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第18話 ギャル、王都で暴れる

翌朝、街を見て回った。


 王都の商業区は広い。露店と石造りの店舗が混在していて、人の流れが複数の方向に分かれている。いつもの街より声が多い。でも石が声を吸うから、遠くの声が届かない。近くだけが鮮明で、少し離れると全部が背景になる。そういう街だ。


 アルノが案内役として同行していた。


 商業区の中ほどで、人だかりができていた。


 5人の男が商人を囲んでいた。装備が良すぎる。ランク詐称だ、とアタシは直感した。本物の上位冒険者はあんな囲み方をしない。囲む必要がない。


「関わらない方がいいです」とアルノが言った。「あの者たちの背後には——」


 アタシはすでに歩き始めていた。


「みるくさん」


「レオニス、商人の後ろ」とアタシは言った。


 レオニスが動いた。



 5人がアタシに気づいた。


「邪魔をするな」と1人が言った。リーダーらしい男だ。30代、体格がいい。剣を腰に差している。


 ギャルズアイを向けた。一瞬で全員を読んだ。リーダーは最後に取っておく。


 最初の1人が剣に手をかけた。


 体が先に動いた。フィジカルコントロールを入れた。相手が剣を抜く前に体勢が崩れた。そこに踏み込んでデコレートバーストを足元で小さく炸裂させた。吹き飛ばすんじゃない。崩す。1人目が地面に手をついた。


 2人目が動いた。速い。でも体がもう横に出ていた。背中に回る。デコレートバーストで壁際に押し込んだ。


 3人目と4人目が同時に来た。


 2人の動きがバラバラだ、と体が先に知った。連携していない。3人目の踏み込みにフィジカルコントロールを合わせた。体が止まった。そこを抜けて4人目に入る。デコレートバーストで弾いた。3人目に戻る。崩れていた体勢に追撃を入れた。4人目、終わり。


 静かになった。


 4人が動けない状態で地面にいる。10秒かかっていない。


 リーダーだけが残った。剣を構えたまま動かない。周囲の人間はもう引いていた。誰もここを見ていない。


 ギャルズアイで読んだ。逃げたい。でもプライドが足を止めている。


「そのプライド、誰も見てないけど」


 リーダーが崩れた。剣が下がった。膝が折れた。


 レオニスが商人の前に立っていた。商人は怪我をしていない。


「終わり」とアタシは言った。



 衛兵が来た。5人を連行していった。


 アルノが近づいてきた。「……どうして止まらなかったんですか」


「止まる理由がなかった」


「あの者たちの背後には、昨日みるくさんに取り巻きを差し向けた貴族がいます。マルフォ伯爵という方です。王都で一定の力を持っている」


 昨日の取り巻きと繋がっていた。やっぱり、と思った。


「だから衛兵が動けなかった」


「そうです。マルフォ伯爵の息がかかった商人への嫌がらせは、表向き冒険者の自主的な行動として処理されます。衛兵が介入できる案件ではない、という形になっています」


「じゃあアタシが動いてよかった」


「……冒険者として依頼外の行動を取ったことになりますが」


「依頼外でも、目の前で起きてたから」とアタシは言った。「それだけです」


 アルノが少し間を置いた。「マルフォ伯爵が今回のことを知れば、何か動くかもしれません」


「動いたら、その時考える」


「……そうですか」


 アルノがため息をついた。ため息の種類が、呆れているのか、それとも別の何かなのか、読み切れなかった。



 レオニスが「口撃を最後の1発だけに使った」と言った。商人を安全な場所に移してから戻ってきた。


「4人を物理で制圧してから1人に口撃。……なぜその順番だ」


「口撃は最後の鍵」とアタシは言った。「鍵は大事に使う」


「最初から口撃で全員崩せたのではないか」


「できたかもしれない。でも、なんかリーダーは最後がいい気がした。それだけ」


 レオニスが少し考えた。「……結果として正しかった」


「そうだった」



 夜、宿でアルノから話を聞いた。


 部屋に3人で座って、アルノが切り出した。


「一つ、お伝えしたいことがあります」


「マルフォ伯爵の件?」


「別の話です」アルノが少し間を置いた。「王都に、言葉で人を動かす力を持つ別の人間がいると言われています」


 アタシは少し黙った。


「みるくさんのような、概念職ではありません。ただ、言葉の力を持っている。ガレード様がその者を把握しようとしている理由の一つが、その力です」


「その人間が、今回の件に関係してる?」


「……関係している可能性があります」


「アタシに会わせようとしてる?」


「ガレード様の判断次第です」


 アタシはレオニスを見た。レオニスが少し考えていた。


「どう思う」とアタシは聞いた。


「厄介だな」とレオニスが言った。


「そう思う?」


「……お前は厄介と思わないのか」


「面白いと思った」


 レオニスが少し呆れた顔をした。アルノが「……みるくさんは、そういう方なんですね」と言った。


「そういう方、ってどういう意味?」


「面白いと思えるのは、強い人間だけです」とアルノが言った。「弱い人間は怖いと思うか、逃げるかのどちらかです」


 アタシは少し考えた。強いから面白いと思えるのか、それとも面白いと思えるから強くなれるのか。どっちか分からなかった。


「明日、ガレードに会う」とアタシは言った。「その時に聞く」


 アルノが「はい」と言った。


 窓の外で、王都の夜の音がしていた。昼より静かだ。石が夜の空気も吸っている。でも完全には消えない音がある。大きな街の、底の方で続いている音だ。

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