう聞くと、マトリックスは困ったような顔をした。
「神々の存在は疑いようがなくとも、宗教ってのは人間が自分のために作ったもんだからな。自分が救われる教義が一番でないと気にいらないのさ。
まあ、俺としては龍王ブッ倒してくれんならどっちでもいいけどな」
宗教心の欠片もないイクセスはさらっとそんなことを言う。ギャンもサラもなんだか同意といった顔だ。
「イクセスさん。そんなことを誰かに聞かれたら…。それこそ神罰が当たりますよ」
「はは。俺に当てる前に、龍王に当ててもらいたいもんですよ」
クロイラーの叱責にも、軽口を言って肩をすくめる。
マトリックスとシャインは難しい顔をしていた。
セリクとしては正直、イクセスと同じような気持ちだった。宗教なんてどうでもいい。神々が龍王を倒したことがあるというのならば、なぜ何もせずに事態を放置しているのか。また、救済者を立てるなどといった回りくどいことをする理由は何なのか。聞いてみたいことは山ほどあったのである。
エレベーターで上がるもの思いきや、古城の移動は階段がメインであった。
ロビー脇の階段を昇っていくと、脇に小さな扉がある。そこに入ると、螺旋階段があった。外から見えた古城の尖塔部分だ。
「神告間の出入口は、この二つの塔に設置された階段しかねぇ。
あと大総統専用エレベーターが神告間まで直通だが……それはカードキーがないと開閉できない仕様だ。もちろん警備は超厳重で、俺とクロイラー将軍が側につくから大総統の身は絶対に安全だ。そこから侵入される可能性は考えなくていい」
「見たところ建物はあまり丈夫そうじゃないですが」
「ああ。ま、見た目はな。実際には新城より丈夫だ。なんたって一〇〇〇年近く殆ど補修せずに使ってんだからよ。ハド鉱石を混ぜ込んだ石壁らしいぜ。
旧城の建築には神々が助言してるってことだしな。Dr.サガラでも同じものは作れねぇってんだから人智の及ばない奇跡の代物ってやつさ」
「なるほど。侵入路は二つですか…。見張りに数を割かなくて良いのは利点ですね」
「そうなるんだが、何よりも厄介な点が一つある」
「厄介?」
「神告間は二、三階の間が吹き抜けになってるんだがな。二階の出入口は正面にしかないが、三階の左右にバルコニーがある。上から攻めるとしたら最適な造りだ。つまりそこから神告間に入られたら、敵にイニシアティブをとられる可能性がある」
イクセスが図面を取り出し、マトリックスとのぞき込む。
「通路には当然、蟻一匹逃さないほどの兵を配置する。
神告中はエレベーターの電源を切って使用不可だ。従って、侵入経路はさっき言った二つだけになる。
んでだ、お前たちには、最悪の状態を想定して神告間で待機してもらう」
「神告間にですって?」
マトリックスは驚いた顔をする。てっきり、通路をかためる隊列に混ぜられるのだろうと考えていたのだ。
「ああ。VIP席で神告が見られるんだぜ? 部外者にはまずない好待遇だろ」
イクセスはニヤリと笑った。
「そこまでダフネス大総統が我々のことを信用してくださっているのですか?」
「さあ。それは解らないが、許可したのはゲナ副総統だ。普通は政府重役員や貴族でも参列できるもんじゃねぇ。ましてや警護とはいえ、聖イバン教徒まで立ち入れさせるなんて前代未聞のことだぜ」
何か裏があるのではないかと思案していたマトリックスだったが、仕方ないという感じに了承する。
「…神様が見れるんですか?」
セリクが問うと、マトリックスは難しい顔をしたまま頷いた。
「私も神告は見たことがありません。最後は十四年前に行われたっきりですね。その時には大総統の養子縁組みの事だったような…」
なぜかイクセスとクロイラーは気まずそうに顔を見合わせた。
「ま、とりあえず仕事の話だ。DBは二つの班に分かれろ。配置は任せる。決まったら教えろ」
旧城三階ロビー。
大きな囲い型をした廊下で、階段を昇った横に小部屋があり、普段は休憩室として使われているのだが、いまは待機室扱いで、そこでセリクたちは作戦会議を行っていた。
「…私とセリクくんとフェーナさん。シャインさんとギャンくんとサラさん。この二班に分かれた方が、バランスよくサポートし合えるでしょう。
颯風団はともかくとしても、エーディンくんがどう攻めてくるかは解りません。ルゲイトくんは間違いなく裏をかいてくることでしょう」
「兵士や神官になりすます可能性もありますね」
「もちろん、その可能性はイクセスも考えているでしょうし、執拗な出入チェックがあるとは思いますが…。何せ人間が行うことですからミスが絶対にないとは言い切れません。私たち自身でも警戒しておきましょう」
真面目にマトリックスとシャインが話し合っている中、ギャンは大きな欠伸をした。シャインが怒りを発しながら腰を上げると、あわてて居住まいを正す。
「そんな怖い顔せんといてや! だいたい、こんなん話し合っても無駄やろぉ~」
「無駄だと!?」
危うくギャンの首を絞めようとするところを、マトリックスが抑える。
「せ、せや! 敵が来たら倒す! 大総統守るのがキモなんやろ? やることは決まっているやないかい!」
怯えた様子で、それでも自分の正当性を示すべくギャンは言い放つ。
「確かにギャンくんの言うことも正しいと思います。あまり深く考えすぎるとその盲点こそを突かれるかも知れません」
マトリックスが言うと、シャインは渋々と言った様子ではあったが座り直す。
「……エーディンは来るのかな?」
セリクは図面をジッと見つめながら呟いた。
さっきからエーディンとの戦闘をシミュレートしていたのだ。今回は大総統がいるのだ。負けは絶対に許されない。
「龍王アーダンを神様たちがやっつけたっていうなら…。きっと、無視できないよねぇ」
フェーナが腕を組んで唸る。
フェーナ自身もセリクを脅かすエーディンの存在を疎ましく思っていた。戦わないに越したことはないが、敵意を向けられる以上は全力で倒さなければならないことは覚悟しているのだ。
「…エーディンくんはあの性格です。神々が人間を援護したとて、自分の戦いを止めることはないでしょう。むしろ、神々と正面から望んで戦うかも知れません」
「なら、もし邪魔を入れてくるとしたら……やはり、あのルゲイトって参謀ですわね」
「四龍の実力は知っての通りだ。DBと三将軍が加わったとして、どちらが強いかは定かではないな。私はおおよそ拮抗しているとは思うんだが…」
「ええ。表だって攻めてこないのは、少なからず私たちを脅威だと思っているからに間違いありません。
ですから、あの龍族の襲撃はまったくもって無謀にしか思えなかったのですが…。あれが仮に神告を意識したアピールだとすれば、ルゲイトくんの何かの作戦の一端だったのやも…」
「颯風団の残党を焚き付けての特攻を隠れ蓑に……ということも考えられますね。何をするか予測のつかない男です」
「せーやーかーら! そう難しく考えることないやんか!」
ギャンが足をドンドンと踏み鳴らす。
「相手が龍王やろうと、“寄生虫”やろうとや。とりあえず、大総統はんの神告が上手くいけばええんやろ!? 神告さえ成功すりゃ、神はんたちが龍王を何とかしてくれるんやろ? なら、その間だけをワイらできっちり護ったらええ。単純な話や! もっと肩の力抜こうやー。上手くいくもんもいかへんくなるわ」
「そうだね…。俺もギャンの言う通りだと思うよ」
セリクが肩を落として笑みを浮かべると、「せやろ!」とギャンが肩を組んでくる。
「神様がきっと…龍王を止める方法を教えてくれる」
そう言うと、皆が納得したように頷いた。思いは一つ。神告の成功である。
彼らは神告が全ての解決の術だと思っていた。信心によらずとも、神々の言葉さえあれば、龍王と戦うことが出来るとそう信じていたのである。
だが、この神告こそが、新たなる戦いを巻き起こすことになることを、この時のセリクたちはまだ知る由もなかった…………。




