出会い
彼女に初めて会ったのは、多分、小学校3年生の時だった。
自営業を営んでいたうちの家は、比較的自由に休みが取れる。
なので、僕や妹が夏休みになると、お盆の混雑時期をずらして旅行をするのが常だった。
その行き先で一番多かったのが、母方の実家だった。
父親は親戚筋との仲が悪かったみたいで、そちらに帰ることはめったになかった。
それでも、子どもに田舎の暮らしを体験させたい、
その思いがひとつ。
もうひとつは、母が家事から解放されるという理由だったのではないかと思う。
そこは岡山県の田舎町で、本当に何もない。
おばあちゃんもおじいちゃんも
「ここにあるのは山と川だけ」
と言ってよく笑っていた。
当時はゲーム機なんか持ってなかったが、
親戚の子たちと川遊びをしたり、
夜はボードゲームやカードゲームをしたりして、
結構楽しく遊んでいたと思う。
ただ、その日はたまたま僕一人だった。
なんでかはよく覚えていない。
妹は具合が悪かったのかもしれない。
親戚の子たちは学校のプール開放に行ってしまったのかもしれない。
とにかく、僕はひとりの時間をものすごく持て余していた。
仕方がないので近所を探検することにした。
要は散歩だ。
延々と田んぼが続くあぜ道を歩いていると、
石造りの鳥居があった。
「神社?」
山の中に入っていく石段は、
薄暗くジメッとした感じがした。
どこまで続いているんだろう?
ふとそんな思いに駆られて、僕は石段を登り始める。
まあ、てっぺんにあったのは、若干開けた境内に、
こじんまりとしたお堂がひとつ、それだけだった。
なーんだ
そう思って引き返そうとした僕は、
視界の端で何かがコソリと動くのを感じた。
お堂の縁側みたいになったところに、
白いワンピースを着た女の子が座っていたのだ。
年の頃は僕と同じくらい。
その子は、何をするわけでもなく、足をブラブラさせて、
空を見ているみたいに見えた。
興味があって、僕はソイツに近寄っていった。
「何、してるの?」
髪の毛がとっても黒くてツヤツヤしてて、
まるで日本人形のようにきれいに切りそろえられている。
こんな夏の日だと言うのに、やけに顔が白い。
でも、唇だけは赤々としているのだ。
その子は、ニコリと笑った。
その表情に、なんだか僕の胸がコトンと鳴る。
「別に何もしてないわ」
彼女はそう言った。
「暇じゃないの?」
「うん、暇」
変な子だと思ったけれども、
それ以上に可愛らしい子だとも思った。
「おはじきしたい」
最初に、そう言われたような気もする。
どちらから言い出したか、
今となってははっきりしないが、
とにかく僕はその日、
その子と楽しく遊んだのだった。
これが、僕と純との初めての出会いだった。
☆☆☆
純は、雨の日以外はいつも神社にいた。
一度、うちに来ないかと誘ったら、眉間にシワを寄せられてしまった。
ヒトミシリ、なのかな?
その時の僕はそう思った。
純との遊びはおはじきとか、トランプとか、画用紙に絵を描くとか、
そんな感じだった。
鬼ごっこやかくれんぼは苦手だと言っていた。
その年、僕は多分3〜4日くらい、純と遊んだと思う。
「君…名前は?」
もう、明日には自分の家に帰るという日に、
初めて純に名前を聞かれた。
「蒼真」
僕は自分の名を名乗った。
純は口の中で「そうま、そうま、そうま…」と何度か唱えて、
「うん、覚えた」と言った。
「蒼真は、帰ってしまうの?」
「うん、うち、神戸だから」
「もう来ない?」
「んん…多分、来る」
「いつ?」
「来年…かな?」
じゃあ、来年、また会おう…
そう言って、純が小指を差し出した。
小さな純の指に、僕は指を絡める。
指切り…だよ?
そう言って、笑った純の顔に、
僕はちょっとだけ、見とれてしまった。




