第65話 聖域の守護者
迷宮ステータス
現在のダンジョンレベル:Lv.18
現在のフロア数:5フロア
現在の認定ランク:Aランク(実質難易度:F)
主要スタッフ:テオ、リナ、ザック、アムネ、キュイ、ポリッシュ四人衆、リーフ、フォレスト、ブルーム、ストーンシェル
第5層の森林エリアが完璧な調和を見せ、王家公認の保養地としての地位が揺るぎないものとなった。わが迷宮には、もはや「攻略」を目指す冒険者の姿はなく、代わりに「救い」と「休息」を求める人々が列をなしている。
「コア様、今日も第5層は満員御礼ですよ。王都からの団体客の方々が、ストーンシェルの背中で泣きながら感謝していました」
アムネがコアルームに降り立ち、嬉しそうに報告してくれる。彼女の言葉通り、迷宮全体がかつてないほどの穏やかで濃密な魔力……感謝のEXPに包まれていた。
「そうか、アムネ。お前たちが日々、心を込めて接してくれているおかげだな。わが迷宮は、ついに一つの理想郷へと到達したと言えるだろう」
俺はコアを優しく発光させ、念話として言葉を返した。対面での会話に、アムネも満足げに羽をパタパタと揺らしている。
(フム。だが、光が強まれば影もまた濃くなるのがこの世界の理。第5層の完成をもって第6章を締めくくると同時に、俺たちは『守護者』としての覚悟を新たにしなければならん)
俺は、意識の触手を迷宮の外、はるか遠くの情勢へと伸ばした。そこでは、わが迷宮の急成長を苦々しく思う「伝統的な香水師」たちの密談や、利権に敏感な隣国の商会が、こちらを陥れるための準備を進めている気配がしている。
「テオ、リナ、それにザックも集まってくれ。……これより、今後の迷宮の指針を伝える」
俺の呼びかけに、三人の主要スタッフがコアルームへと集結した。彼らの表情には、かつての不安や迷いはなく、この迷宮の一員であることへの強い誇りが宿っている。
「旦那、改まってどうしたんです? ランクも上がって、香水の売上も絶好調。これ以上ないってくらいの春が来てるじゃありやせんか」
ザックがいつものように軽口を叩くが、俺の気配の鋭さを察して、すぐに表情を引き締めた。
「ザック、お前の商売は素晴らしい成功を収めている。だが、その成功こそが次の争いを生む。……リナ、警備の基準を一段階引き上げろ。これからは『迷宮の攻略』ではなく、『ブランドの盗用』や『施設への妨害』を目的とした不届き者が増えるだろう」
俺の言葉に、リナは力強く頷き、愛用の剣の柄に手を置いた。
「わかってるわ。Aランク迷宮になったことで、私たちの首を狙うのは魔物じゃなく、人間になるってことね。……おもてなしの邪魔をさせるつもりはないわ。私が鍛えた護衛隊が、一歩たりとも怪しい奴は通さない」
「テオ、お前はガイドの統括として、さらに情報を集めてくれ。客の中に紛れ込むスパイや、他国の工作員の動きを敏感に察知するんだ。我々の武器は『癒やし』だが、その裏には鉄壁の警戒心が必要だ」
「承知いたしました、主様。お客様の安らぎを守ることこそが、わたくしたちガイドの本望です」
スタッフたちへの指示を終え、俺は再びコアの光を穏やかな緑へと戻した。
(フム。身体にバフをかける携帯食チェーン、老舗の香水師、そしてエルフの国のユグドラシル……。どれも手強そうなライバルたちだが、わが迷宮の『本物の安らぎ』の敵ではない)
「みんな、これからの戦いは、剣や魔法だけではない。知恵と、誠実さと、そして何より『圧倒的な癒やし』の競い合いになる。……準備はいいか?」
俺の問いかけに、アムネが、リナが、テオが、そしてザックが、それぞれの想いを胸に力強く答えた。
足元では、いつの間にかやってきたキュイが、「キュイーッ!」と、まるで決起集会を祝うかのように高らかに鳴いた。その声は地脈を通じて、地下1階から地下5階までの全スタッフ、そして巨大発光樹ユグドラ・ルミナスへと伝わり、迷宮全体が静かな興奮に震えた。
火熱の迷宮。Fランクの皮を被ったAランクの聖域は、今ここに一つの完成を迎え、そしてさらなる荒波へと船出する。
(さて、次なる舞台だが、……まずは、あの鼻持ちならない王都の香水師たちに、本当の『安らぎ』というものを教えてやるとしようか)
俺はコアを、これまでで最も深く、気高い輝きで明滅させた。
迷宮の深淵で、新たな演算が、より速く、より正確に未来を描き始めていた。
ご拝読ありがとうございます。サービス形態の確立にあぐらをかくことはなく、危機意識を持ち、トラブルに対応しうる心構えとその準備を怠らない。さらなる飛躍のためには必須条件と言えるでしょう。
さて、いよいよ次は第7章「ライバル出現と共生への道編」のスタート。それでは、次回をお楽しみに!!




