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4.問.荷物検査で不思議な事が起きたら?

  朝のざわついた教室はチャイムの音と教師の入場により一気に静かになった。

 喧騒の渦中に入っていない俺はこの光景を見るとなんだか滑稽なものを見ている気分になる。

 みんなギアチェンジが大変そうだなと。


 常にぼっちの高校生活でギアがニュートラルにしか入らない俺にとっては無縁の行動だ。

 

「よーし、今日は先生が教壇に立ってみんなが席について静かになるのに12秒かかりました。んじゃ早速だけど荷物検査やるからよろしくー」


「「ええ〜!」」


 せっかく静かになった教室に一斉にため息交じりのブーイングが起こる。

 まあそれもそうだろう。俺も知らなければ小さい声で、このジャージ姿のちっこい教師に罵声を浴びせていた。


「はーい静かにしろー。先生へのブーイングが止むのに1分12秒かかりました。お前らここぞとばかりに不満をぶつけるなっ! それにさっき独り身教師って言ったやつ必ず後で見つけてぶっ殺すからな」


 この女教師──妙典姫咲(みょうでんきさき)は俺の親戚に当たる人で独身アラサー間近のがさつな担任教師だ。常に赤いジャージを着ており、幼い見た目も相まって、通称『赤ちゃん』と影で呼ばれている。

 昨晩、気まぐれに荷物検査があることを俺に教えてくれた人物だ。


「これは全学年、全クラスで行うことだ。君たちに拒否権はないから覚悟しとけ。んじゃ席順で行くから机の中の物出して、呼ばれたら教壇にカバン持ってこい。その後に教室の後ろにあるロッカーを先生が一つずつ確認してくから」


 赤ちゃんがそう言うとみんな渋々準備をしだした。

 不要物をどんどん没収されて行く生徒達。


「おい、木場お前なんてもん持ってきてんだ。おお、こんなものまで。没収だぁ!」


「ま、まじかよ先生ー! 頼むよー」


「諦めろ木場」


 こんな時でもリア充は何やらワイワイと楽しそうだ。

 それにしても木場ってやつどんなもの持ってきたのか少し気になるな。


「日ノ上アイル、よしっ!」


 アイルは無事荷物検査を終えたようだ。まあ当然か。

 俺の番はまだ先なので周りを見渡していると何やら水ノ下の顔色が悪い。

 先程の元気はなく、俯いたまま硬直していた。


「次、水ノ下」


「は、はいっ……」


「カバンはOKだな。それじゃロッカーみせろ」


「……はい」


「水ノ下美織、よしっ!」


 この時の彼女は驚いた様子を見せた気がするが、普通に荷物検査を終えたのだから俺の見間違いだろう。

 その後も順調に荷物検査は進んでいくと俺の番になった。

 当然だが今日荷物検査があることを知っている俺にとってはノープロブレムな出来事だ。やはり俺最強。


「はい、カバンOK。問題ないと思うが、次はロッカーみせろ」


「へいっ」


 赤ちゃんは俺のロッカーを開けると最初驚きの表情をして、その後爆笑しだした。


「はははっ、やべっー。お前なんつーもん学校に置いてんだよ」


「いや先生、何も置いてないはずですが?」


「これ大きな声で読んでみろ」


 赤ちゃんがそう言ってロッカーから箱型のものを取り出すと俺の顔に突き付けた。

 それは昨晩回収したはずの……。

   

「ふにゅ! ナイスな幼馴染100人とナイツなパンツでファイツなトキメキ(全年齢版)……だとっ」


 クラスは一瞬にして爆笑と失笑に包まれた。

 この時以上に俺は人生で人を笑わせたことはないだろう。

 ってか赤ちゃんめ、わざわざみんなに見せつけやがって。


「お前これ没収な。てか幼馴染100人とかどんな奴なんだよ。しかもナイツなパンツって……ぷはっ」


 楽しんでいただけたみたいで何よりです先生。

 クラスの連中に今更どう思われようが知ったこっちゃないが、何故昨日回収したはずのギャルゲがここにあるのか。

 まったくもって分からぬ。

 

 こうして俺の意図せぬ形で荷物検査は終了したのだった。



 昼休みになり、今日も今日とて独り、購買で焼そばパンと牛乳を買って、食べ終えると机にひれ伏した。


 聞こえてくるBGMは楽しそうに青春を謳歌する小鳥たちのさえずり。俺が名付けた題名は『青春交響曲第5番、至極どうでもいい会話』だ。

 青春という名の主旋律に乗れない俺は昼休みは毎日これを聞いて過ごしている。

 ただ内容もわかるだけに聞いているとそれなりに暇を潰せるものだ。


「アイルさ、昨日のテレビ出てたよね。録画しちゃったし」


「あー、私も見た! グルメレポート上手だったよね」


 ふっ。ゴミクズのような会話だ。

 アイルがグルメレポートとか絶対に上手いわけ無いだろ。

 どうせ『わぁー美味しいです』とか『こんなの初めてぇ』とかしょっぼいコメント言ってんだろ。


「ありがとうー! そう言ってもらえるとやる気でてくるぅ」


 こいつ俺にはいつも殺気だしてるぅーだけどな。

 

「あっ、ごめんね。ちょっと仕事の連絡しなきゃいけないから静かなとこ行ってくるね」


「わぁー、さすが現役アイドル。かっこいいねぇ!」


 アイルはそう言うとは教室を出ていった。

 仕事の連絡? もしかすると今日の夜に急遽仕事が入ったとかかな? それだと最高に嬉しいぜ。


 そんなことを考えていると普段鳴ることのない俺のスマホが本日2回目の着信を知らせた。

 着信音はもちろんベートーヴェンの運命……。

 俺は慌ててスマホを持って廊下に出ると、人の出入りの少ない廊下端のトイレに入った。

 

「よお、荷物検査大活躍だったな。マジで笑えた」


「なんだと、もしかしてお前がやったのか! てかお前しかいねーよな。お前だ」


「はぁ? 私はなんもやってないって。そんなことより今日の朝なんで美織と一緒に来たのよ」


「たまたま通学路で会っただけだ。てかお前仕事の連絡じゃなかったのかよ」


「はっ? なんであんたが知ってんの。聞き耳立ててんじゃないわよ。変態」


「変態じゃねーよ。あんだけガヤガヤとでかい声で話してたら嫌でも聞こえるっての」


「まあいいわ、それより今日の夜仕事入ったから行けなくなった。ただそれだけ」


 よっしゃー! 俺的大勝利!

 これで今日の夜は安息を迎えることができる。


「で、明日の土曜日なんだけど私の買物に付き合いなさい」


 嫌でござる。嫌でござる。嫌でござる!

 そんなものに付き合ったら俺的大敗北は避けられない。

 

「俺さ、土曜日友達と遊ぶ予定が」


「あんた友達いないじゃん」


「そうだったかも……ね」


「断ったらラブレターがどうなるかわかるわよね。じゃ、よろしく〜」


 アイルは軽くそう言って一方的に電話を切った。

 俺的大敗北確定の瞬間である。


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