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Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第二部】 第一章 新しい名前と賑やかな開拓の始まり。

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第100話 世界一のおもてなし宿、本日グランドオープン!

 100話達成!ありがとうございます!

 第二部は、これまでの迷宮としてのFランクダンジョンとは一風変わった展開で突き進んでいこうと思っています。

 これからも、この平和な日常をご拝読のほど!どうかよろしくお願い致します!

 その日は、夜明け前から街全体が浮き足立っていた。


 ギルドマスター・ガリウスの号令により、街の広場から「悠久の森」へと続く街道には色とりどりの旗が掲げられ、まるでお抱えの騎士団を凱旋させるかのような熱狂に包まれている。


 「さあ、野郎ども! 今日は伝説の『おもてなし』が地上に蘇る記念すべき日だ! ギルドも総力を挙げてバックアップするぜ!」


 ガリウスが酒樽を抱えて吠えると、集まった冒険者たちが拳を突き上げた。街道沿いには、ガリウスが呼び寄せた吟遊詩人や音楽家たちが陣取り、竪琴や笛の音で盛大に花を添えている。その軽快な調べは風に乗って、新しく芽吹いた巨木たちの間をすり抜け、宿まで届いていた。


 悠久の憩い亭のテラスに立つジューゴは、遠くから聞こえる喧騒に、少しだけ照れくさそうに頬を掻いた。


 「……おいおい、ただの宿のオープンだってのに、えらい騒ぎだな」


 「いいじゃない。ジューゴが15年かけて積み上げてきた信頼が、形になっただけよ」


 隣に並んだリナが、新調した冒険者服の裾を整えながら笑う。その背後では、マスターポリッシュの愛弟子であるセリーヌ、マルタ、フィニの3人が、最後の一分まで、玄関マットの毛並み一つにいたるまで「整備」を怠らずに動いていた。


 やがて、太陽が天頂に差し掛かる頃。ジューゴは宿の前に集まった大勢の客たちを前に、一つの宣言を行った。


 「今日から、この宿を正式にオープンする。それに伴い、この周囲一帯の森の名前を公表させてもらう。……ここは今日から、『悠久の森ダンジョン』だ」


 その名は、かつてのFランクダンジョンの意志を継ぎ、永遠に続く安らぎと楽しみを提供し続ける場所という意味が込められていた。


 「悠久の森ダンジョンには、大きく分けて二つの区域がある。一つは、誰もが安全に楽しめる『アスレチックコース』だ」


 テオが前に出て、用意された案内板を指し示す。そこには、難易度別に分けられた3つのルートが描かれていた。


 「『下級・散策コース』は、お子様や体力に自信のない方向け。ユグドラシルの癒やしを肌で感じられます。『中級・冒険コース』は、適度な運動を求める一般の方向け。そして『上級・制覇コース』は、冒険者の方でも手応えを感じられるよう、ジューゴ様が空間を絶妙に歪ませて設計された難所が点在しています」


 「そしてもう一つが、血気盛んな連中のための『迷路型狩猟区域』だ」


 ジューゴが森の奥、深い霧が立ち込めるエリアを指差すと、冒険者たちがざわめいた。アムネが森の精霊と協力して作り上げたその場所は、入るたびに地形がわずかに変化し、獲物を追う楽しさを極限まで追求した設計になっている。


 「ただし、ルールは厳守してもらう。この森の生き物は、あくまでおもてなしの仲間だ。必要以上の殺生は禁ずる。それと……」


 ジューゴは足元で尻尾を振っている小さな火竜を見下ろした。


 「このキュイは、俺の大事な家族だ。討伐対象ではない。間違っても、こいつに武器を向けるような真似はするな。……まあ、火竜に勝てる自信があるなら別だが、そんな命知らずはここにはいないだろう?」


 「キュイッ!」


 キュイが誇らしげに空へ向かって小さな火を吹く。その愛くるしい姿に、集まった客たちからは「可愛い!」という歓声が上がった。子供とはいえ、その炎の温度を敏感に感じ取った熟練の冒険者たちは、冷や汗を流しながらも「ありゃあ、手を出さないのが正解だな」と苦笑し合っている。


 「さあ、説明は終わりだ。腹が減ったらザックとマルタの料理を食い、汗をかいたらカイルが磨き抜いた風呂に入れ。……ゆっくりしていってくれ!」


 ジューゴの合図と共に、悠久の憩い亭の扉が大きく開かれた。


 客たちが雪崩れ込む中、食堂からはザックとマルタの威勢の良い声が響く。


 「へい、おまち! 本日限定、20年熟成ユグドラ・ドロップの試飲会だ! 早い者勝ちだぜ!」


 「アスレチックの後のエナジーサラダも用意してるっすよー!」


 宿の中は一瞬にして活気で満たされた。カイルは脱衣所で、客が脱ぎ散らかした靴を無言で、しかし恐ろしい速度で揃え直し、床に落ちた一滴の雫さえも魔法で霧散させている。


 セリーヌは完璧な笑顔で客を客室へと誘導し、フィニはシーツのシワ一つさえ許さない熟練のベッドメイキングを披露していた。彼女たちは師であるポリッシュの教えを胸に、それぞれの持ち場で「至高の磨き」を体現している。


 テラスの片隅では、アムネがイグニスと共に、森の精霊たちへ感謝の祈りを捧げている。


 「みんな、ありがとう。今日からここが、みんなと人間が仲良くできる場所になるんだよ」


 森の木々が、アムネの言葉に応えるようにざわめき、優しい風を宿へと送り込んだ。


 ジューゴは、そんな仲間たちの様子を眩しそうに見つめていた。


 39歳。かつては地下深くで、ひたすら死を待つようなダンジョン運営をしていた。


 だが今は、青い空の下、信頼できる仲間たちと、笑顔の絶えない「地上のおもてなし」を作り上げている。

 「……悪くない。いや、最高だな」


 ジューゴが独り言のように呟くと、いつの間にか横に来ていたリナが、彼の手から空のグラスを取り上げ、新しいリキュールを注いだ。


 「当然でしょ、ジューゴ。これ、あなたが選んだ道なんだから」


 二人は、賑わう食堂の喧騒を背に、どこまでも広がる悠久の森を見つめながら、静かに乾杯した。


 世界一のおもてなし宿、悠久の憩い亭。


 その伝説は、今日この日から、新たな一歩を踏み出した。


 「ごほぉぉー!」


 キュイの喜びの鳴き声が、どこまでも澄み渡る秋の空へ、高く、高く吸い込まれていった。


 ご拝読ありがとうございます。これまでの苦労が報われるかのような新たな一歩。悠久の森ダンジョンを舞台とした物語が始まる。

 さて次回は、第101話『招かれざる(?)二番目の合格者』をお送りいたします。お楽しみに!!


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