朝チュン(物理)と、増える合鍵。ヤンデレ村長が「没収されないならOK!」と愛を重くする件
朝チュン(物理)と、増える合鍵。ヤンデレ村長が「没収されないならOK!」と愛を重くする件
チュン、チュン。
平和な朝の訪れを告げる小鳥のさえずり。……であれば、どれほど良かっただろうか。
――ドッッッゴォォォォンッ!!!
「チュン!!(※訳:お届け物でーす!!)」
ポポロ・コーポ101号室の窓ガラスが、けたたましい音を立てて大きくたわんだ。
見れば、窓の外には体長二メートルを超える巨大な鳥型魔獣『トライバード』が、その強靭なクチバシを窓ガラスに勢いよく叩きつけているではないか。
朝チュン(物理)。
大宇宙管理局カスハラ部・特務執行官の朝は、いつだってスリリングだ。
「……あー、うるさい。せっかくの休日の朝だってのに」
俺はベッドの中で眉間を揉み、重い瞼を開けた。
窓の外のトライバードは、首から『ゴルド商会・特急便』のタグをぶら下げている。どうやら荷物の配達らしい。
起き上がって窓を開けてやろうと、体を動かそうとした――その時。
「んぅ……ソウマ君……すき……えへへ……」
俺の胸の上に、ずっしりとした『重み』が乗っていることに気がついた。
視線を落とすと、そこには見慣れたウサギの耳があった。
ヤンデレ村長こと、キャルル・ムーンハートである。
彼女は俺の掛け布団に完全に潜り込み、俺の右腕を抱き枕のように両手でガッチリとホールドし、スヤスヤと無防備な寝息を立てていた。
昨夜の寿司パーティー(第9話参照)の後、自分の家に帰ったはずの彼女が、なぜ俺のベッドで俺の腕に顔を埋めているのか。
答えは明白だ。
「……おい、起きろ不法侵入者」
俺が冷たい声で呼びかけると、キャルルのウサギ耳がピクッと反応した。
「んんぅ……もう食べられないよぉ……ソウマ君の特製ポトフ……ハッ!?」
キャルルはバチッと目を覚まし、自分の現状——俺のベッドの中で、俺に抱きついている事実——を認識した瞬間、顔面を沸騰したヤカンのように真っ赤に染め上げた。
「あ、あ、ああああっ!? ソ、ソウマ君!? ち、ちがっ、これはその、違うの!」
「何が違うんだ。俺が寝た後、例の『合鍵』を使って忍び込んだんだろ。で、俺のベッドに潜り込んだ」
「ち、違うよ! 私はただ、昨日の夜、ソウマ君の成分が足りなくて寂しくなっちゃって……ちょっとだけ匂いを嗅がせてもらおうと思ったら、いつの間にか寝落ちしちゃって……!」
言い訳が完全にストーカーのそれである。
キャルルはパニックを起こし、布団を被ってイモムシのようにゴロゴロと転げ回った。
「きゃーーーっ! 私、ついにソウマ君と朝チュンを迎えちゃったぁっ! お嫁に行く準備しなきゃ! 式場はルチアナ教会の総本山で、ウェディングドレスはタローマンの特注で……っ!」
「一人で勝手にバージンロード歩いてろ。俺は荷物を受け取ってくる」
俺は呆れながらベッドから降り、窓を開けてトライバードから巨大な木箱を受け取った。サイン代わりに木箱の伝票にQRコードをかざしてやると、トライバードは満足げに「チュン!」と鳴いて飛び去っていった。
「なんだ、このバカでかい木箱……」
送り主を見ると、『ルナミス・アバロン・レオンハート三国国境駐屯所・兵士一同』と書かれている。
木箱の蓋を開けると、中には氷漬けにされた最高級の海産物(マグローザのトロや、キングクラブ)と、金貨がぎっしりと詰まった袋、そして一通の分厚い手紙が入っていた。
『キャルル姉御へ。先日の満月の夜は、熱いご指導(物理)をいただき誠にありがとうございました! おかげさまで兵士一同、全治三カ月の重傷から秒で全回復し、闘気量も爆上がりしました! つきましては、ささやかですが貢物をお納めください。押忍!』
「……お前、満月の夜に暴走した時の被害者(?)から、貢物が届いてるぞ」
俺がジト目で手紙を読み上げると、布団から顔を出したキャルルが「ひぇっ」と小さく悲鳴を上げた。
「あ、あの時は満月でテンションがおかしくて……! ソウマ君の匂いを追ってたら、邪魔する兵士さんたちをうっかりボコボコにして全回復させちゃったっていうか……」
「お前の『うっかり』は宇宙規模の災害なんだよ。……はぁ」
俺は深いため息をつき、木箱をキッチンの隅に置いた。
そして、ベッドの上で縮こまっているキャルルの前に立ち、腕を組んで見下ろした。
「キャルル。ちょっと座れ」
「ひゃいっ!」
俺の真剣なトーンに、キャルルは正座をしてピンと背筋を伸ばした。
ウサギの耳がしゅんと垂れ下がっている。
「満月の暴走は種族特性だから百歩譲って大目に見る。だがな、夜中に合鍵で勝手に男の部屋に忍び込むのは、さすがに度が過ぎてる。……次やったら、その合鍵、没収するぞ」
俺が低い声で告げると、キャルルの目からボロボロと大粒の涙が溢れ出した。
「うぅ……っ、ごめんなさい……! だって、ソウマ君があんまりにも無防備に寝てるから……私、つい……」
「つい、じゃない。俺にはプライベートな時間と空間が必要なんだ。お前らがいっつも入り浸ってたら、休まるものも休まらないだろ」
「やだっ……! 合鍵、没収しないで……っ! 私、ソウマ君のお世話するのが生きがいなのに……っ!」
キャルルは俺のパジャマのズボンをギュッと握りしめ、ポロポロと泣きじゃくった。
その顔は、一国の姫君でも村長でもなく、ただの俺に依存しきった一人の女の子だった。
(……チッ、これだから女子の涙は面倒なんだよ)
カスハラ部の執行官として、理不尽なクレーマーならコンプラ違反で一刀両断できる。
だが、この『純度100%の善意と重すぎる愛情』だけは、どうしても物理BANできない。
俺は頭をガシガシと掻きむしると、キッチンの冷蔵庫を開けた。
中から、昨日の夜、キャルルが作り置きしてくれていた『太陽芋の冷製スープ』と『サンライスのサンドイッチ』を取り出し、手早く皿に盛り付ける。
ドンッ、とちゃぶ台に朝食を置き、泣いているキャルルの頭にポンと手を乗せた。
「……泣くな。今回は『警告』だ。没収はしてない」
「え……?」
「次から俺のベッドに潜り込むなら、せめて俺が起きている時に許可を取れ。……ほら、朝飯だ。お前が作ったやつだけどな。一緒に食うぞ」
俺がそう言ってサンドイッチをかじると、キャルルは目を丸くした後、パァァァッ!と顔中に花を咲かせた。
「次……っ! 『次』があるの!? 没収されないなら、許可を取れば添い寝していいってことだよね!?」
「極論すぎるだろ。解釈を曲げるな」
「やったぁぁぁっ! ソウマ君、大好きっ! 愛してるっ!」
キャルルは涙を吹き飛ばし、俺の首に思い切り抱きついてきた。
俺はサンドイッチを喉に詰まらせそうになりながらも、彼女の頭を軽く小突くだけに留めた。
ヤンデレの愛を『没収』で突き放すのではなく、『条件付きの許可』で手懐けてしまった。
結果として、彼女の愛はさらに重さを増し、俺への依存度は天元突破してしまったわけだが……まぁ、美味い朝飯を食いながら幸せそうに笑う彼女の顔を見ていると、これも悪くないかと錯覚してしまう俺がいる。
「ソ、ソウマ様ぁ……騒がしいですわ……」
「んぅ……ソウマ君、静かにして……私まだ眠いの……」
「あー、頭痛い……昨日お寿司食べ過ぎた……」
その時。
風呂場からリーザ(キノコ栽培中)、コタツからルチアナ(世界神)、部屋の隅のクローゼットからキュララ(天使)が、それぞれ寝ぼけ眼で這い出してきた。
「お前ら、全員泊まってたのかよ……」
俺の101号室は、もはや彼女たちの実家であり、俺は完全に『四人の手のかかる娘を養う保護者(お父さん)』と化していた。
「ソウマ様! 私もサンドイッチ食べたいですの!」
「お前はパンの耳があるだろ。……嘘だ、ほら座れ」
「ソウマ君、私にはお茶淹れてー」
「神なら自分で淹れろ」
大宇宙管理局の特務執行官の休日は、こうして騒がしくも温かい、カオスな朝食から始まっていく。
俺の平穏な一人暮らしは完全に崩壊したが、この『最強で最悪の疑似家族』とのドタバタな日常を、俺は心のどこかで気に入ってしまっているのだった。
「ほら、食ったら全員、自分の部屋の掃除でもしろ。今日は俺がルナキンで夕飯奢ってやるから」
「「「「わぁぁぁいっ!!!」」」」
俺の小さなボヤきは、彼女たちの歓喜の声に、あっさりと飲み込まれていった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「朝チュン(トライバードの物理突撃)は笑ったww」
「キャルルの愛がどんどん重くなっていく……最高!」
「なんだかんだヒロイン全員の面倒を見てあげるソウマ、お父さんすぎる!」
と、少しでも彼らのカオスで温かい日常を楽しんでいただけましたら、
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次回第11話、
『炎上神の刺客、クレーマー勇者来店。俺のメシとあいつらの居場所を荒らすなら、違約金は高くつくぞ』
に続きます! 日常パートから一転、ついにソウマの逆鱗に触れる最大の事件が勃発! 引き続きよろしくお願いいたします!




