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源流堂探偵事務所にようこそ  作者: 西渡島 勝之秀
19/92

古銭の誘い 18

 それは春も近いと言うのにまだ肌寒い時期だった。

 後藤真二は若干人生に嫌気がさしていた。


 「あぁ~、くそ! また、やっちまったなぁ」


 後藤は空を仰ぎ嘆息するとタバコに火を点けて吸い込む。

 そして、それを天に向かい吐き出してそのまま縁石に座り込む。

 高校を卒業してから数年は経っていたが後藤は定職につくことが出来ていなかった。


 実家はとっくの昔に勘当されてひとり暮らし、日々の生活日を稼がなければ生きてはいけない。

 なのに、なのに、だ。


 折角先輩が紹介してくれたホストクラブの仕事。

 それまで失うとは、自分の馬鹿さ加減に可笑しくなり自虐的に笑う。

 ポケットから残りの全財産を取り出す。

 手の中を小銭を見て溜息を吐き、事の経緯を思い出す。


 後藤は仕事が長く続かずに転職を繰り返していた。

 仕事中の諍いが元で暴力を振るい解雇される事を繰り返していたのだ。

 そんな中、高校時代の先輩が声をかけて来た。


 「よう! 後藤、お前困ってんだってな」


 「なんすか? 先輩、冷やかしなら性質悪いっすよ」


 後藤は隠す事も無くその男を睨みつけて威嚇する。


 「おっと! 待てよ。喧嘩売ってる訳じゃ無いぜ。まったく、可愛げがない後輩だな。仕事紹介してやろうと思ったのによ」


 「どうせ、怪しいトコでしょ?」


 「そんな事でもやらないと生きていけないのが人生なの! お前に選ぶ余裕なんかないだろ?」


 後藤は渋々ながらも先輩についていく事にした。

 この先輩は善人ではないが悪い人ではない。

 過去に幾度と無く後藤の事を気にかけてくれた面倒見が良い人で、何度も助けられた事がある。

 

 「山岸さん。そこって危なくないんすか?」


 「なぁに、法には触れるが人が死ぬ事はないよ。ケツは持ってやるから安心して汚れてこい」


 ニカっと笑いながら答える山岸を見て後藤は溜息をついた。


 先輩のお陰で1年ほど問題なく働く事が出来て何とか生活も安定してきた。

 しかし、それは新店長の就任から狂い始めた。


 元々、平然とボッタクリをする様な店舗ではあったが、手持ち以上までは取らなかった。

 しかし、店長が変わってからはそれはエスカレートしていた。


 手持ちが足りなければクレジットカードやデビット払いで清算させたり。

 それすらも出来ない場合は借金までさせて取り立ててる程に悪質になっていた。


 後藤は、大人が相手なら怒りは覚えたが先輩の面を汚す訳にも行かないので我慢していた。

 が、今日の是はあまりにも目に余る。


 ちょっと背伸びした少女二人をどれだけ貶めるつもりだ?

 それは、外道だ。


 後藤の身体は意思とは関係なく動き始める。

 

 気がついた時には店も後藤もボロボロだった。

 店内で気を失った数名の用心棒達、痛みで泣き喚く店長。

 その光景を確認し、後藤は取りえず逃げ出したのだ。

 

 其処まで思い出した所で後藤の中の猛獣が唸り声をあげた。

 どうやら、腹が減ったようだ。

 

 「後悔はしてないぜ、してないけどよぅ」


 「お、久し振り! お兄さん元気してるぅ」


 呟いていると横から若い女の元気な声が聞こえる。


 「あぁん、元気にみえねぇだろうが! ん? お前は確か」


 「この前は有難う御座いました。あたし竹内七海って言います」


 ぐぅ~~


 一度解き放たれた猛獣は抑えられなかった。

 あれ以降、逃亡生活を余儀なくされた後藤は金が尽きて昨日から何も食べていなかった。


 「お腹すいてんの?あたしバイトしてるからご飯くらいなら奢れるよ!」


 そのちょっと背伸びをした中性的な感じのする少女は惚れちまいそうになる位の笑顔で言った。


 「ガキに施されるのか? まったく、人生ってのは辛口だよなぁ」

 

 後藤が独り言を呟いているとその手を少女が強引に掴む。


 「何いってんのさ! ホラホラ! 早く行くよ!」


 呆れながら手を引かれる後藤だったが、その顔はいつになく明るかった。

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