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EscapeGoat  作者: 鈴木崇嗣
15/27

ACT.12 いつの時代も娯楽は変わらず



西暦4192年4月17日。

遠い遠い未来の世界に呼び起こされて(はや)2ヶ月。

土壌(どじょう)に撒かれた(たね)芽生(めば)え、無数の枝を伸ばしていくように日々新たな可能性が生み出され続ける事によって価値観そのものが大きく変わってしまった小さな島国日本。

だが人間の適応力は大したモノで目まぐるしいほどの変化を受け入れながらそれを(おぎな)って(あま)りある進化を()()げる事ができてしまう。

が、(ゆえ)にこの頃のフォシルは毎日"ある事"に苦しんでいた。


「・・・(ひま)だ」


「フォシルは24時間毎日誰かに監視されてるからねぇ〜。いやいや同情するよ。私だったら窮屈(きゅうくつ)すぎて()れちゃうな」


「なんか面白い事とかない?なんか・・・やる事なさすぎて・・・(つら)い」


基本的に福祉技研(ふくしぎけん)内部から出る事もなく、たまの外出も様々な制限付きで許可される程度。

時々(かえで)の私物である無線誘導式カメラのようなモノで遊ばせてもらってはいるが、どれもこれも楽しいと思える時間は長続きしない。

そんな中で彼女の言った"()れちゃう"という言葉は比喩(ひゆ)でもなんでもなく事実を的確に()べているだけだとフォシルは痛感する。

なにが起これば楽しいのか・・・見えない(おり)に閉じ込められた青年の心はまさに地獄の()()を受ける罪人が(ごと)し。


「面白い事?アーティと乳繰(ちちく)りあってれば?」



おそらく言葉の意味もよくわからずに雰囲気だけで(すさ)まじい事を言ってのける(かえで)の度胸にフォシルは心底(しんそこ)焦りを覚える。

そして毎度の(ごと)くコチラがなにを言う前にアーティに拒否される流れもこの3人を()ってすればある種のお約束。

しかしこの程度では幼気(いたいけ)な青年を悪戯(いたずら)に押さえ込む退屈からは解放されない・・・フォシルはこの奇妙な日常の中にいて、さらなる刺激を欲していた。

刺激と言っても激辛スパイス的なモノを求めているわけではなく、この日常を今として味気(あじけ)なくとも新たなイベントが欲しいという心境(しんきょう)(せつ)(つた)えると彼女はとっておきの一言を与えてくれた。



「じゃ景勝(かげかつ)からゲームでもパクってくれば?」


「えっ、ゲームとかあるの?」



思いもよらぬ(かえで)の発言にフォシルの目はキラキラと輝き始める。

考えてみれば未来(げんだい)()ける娯楽(ごらく)(るい)、映画や音楽やゲームや漫画(まんが)など、何があるのかを一切(いっさい)知らないフォシルからすればこれ以上ない最高の刺激だった。

自分の生きていた時代から約2000年の時を()娯楽(ごらく)はどのような進化を()げたのか?

まだ見ぬワクワクに胸を踊らせフォシルは無垢(むく)な少年のようなテンションで(かえで)()かし始める。

(しお)れた心が水を()た魚のよう暴れ出しウザいくらいテンションアップした結果、(かえで)からは"黙れ童貞(どうてい)!"と文句を言われてしまうが今のフォシルにとっては、いかような罵詈雑言(ばりぞうごん)であろうとも全てはあとに(ひか)える楽しみを助長する隠し味にすぎなかった。

その後ナノマシンリンクで呼び出された景勝(かげかつ)(さわ)やかなイケメンフェイスと共に小さな端末を持って現れる。

日本国がひた隠しにする非合法組織の一員が職場にゲームを持ち込んでいる事に対する適当なツッコミも忘れ胸の高鳴(たかな)りは爆発寸前。

景勝(かげかつ)一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)を逃すまいと目を見開いたフォシルに対して"野郎を釘付けにするのも悪くない"と如何(いかが)わしい感想を()らしながら端末を起動させると空中に投影(とうえい)された映像には何種類かのゲームタイトルが表示されている。

どうやらこの時代にはゲームを起動させる為の特別なハードもソフトもカセットも必要ないらしく1人1人が体内に宿(やど)したナノマシンにゲームデータを読み込ませる事で時間場所など関係なしに制限なく遊べてしまうらしい。

つまりナノマシンがアプリケーションとオペレーティングシステムを(にな)い、人間がユーザー(けん)ハードウェアという事になる。

もっとわかりやすく説明するなら未来(げんだい)人は生まれながらにしてどんなゲームでも起動できるハードを身体に(そな)えてるという事だ。



「とりあえずデータは端末(コイツ)に移しておいたけど、これでいいのか?」


「いいんじゃない?なんかフォシルも釘付けだし?」



釘付けだから満足している。

そう結論付けた(かえで)は自らの(くだ)した根本的な誤解に気付いてはいない。

フォシルが悩んでいたのはどのタイトルをプレイするかではなく──


「これどうやって操作するの?」


「えぇ?操作・・・あっ」


「なるほどねぇ・・・そいつは誤算だったな」



(かえで)景勝(かげかつ)はようやく未来(げんだい)の常識が現代(かこ)の夢物語である事に気付かされる。

本来ならば実体のないデジタルディスプレイに指先が "触れた"という感覚は、ナノマシンを(かい)して脳に疑似感覚で直接(つた)わりそれに対応してディスプレイも反応を(しめ)すのだが、いかんせんフォシルが必死こいて投影(とうえい)されたソレをタッチしようとも反応はなかった。

全てはナノマシンが導入されている事を前提に発展した技術であり(はる)か昔に絶滅した人間(オリジナル)の存在など一切(いっさい)考慮していない為、発展しすぎた42世紀の科学技術では逆にフォシルを認識できなかったのだ。

持ち上げるだけ持ち上げて()(さか)さまに期待を裏切られたフォシルはなんとも言えない表情でアーティを見つめ(かえで)を見つめ景勝(かげかつ)を見つめ声なき声で(うった)えかける。



「お、おい景勝(かげかつ)!コレなんとか出来なかったっけ?」


「なんとかするも何も・・・何をどうしたらいいかがわかんないってヤツだな。なんなら三課(さんか)の専門家達に聞いてみるか?」


白露(はくろ)か!?」



何かある(たび)にドタドタと(せわ)しなく動き回る(かえで)に対して(すき)あらば今この瞬間を(もっと)もカッコよく見える髪型にしようと手櫛(てぐし)で髪をかきあげる景勝(かげかつ)

いつもの3人に+1。

たったそれだけの事で退屈な日常は一転(いってん)、何時間あっても満足しきれないほど充実し尽くした1分1秒へと姿を変える。

実際のところフォシルがなんとも言えない表情を浮かべたのも"こんな顔したらどんな反応してくれるんだろう"と思ったが(ゆえ)一時(いっとき)(たわむ)れ。

誰かがいるから退屈な今は見違(みちが)えるほど刺激的になり間違いない変化が起こる。

そう感じるのはかつて自分がそう感じた経験があるからこそ・・・フォシルの中でグルグルと渦巻(うずま)いていた記憶の断片が心地よい(かお)りと共にドコかの空白にピタッとはまった。


「え〜とね、白露(はくろ)が言うには端末にアナログコントローラってヤツを繋げばいいらしいよ。元々はナノマシンを持たないサードメイカンド用の技術らしいけど、それを応用できないかってさ」



解決法もわかったところで早速(さっそく)(かえで)にパシられた景勝(かげかつ)三課(さんか)より試験用のアナログコントローラを拝借(はいしゃく)

初めての作業に悪戦苦闘(あくせんくとう)しながらもなんとかコレを接続、待ちに待ったフォシルのゲームライフがいよいよ幕を開ける・・・!!

その後、手渡されたアナログコントローラとやらはギリシャ文字のΨ(プシー)のような形をした(いびつ)なモノだったが、いざコレを両手でしっかり握ってみるとなかなかどうして手に馴染(なじ)む。

気合十分のフォシルが42世紀のゲーム初体験に選んだ相手、それは漢気(おとこぎ)(あふ)れる力強いタッチで表記された謎のゲーム"益荒男(ますらお)(ソウル)"なるモノだった。

(かえで)に言わせればクソゲー、景勝(かげかつ)に言わせればバカゲー。

(いわ)く42世紀最大のスペックの無駄(づか)いを体現した作品だと、なんだかプレイする前から不安になる散々な(あお)りを受けながらクソなのかバカなのか謎のゲーム益荒男(ますらお)(ソウル)のガイドマニュアルに目を通す。

舞台は漢気(おとこぎ)至高主義(しこうしゅぎ)と化した地球全土(ぜんど)

架空の奇祭"漢桃山(おとこももやま)"の漢神(しゅやく)に選ばれてしまった1人の青年を操作して(いさ)ましい和太鼓のリズムに乗せて(せま)り来る、(ふんどし)一丁(いっちょう)益荒男(ますらお)達からダッシュやジャンプなどを駆使(くし)して逃げつつ世界中に()らばった漢気(おとこぎ)を回収する事が目的の鬼ごっこゲームらしい。

鬼を(つと)める益荒男(ますらお)達も何種類かいるらしくプレイヤーめがけて突っ走ってくるベーシックなタイプから4人1組で神輿(みこし)(かつ)ぎながらゆっくりと追跡するタイプ。

丸太を片手にアクロバティックな空中移動をしてくるタイプに突然現れるゲリラ益荒男(ますらお)まで多種多様(たしゅたよう)

その他にレアキャラとしてプレイヤーをサポートしてくれる手弱女(たおやめ)や仙人など内容はよくわからないが期待と不安に胸を(ふく)らませたフォシルにまずは洗礼の漢気(おとこぎ)を叩き込むべく様々なアングルから楽しめる益荒男(ますらお)達のむさ苦しいオープニングデモが流れ始める。

それはあまりにハイクオリティであまりに生々(なまなま)しく、あまりにいらんことしいなサービスカットを前面(ぜんめん)に押し出してフォシルの度肝(どぎも)を抜いた。


「なにこれ実写(じっしゃ)?」


「そんなわけないじゃん?こんな(おとこ)(おとこ)した光景が実写(じっしゃ)とか、ただの悪夢だよ」



耳に残るアップテンポな和太鼓のリズムと益荒男(ますらお)達の掛け声に終始圧倒されつつ、しばらく益荒男(ますらお)(ソウル)を遊んでいたフォシルだがあまりの漢気(おとこぎ)(あふ)れる演出の数々に少々疲れてしまったらしい。

そこで気分転換に今度は"オールディバイダー"というゲームを起動させてみる。

どうやらこれは対戦型格闘ゲームらしく、先ほどの(にお)ってきそうなくらいリアルだった益荒男(ますらお)(ソウル)に対して、こちらはヌルヌルと動くアニメーションキャラクターをメインにした作品だという事がわかる。

剣や魔法を(まじ)える魅力的なキャラクター達を中心に主題歌まで入ったそれはオープニングムービーと言うより良質なアニメを見ているかのようなワクワクを与えてくれる。

ともなれば益荒男(ますらお)達に削られたフォシルの気力もみるみる回復、嫌でも期待を(いだ)かずにはいられない。

それにこの手のゲームは何百年、何千年()とうが根本にあるモノはフォシルが()け抜けた激動の黎明期(れいめいき)と変わらないハズ。

ギュッと手に汗握りボタンを押そうとした時、(かえで)はある事に気付く。


「あれ?なんで最終セーブが今日の日付けになってんの?しかもこの時間って普通勤務中だよね?」


「あぁ?なに?」


「あぁじゃなくて・・・景勝(かげかつ)・・・お前・・・」


「気にするな。対戦型ゲームだぜ?しかも白露(はくろ)さんから挑戦状が届いちまった以上それを受けないなんて選択肢、この景勝(かげかつ)の辞書には存在しない」


白露(はくろ)だぁ?じゃなにか?あの巨乳も仕事すっぽかしてゲームしてたって事か?」


(はた)から見れば(かえで)こそ勤務をすっぽかして遊んでいるだけにしか思えないが、彼女は源以(げんい)から直々(じきじき)にフォシルのお目付役(めつけやく)という立派な役割を(まか)されているのでこの言い分も(あなが)ち間違ってはいない。

自分を()し置いてよりにもよって景勝(かげかつ)白露(はくろ)がゲームで遊んでいた事実に憤慨した彼女は謎の対抗意識を燃やして景勝(かげかつ)にビシッと人差(ひとさ)し指を突き付ける。



「あーっ!もうキレた!!こうなったらお前らまとめて(ひね)(つぶ)してやる!フォシル!アーティ!これ見てさっさと強くなれ!!」


毎度毎度愉快(ゆかい)な表情で喜怒哀楽を表現してくれる(かえで)投影(とうえい)した資料。

それはオールディバイダーに登場する全プレイアブルキャラクターの強さランキングが書かれた、いわゆるダイアフラムだった。

千差万別(せんさばんべつ)一長一短(いっちょういったん)の個性を持ったキャラクターが(ひし)めき合う格闘ゲームではよくある資料の1つだが、それを見てフォシルはまたまた度肝(どぎも)を抜かれ、アーティもアーティで該当データがありませんと答える。

なぜなら──


"4192.4/2更新"

オールディバイダーver7.2最新キャラランク

※7.2アップデート追加キャラクターのドラクロア、ギュンター、(リー)、KIRAのランクは暫定


チート:ゆかり、ソルザード


SSS:ギュンター、アデガ、覚醒エージ


SS:キド、ソールズ、ベールッド、レイ、ドラクロア


S:レクイエム、トグラーシュ、(じょう)、ザッド、ペルル、ナッシュ、マスターウェポン、ロット、Destiny(ディスティニー)−6


A:エージ、KIRA、カージナル、オーシャンティノフ、アンデッド、フレイ、カルト、シャル、シード


B:ラヴィル、わびすけ、ヴァン、ハイド、スピネル、トラウリッヒ、ブルーブーケ、ヘラクレス、御劔(みつるぎ)


C:リリアン、T(タゥ)准次(じゅんじ)、イェガー、トゥルーランス、THE・A、ニーマ、クノ、クローク、 L(エル)、ルドガー


D:あずさ、エレオノーラ、プロシージャ、バステル、ローウェンスカッフ、メイベル、オール9、紅蓮


E:ウリチュラカ、イーグル、Bベルベット、ラッセル、ディロック、(すみれ)、シロム、デスペンテウス、ルドルフ


F:ナキ、サプラス、(たまき)、ガバメント、Ex(エクス)トラム、(リー)、サンドラ、フェルミンス、時雨、フォックス、オム


G:フィポナ、ЯR(ヤール)




「・・・全部で78体?ちょっと多すぎない?」


「エージはメイン主人公だか使いやすいと思うよ。あとはアナザーストーリーの主人公ラヴィル、カルト、シード辺りがいいかもね。逆にボスキャラのキドとかレイとかDestiny(ディスティニー)−6とかは上級者向け。ゆかりとソルザードは(こわ)れてるから論外でЯR(ヤール)はコピーキャラだしフィポナは公式最弱のネタキャラ。それとも新キャラのKIRAとかドラクロアを開発してみる?」


「あ、いや・・・そういう事を言ってるんじゃ──」



最早(もはや)(かえで)の頭には打倒白露(はくろ)(ついでに景勝(かげかつ))の事しかなく、熱血教師よろしく実はオールディバイダーのプレイヤーである彼女は先達(せんたつ)として基本操作から細かいテクニックをフォシル達に伝授し始める。

その後、実際にキャラクターを動かしながら一通(ひととお)りの操作指南(そうさしなん)を受けたフォシルは実戦(プレイ)の覚悟も(さだ)まらないうちに武器だけを持たされて戦場に放り出されてしまう。

いくら初心者と言えども強いキャラを使って負けるのは、なんとなく(しゃく)だと思ったフォシルは練習がてらDランクに位置付けられるバステルというキャラを使ってみる事にした。

格闘ゲームなんて基本は攻撃と防御だけだと自分を信じてとりあえず(かえで)と対戦してみる。

(いにしえ)の時代から人類の指と脳が()(した)しんできたであろう必殺コマンド↓↘︎→+攻撃ボタンをカチャカチャと入力して技を出す感覚を懐かしいと感じる反面、(かえで)はコントローラも持たず(みょう)なファイティングポーズをとりながら画面を食い入るように見つめ、時折(ときおり)体をピクッとさせるだけ。

ここに大きな時代の流れを感じたフォシルが"どうやって操作してるの"と彼女に聞いてみれば(いわ)く"フォシルがコントローラでやってるのと同じだと思う"との返答をいただけた。

20世紀の価値観でどういう事なのかをイメージしてみるも(あん)(じょう)ちんぷんかんぷん。

ゲーム1つを例に()げても未来世紀はからっきし想像のできない現実に(おお)い尽くされている。

だが戦いに迷いを持ち込めば敗北あるのみという現実だけは不変(ふへん)であり、言葉数も少なくなり夢中になって対戦を繰り返す事(はや)20戦。

さすがに指導する立場にあってかそれ相応の実力を(しめ)(かえで)に全戦全敗を(きっ)したフォシルを見兼(みか)ね"ちょいとゴメンよ"と、ここで真打(しんうち)景勝(かげかつ)が乱入する。

20連勝で気をよくした(かえで)は持ちキャラのハイド(Bランク)を連投。

それに応えるべく景勝(かげかつ)()()しみせず持ちキャラのクノ(Cランク)を投入。

軍特殊部隊の黒い野戦服に身を(つつ)んだハイドに対して巨大な(かま)を片手に白と黒のポンチョコートを羽織(はお)った三つ編みおさげの金髪幼女を選択した景勝(かげかつ)早速(さっそく)(かえで)は"ロリコンめ!"とヤジを飛ばす。

ゲームなんだから好きなキャラを使えばいいじゃないかとフォシルがフォローを入れるも格闘ゲームとは究極の実力社会、刹那(せつな)の判断力こそがモノを言う。

初めこそ一進一退(いっしんいったい)の激しい攻防戦を繰り広げていたが一瞬の(すき)を突いたクノ(かげかつ)の主力技にハイド(かえで)はカウンターヒットを奪われそのまま大鎌(おおがま)(さび)にされてしまった。

予想を(はる)かに上回る景勝(かげかつ)の確かな実力にショックを覚えた(かえで)に対して、さらに追い討ちを掛けるように"白露(はくろ)さんはこの景勝(かげかつ)の800倍強い"と、景勝(かげかつ)はまだ見ぬ白露(はくろ)の恐怖を植え付ける。

しかし負けん気の強い(かえで)の事、やられっぱなしは(しょう)に合わないらしくメラメラと闘志を燃やしながらフォシル、アーティ、それとなぜか景勝(かげかつ)にも打倒白露(はくろ)の使命を与えてしまう。

その後も19世紀から23世紀を舞台とした戦略シュミレーションゲーム"Armor(アーマー) Piercing(ピアシング)"や、ただひたすらに敵を倒し続けて最強を目指す1対(むげん)の無双ゲーム "アルティメットバーサス"を遊び倒したフォシルは最後に42世紀の究極的娯楽(ごらく)としてナノマシンリンクにより現実とゲームとの境目(さかいめ)を完全に()(ぱら)った危険すぎるMMORPG"アルターパラドックス"の存在を知る。

しかしコレに関してはフォシルにナノマシンが導入されていない上、オンラインゲームとはなんぞやを理解できなかった事もあり話は()()り。

こうしてバラエティ(ゆた)かな1日を終えたフォシルは()くる4月18日も、そのまた次の日もアーティの推奨する睡眠時間を削りに削って景勝(かげかつ)の置いていったゲームに没頭(ぼっとう)していた。

年頃の青年の日常としてはあまり()められたモノでもないが人間(オリジナル)がイキイキとしていてくれれば、たとえゲームに没頭(ぼっとう)しようがアニメに没頭(ぼっとう)しようが日本政府的にも福祉技研(ふくしぎけん)的にも万々歳(ばんばんざい)

そして日付の変更タイミングすら、あやふやになりかけている今日は4月20日の土曜の昼過ぎ。

4日間という()(あま)る時間の全てをみっちり自習(プラクティス)()ぎ込んだフォシルは(かえで)景勝(かげかつ)に今の意気込みを(つた)えると(まん)()して白露(はくろ)(むか)()つ事にした。

今日は土曜日の早上(はやあ)がりという事で1人帰宅準備をしていた彼女をナノマシンリンクで呼び出した(かえで)はオペレータ気分で"そこを左だ!いや右だ!"と指示してフォシルの部屋まで(みちび)いた。

何がなんだかわからないまま、あれよあれよとたどり着いた先、初めて(おとず)れるその部屋にはフォシル、(かえで)景勝(かげかつ)、アーティと見知った顔ばかり。

知らないところで厄介(やっかい)事に巻き込まれてたらどうしようと警戒していた白露(はくろ)は少しだけ緊張の糸を()き、さりげなく景勝(かげかつ)()し出した温かいレモンティーで(のど)(うるお)した。



「さて白露(はくろ)よ。今回呼び出された理由(わけ)がわかりますかな?」


「・・・?」


「そうかそうか。百戦錬磨(ひゃくせんれんま)のディバイダー様は、自らのあまりの強さに私達の存在など眼中(がんちゅう)にないってか?わかったらさっさと勝負だ!!」


「・・・」



弱い犬ほどよく吠える。

そんな言葉が頭をよぎり、この上なくどうしようもない事と思いながらも彼女は言われるがままに渋々ゲームデータをリンクさせ対戦モードを起動する。

結局は厄介(やっかい)事にも()た内容だったが"少しだけなら"と条件を付けてフォシル、(かえで)景勝(かげかつ)VS白露(はくろ)の決戦は幕を開けた。

Sランクザッド(フォシル)、Bランクハイド(かえで)、Cランククノ(かげかつ)に対する彼女の持ちキャラは意外にもEランクのルドルフ。

しかし3人はキャラクターのスペックや評価が勝敗を決める絶対的要因でない事を嫌と言うほど思い知らされる。

画面の中、キャラクター同士がバトル前に(おこな)う数秒程度の()()いを終え、右脇(みぎわき)に槍を(かま)えたルドルフ(はくろ)一度(ひとたび)その()(さき)を立て剛槍(ごうそう)()るえば、まぁ強いのなんのとまるで一騎当千(いっきとうせん)の戦国武将が(むら)がる足軽を()(はら)うように軽々と、いとも容易(たやす)く3人をワンサイドゲームで(かえ)()ちにしてしまった。

バックステップの無敵時間や各種キャンセルの他、画面位置を調整して確実に壁コンを決めてくる圧倒的テクニック。

それらもさる事ながら何よりも3人を苦しめたのは相手の攻撃を(はじ)き返して無防備になったところにフルコンを叩き込んでくる事だった。


「その"ガギッ"てヤツ!それなんですか!?」


「あぁフォートレス・インパクトか?このゲームの(かなめ)とも言われてるシステムだ。BボタンとDボタンを同時押しするアレわかるだろ?それを相手の攻撃を受ける瞬間にやるとこうなるんだ。そして白露(はくろ)さんがルドルフを使ってる理由はフォートレス・インパクトの間合(まあ)いが広いかららしい。下手な牽制(けんせい)は無理やり(はじ)いて、そのままジ・エンドって事だな」



彼女の強さの根本にある10フレームのフォートレス・インパクトというガードテクニックを理解してもなお誰1人としてルドルフを倒せる者はいなかった。

つまり10フレーム=0.16秒の裏を読まなければ白露(はくろ)には勝てない。

どんなに時代が発展しようともゲームは結局のところセンスが全て・・・ある意味で42世紀の世界に()いて特別すぎる存在の人間(オリジナル)唯一(ゆいいつ)対等な立場でぶつかれる場所はゲームの中だけだった。

しかし3人(そろ)って結果は惨敗。

その時、突如(とつじょ)リザルト画面にA NEW CHALLENGERの文字が浮かび上がる。

それは一方的な殺戮(さつりく)?を続ける白露(はくろ)に物申すべく第4の挑戦者が現れた事を意味していた。

挑戦者の正体は不明だがローカルマッチでゲームをリンクさせている為、相手は福祉技研(ふくしぎけん)内部の人間である事に間違いない。

白露(はくろ)の圧倒的強さの前に連敗続きでなんとなくダレてきた場の空気が一瞬にしてピンッと()()める。

なにを言わずともまずは戦略的()(ごま)としてランキング4位のフォシルがザッドで挑んだところ謎の挑戦者はCランクのトゥルーランスを繰り出してきた。

ルールは変わらず1試合3点先取の5ラウンドマッチ。

先制の白星を()げ、戦友達にいいとこ見せようと汗で()れたコントローラをカチャカチャと()らすが、まさかのワンサイドゲームで敗北してしまったフォシルに(あわ)れみにも()たブーイングが飛ばされる。

"俺って、こんなモン?"とショボくれる弟子の(かたき)()つべく第2試合、次鋒を(つと)める(かえで)が師匠の意地と(ほこ)りを胸に意気揚々(いきようよう)トゥルーランス(謎の挑戦者)に牙を向けるが最終的に表示されたメッセージは"TRUELANCE WIN"だった。

部屋の片隅(かたすみ)、遠くから戦友達を見守っていたフォシルに()()うようにして(かえで)も敗者の仲間入りを()たす。

どよ〜ん、としたオーラを(かも)し出す負け犬2匹に見つめられ第3試合、副将景勝(かげかつ)が挑戦者に挑む。

さすがに副将ともなれば下段、中段の二択から各種キャンセルを(もち)いての崩しテクニックも安定しているが敵もさる者。

景勝(かげかつ)の放つ地上中段の(わず)かな(すき)に小技で割り込み、着実にリードを奪っていく。

完全に主導権を握られ防戦一方となる景勝(かげかつ)の焦りに付け込み、ここぞの場面でゲージを使用した必殺技スペクトルアウトを放ちこの一戦も勝者は謎の挑戦者。

その見事なテクニックに敬意を表する(さわ)やかな()みを浮かべて立ち上がった景勝(かげかつ)が向かう先。

すっかり影を落としたフォシルと(かえで)の前で(かが)み一言──


「よう・・・(となり)、空いてるか?」


何も言わずに(かえで)が場所を()めると景勝(かげかつ)(わず)かな隙間に()()り背中を壁に押し当てたままズルズルと力無くへたり込んだ。

部屋の片隅(かたすみ)(ひざ)(かか)えて(うずくま)る3匹の負け犬が声なき(うった)えで白露(はくろ)を、じーっと見つめている・・・どうしてこの人達はゲーム程度でこうも表情(ゆた)かになれるのだろう?と困惑する白露(はくろ)だが基本的に押しに弱い彼女の性格上、ここで引き下がれるわけもなく負け犬3匹の期待を一身(いっしん)に受け、(つい)に大将自らキャラクターセレクト画面に入る。

こうして福祉技研(ふくしぎけん)暫定(ざんてい)王者ルドルフ(はくろ)VSトゥルーランス(謎の挑戦者)の最終決戦が始まった。

"ROUND1STANDBY──GET SET──FIGHT!!" の掛け声で火蓋(ひぶた)を切った第1試合。

まずは互いにフォートレス・ガード(いわゆるバリア)を()りながら空中に飛び、チキンガードと呼ばれるテクニックで間合(まあ)いを取る。

その後もルドルフ(はくろ)トゥルーランス(謎の挑戦者)は必殺技を出そうとせず微妙な距離からチクチクと弱、中攻撃を繰り出す牽制(けんせい)合戦を展開する。

なんだか地味な戦いっぷりに負け犬1号ことフォシルは"なんで技を出さないのか?"と素朴な疑問を投げかける。

すると負け犬3号こと景勝(かげかつ)は"この戦い・・・互いが技の限りを尽くしているのがわからないのか?"と意味深(いみしん)な答えを()べる。

そして3号(かげかつ)1号(フォシル)2号(かえで)にもわかるように鬼気(きき)(せま)る声で実況を開始する。


「上級者同士の戦いってヤツは一瞬の判断ミスで勝敗が決まっちまうくらいシビアな世界なんだ。モーションや(すき)の大きい必殺技を、やたらにばら撒いているとフォートレス・インパクトで返されたり無敵技に食われたりする。だからお互い()えて(すき)のありそうな動きで相手を(さそ)って、その先を読んで攻撃を置きに行ってるんだ。さっきから白露(はくろ)さんが珍しくフォートレス・インパクトをミスってるのはそう言う事」


「・・・?」


「わからないか?ならトゥルーランス(謎の挑戦者)の動きを見てな。ほら、白露(はくろ)さんの牽制(けんせい)を空中ダッシュで飛び越えて距離を()めただろ?こんなチャンスを手にしたら空中から攻撃を仕掛けて攻め込みたくなるよな?だけどアレはフェイクだ。本当の狙いはフォートレス・インパクトをスカして地上投げを決めるのか、それとも詐欺飛びで固めに行くのか、それとも密着状態からの崩しを決めるのかの三択を(せま)る事・・・主導権を握られた以上、このラウンドは捨てだな」


まさかと思いつつも戦いを傍観(ぼうかん)しているとルドルフ(はくろ)は無敵対空技で迎撃(げいげき)を狙い、まんまとトゥルーランス(謎の挑戦者)術中(じゅっちゅう)に落ちてしまう。

ここに来て不沈(ふちん)の王者が初めて地を()めた事に驚きを隠せない負け犬3匹はぞろぞろと彼女の周りに集まりだしこの戦いの行く(すえ)を食い入るように見つめ始めた。

続く第2試合、槍を(もち)いたリーチの長い通常技で開始早々(そうそう)相手の行動を封殺(ふうさつ)したルドルフ(はくろ)が攻め手に(うつ)る。

ダッシュキャンセルで間合(まあ)いを()め弱、中、強の通常技で固めながら間髪(かんはつ)入れずに再度ダッシュキャンセルで間合(まあ)いを()める。

一切(いっさい)の反撃を許さない怒涛(どとう)の攻めはまさに圧巻(あっかん)の一言。


「おぉっ!なんかアグレッシブだな!!」


「いや、素直に喜んでもいられない・・・攻め手が多いって事は、それだけ相手に"反撃のチャンス"を与えてるって事も同じだ。このゲームにはフォートレス・インパクトがあるのを忘れたか?」


その言葉通りルドルフ(はくろ)のダッシュキャンセルに合わせてトゥルーランス(謎の挑戦者)がフォートレス・インパクトを発動させた。

()()なく攻め続ける為には先行入力と呼ばれるテクニックが必須であり、コマンド受け付け時間内に(あらかじ)め攻撃技などを入力しておくと現在の動作が終わった直後に先行入力分の技を繰り出す事ができるのだが、これを逆に言うならば一度先行入力してしまったコマンドを取り消すには、また別のコマンドを入力する以外に方法はなくゲームシステムの関係上それらを再入力できるタイミングは時間にして(わず)か1フレーム(0.016秒)。

最早(もはや)人間がどうこうできるモノではない。

事あるごとに解説をしてくれる景勝(かげかつ)のおかげでその一瞬のうちに何が起こったのかを理解したフォシルと(かえで)が"あぁっ!"と声を(あら)げるが──


「・・・」


「これは・・・まさか相手がフォートレス・インパクトをしてくると見越(みこ)してコマ投げを先行入力していたのか!?かなりリスキーだが、確かにフォートレス・インパクトは投げに対しては無力!!しかも発生から20フレームまでの間に対応できない攻撃を受けた場合は通常のカウンターヒットよりも()()り時間が長くなるデッド(D)ポイント(P)カウンター(C)が発生する上に、ここは壁際でドライブゲージも半分以上()まっている。これならフルコンで8割、このラウンドは(もら)った!」


「おぉ・・・もうなんか、どっちを応援したらいいかがわかんない!白露(はくろ)が負けるところを見たいような、どこぞの馬の骨に手柄(てがら)を取られたくないような」



至極(しごく)の格闘エンターテイメントを()ているような白熱した展開にフォシルと(かえで)は思わず息を飲む。

景勝(かげかつ)の解説と共に牽制(けんせい)の奥深さや、なぜこのタイミングでこの技を出したのかなどを理解していくとますます試合が面白くなる。

その後、10フレームの()け引きを(せい)したルドルフ(はくろ)が3ラウンド目を取って勝利に王手を掛ける。

いい流れを崩したくない彼女は大胆不敵(だいたんふてき)に攻めながら時に()け引きを拒否して不条理なほどスタイリッシュに攻め立てる。

そして中距離からルドルフ(はくろ)の放った突進技を(つぶ)すべくトゥルーランス(謎の挑戦者)が飛び道具で迎撃(げいげき)しようとしたまさにその時、ゲージを使用した特殊キャンセルからの低空ダッシュで間合(まあ)いを()めると同時に相手の攻撃を飛び越えたルドルフ(はくろ)が狙い()ました渾身の一撃を放つ!

だが──



「・・・!!」


「えっ?今なにが・・・え、なに今の!?」


「ちょっ!?なんで攻撃してたハズの白露(はくろ)が逆にやられてんの!?景勝(かげかつ)解説して!!」


「あぁ・・・今のはファルベ・デア・アンストをゼロキャンしてから最速低空ダッシュで奇襲をかける白露(はくろ)さんのテクも大概(たいがい)だったが、それよりも相手のやったオーバードライブ発生後の無敵時間を利用した受け流しが異常すぎるんだ・・・しかもそこからフルコン+オーバードライブで強化された分のα(アルファ)を叩き込んできたとなると、相手はコレを狙って発動させたとしか思えない。ハッキリ言ってこんなの人間(わざ)じゃねぇ」



油断も(すき)もなかったルドルフ(はくろ)の猛攻を無理やりこじ開け解説者が息を飲むほどの超絶プレイで逆転の白星を()げたトゥルーランス(謎の挑戦者)が4ラウンド目を(せい)した。

だがしみじみとその瞬間を思い出してる余裕はない。

高鳴(たかな)鼓動(こどう)に全身を震わせた白露(はくろ)の身体が極限の緊張感を物語る中、(つい)に迎えた最終ラウンド。

ここまで来ると二択、三択当たり前。

フォートレス・インパクトや投げ技小技もモーションを見てから回避するほどの集中力。

技と技、度胸と度胸、センスとセンスがぶつかり合う極限の戦場でルドルフ(はくろ)は一瞬の(きょ)を突かれダウンを奪われてしまった。

そこに(せま)トゥルーランス(謎の挑戦者)の凶悪な三択。

()っぱなら下段で拾われ、緊急受け身をとれば飛び道具でリバーサルを(つぶ)しつつ本体との2in1攻撃に襲われ、移動受け身をすれば必殺のスペクトルアウトでジ・エンド。

これ以上守りを固めても削りダメージでK.O必須の状況でルドルフ(はくろ)トゥルーランス(謎の挑戦者)とのラスト60フレーム、最後の()け引きを決行。

ルドルフ(はくろ)の取った行動は後転しながら体勢を立て直す移動受け身。

対するトゥルーランス(謎の挑戦者)は一瞬の画面硬直のあと、()()みの体勢をとり迅速(じんそく)の突進スペクトルアウトを繰り出した。

移動受け身は安全にその場から離脱する事ができる反面、移動終了直後の3フレームは完全な無防備となりそこに技レベルの高い突進技などを(かさ)ねられたら回避する(すべ)はない。

()しもの景勝(かげかつ)もこの状況に嘘は付けず、胸の()まる思いで敗北宣言にも(ちか)しい言葉を投げ捨て解説者として責務(せきむ)を果たした。

三択に読み負けたルドルフ(はくろ)最早(もはや)敗北を待つだけの木偶(でく)人形・・・(おこ)がましい事とはわかっていてもなにか(ねぎら)いの言葉を掛けずにはいられない負け犬3匹が口を開いた刹那(せつな)(かす)かに白露(はくろ)は笑みを浮かべた。

次の瞬間、画面上では移動受け身を終えて動けないハズのルドルフが左手を突き出した攻撃モーションを取り、突っ込んできたトゥルーランスを捕まえるとそのまま槍に引っ掛け画面外へと放り投げた。


「えっ!?今度はどうなったの!?」


景勝(かげかつ)!!」


「これは・・・まさか先行分割入力か!?」


「それは一体・・・」


「相手がゲージ必殺技を発動させた時の暗転中、コッチは先行入力を受け付けない状態にある。だが暗転終了後にコマンドを入力しようとしても、この間合(まあ)いじゃ到底()に合わない。そこで白露(はくろ)さんは相手がゲージ必殺技を使うと読んで移動受け身のコマンドとゲージ必殺技のコマンドを暗転前に(あらかじ)め分割入力していたんだ。さらに言えば移動終了後の3フレームはゲージ必殺技でのみ、その硬直をキャンセルできなおかつ最速フレームで技を出す事ができる。つまりあの一瞬のうちに白露(はくろ)さんは相手に対して逆二択を仕掛けていたってわけだ。そしてこのゲームは暗転と無敵時間の関係上ゲージ必殺技を同時に出した場合、相当な組み合わせでもない限り、かなりの確率で後出しが勝つ。しかも相手のスペクトルアウトは突進技、対してルドルフのドゥフト・フォン・ドゥームズデイは発生してからの5フレームは完全無敵のコマ投げ。相性は完璧だ」



天高く打ち上げたトゥルーランスを空中で捕まえ、必殺の決めゼリフを(とな)えながら炎を(まと)ったルドルフが地面諸共トゥルーランスを串刺(くしざ)しにして派手(はで)な爆発演出と共に堂々と"RUDOLPH WIN"の文字が表示される。

まさに死の(ふち)からの生還、絶望からの大逆転。

一瞬の沈黙を()て負け犬3匹が大歓声を(とどろ)かせながら白露(はくろ)(から)み付く。


白露(はくろ)ぉ!!アンタどんだけエンターテイナーなんだよ!なんだよこの逆転劇!変なドラマよりドラマがあったぞ!!」


「・・・♪」



こうして謎の挑戦者との戦いは3対2で白露(はくろ)の勝利に終わり、()るぎなき絶対王者を(たた)えるべく(かえで)主催で喜びのプチパーティーが開催(かいさい)された。

翌日の4月21日。

2週間に1回のチェックを終えたアーティのデータを不思議そうな表情で見つめる銑十郎(せんじゅうろう)は右手の中指と人差(ひとさ)し指で左頬をなぞりながら何度も何度も首を(かし)げていた。

"もしかして源以(アイツ)がやったのか?"と思いナノマシンリンクで本人に直接データを転送しながら()い掛ける。


「アーティの中に"コレ"を入れたのはお前か?」


「いや、知らんな。そもそもアーティが学習型のAIを搭載している事を考えれば、おそらくコレはフォシル君や(みなと)君と接している内に自然と学習したモノ。なんの役に立つとも思えんが残しておきたまえ」


「まぁ・・・そうだな。人格の再生成を(おこな)う過程で生まれた無用の副産物程度に思っておこう」


特に害もないだろうと判断した源以(げんい)銑十郎(せんじゅうろう)はこのデータを削除せず、学習型AIの途中経過を知る為のモノと割り切って残しておく事にした。

戦闘(エース)型のアーティに記録されていたソレが対戦格闘ゲームをプレイする為のメインデータである事には(いささ)かならず疑問は尽きないが・・・。

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