二話 これでも一応竜ですから
…風が強い。
この辺りは夜になると風が強く吹くのか?
風が強すぎて今にも吹き飛ばされそうなんだが。
ビュオッ
なっ!?
突然突風が吹いて、幾ら竜といえどまだ生まれて半日しか経ってない俺の体は軽々と飛ばされた。
くそ、このまま地面に落ちたら怪我じゃ済まない!何とか出来ないか、俺は一応ワイバーンだろ!?
俺は精一杯両腕を伸ばしてみたが、其処で絶望する事になった。
俺の翼、まだ空飛べる程発達してない。
なんてこった、これは本当に不味い。
このままだとアッと言う間に地面に真っ逆様だ。
いや、一応腕に翼の膜はあるんだ、ウイングスーツみたいに上手く使って、あの地面まで滑空すれば助かるかもしれない!
俺は両腕を広げたまま、目線をさっきまでいた崖の中腹にやって体重を移動するように意識する。
お、何とか上手く向こうまで滑空出来そうだ、このまま上手く行けば何とか戻れ…
そう思った矢先、さっきの風の何倍も強い強風が連続して吹いてきた。
最悪な事に、どうやらこれは唯の強風では無く、嵐のようだった。
「ぎゃぴぃぃぃ!?」
喉から変な鳴き声が出てしまい、俺の体は風の赴き、右へ左へ、上へ下へと無茶苦茶に吹き飛ばされる。
ヤバい、尋常じゃないくらい気持ち悪い。
吐くかもしれない。
ボオオッ
ちょ、なんか、口から黒い炎が溢れるように出てくるんですけど!?
竜って酔うと火を吐くの!?
俺は紙が舞うようにヒラリヒラリと飛び回り、数分経って突然風が止み、俺は真っ逆様に地面へと落ちて行った。
台風の目、とかいうヤツだろうか。
だが不思議な事に、落下していく最中、空には二枚の翼を持つ、大きな竜のような何かが見えた。
アイツがこの台風の元凶か?
俺の体が地面に激突すると共に、意識が飛んだ。
畜生め、覚えてろよあのクソドラゴン…。
光を感じて目が覚めた。
流石は竜の体、体には特に大きな怪我は無い。
痛みはまだ残っているが、手も足も自由に動かせるな。
いや、手じゃ無くて翼か。
取り敢えず起き上がって辺りを見渡した途端、もう早速絶望的な状況の中だった。
辺りを緑色の肌をした、醜い顔の猿に囲まれていた。
多分ゴブリンとかいうヤツだ。
「ギーッ!」
「ギャー!」
「ギョエーッ!」
全員手に木製の棍棒を持っていて、鳴き声を上げて威嚇してきている。
どっからどう見ても殺る気マンマンですねコイツら。
俺はゴブリン語なんかわかんないから、多分交渉による平和的解決なんて無理。
「ギャー!」
早速ゴブリンの一匹が棍棒を振り上げて襲い掛かって来やがった!
もう、やるしかない。
俺はヤツの棍棒を横に飛んで回避すると素早く奴の首元に飛び掛かり、首を首の辺りを噛み千切った。あんなに煩かったゴブリンは一瞬で頭と体が分解、
声も出さず息絶えた。
…うわ、ゴブリンの血って不味いんだな。
なんか、青臭さが口全体に広がる感じがする。
他のゴブリン達は醜い顔を更に醜くしている。
恐怖心が顔に出ているのだろう。
「「「ギィィィィィッ!」」」
…違った、怒りの表情でした。
一斉に棍棒を振り上げて俺に襲い掛かっている、ヤバい。
アレだ、一応竜だから赤ちゃんだからってブレス吐けるだろ!?
こう、喉間から痰を出す感じで…
「ドギャァァァッ!」
口からあの黒い炎が吐き出された。
その炎はゴブリン達に当たると、彼らの全身を激しく燃やしていく。
「ギャッ!」
「ギャヒィッ!」
「ギャヘッ!」
奴らは棍棒を放り投げて全身を払ったり地面に倒れて横に転がって藻掻き苦しむが、一向に火が消える様子は無い。
やがて火に当たったゴブリン達は息絶え、そのまま灰になって死んだ。
これは…油か?
あそこまで藻掻いても火が消えないなんて、それ以外には思いつかない。
体内から油を吐き出し、それを発火させるとか…やった本人ですら怖い。
「「「ギィィィィィッ!!!」」」
…おい、数がなんか増えてない?
別の場所から合流したのか!?
ざっと数えても100は超えるんだけど!?
ちょ、待って、流石に連続で痰はだせないし、その数はヤバい…
だが、祈りの声など届かなかった。
俺は容赦無くゴブリンの棍棒でボッコボコに殴られまくる。
ちょ、痛い!
幾ら飢えてるからって、そんなボコスカ殴んな…
いや、そんな痛く無いな。
鱗がよっぽど堅いのだろう、衝撃すら余り感じない。
俺は一回転してゴブリン達を振り払った。
よくゲームのモンスターがやるあの動作だ。
「ギャヒッ!?」
吹き飛ばされたゴブリン達の体には何故か切り傷のような物が付いている。
俺の鱗、そんな鋭いの?
俺の体にはやはり鱗に傷一つ付いていない。
これは…勝てるな。
にしても、これだけやってもゴブリン達はまだ殺る気マンマンだ。
よっぽど飢えてるんだろうな。
仕方無い、コイツらは残念ながら掃除しないといけないみたいだ。
死にたい奴から、掛かってこい。
…辺りには、ゴブリン達の死体が山のように積み重なっている。
200匹くらいは居ただろう、そんなのが一斉に襲い掛かってきたら、普通は殺られる。
だが、何でか知らんが俺はこうして無傷で皆殺しにしてしまった。
噛み砕いて、鱗で切り刻んで、足で踏みつけて…
人間の頃の自分じゃ考えられない事を、竜になって1日目でやりまくっていた。
これはチートだわ。
まぁ、これで数日は食料に困らないだろう。
適当にそこら辺の草を食いながら、この肉を片付けるか。
では早速一口。
ゴブリンの肉を炎でしっかり焼いて…
いただきまーす。
…硬くて味も微妙。




